自動車リサイクルの潮流 第108回:なぜ2輪車の解体業者が存在するか:日本と台湾の比較考察

7.なぜ台湾では2輪車解体業者が存在するか

 これらを受けて、なぜ台湾で2輪車の解体業者が存在するかを議論したい。ヒアリングによると、台湾には認証リサイクル業者は207社あるという。このうち、2輪車を専門的にリサイクルしている事業者は15%の31社、専門的ではないながらも2輪車を引き取ることができる事業者は68%の141社のようである。

 その全てが手解体で事前選別をする「解体業者」とは限らないが、筆者が訪問した事業者は少なくとも解体業者であった。しかも次から次へと使用済み2輪車を解体するという大量処理型である。日本ではこのような事業者はあまり見ることはなく、廃棄の受け皿は輸出業者となっている。この違いをどのように捉えるかが課題である。

 まず想定していたのは部品のリユース市場の違いであった。台湾では使用済み2輪車からの中古部品の市場が大きく、資源のみではなく、部品の販売により解体で十分な利潤を得られるのではないかと予想した。実際に中古部品の市場はあるようだが、リサイクル業者の部品倉庫を見た限りではあまり在庫はなかった。

 特に近年では、先に見た(3)新車買い換え奨励金により、廃棄が促進され、中古部品を使わなくなったようである。新品部品の価格が安いことも影響している。よって、部品のリユース市場は台湾の解体業者の存在の重要な要因ではないように感じられた。

 次に考えたのは、台湾の古い2輪車が輸出向けとしては価値がないのではないかというものだった。しかし、これについては結論が出なかった。訪問した解体業者A社ではシリア、レバノン、イラク、ナイジェリア、コートジボワール、B社ではイラク、マダガスカルに中古2輪車を輸出していると記録したが、それでは日本との違いは捉えられない。

 廃棄される2輪車の年式は7年から10年であると言っていたが、それが日本と比べて古いのかどうかも確認できていない。輸出向けは年式ではなく、ブランド価値であるとも言っていたが、それが日本との違いを生んでいるのかどうかについても明確にできなかった。

 今回、廃棄に関わる制度について整理したが、それが輸出を抑制しているかどうかである。日本の4輪車の自動車リサイクル法では中古車輸出に対してはプールしたリサイクル料金は最終所有者(輸出業者)に返還される。台湾の制度において、仮に解体した2輪車のみが補助金の対象であれば、輸出より解体(国内処理)を奨励していると言えるが、果たしてどうか。

 この点は聞き逃した点であり、資料などで輸出の取り扱いについて確認する必要がある。なお、(3)買い替え奨励金の制度に関しては、輸出した場合も対象であるとの記述はあった(Ministry of Finance, “Commodity tax cut for vehicle / motorcycle trade-in”より)。

 量的な多さが解体業者を存在させている要因であるという考えはどうだろうか。先に示したように2019年の台湾では58.8万台の2輪車が廃棄され、そのうちの24.7%の14.5万台が輸出である。これに対して日本では40万台程度の2輪車が廃棄され、そのうちの90%程度が輸出となっている(阿部・木村,2017)。

 廃棄される量が多いために台湾で解体業者が存在するという考えは一見成り立つように思えるが、日本でも潜在的には同程度の数量が解体されうる状況にあり、なぜ日本では同じような解体業者が存在しないのかという疑問の答えが説明できない。つまり、数量の多さ「のみ」では根拠になりえない。

 一方、今回見えてきたのは、解体という手分別の採算性である。当然ながら筆者もこの採算性には注目していたが、台湾でも人件費が相応に高いと思われ、本当に採算性があるのかについては疑問だった。外国人の雇用の実態なども想定したが、それもないようで的外れであった。

 そのような中、プラスチックなどの再生資源の利用業者が十分に立地している事情があり、それが採算性を生んでいるという話があった。それらは台中より南に分布しているようだ。そのような受け皿が採算性の要因の1つであるということである。

 また、シュレッダー業者などのスクラップ回収業者は、プラスチックの事前選別後の使用済み2輪車を高く購入するという話もあった。詳しくは確認しなかったが、ダスト引きを柔軟に行っているということであろう。

 それは市場経済においては当然のように思えるが、購入側の競争が制限されているのであれば、柔軟にいかないこともありうる。その点で台湾はオープンな市場なのかもしれないが、そこまでの議論はできなかった。

 先に数量の多さ「のみ」では解体業者が存在する根拠になりえないと述べたが、再生資源の売却により採算性が生まれているのであれば、数量の多さが効いてくる。再生資源市場は規模の経済性があると思われ、大量処理型の事業者が優位になりうる。

 今回訪問した解体業者では次から次へと2輪車を解体していた。ヒアリングによると、1台当たりの解体に対して歩合制で給与を支払っているとのことだった。

 また、放置もあるだろうが、それを回収するスキームがあり、それが解体業者にとって回収の効率を高めている。今回訪問した解体業者A社は、放置・没収車両を主な仕入れ元としていたが、このような制度によりビジネスが成り立っている印象を持った。

 もっとも、逆有償化による放置を限りなく防ぎ、認証リサイクル業者に集める仕組みも全体の流通に貢献しているだろう。これらの要素が複合的に関係することで日本とは異なった構造が成り立っていると考えられる。

図 2 分解されたエンジンは認証のために丁寧に保管されていた

参考文献

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