自動車リサイクルの潮流 第108回:なぜ2輪車の解体業者が存在するか:日本と台湾の比較考察

山口大学 国際総合科学部 准教授 阿部新

1.はじめに

 台湾は人口あたりの2輪車(バイク)の保有台数が日本よりも多い。阿部(2020a)で示した通り、近年の1,000人あたり2輪車の保有台数は、日本が85台(2018年)だったのに対し、台湾は584台(2017年)である。

 日本でこの数値が最も多かったのは、1986年の153台であり、台湾はそれさえも大幅に上回っている。日本と台湾では2輪車市場の発展構造が異なると考えざるを得ない。

 前回、筆者は台湾の2輪車の静脈市場の調査報告をした(阿部,2020b)。そこでは2輪車の解体業者(リサイクル業者)が存在していることが分かったが、それがなぜなのかという課題を残した。2020年2月、筆者は台湾に再訪し、改めて2輪車の静脈市場を調査した。

 そこで2輪車の廃棄に関わる制度や静脈市場の動向を確認することができた。本稿では、この調査の内容を記録するとともに、日本の事情と照らし合わせながら、「なぜ台湾で2輪車の解体業者が存在するか」について議論をしておきたい。

2.日本では2輪車の解体業者は存在するか

 まず、日本の2輪車静脈市場について考えたい。4輪車と比べると、2輪車の静脈市場の調査、研究は非常に少ない。やや古いが、2002年9月20日の産業構造審議会、中央環境審議会の自動車リサイクルの合同会議で日本自動車工業会が提示した「2輪車リサイクルに関する自主取組み(案)」という資料がある。

 この資料では、国内の使用済み2輪車の処理ルートについて示されている。それを見ると、2000年の推定で国内で不要となる2輪車は約120万台とし、このうち輸出が約70万台、国内での使用済みは約50万台である。そして、使用済みのうち、中古部品業者が約20万台であり、シュレッダー業者・産業廃棄物処理業者が約30万台を引き取っているとしている。

 また、同じような時期になるが、植杉・山際・立道(2004)では、「日本では中古輸出できない欠損二輪車やネットオークション等で売れない車両が廃棄処理されるが、多くの車両は部品取りしても売れないため、丸ごとシュレッダ処理されている」「また市町村の粗大ゴミ処理施設でシュレッダ処理される二輪車も多い」とし、さらに「二輪車は軽くて小さいため、回収した素材を売却して得られる金額が処理費用に対して少ないので、4輪車のような専門の廃棄処理業者がほとんど存在しない」と記されている。

 このような事情は現在どうなっているかである。阿部・木村(2017)では、2輪車の保有台数、新車販売台数から抹消登録台数(廃棄された2輪車台数)を算出し、そのうちの中古2輪車輸出の割合を示している。それを見ると、廃棄された2輪車のうちの輸出の割合は、2009年以降は90%前後である。つまり、近年では国内処理の数量は圧倒的に少ない。

 そのような中、今回、2輪車の解体業者を「部品取りを行い、販売する者」とし、「バイク&解体」「バイク&中古部品」でインターネット検索をした。この結果、2輪車の解体をビジネスとして行っている者は、少数ではあるものの存在していることが確認された。

 それらは、往々にして小規模の店舗であり、中古車の販売や修理などの事業を兼ねているところもあった。中古2輪車の販売に重点を置き、その傍らで部品を販売する者もいるだろう。よって、そのような事業者を「解体業者」と言うべきかは判断できない。どこに重点を置いているかはヒアリングをしなければならない。

 4輪車では、解体業者が整備業や中古車販売業を兼ねているところは少なく、事業の棲み分けがある。これに対して、2輪車の場合はそのような境界線はなさそうである。この点は2輪車と4輪車の使用済自動車市場の違いと言える。

 部品販売の方法も多様である。古い2輪車を敷地内に多数置いているところもあれば、部品を取り、写真を撮り、インターネットで在庫を公表しているところもある。ヤフーオークション向けに部品を出品することに重点を置くところもあった。4輪車でもそうだが、様々な経営形態があるのだろう。

 いずれにしろ、今回はインターネット検索でヒットした事業者のみであり、他にも相応に存在するものと思われる。その数を測ることは難しいが、使用済みの2輪車を解体し、中古部品を販売している者は、いないわけではない。

3.スクラップ回収業者による回収

 使用済み2輪車はスクラップ回収業者(シュレッダー業者など)が引き取ることもある。同じようにインターネット検索で調べてみると、非常に多くのスクラップ回収業者で2輪車を引き取っていることが分かった。

 それぞれは、ホームページ内で2輪車を買い取り品目として示しており、2輪車解体業者とは比べ物にならないくらい容易にその存在を確認することができた。発生量が少ないため、実際にどの程度引き取っているかは不明だが、2輪車をスクラップ回収業者が引き取ることは一般的である印象を持った。

 4輪車の解体業者が2輪車を回収し、部品取りをすることはあるのだろうか。これまでの筆者の経験ではシュレッダー会社の工場で2輪車を見ることはあったが、4輪車の解体工場で2輪車を見ることはあまりなかった。今回調べた限り、4輪車の解体業者において2輪車を引き取っているという記述はいくつか確認した。

 ただし、それらは2輪車の部品販売をしているようには見えなかった。よって、あまり一般的ではないように思える。仕入れ元も販売先も4輪車とは異なり、並行して行うことには疑問はある。

 周知の通り、2輪車は自動車リサイクル法の対象外であり、そのリサイクルシステムは2輪車メーカー、輸入業者の自主規制として別途構築されている。このシステムにおいては、排出者が廃棄2輪車取扱店や指定引取場所に持ち込み、そこから再資源化処理施設に運ばれ、解体、分別される。同システムのパンフレット(2017年度版)によると、廃棄2輪車取扱店は約5,200店であり、指定引取場所は約180か所である。

 廃棄2輪車取扱店は、全国軽自動車協会連合会のホームページに一覧がある。これを見ると、いわゆるバイクショップがこの役割を担っていることが分かる。指定引取場所については、自動車リサイクル促進センターのホームページに一覧がある。その多くが運送会社であり、これに資源リサイクル、スクラップ回収業者が一部含まれている。

 再資源化処理施設については、自動車リサイクル促進センターのホームページに一覧がある(2019年6月1日現在)。それによると14社の資源リサイクル、スクラップ回収業者が示されている。やや古いが、『Motorcycle Information』2007年11月号記事では、そのうちの1社であるフェニックスメタルでの処理の様子が記述されている。

 これを見ると、オイルなどの液体類とバッテリーを取り除いた後、エンジンやタイヤをつけたままシュレッダーにかけるようだ。別の再資源化処理施設のサニーメタルでも同様のようである(ecoo onlineより)。つまり、リユース用に部品取りはしない。

 2輪車リサイクルシステムは、排出者が2輪車を持ち込めば無償で引き渡すことができるというものである。そのパンフレットを見ると、どうしても使用済み2輪車をこの処理ルートに乗せるべきであるというものでもなく、廃棄2輪車取扱店の査定により有償であれば処理ルートの外で回ればよいという考え方のようである。よって、上記のような解体の関連事業者の存在およびその処理ルートを否定するものではない。

 2輪車リサイクルシステムの実績を見ると自治体からの排出が一定数あることが分かる(自動車リサイクル促進センター「二輪車リサイクルシステムの年度実績報告」より)。『Motorcycle Information』2007年11月号記事を見ると、2輪車リサイクルシステムにおける自治体からの排出は放置車両が多いようだ。

 また、同記事では、その時点でも多くの自治体がシステム外のスクラップ回収業者(廃棄物処理業者)へ委託処理をしていると言及している。

 また、2輪車リサイクルシステムに引き渡すことができる2輪車は、「フレーム(ボディ骨格)、エンジン、ガソリンタンク、ハンドル、前後輪(ホイール)が一体となっていること」という条件がある。

 つまり、部品取りした後のものはシステムには登録することができない。これらはシステム外のスクラップ回収業者で処理されているのだろう。以上をまとめると、使用済み2輪車は、システム内、外に関係なく、スクラップ回収業者に引き渡されているという流れが浮かび上がってくる。

AD
 data-src=有償運送許可研修を毎月開催" width="650" height="178" >

有償運送許可研修を毎月開催

せいび広報社では毎月、事故車故障車等の排除業務に係る有償運送許可の研修会を実施しています。会員限定ではなく、全国どの地域からも、法人・個人事業主でもどなたでもご参加いただけます。研修の受講者は、会社の代表者・経営者に限らず、従業員の方でしたらどなたでも、会社を代表して受講していただくことが可能です。

CTR IMG