スキャンツールの現状と付き合い方

スキャンツール

イマドキのスキャンツールの現状とその付き合い方

人間の歴史始まって以来、いち個人がこれほど多くの情報を取得できる時代はなかった。21世紀に入り急速に進化したIT技術が後押ししてのことだが、その情報伝達の主な担い手は、言うまでもなく携帯電話とパソコン。携帯電話は、ケータイと呼ばれるほど世代を超えて爆発的な普及を果たし、高規格なケータイであるス マートフォンや i Pad を代表とするタブレットも普及の兆しを見せている。

ー方のパソコンはどうだろう? オフィスではー人1台の割りで活躍しているが、携帯電話ほどの普及率ではない。誤解を承知であえて言えば、キーボードア レルギーをかかえる年配者がその普及を妨げていると思われる。「必要なのは分かってるが、いまさら覚えるのは面倒。それに下手にいじって壊れては元も子もない・・・・?」

そんな理由にもならない言い訳で「便利な道具」と向き合うことをさけているおじさんたち。食べてみれば美味しいものを、先入観で手を出せない。

ふと考えると、パソコンとまったく同じポジションのデバイスが整備業界にも存在している。スキャンツール (故障診断機) である。

いまどきのクルマはスキャンツールなしにはトラブル追究できないことは頭では理解していても、従来の整備流儀から脱却できないメカニックが珍しくない。たぶんこれは、スキャンツールを扱う整備記事にも問題があった。

従来の紹介記事が (弊誌も含めて) スキャンツール自体の機能紹介に偏っていたので、実務経験からモノを考える現場のメカニックにはいささか “帯びに短しタスキに長し”の感があったようだ。そこで、サービスの現場に立ち返り、スキャンツールの真実の姿を伝えたい !

そんな思いで、取材してみたのがこの記事だ。整備士の資格こそないが、学生向け職業ガイド本 「整備士になるには」(ペりかん社) の 筆者である自動車ジャーナリスト・広田民郎がスキャンツールの現状に鋭く迫る!

汎用スキャンツールは専用機に比べれば玩具!?

「50万円前後のスキャンツールですか?私も何度か使ったことがありますが、よほどの経験を持った整備士さんでない限り、いわゆる宝の持ち腐れに近いんではないでしょうかね。ディーラーのスキャンツールと比べると玩具といっちゃていいのかな~っ」

いきなり、こんな衝撃的な言葉が耳に突き刺さった。

トヨタのディーラーで20年近くメカニックとして活躍してきたAさん(38歳)だ。首都圏でも15番目以内に1級整備士を取得した人物。休日も旧車のレストアに興ずる根っからのクルマ好きでもある。彼が言うには、例えば、50万円前後のスキャンツールには、データストリーム機能というのがある。

平たく言えば「不具合履歴」を呼び出し、それを時系列で、例えば電圧の変化がどうなっていたか・・・・などを目で確認できる機能だ。

エアフロメーターの不具合を例にしてみよう。50万円前後のスキャンツールともなると、データスト リーム機能を持っている。これを 呼び出してみる。モニター画面に例えばエアフロメーターの電圧の変化を表示し、リアルタイムに見ることができる。Aさんに言わせると、「たしかにエアフロメーターに加わった電圧の変化を読み取れるのですが、それが何を意味するのかはマニュアルでは教えていない んですよ。そこで、正常なクルマで整備士自らがデータを取り、それとの比較をしないと、正常なのか異常なのかが分からないんです」

スキルの蓄積と、同じクルマをいくつ整備したかで決まる!?

なるほど、スキャンツールでは 「答え一発!」という具合にいかないので、いきおいスキルの蓄積と人庫台数というか経験の厚さとい うか数がトラブルシューティング能力を左右することになる?

「その通りなんです。ということは、色々な銘柄(ブランド)のクルマが入庫する専業の整備工場では、どんなにがんばってもディーラー 並みのトラブルシューティング能力には届かないんです。残念ながら」

うん、それはリポーターだって何となく感じていることだ。だが、専業の整備工場もなんとか高い修理技術、つまりトラブルシューティ ング能力を身に付けたい。車検だけでは食べられないし、車検だって、色々競合する業者がいて、その戦いは大変。整備工場は、やはり技術で勝負する商売だし、お客様もそのことに期待をかけているはずだ。少しでも技術レベルの底上げをしたい。切実な課題である。

にもかかわらず、Aさんは、畳み掛けるように・・・「ですから、50万円前後で手に入るスキャンツールは、いや50万円以上でもそれ以下でもですが、つまりディーラーのメカニックが使うスキャンツールに比べ、他のものは足下にも及ばない。パソコンの世界で、ウインドウズでもMACでもワードやエクセル、パワーポイントなどありとあらゆるアプリケーションを十二分に駆使できる腕がある人がもし地球上にいるとして、いないと思うけど・・・そのぐらいレアな実力の持ち主でなら、ディーラーの使うスキャンツール同等の仕事ができるかもしれませんが・・・・」

ということは、同じことの繰り返しになるが、つまりスキャンツールを使いこなしトラブルシューティングをフルで行えるには、そのクルマの仕組み、正常値データ を知っているだけでなく、そのクルマを今まで何台いじった経験があるかが間われてくるという訳だ。

Aさんはトヨタのクルマをこれまで何百台、何千台整備していて、しかもTAスキャン(正式には aSCAN:デンソー製)というディーラー専用のスキャンツールを持ち、加えてサービスマニュアルも揃っているので、トヨタ車ならだいたいどんなトラブルも解決できる。逆に言えば、他銘柄の例えば日産車やホンダ車ならお手上げだということですか?

「おっしゃる通り、ディーラーのスキャンツールのウィークポイントは他メーカーのクルマをチェックできません。そのことが理解できる事例がありますよ。先日、いすゞのディーラーからハイエース・ ディーゼルの修理依頼が来ましたよ。いすゞと言えばディーゼルの老舗だから、誰しもが”いすゞ=ディーゼルのプロフェッショナルで、ディーゼルのことならこともなげに修理できる”と思うかもしれない。

ですが、実は他銘柄なので自信がないというか、あるいは時間がたっぷりあればできるでしょうが、仕事ですから決められた日時までに修理が完了できるか不安になったんでしょうね。そこでハイエースを扱うトヨタディーラーに丸投げしてきたんですよ。

『餅は餅屋』という言葉があるが、どうやらトヨタ車はトヨタのディーラー、日産車は日産のディーラーということのようだ。

ODBとスキャンツールの関係とは・・・