アクティブテストができるかどうか?
でも、10万円のスキャンツールも50万円前後のスキャンツールにも、たいてい「アクティブテスト」 という機能が付いている。任意に アクチュエーターを制御して、作動の点検ができるというものだ。
例えば、プリウスのエア抜き作業だ。よく知られているように、プリウスの制動系は、電子制御とハイドロリックの2本立て、というか文字通りハイブリッド(雑種)。エネルギー効率を高めるために、回生ブレーキシステムを取り入れている。つまりブレーキをかけると、通常のクルマは熱エネル ギー(ブレーキパッドとブレーキローターで摩擦する)に変換することで制動をかけるのだが、プリウスの場合は、発電エネルギーに変換することで制動をかけている。
つまり発電して電気にし、その電気をバッテリーに戻しているのである。通常のクルマのような、ハイドロリックで制動するシチュエーションは、時速20キロ以下の 時とABSが作動する時ぐらいしかない。そのため、プリウスのブレーキパッドは通常よりも恐ろしく減りが遅く、20~30万キロまで大丈夫とされているのである。長持ちブレーキパッドである。
しかも、普通のFF車がそうであるように、プリウスもFF車なので、リアの制動分担はごくごく少ない。一説によると静止状態では、フロント98対リア2とも言われる(普通のFFはおよそフロント7対リア3ぐらい)。だからプリウスのフロントは通常にエア抜きができるが、リアはうんとブレー キペダルを踏み込んでも油圧がごく少ないので、通常の方法ではエア抜きができないということだ。
そこで、アクチュエーターに強制的に圧をかけ、エア抜きしなくてはならない。そのとき必要となるのがスキャンツールのアクティブテスト機能という訳だ。
プリウスのエア抜きと同じように近頃のクルマ特有の整備としてディーゼル車とスキャンツールの関係がある。DPF (ディーゼル・パティキュラー・フィルター)の異常をスキャンツールで判断するケース。DPFに対して、例えば「性能劣化」あるいは「詰まり」などの故障コードが出たとする。あるいはスキャンツールによっては「DPF異常」というコードかもしれない。
いずれにしろ、DPFは部品単体で1個50万円近くするので、安直に新品と交換するという訳には行かない。本当の不具合は、インジェクターの詰まり、汚れ、性能劣化、EGR(排気ガス再循環装置) の詰まり、汚れ、あるいは触媒の詰まりも考えられるからだ。安易に高価なDPFを交換して、実は他の部位が本当の不具合だったとなれば、目も当てられない。ディーゼルを専門に整備する整備工場ならこの辺りも十分考えてスキャンツールを選ぶべきだ。
まとめると・・・
- 市販ツールにはディーラーのスキャンツールとの歴然とした性能差があること。
- いくら高価なスキャンツールも自動診断で故障部品は分からない(唯一O2センサーだけは例外)。
- スキャンツールを活かすも殺すも、使いこなすこと。そのためには入庫した車はすべてスキャンツールにかけてみる。例えばバッテリー上がりの症状で入庫したケースでも、発電系統に不具合が発見できることがあるからだ。
- とりあえず機械になれることが大切として、ひとつ購入して使ってみるという考えもある。スマホと同じである!
著者紹介/広田民郎(ひろた・たみお)
1947年3月、三重県生まれ。工業高校の工業化学化から早稲田大学の第二文学部とかなりの変節的経歴を活かし、メカニズムとメンテナンス、モノづくりをテーマにすることが多い自動車ジャーナリスト。自動車専門誌などでエンジニアのインタビュー記事、モノづくりの世界の取材・執筆。おもな著書は「解体ショップとことん利用術」「解体パーツまるごと活用マニュアル」「改造車検をパスする本」(以上、講談社)「ハンドツールバイブル」「クルマの歴史を作った27人」「オートバイのユーザー車検」「ユーザー車検完全マニュアル」「20年20万キロを持たせるメンテの極意」「図解・トラック入門」「クルマの改造○と×」(以上、山海堂)「自動車整備士になるには」「運転で働く」(以上、ぺりかん社)「モノづくりを究めた男たち」「自動車リサイクル最前線」「エンジンパーツこだわり大百科」「メカを知りメンテの挑戦」「自動車の製造と材料の話」「トラックのすべて」「バスのすべて」(以上、グランプリ出版)など。とりわけ、自動車リサイクルをテーマにした単行本とMOOKは計10冊を数える。昭和メタルのサイトで、クルマとメンテナンスを主なテーマに月2回のブログ http://seez.weblogs.jp/car/ を展開中。