ABS診断

ABSについて考える①

自動車整備故障診断整備のススメ

せいび界2015年2月号

アンチロックブレーキシステム(ABS)について考える

ユーザーにとって安全性は自動車における重要な要素だ。エアバッグに始まり、最近では自動ブレーキなど、事故を軽減する仕組みが組み込まれており、その進化のスピードは速い。

さて、現在ではほとんどの車両に標準装備としてつけられているABSだが、その歴史は古く1978年にボッシュが自動車用として実用化し、メルセデスベンツW116型に搭載されたのが元祖と言われている。軽自動車や高級車であってもABSの装備が当たり前になっているのが現在の自動車事情だ。

ABSと上手に付き合うためには説明を

ABSは、制動中に車輪がロックするのを防ぐことで、車両の操舵性と方向安定性を維持しようするブレーキシステムなのだ。よく、制動力を上げるためと思われがちだが、実際には操舵性を高めるものである。普通にクルマに乗っていてABSを効かせたことのある方なら分かると思うが、急激な蹴り返しを経験したと思う。現在のABSは一昔前のBSから進化しており、そうした蹴り返しも軽減され、より操舵に集中できるようになっている。

しかしながらパニックブレーキでロックさせても、ハンドル操作を間違えてしまっては事故が起きてしまう。そうは言っても、ロックして車体が滑べるよりも格段に安全である。つまり、ABSの最大の目的は障害物や人を回避する状態を作ってくれることなのである。

最近では、自動車教習所でもABSに対して説明されているが、仕組みや緊急時の扱いなど、詳しくは理解されていないのが現実だ。こういった背景があり、緊急時にABSがあるから安全、などと思っているユーザーが少なくないかも知れない。ABSが当たり前と思うユーザーも少なくないので、当然そこはメカニックによる適切なアドバイスが要求される。また、ABSが働いた場合、制動距離は車輪が完全にロックした場合よりも短くなるが、路面とタイヤの摩擦係数(ミュー)が低い場合には制動距離が長くなることがあると伝えることが最善と言えるかも知れない。

基本は電子制御で行われているということは…

作動する仕組みはもちろんおなじみの電子制御なので、もちろん点検にはスキャンツールが用いられる。ABSの点検と一言で言うと、何を思い浮かべるだろうか? メーターのチェックランプが付かなければABSの不良は無い、などと思う人もいるかも知れないので、日常的に点検するもの、という認識を持っていただきたい。言うまでもないが、ブレーキに関わる重要な部品だからだ。

しかし、これが困ったことに車検の点検項目に含まれていないため、日常的に点検する習慣があるとは思えない。ユーザーがABSの効きが悪いなどと、マニアックな注文をつけてくるケースも稀だ。

さらに困ったことに車検時にも、ブレーキがロックするぐらい効けばいいというチェックしかない。ABSはロックを防ぐものなのに、ロックさせる検査ライン…大いなる矛盾を孕んでいる。だからこそ、メカニックとしてはABSに不具合が無いか、定期的に確認する必要がある

といえる。上記通りABSを過信しているユーザーもいる可能性が否定できないからこそ、徹底していただきたい。

ABS同様にある操舵関係の電子制御部品

ABSも進化しているが、大元にある目的は事故を防ぐ、軽減するということだ。トラクションコントロール、エレクトリックスタビリティコントロール、ブレーキバイワイヤなど、多くの部品がABSと同居している。現在のブレーキ事情は特に困難を極める。ドラムやディスクといったパーツだけではなく、電子制御がブレーキにもふんだんに使われているので、スキャンツールでの診断が必要になる。

ABS ってそもそも何?

ABSの主要構成部品は通常のブレーキシステムとABSコンピューター、ハイドリックユニット、そしてホイールスピードセンサーだ。制御プロセスとしては、車速センサーが車輪の動きを監視しており、車輪ロックの兆候は車輪の現速度とスリップ率の急速な上昇で分かる。車輪の現速度とスリップ率が基準を超えると、ABSコントローラーは油圧ユニットに命令を送り、ロックの心配がなくなるまでブレーキ油圧を保持するか、低下させる。その後、制動力が小さくなり過ぎないように、ブレーキ油圧を再び上昇させる。ブレーキの自動制御中に車輪の回転挙動が安定、不安定のどちらにあるかを常時モニターし、車輪が最大制動力を確保できるように、一連の圧力増減及び保持制御を行う。平たく言うとポンピンググレーキを機械が高速で行ってくれるということだ。もちろん、高速のポンピングブレーキを人間が出来るかというと難しい。電子制御がなせる業である。

スキャンツールを上手に使ってABSでも入庫確保が出来る?

さて、ABSの重要性は言うまでもないが、やはり電子制御という点が、これからの整備需要として欠かせないは思えないだろうか。スキャンツールで確認するのはエラーコードだけでなく、ホイールスピードセンサーが車輪速を正確に検知しているか、車輪がロックしたら油圧コントロールをするか、といった点が挙げられる。ブレーキ周りの診断と銘打って、サービスメニューに組み込む整備工場も現れているとも聞く。

ABSが緊急時に効かないという現象は、どこかエアバッグのリコール同様、他人事に聞こえない。だからこそ日々のチェックが必要なのだ。車検に出したのにABSが効かなかったというのは残念な話だが、車検点検項目でない以上は、整備工場に落ち度はない。しかしながらスキャンツールを繋ぐことで、こういったトラブルを防ぐことも出来るのではないか? 自社の入庫を増やすも減らすも、対応一つというわけだ。これはABSに限った話ではないが、日常的にスキャンツールを繋ぐことを習慣とすれば、クレ
ームも防げる。もちろん電子部品だけではなく、ローターの歪みや、ホイール取り付け面の汚れも確認する必要がある。

ブレーキ周りの部品という認識をお持ちであれば、必須点検項目として取り入れていただきたい。

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監 修:ボッシュ株式会社 長土居大介

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