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第113回:廃棄における生産者の関わり:近年のペットボトル、衣料、食品の動き

山口大学 国際総合科学部 准教授 阿部新

1.はじめに

 近年、海洋ごみや食品ロスなど廃棄を巡る社会の状況がメディアでしばしば報道されている。その背景には、持続可能な開発目標(SDGs)や環境・社会・企業統治(ESG)投資のような動きがあると考えられる。

 それらにより生産者や消費者の経済活動に変化が起きていると考えられるが、それがどのようなものなのか、従来と変わらないものなのかについては、十分に整理されていない。

 そこで本稿は、近年の廃棄における経済活動、とりわけ生産者の関わりに焦点を当てる。具体的な物品として、ペットボトル、衣料、食品を取り上げ、生産者の経済活動がどのように変わってきているかを見ていく。それらを受け、自動車を含めた共通点や相違点について考察する。

 ただし、生産者の範囲は幅広く、全てを網羅することは難しい。本稿では、それぞれの生産者のうち、主に飲料メーカー、アパレルメーカー、コンビニエンスストアがどのように廃棄に関わっているかを整理する。時系列的な流れを捉えるため、過去10年間の日本経済新聞(電子版)の記事をサーベイする。

 

2.ペットボトルのリサイクル

 周知の通り、使用済みペットボトルは、容器包装リサイクル法の下で回収され、リサイクルされている。表1は使用済みペットボトルのリサイクルにおける飲料メーカーを中心とした動きを示している。これを見る限りでは、記事上で飲料メーカーの関わりが加速したのは2018年頃からであると考えられる。

 もちろん、それ以前でも飲料メーカーはペットボトルに再生樹脂を使うなどの動きはある。日本経済新聞の2012年4月13日付記事では、栃木県の協栄産業が使用済みペットボトルから、新たなペットボトルに投入するための再生樹脂を生産する工場を稼働させるという記述がある。

いわゆる「ボトル・トゥー・ボトル」(Bottle to Bottle)の動きが出てきており、その再生樹脂はサントリーホールディングスやキリンホールディングスのグループ会社への納入を予定しているとある。

 翌年の2013年8月17日付記事では、サントリー食品インターナショナルの「ボトル・トゥー・ボトル」の動きが示されている。具体的には、ペットボトルの製造に必要な樹脂のうち、使用済みペットボトルからつくる再生樹脂の比率を従来の4%程度から、2015年に20%程度に引き上げるとある。

 サントリーが上記の協栄産業と組み、2011年に「メカニカルリサイクル」と呼ぶ樹脂再生の技術を他社に先駆けて導入したというが、この技術を使った再生樹脂はキリンビバレッジが採用を始めたほか、日本コカ・コーラも導入を検討しているという。

 それ以外にも、サントリーが資源争奪の中、自治体が回収した使用済みペットボトルのほか、スーパーで店頭回収したものも活用するという動きや(日本経済新聞2013年12月18日)、伊藤園が使用済みペットボトルを原料に作ったリサイクルペットボトルの利用を始めたという動き(日本経済新聞2014年2月8日)も示されている。

 2010年からの社会全体の動きとしては、使用済みペットボトルの輸出により、価格が上昇していたことが分かる。その状態は2014年まで続いていたことが記事から読み取れるが、2015年は原油価格の急落により、再生資源の価格も下がったことが報道されている。本来であれば、PETボトルリサイクル推進協議会のデータなどを見る必要があるが、記事で見る限りでも資源価格の変動により市場が混乱していた様子が窺える。

 2017年は中国の再生資源の輸入制限の記事、2018年は海洋プラスチックごみの記事が出てくる。同時にストローの廃止やレジ袋有料化の議論が進んでいる。2019年にはG20サミットが大阪府で開催され、海洋プラスチックごみの削減のための行動計画が示された。

 このような流れの中で、飲料メーカーによる使用済みペットボトルのリサイクルの取り組みが2018年から2019年にかけて加速する。2018年11月には、飲料メーカー等が主な会員となっている全国清涼飲料連合会が2030年度までに使用済みペットボトルを100%有効利用する目標を発表したと報じられている(日本経済新聞2018年11月29日)。

 個別企業では、2019年2月には、キリンホールディングスが国内で清涼飲料などのペットボトルに使う再生樹脂の割合を2027年までに50%に引き上げる目標を掲げたとしている(日本経済新聞2019年2月7日)。

 また、サントリーホールディングスは、2030年までに新たな化石燃料を投入せず、再生樹脂と植物由来の素材を組み合わせてすべてのペットボトルを再生するシステムを確立すると報じられている(日本経済新聞2019年5月28日)。

 使用済みペットボトル由来の再生樹脂は1割程度であり、その割合を2030年までに6~7割に高め、不足分を植物由来の樹脂で補うという。他にも多くの記事がある。

 飲料メーカーによる一連の流れは、ペットボトルに再生樹脂を用いるものであり、その使用の割合を増やし、バージン資源の削減に貢献するものである。また、その再生樹脂に使用済みペットボトル由来のものを用いることで、使用済みペットボトルの適正流通を確保する。

 さらに生分解性の樹脂を用いる事例も増えているが、これは新たな化石燃料を投入しないことのみならず、不適正に処分された場合の被害を限りなく小さくするという意味がある。これ以外にはここ数年では、ペットボトルのラベルや包装をなくして、分別の手間の低減に貢献する動きはある(日本経済新聞2019年1月29日、2020年4月8日、2020年4月23日)。

 一方で、ペットボトルそのものを削減する方向になっているかというとあまり目立った動きはないように思える。良品計画がマイボトル向けのペットボトルを発売し、大型店で給水機を設置するなどの動きはある(日本経済新聞2020年6月30日)。

 このような容器のリユースと飲料水の提供についてはスーパーなどで従来からあるものである。また、マイボトルはいわゆる水筒であり、それを用いる習慣は過去はもちろんのこと、現在でも一定数あるものと思われる。飲料メーカーがペットボトルそのものを削減する意味で、容器のリユースを促進する動きがあるかどうかである。

 洗剤などは詰め替えの習慣が浸透しているように思える。飲料でも2リットルなど容量の多い飲料が発売され、詰め替えが可能であり、飲料メーカーは既にペットボトルのリユースに貢献していると言える。しかし、それを普及させるという動きは感じられない。

 詰め替えをした方が金銭的負担は少ないだろうし、ペットボトルも削減できる。衛生上の問題もあると思われ、洗剤などとは別に考える必要があるが、リユースを促進し、ペットボトルそのものを削減する方向は進むのか、その際に消費者側にインセンティブが与えられるか、飲料メーカーがさらに何かを行うのかは今後観察しておきたい。

表 1 飲料メーカーのペットボトルリサイクルに関する主な記事

掲載年月日

主な内容

2010年6月15日

回収ペットボトルの高度処理設備導入(協栄産業)

2012年4月13日

ペットボトルリサイクルのための新工場稼働(協栄産業)

2012年4月15日

ペットボトル新再利用網(セブン&アイ)

2013年8月17日

ペットボトルの再生樹脂比率5倍に(サントリー)

2013年12月18日

店頭からペットボトル原料確保(サントリー)

2014年2月8日

使用済みペットボトルの再利用開始(伊藤園)

2015年4月11日

環境配慮型ペットボトル全面導入へ(日本コカ・コーラ)

2016年3月8日

植物由来100%ペットボトルの実証着手(サントリー)

2017年8月18日

ペットボトル向け透明樹脂の本格販売(岩谷産業)

2018年4月27日

2030年に再生・植物由来ボトルを50%以上(日本コカ・コーラ)

2018年11月8日

ペットボトル再生事業の新技術導入・拡大(協栄産業)

2018年11月29日

2030年度までにボトル有効利用100%(全国清涼飲料連合会)

2019年1月7日

再利用できるペット樹脂の普及に取り組む(岩谷産業)

2019年1月29日

包装なしのペットボトル商品拡大(アサヒ飲料)

2019年2月7日

ペット樹脂5割を再生品に(キリン)

2019年3月29日

ペットボトル再生でライン増設(サントリー)

2019年5月15日

再生樹脂100%のペットボトル採用(キリンビバレッジ)

2019年5月28日

2030年までにペットボトルを100%再生へ(サントリー)

2019年5月29日

ペットボトル再利用で連携(セブン&アイ、日本コカ・コーラ)

2019年6月5日

100%再生ボトル飲料を発売(セブン&アイ、日本コカ・コーラ)

2019年6月7日

大阪市とペット容器の資源循環で協定(サントリー)

2019年7月11日

2030年までに再生素材と植物由来ボトルへ(日本コカ・コーラ)

2019年9月24日

ペットボトルのリサイクル材料の販売に参入(蝶理)

2020年3月3日

ミネラルウォーターの容器を100%再生材に(日本コカ・コーラ)

2020年4月8日

ラベルのないペットボトルの水を発売へ(日本コカ・コーラ)

2020年4月23日

ペットボトルに残りにくいシールの開発(サントリー食品)

2020年6月30日

マイボトル向けのペットボトルの発売(良品計画)

2020年7月29日

ペット再生で台湾繊維大手と連携(コカ・コーラボトラーズ)

出典:日本経済新聞(電子版)より作成

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