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第113回:廃棄における生産者の関わり:近年のペットボトル、衣料、食品の動き

3.衣料のリサイクル

 次に、衣料について見ていきたい。我々の日常の経験から中古衣料(古着)は一定の市場があり、リサイクルショップやフリーマーケットも今に始まったことではないことは分かる。

 また、紳士服やファストファッションの店舗、デパートなどのアパレル産業による下取り回収もされ、途上国に輸出される実態や工業用繊維(ウエス)として再利用される実態も知られている。

 近年では、大型リユース店の全国展開やフリマアプリの普及により、中古衣料の受け皿が拡大している様子が窺える。それに断捨離、こんまりブームなどにより家庭に眠る中古衣料が市場に流れている。リユース市場の広域化、情報化により需要と供給のマッチングが進み、市場全体が拡大していることが予想される。

 繊維、アパレル産業の中古衣料、繊維リサイクルに関する記事を見てみると、中古衣料を下取り等で回収する事業のほか、繊維を再生し、新たな衣料に投入する事業があることが分かる。自動車など他の物品でも同様だが、下取りは新品購入のインセンティブになる。

 下取りされた中古衣料は燃料や工業用繊維のほか、アフリカの難民キャンプなどに寄贈されるとされ、新品市場との棲み分けをしている様子が窺える(日本経済新聞2010年10月12日、2013年3月18日)。

 これに対して、アパレル業界が古着を販売するケースが一部で観察される。日本経済新聞の2014年3月27日付記事では、オンワードホールディングスが自社ブランドの衣料品を全国の百貨店から引き取り、状態の良いものを選び販売する事業を始めると報道されている。

 同記事では、大手アパレルメーカーが自社商品の古着を回収して販売するのは珍しいとしている。自動車の場合、新車ディーラーが下取りをした車を中古車として販売することはあるが、確かに多くの物品で新品の販売店が中古品を事業として売ることは少ないのかもしれない。

 繊維の再生事業については、帝人や日本環境設計の記事が観察される。このような事業がいつ頃から始まったかは正確に文献等をサーベイする必要があるが、布地をほぐして綿上に戻すことで生産される反毛綿は明治30年代末から始まったという記述はある(中野・中野,1987)。

 バージン資源と比べて価格が低く、品質が同等であれば、静脈市場は早い段階で生まれうる。近年の動きが再生資源の優位性をもたらす新たな技術や物流等が発展した結果であれば、従来の構造と変わらないだろう。

 日本経済新聞の2017年12月13日付記事では、日本環境設計が古着から衣料に含まれるポリエステルの9割以上を再生するが、スウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)と供給契約を結んだほか、国内の衣料品大手との契約も進めているとある。

 この記事では価格により再生樹脂を採用したか、あるいは価格に限らず再生樹脂を採用したかは記述されない。仮に価格が高くても再生資源が選ばれるということであれば、環境意識の高まりなどの従来とは異なった企業の動きが考えられる。

表 2 アパレル業界の衣料リサイクルに関する主な記事

掲載年月日

主な内容

2010年4月26日

体操服のリサイクル(帝人ファイバー、旭化成せんい)

2010年10月12日

衣料リサイクルの開始(ジーユー) 

2012年2月24日

上海や台湾での衣料リサイクル事業(ユニクロ)

2012年8月9日

中国での再生繊維事業(帝人)

2013年3月18日

不要な衣料品の回収拡大(H&M、ユニクロ)

2014年3月27日

古着販売事業(オンワード)

2016年5月5日

衣服・靴の下取りサービス(青山商事、丸井、ワールドなど)

2016年8月15日

古着からポリエステル再生(日本環境設計)

2016年9月20日

古着販売事業の経過(オンワード)

2017年12月13日

古着からポリエステル再生(日本環境設計)

2018年5月8日

羽毛リサイクル(河田フェザー)

2018年10月2日

再生繊維の工場を建設(伊藤忠商事)

2019年6月12日

糸くずリサイクルなど環境配慮型生地(東レ合繊クラスター)

2019年8月15日

再生繊維で衣類生産(丸紅)

2019年9月5日

再生繊維を本格事業化(東レ)

2019年9月17日

ダウンジャケットの回収・再生(ユニクロ)

2019年12月4日

シャツ回収、リサイクルシャツ製造(フレックスジャパン)

出典:日本経済新聞(電子版)より作成

 

 一方で、2017年頃から衣料関連のアップサイクルやエシカル消費に関連する記事が増えている。その流れの中で、アパレル業界が再生繊維や生分解性素材、脱炭素素材を利用するなどの環境に配慮した商品の開発、販売の動きを示す記事が増えている。

 再生繊維は中古衣料由来のものもあれば、ペットボトル等の他製品由来のものもある。それらの価格が高くても、環境に配慮したという点が価値を高めている。上述のH&Mも、2030年までに全ての素材をリサイクル品か、環境・社会に配慮した持続可能な調達に切り替えると発表したとされる(日本経済新聞2020年2月21日)。

 ファーストリテイリングは、2025年末までに綿素材を全て環境に配慮して作られたものにするようである(日本経済新聞2020年7月7日)。

 環境意識の高い生産者や消費者の存在は今に始まったことではない。そのため、アップサイクルやエシカル消費という行動は、用語は異なるとしても、近年になって生まれたものとは思えない。そのような行動が近年になって拡大、普及していると見るべきである。

 SDGs等の動きから消費者の環境意識が高まり、再生繊維等を用いた環境に配慮した衣料の需要が増えたことで、アパレル業界が動いたのだろうか。

 あるいは、同じくSDGsやESG投資等の動きから企業が環境に配慮するようになり、それが1つのファッションとして流行し、消費者の行動を変えたのだろうか。もっとも、技術や物流の発達により、再生繊維等の生産コストが低くなり、環境に配慮した衣料の競争力が生まれたということもあるだろう。

表 3 環境に配慮した衣料の開発、販売に関する主な記事

掲載年月日

主な内容

2014年12月20日

アップサイクルビジネスの広がり(サリーレーベルほか)

2017年4月11日

余った糸を使った雑貨、アップサイクル(三星グループほか)

2017年10月6日

再生原料が最新ファッションに(H&M)

2018年8月17日

アップサイクルビジネスの増加(シルクウェーブ産業ほか)

2018年11月22日

環境配慮ダウンの発売、エシカル消費に対応(コックス)

2019年5月10日

リサイクルTシャツ発売(そごう・西武、日本環境設計)

2019年6月9日

再生プラスチックからのポロシャツ(ラルフローレン)

2019年6月24日

100%リサイクル素材のTシャツ(ヘインズ)

2019年7月11日

100%リサイクル・ポリエステルTシャツ(パタゴニア)

2019年9月11日

洗濯時の繊維くず排出抑制(帝人フロンティア)

2019年11月18日

リサイクル繊維を使ったタオル(コンテックス)

2019年12月10日

ペットボトルをリサイクルした素材のバッグ(ジーユー)

2020年2月21日

100%植物由来製品量産(東レ)、エシカル消費(H&M他)

2020年2月21日

スポーツ衣料からリサイクルスポーツウエア(アシックス)

2020年2月22日

ニューヨークで中古衣料の再利用ファッションウイーク

2020年6月25日

服のリサイクル、再生繊維のTシャツ(日本環境設計)

2020年6月26日

服のリサイクル、再生繊維のエコバッグ(日本環境設計)

2020年7月7日

再生繊維を利用した衣料品(伊藤忠、H&M、丸紅)

2020年7月7日

使用済みをリサイクルしたダウンジャケット(ユニクロ)

2020年8月8日

廃棄衣料、黒染めで再生(アダストリア)

出典:日本経済新聞(電子版)より作成

 

4.衣料の過剰在庫

 上記のような動きがある中で、2018年頃から衣料の過剰在庫の問題が多く報じられるようになった。イギリスのアパレルメーカー大手のバーバリーによる自社商品の焼却が2018年7月にイギリスのBBCにより報じられ、それをきっかけとして社会問題になったように見える(BBC News, 19 July 2018)。

 それによると、同社はブランドの維持のために、2017年に2,860万ポンド相当の売れ残りの衣料、アクセサリー、香水を処分していたようである。三菱UFJ銀行の2018年7月19日の為替相場(TTS)は1ポンド=151.43円であるから、約43.3億円相当の「新品」を廃棄していたことになる。

 日本経済新聞の2018年9月11日付記事では、バーバリーが環境保護団体などの批判を浴び、売れ残り商品の廃棄をやめ、再利用や寄付に切り替える方針を表明したと報じている。そして、このようなことはアパレル業界の慣例であって、日本も例外ではないとし、需給のミスマッチから日本の在庫処分が拡大している実態を示している。

 同新聞の2019年2月3日付記事では、コンサルティング会社の小島ファッションマーケティングのデータが示されている。この記事中のグラフを見ると、下着を除いた衣料品について、国内で出回った調達数量と購入された消費数量のいわゆる需給ギャップが拡大している様子が分かる。

 1990年代前半は数億点だったこのギャップは2018年に15.5億点程度となっており、消化率は47%と半数以下である。そして、同記事では市場に投入された衣料品の約半数が売れ残り在庫になっているとする。

 なお、今回はこの一次データを見つけられなかったが、2019年6月12日付の記事を見ると、調達数量は輸入数量と国内生産数量、消費数量は総務省家計調査の世帯あたり年間平均購入点数から推計していることが分かる。

 先の日本経済新聞の2018年9月11日付記事では、過剰在庫の理由として「売り損じをなくすため多めに生産せざるを得ない」という機会損失の事情を言及している。そのような売り損じの背景として、ファストファッションの普及により流行の細分化と商品の短命化が進んでいること、安定して数量が稼げるヒット商品が出にくくなっており、アパレル各社はアイテム数の拡大で売上を確保しようとしてきたことを説明している。

 また、2019年6月12日付記事では、一定数量を発注しなければ現地の工場が生産を引き受けてくれず、需要よりも生産数を基準に計画を立てる傾向が強まったという事情を示している。

 さらに、売上高を経営の主軸に置き、前年よりも高い目標を立てるため調達量を拡大するという業界特有の商慣習も過剰生産の背景にあるとしている。加えて、「ブランドごとに予算を立てて無理に販売しようとする習慣」を指摘する声も紹介している。

 確かにデザインなどの固定費に対して材料費や人件費などの変動費が低いのであれば、機会損失を防ぐことを重視し、多めに生産するということはありうる。廃棄にかかる処分費用はあるが、機会損失の方が大きければその構造はなかなか変えられないようにも思える。

 2018年9月11日付記事では、このような過剰在庫問題について、タグの付け替えなどでアパレルメーカーの在庫分を販売するビジネスを紹介している。その後も、同様のタグの付け替えや個人通販、レンタルサービスなどでアパレルメーカーの在庫の受け皿ビジネスに関する記事が見られる(日本経済新聞2018年10月26日、2018年11月1日、2019年2月3日、2019年12月5日)。

 それらにより大量廃棄型の市場は徐々に修正されているのかもしれないが、上記のギャップがどのようになったかは定かではない。直近の記事では依然として大量廃棄を問題視しており(日本経済新聞2020年7月8日)、根本的な解決はまだこれからのように見える。フランスでは衣料の廃棄を禁止する法律が成立するなどの動きがあるが、これらの動きを見つつ、市場がどのように変わるかを引き続き観察する必要があるだろう。

 

表 4 衣料の過剰在庫に関する主な記事

掲載年月日

主な内容

2018年9月11日

廃棄ゼロ宣言(バーバリー)、タグ付け替え(ショーイチ)他

2018年10月26日

大量廃棄(バーバリー)、受注生産(アジアアロワナ)

2018年11月1日

アパレルの在庫をレンタルに(宙オリエンタル)

2019年2月3日

タグ付け替え(リネーム)、在庫販売(ウィファブリック)

2019年6月12日

衣料品、半分が売れ残り(小島ファッションマーケティング)

2019年12月5日

タグ付け替え(リネーム)

2020年6月11日

ブランド衣料品在庫の仕入れ、割安通販(ピンチヒッター)

2020年7月8日

衣料品の大量廃棄が世界で問題(業界全体)

出典:日本経済新聞(電子版)より作成

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