FCV大型トラック

自工会が「水素大動脈構想」を発表| ― 福島~福岡に大型水素トラック1,500台体制、水素ST30基整備で水素社会実現へ

記者会見の概要 ― 二部構成で「新7つの課題」の進捗を報告

5月21日の記者会見は二部構成で実施されました。前半は総合政策委員長の松山洋司氏のあいさつに続き、「新7つの課題」のうち下記3テーマについて各プロジェクト担当者が事前説明を行いました。

  • マルチパスウェイの社会実装 ― 幹線輸送での水素トラック普及
  • サプライチェーン全体での競争力向上 ― 共同物流実装に向けた標準PF構築
  • 人材基盤の強化 ― 自動車産業カレンダーの見直し

後半は会長の佐藤恒治氏(トヨタ自動車 代表取締役副会長)をはじめ、副会長の山口真宏氏、鈴木俊宏氏、イヴァン・エスピノーサ氏、三部敏宏氏、設楽元文氏、松永明氏が登壇し、質疑応答が行われました。

注目トピック①|「水素大動脈構想」とは何か

今回の会見の最大の目玉が、官民連携で立ち上げる「水素大動脈構想」です。自工会は「誰もが水素を使える社会の実現」を掲げ、まずは商用車の幹線輸送を起点に水素需給を一気に拡大する戦略を打ち出しました。

なぜいま「水素」なのか

自工会は、水素に取り組む大義として3点を挙げています。

  1. エネルギー安全保障 ― 多様化するエネルギー環境に合わせて多様な選択肢を準備する
  2. 産業競争力の確保 ― 日本が優位性を持つ水素関連技術を海外展開し、国際的な産業競争力を強化する
  3. 脱炭素・GX(マルチパスウェイ) ― 最終的には乗用車(POV)まで含めて水素活用を普及させ、モビリティの脱炭素を実現する

ここで重要なのは、自工会のスタンスが「EVか水素か」という二者択一ではなく、あくまで**マルチパスウェイ(多経路)**である点です。同会見では電気についても「走行中無線給電の社会実装」を新規大玉プロジェクトとして提示しており、水素は多様な選択肢のなかでも日本に優位性のある領域として位置付けられています。

日本の「勝ち筋」は「つくる・はこぶ・つかう」の3技術

自工会が示した日本の強みは、水素バリューチェーンの3工程すべてに優位性を持っている点です。

  • つくる(水電解) ― 高効率な水素製造・安定稼働。水素製造の世界市場獲得を視野
  • はこぶ/ためる(液化水素関連技術) ― 極低温での高効率運搬・貯蔵。広範な輸入先からの水素調達に貢献
  • つかう(FCセル/水素モビリティ) ― 市場で鍛えられた性能と耐久性。世界に先駆けマルチパスウェイを実行

基幹産業であるモビリティが先頭となり水素消費量を拡大することで、水素価格の低減を促し、発電・化学・製鉄など他産業への波及につなげるシナリオです。

10年後の数値目標 ― 大型トラック1,500台、ST30基、水素価格1,000円/kg

会見で示された具体的なロードマップは以下のとおりです。

  • 大型水素トラック1,500台相当(水素消費 7,500t/年)
  • 水素ステーション+30基
  • 水素価格 1,000円/kg を基準
  • 国・自治体・ユーザー・ST事業者と連携し、福島⇔福岡の幹線輸送で水素普及を目指す
  • 経済合理性が成り立つモデルケース(平和島STの予測値で約80台・年間250tで黒字化)をつくり、全国に展開

事前説明には、TFリーダー会社のトヨタから木全隆憲氏、サブリーダー会社の三菱ふそうトラック・バスから安藤寛信氏、日野から大畑光一氏が登壇し、商用車3社が一体で進める体制が示されました。

注目トピック②|共同物流の標準PF構築 ― 2028年末を目標

サプライチェーンの競争力向上に向けては、物流部会長の永野岳人氏(ホンダ)と副部会長の吉田晃朗氏(トヨタ)が登壇しました。

ポイントは以下のとおりです。

  • ドライバー不足の解消はもちろん、国が掲げるフィジカルインターネット(PI)構想のゴールに向け、「強い物流」を業界横断で構築する
  • 使われていない逆物流を別のプレイヤーが順物流として活用することで、往復ループ・循環型の物流を完成させ、原材料の安定調達と製品の安定供給につなげる
  • 災害時に物流が止まらないよう、データ共有・見える化によりリアルタイムで迂回・再配分できる体制を整える
  • 2028年末を目標に、体系的な仕組みでの協業を実装。まずは完成車物流(トヨタの帰り便活用など)から始め、用品・補修品物流に拡大

すでに「いすゞの帰り便でトヨタの補給部品を25m連結トレーラーで輸送」という事例も動き始めており、補給部品の物流効率化は整備業界・部品流通の現場にも直接波及するテーマです。

注目トピック③|自動車産業カレンダーを2027年度から見直し

人財部会長の祐川浩之氏(ホンダ)からは、産業の魅力向上に向けたカレンダー変更が発表されました。

  • 2027年度より、ゴールデンウィーク連休の平日を稼働日に変更
  • ハッピーマンデー(例:1月の成人の日、9月の敬老の日など)の一部を休日化
  • 連休前後に集中していた工事・設備切替作業の平準化により、工事計画の安定化、人員手配の効率化、中長期的な人材確保にも効果

自動車総連が掲げる「休日増」の方向性も踏まえつつ、まずは平準化による生産性向上から始めるという段階的なアプローチです。整備工場や部品商も、メーカー稼働日の変更によって入出荷スケジュールや繁忙期が変わる可能性があり、注視が必要です。


佐藤会長メッセージ|「議論より行動」「あなたが動けば世界が動く」

会見後半、会長の佐藤恒治氏は次のように語りました。

  • 中東情勢をはじめ、自動車産業を取り巻く環境は厳しい。安定したサプライ、サプライチェーンの確保、多様化するエネルギーへのソリューション、資源活用の道筋といった大きな視点が重要
  • 意思を持って協調領域をつくり、**「議論を繰り返すのではなく、行動を大事にする」**形で「新7つの課題」に取り組む
  • 2026年秋開催予定のJapan Mobility Show Bizweek 2026のテーマは「あなたが動けば世界が動く」。スタートアップとの連携で多面的に実践に落とし込む場としたい
  • どの活動もスピード感を持った行動を重視して進める

整備業界への影響と今後の展望

今回の発表は、整備・サービス業界にとっても見逃せない内容です。

まず水素トラック普及は、整備現場のスキルセットの更新を確実に迫ります。 燃料電池車(FCEV)の高圧水素タンク取扱、FCスタックや高電圧系統の点検、専用工具・設備、有資格者の確保など、ディーゼルとは異なる整備体系が必要です。10年で1,500台規模の大型水素トラックが幹線を走るとなれば、ルート沿いの認証工場・指定工場でFCEV対応の整備人材育成が急務となります。

次に共同物流の標準PF(プラットフォーム)構築は、補修部品の流通網にも変革をもたらす可能性があります。 OEM横断で逆物流を活用する仕組みが整えば、部品の調達リードタイム短縮や在庫の最適化が進む一方、既存の流通慣行の見直しも避けられません。

そしてカレンダー見直しは、整備工場や部品商の繁閑にも直結します。 メーカーの稼働日が変わればディーラー入庫や部品出荷のリズムも変わるため、自社のシフト・人員計画の早期見直しが望まれます。

EV一辺倒の議論から、水素を含むマルチパスウェイへ。自工会が描く青写真が今後どこまで実現するかは不透明な部分も残りますが、商用車を起点に「経済合理性で回す水素」という現実的な道筋を示した意義は大きく、整備業界も次の10年を見据えた準備が必要です。

 

記者会見アーカイブ動画

自工会の記者会見は、YouTubeで公開されています。一次情報として、ぜひあわせてご確認ください。

自工会記者会見アーカイブ(2026年5月21日)

参考リンク

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