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第113回:廃棄における生産者の関わり:近年のペットボトル、衣料、食品の動き

5.食品ロスの回避

 需給ギャップや過剰在庫に関しては、食品においても近年の大きな社会問題の1つである。どのような店舗でも在庫不足による機会損失を恐れることは自然であり、需要の不確実性がある中、多めに仕入れることは致し方ない。

 POSシステムなどの情報技術の発達により余剰在庫を最小化する努力は長らくされていると考えられるが、それでも余剰在庫が発生するのであれば値引き販売を考えるのは自然である。一方で衣料でもそうであったが、値引きによるブランド価値の低下を回避しようとするインセンティブもある。

 スーパーや個人商店などで食品の値引き販売は以前より観察されていたが、コンビニエンスストアではあまり値引き販売はなかった。これが近年でどうなったかである。

 日本経済新聞の2010年7月2日付記事を見ると、2009年に公正取引委員会がセブン-イレブン・ジャパンに立ち入り検査を実施し、コンビニエンスストアの値引きの制限について排除措置命令を出していたことが分かる。

 当時、加盟店は売れ残った弁当類の廃棄の損失を全て負担しているにもかかわらず、値引き販売はできなかったという。この措置命令は広く知られており、その後の記事でも多く記述がある。

 上記の記事によると、措置命令を受けて、セブンイレブンでは、それまで加盟店が全額負担していた廃棄損失の15%を本部が負担するようになったという。加盟店は廃棄損失のリスクが減り、積極的に弁当などを発注するように促されたようである。つまり、値引き販売により需給ギャップを埋めるというものではなかったと言える。

 一方で、同記事ではローソンが弁当を店内調理する店舗を増やすという動きも示している。日本経済新聞の2010年5月7日付記事ではローソンのほか、セブンイレブン、デイリーヤマザキ、ポプラも店内調理を拡充する様子が書かれている。つまり、需要に応じて供給を柔軟に対応しやすくしたということである。

 2011年3月10日付記事では、ローソンが常温の弁当より賞味期限の長いチルド弁当の新ブランドを発売する内容を示している。さらに、素材や製法の見直しにより、弁当やサラダなどの賞味期限を延ばす取り組みもされている(日本経済新聞2011年6月18日、2011年9月3日)。

 これらは需給のマッチングの機会を拡大している。これに対して、2012年の時点では、値引き販売に動く店舗は依然として少なかったようである(日本経済新聞2012年8月18日)。

 その後、関連業界が2012年に食品の廃棄ロス削減に向けた業界横断の検討会を発足させるなど、食品ロスが徐々に社会問題になってきている。

 そのような中、コンビニエンスストアはさらなる賞味期限を延ばす商品作りのほか、気象予測により廃棄損失を抑える努力をしたり(日本経済新聞2015年4月6日)、食品残渣由来の飼料により生産された鶏卵を弁当に利用するなど廃棄への関わりを強化した(日本経済新聞2016年8月23日)。

 しかし、それでも値引き販売という点での目立った進展はなかった。なお、この間に値引き販売制御の違法性についていくつかの訴訟が報じられている(日本経済新聞2011年9月15日、2012年1月20日、2013年8月30日、2014年10月16日)。

 2019年になり恵方巻きの大量廃棄が社会問題になっている中で、コンビニエンスストアの24時間営業とともに食品の廃棄問題に関する記事が急増している。その中でポイントの還元という形での値引きの動きが出ている。

 日本経済新聞の2019年2月8日付記事では、経済産業省がコンビニエンスストアやドラッグストアと共同で、売れ残った食品の廃棄を減らすため、消費期限が近づいた商品ほどポイント還元率を高くする実証実験を始めるとのことであり、ローソンが参加している。

 その後の2019年5月17日付記事では、セブンイレブンが2019年秋からポイント還元による実質値引きの取り組みを行うと報道されている。2019年5月18日付記事でも同様のポイント還元のことが書かれているが、そこにESG投資の動きのような環境意識の高まりがあることを言及する。

 ファミリーマートに関する記事は、日本経済新聞の2019年7月26日付記事にある。これによると、焼き鳥などレジカウンターで販売している常温の総菜のタイムセールを始めるという。

 また、土用の丑の日のウナギやクリスマスケーキなど季節商品を完全予約制にし、直営店では消費期限が迫ったおにぎりや弁当の値下げを実験しているという。予約制についてはローソンやセブンイレブンでも進めており、大幅に廃棄損失を削減しているようである(日本経済新聞2020年3月12日、2020年3月25日)。

 これらは今後どのように進むのだろうか。コンビニエンスストアは需要に不確実性がある中、情報通信技術を駆使して、余剰在庫を限りなく削減することを追求してきたものと思われる。

 そして、それでも生じる余剰在庫に対応するために、賞味期限を延ばす商品開発をしたり、需要予測の精度を上げたりして、様々な手段を用いて需給ギャップを埋めようと努力をしてきた。しかし、本稿で見た限りでは、値引きという事後的な調整は十分に踏切れなかった。

 2019年になり食品ロス削減推進法が制定、施行され、SDGsやESG投資の重要性が増す中、コンビニエンスストアにおける食品ロスの社会的関心も高まってきた。そこでは、ポイント還元という形ではあるが、これまでされてこなかった値引きに踏み切ることになった。

 ポイントを集めている者にとっては、事実上の値引きであり、それにより結果として店舗側の廃棄損失を抑えられる可能性はある。

 店舗側にとっても正規の価格で余剰在庫をなくすことが望ましいのは確かだろう。値引きは次善の策であって、需要の不確実性がある中、事後的な形で余剰在庫を削減する手段である。

 もっとも、廃棄の負担が低ければ、店舗にとっても値引きより廃棄の方が良い場合もあるかもしれないが、環境意識が高まる中、そのバランスを考える必要があるだろう。

 先に見たように、一部の商品では予約制という販売方法が生まれている。これは、受注生産であり、そもそもの需要の不確実性を発生させないというものである。

 つまり、まず、(1)需要の不確実性を発生させない販売方法の検討があって、次に、(2)需要の不確実性がある場合の需給ギャップをなくすための努力があり、さらに、(3)需給ギャップを防げない場合の事後的な対応としての値引きという順番があるはずである。

 製品を販売することが如何に大変かを思わせるが、今回の値引きの効果がどの程度あるのか、さらなる観察が必要である。

 

表 5 コンビニエンスストアの余剰在庫対応に関する主な記事

掲載年月日

主な内容

2010年5月7日

弁当の店内調理(セブンイレブン、デイリーヤマザキほか)

2010年6月16日

弁当の店内調理を本格展開(ローソン)

2010年7月2日

廃棄損失の負担(セブンイレブン)、店内調理(ローソン)

2011年3月10日

チルド弁当新ブランド(ローソン)

2011年6月18日

弁当の消費期限延長(セブンイレブン、ファミリーマート)

2011年9月3日

弁当の消費期限延長(コンビニ業界全般)

2011年9月15日

値下げ制限で独禁法違反(セブンイレブン)

2012年1月20日

見切り販売制限で元店主側敗訴(セブンイレブン)

2012年8月18日

食料のムダをなくす取り組み(コンビニ業界全体)

2012年10月3日

食品の廃棄ロス削減へ検討会(コンビニ業界全体)

2013年8月30日

値下げ制限で賠償命令(セブンイレブン)

2014年10月16日

値下げ妨害で敗訴確定(セブンイレブン)

2015年4月6日

気象予測による食品廃棄削減(ローソンなど)

2016年8月23日

食品残渣の取り組み(セブンイレブン)

2018年3月19日

サンドイッチの賞味期限延長(セブンイレブン)

2019年2月8日

消費期限近づくとポイント上乗せ実験(経済産業省)

2019年5月10日

チルド弁当拡充(ファミリーマート)

2019年5月17日

売れ残りポイント還元(セブンイレブン、ローソン)

2019年5月18日

食品ロス問題、ポイント還元の動き(コンビニ業界全体)

2019年5月18日

ポイント還元の動き(セブンイレブン、ローソン)

2019年5月31日

ウナギ完全予約で廃棄削減(ファミリーマート)

2019年6月12日

ポイント還元による値引き(ローソン)

2019年7月26日

タイムセール、予約制(ファミリーマート)

2019年8月15日

ウナギ原則予約制(ファミリーマート) 

2019年8月16日

フードバンクに寄付(ローソン)

2019年10月30日

ポイント還元による値引き(セブンイレブン)

2019年11月6日

期限切れ食品の値引きクーポン(生活彩家) 

2019年11月19日

実質値引き(ローソン、セブンイレブン)

2019年11月27日

小容量総菜の鮮度を延長(セブンイレブン)

2020年2月21日

食品ロス削減へ奨励金(ファミリーマート)

2020年3月12日

恵方巻きの予約強化(ファミリーマート他)

2020年3月25日

恵方巻き販売の廃棄損失の減少(セブンイレブン)

出典:日本経済新聞(電子版)より作成

 

6.考察

 本稿では、これまであまり見てこなかったペットボトル、衣料、食品の廃棄に関する近年の動向を整理した。とりわけSDGsやESG投資への関心が広がる中で、生産者がどのように関わっているかを見た。

 今回の限りでは、それぞれの物品について生産者はかねてより廃棄に相応に関わっていたが、ここ2~3年にその関わりの度合いが増している印象を持った。

 ただし、それぞれの関わり方は微妙に異なる。ペットボトルでは再生素材、生分解性素材を新品に使う割合を急速に高めている。衣料でも同様に再生素材を新品に使っているが、それがアップサイクルやエシカル消費と繋がり、ファッション化しつつある。

 また、衣料は過剰在庫が社会問題となっており、その根深い構造をどのように変えるかという課題がある。食品においても余剰在庫の問題があるが、値引きという形に踏み出し、変化の兆しがある。

 自動車においてはどうだろうか。自動車の場合は、衣料や食品のように余剰在庫を廃棄、処分するということは考えにくい。よってその意味での過剰廃棄はなさそうである。

 ただし、下取りにより買い替えを促進し、まだ使用できる自動車を処分していた事情はある。これを過剰廃棄とするかどうかは定かではないが、衣料などでも下取り慣行が生まれており、耐久消費財に共通する課題は残る。

 また、自動車メーカーおよびディーラーは、新車販売に伴って下取りした車を中古車として販売してきた。衣料でも一部で中古衣料を販売するアパレルメーカーは観察されたが、今回の限りでは少数であり、自動車ほどには浸透していない。その違いは何なのか、衣料は自動車のようになりうるのかを考えることは重要である。

 ペットボトルについては、リユースの方向に進んでいない。ドイツなどではリターナブルボトルとしてペットボトルのリユースは存在し、日本でも過去に環境省を中心として実証試験もされたようである。

 安全性や外観などの問題に対して、消費者が寛容であれば、飲料メーカーがその方向で飲料の販売に踏み切るだろうが、そうではないのだろう。一方、個々の消費者によるマイボトルの使用の実態はあり、その方向でリユースが拡大するのかもしれない。

 食品についてはリユース市場はないが、値引き商品が定価商品と競合するため、生産者にとっては、中古車を販売する新車ディーラーと同じ立場であろう。新車ディーラーがどのように中古車と市場をすみ分けて新品の価値を維持してきたかである。それは値引きを行ってきたスーパーなども同様である。

 再生素材を新品に投入するという方向は、自動車でも議論はある。その動向については改めて資料、データ等を比較する必要はあるが、ペットボトルや衣料と比べると進んでいない印象を持つ。

 あるいは、「進んでいる」「進んでいない」という軸ではなく、技術的な特徴、市場の特徴によるものかもしれない。アップサイクルやエシカル消費も同様で自動車では十分に浸透していない。いずれにしろ、消費者が再生素材を用いるなど環境に配慮した新車を求めることがあるかどうか、その理由は何かである。

 本稿は日本経済新聞の記事をサーベイし、社会の流れを大まかに捉えた。それにより様々なことが分かり、意義のある作業となった。当然ながら、全ての情報源を網羅したわけではなく、より正確な議論には他の新聞、雑誌記事や関連論文、データを見ていく必要がある。

 その作業は膨大であり、多大な時間を要する。今回の作業で見えてきた課題について焦点を絞り、改めて丁寧に比較、議論することが必要であろう。今後の課題としたい。

 

参考文献

  • BBC News, “Burberry burns bags, clothes and perfume worth millions”, 19 July 2018, https://www.bbc.com/news/business-44885983(2020年8月11日閲覧)
  • 中野静夫・中野聰恭(1987)『ボロのはなし―ボロとくらしの物語百年史』リサイクル文化社

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