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第157回 欧州使用済自動車規則案の経済学的な視点:目標値の設定を中心に

山口大学国際総合科学部 教授 阿部新

1.はじめに

阿部(2024)でも示したように、欧州委員会環境総局は2023年7月13日に使用済自動車に関する規則案(以下「ELV規則案」)を発表した(European Commission, 2023a)。このELV規則案では、大きく4つの取り組むべき問題分野と6つの政策オプションが示されている。このうち、阿部(2024)では、行方不明車問題とそれに対応する「より多く回収する(Collect More)」という政策オプションに注目した。

EU(欧州連合)のELV規則案については日本でもしばしば話題になる。その中で特に注目されるのは新車への再生プラスチックの使用義務である。これは政策オプションの2番目の「リサイクル素材の使用(Use Recycled Content)」に含まれる措置であり、使用済自動車由来のものを利用させるという水平リサイクル(クローズドループリサイクル)まで踏み込んでいる。今回はそれを中心にリサイクルの目標値について取り上げたい。

阿部(2024)で示したようにELV規則案と並んで同日付で影響評価報告書が発表されている(European Commission, 2023b)。ELV規則案はPDFファイルで100ページ、その附属書が34ページにわたる。影響評価報告書は4つのPDFファイルに分割されているが、その合計は511ページにもなる。

今回はこれらを用いて、上述のプラスチックを含めたリサイクルの目標値について考えてみたい。

 

2.プラスチックのリサイクルの目標値

まず、プラスチックのリサイクルについて見てみる。ELV規則案の冒頭に示される説明用文書(Explanatory Memorandum)を見ると、同規則案でプラスチックに設定されるリサイクルの目標値は大きく2つにあることがわかる。1つは先に示した新車への再生プラスチックの利用率を規定するものであり、主として生産者が直面する問題と考えられる。もう1つは使用済自動車から発生するプラスチックのリサイクル率を規定するものであり、主としてリサイクル業者が直面する問題と考えられる。

いわゆる使用済みプラスチックの新車への利用義務については、前者に該当するもので第 6 条に記載されている。具体的に同条第1項において、新車に使用されるプラスチックのうち、重量で25%以上の再生プラスチックを含まなければならないとする。また、同項では、上記の目標値(25%以上)のうちの25%以上(すなわち使用するプラスチック全体の6.25%以上)を使用済自動車からリサイクルされたものでなければならないと書かれてある。同項によるとこれらは適用されるのは規則発効日から72ヶ月(6年)後の月の初日からになる。

ELV規則案の説明用文書を見ると、この規定は、政策オプションの「リサイクル素材の使用(Use Recycled Content)」に含まれている。その中で、同文書では、使用済自動車から発生するプラスチックのうち、リサイクルに回されているのはわずか19%(年間20万トン)であること、自動車における再生プラスチックの利用率は2.5%に限られており、今後数年間に規制介入がなければほとんど進展が見込まれないこと、自動車部門はEUの産業全体でバージン・プラスチックの主要ユーザーであり続けること、一方でプラスチックを回収・リサイクルすることに採算が取れないことから回収するインセンティブがないことなどが記されている。

政策オプションでは、いくつかの案が示されており、上記の第6条の規定はその1つのM9bの案に基づいている。他の案においては、例えばM9aではフリートレベルアプローチと呼ばれるものが提案されているが、影響評価報告書によると、これはある日付から市場に投入される車両の総量のうちの再生プラスチックの利用率だという。M9aの具体的な数値は、2031年までに6%、2035年までに10%であり、そのうちの25%を使用済自動車由来のものとする。また、M9cは、M9bと同じように市場に投入される新車に対して再生プラスチックの利用率を求めるものであるが、その利用率は2031年に30%(うち25%は使用済自動車由来のもの)とし、採用されたM9bの基準よりも厳しい。この中で、M9bは最良の費用対効果のバランスを提供し、過剰なコストと供給不足のリスクを回避し、製造計画に最も確実性をもたらすと説明されている。なお、これら以外にも、早々に見送られた政策として、30%超という目標値を提示する案(M37)もあったようだが、この目標水準はあまりにも遠すぎるものであり、需給の不均衡のリスクが高く、関係者に不釣り合いな追加コストをもたらすと言及されている。

 

3.鉄スクラップの新車への利用

ELV規則案に関して、日本では上記のプラスチックが何かと話題になるが、それ以外の再生資源も同様に検討されていた。まず、鉄だが、政策オプション2のM10aを見ると、欧州委員会に対して実現可能性調査に基づいて+3年後に鉄鋼のリサイクル含有量に関する義務的目標を設定する権限(算定・検証ルールを含む)を与え、+7年後に新車に適用することとしている。これは、規則案の第6条第3項に反映されており、同項では調査の内容を示している。具体的な調査は、(a)現在および将来の鉄スクラップの利用可能量、(b)自動車に利用される鉄におけるスクラップの現在の割合、(c)将来的に新車に鉄スクラップが使用される潜在的利用率、(d)他部門の鉄スクラップの需要と比較した自動車の需要、(e)経済性、技術的・科学的進歩、(f)自動車に含まれる鉄のリサイクル比率の設定のEUへの貢献、(g)自動車の価格への悪影響を防止する必要性、(h)自動車部門全体のコストと競争力への影響が記されている。これを見ると、鉄は具体的な目標値を定めている段階ではなく、今後実行することをコミットするものであることがわかる。

影響評価報告書を見ると、自動車生産における鉄スクラップの利用率は13%と推定されていること、その全てが使用済み後の鉄スクラップとは限らず、生産段階での鉄スクラップも含まれていること、そのうちの自動車由来のものについては3~7%になることが記されている。そして、同報告書では、自動車業界は鉄においても高い品質を求め、バージン資源に大きく依存し、リサイクル材料をほとんど使用していないこと、使用済自動車からの鉄のリサイクル率は88%と高いものの、破砕工程で銅が混入するなどスクラップの品質が低いこと、これにより高品質の製品の生産の障害となっており、スクラップは他用途にダウンサイクルされることが示されている。

このような中、プラスチックと同じように鉄スクラップの利用の目標値の検討はされていたが、今回は見送られた。採用されなかった政策オプション2のM10bでは、新車で使う鉄の20%をリサイクルされたもの(いわゆる鉄スクラップ)とする目標値を設定し、規則発効7年後に達成することを義務付けることが提案されていた。また、同じく政策オプション2のM10cでは、新車で使う鉄の30%をリサイクルされたものとし、そのうちの15%を使用済自動車由来のいわゆるクローズドループを求めるという野心的なものだった。

影響評価報告書では、これらが採用されなかった理由を記載している。まず、M10bは、利点として鉄鋼生産におけるスクラップ利用率を向上させる引き金を作り、M10aよりも生産段階での脱炭素化をより早く達成できることが言及されている。しかし、車両設計の変化が想定され、将来の需給バランスに関する不確実性が高いと述べられている。この不確実性の詳細として、(i)スクラップがより利用されやすい条鋼製品(long products)の電気自動車(EV)における将来的なシェア、(ii)平鋼(flat)生産における使用済み製品由来のスクラップの現在の利用レベル、 (iii)生産段階のスクラップと消費段階のスクラップの利用の現在シェア、 (iv)他の鉄鋼需要セクターのスクラップの利用可能性と価格に与える影響があげられている。そのため、M10bのようにリサイクルの目標値の設定を検討しようとすると、レベルを低く設定しすぎる可能性があり、結果として使用済み後のスクラップの利用率向上へ効果的なインセンティブを形成しないことになるという。

一方で、M10cは、鉄スクラップの新車利用率とクローズドループの割合が高く、使用済み後のスクラップ調達の柔軟性を低下させる可能性があるという理由があり、採用されなかったようである。以上の議論を受けて、今回の規則案では、鉄についてはM10aが望ましい選択肢であるとしたようである。不確実性がある中で、未来のことについて様々な利害関係者が受け入れる目標値を設定することは現実的には難しく、その様子は窺える。その中で、期限を設定したことで最低限の前進はしたということなのだろう。

 

4.他の再生資源

プラスチック、鉄以外でも再生資源を新車に利用するという議論がある。それは、政策オプション2のM11に示されているものであり、規則案では第6条第4項に反映されている。その内容を見ると、アルミニウム(およびその合金)、マグネシウム(およびその合金)、ネオジム、ジスプロシウム、プラセオジム、テルビウム、サマリウム、ホウ素の名前が並べられている。これらの再生資源も鉄と似たような扱いである。つまり、今回は新車への利用の目標値を定めるものではなく、調査したうえで、欧州委員会が目標値の実現可能性を今後評価することをコミットするものである。

調査項目は、これらの再生資源について、(a)使用済み後の現在及び将来の入手可能性、(b)自動車におけるリサイクル率の現状、(c)経済性、技術的及び科学的進歩、(d)リサイクル率を設定することへのEUの戦略的自立及び気候・環境目標に対する貢献、(e)自動車の機能への影響の可能性、(f)自動車の価格への悪影響を予防する必要性、(g)自動車部門全体のコストと競争力に及ぼす影響、とある。ここでは、M10 で言及されている鉄の調査よりも範囲が広いとされているが、目標値の設定を先送りした点では同じである。

このような扱いにした理由は、鉄と同様であり、自動車の設計が急速に変化していること、リサイクル市場の選別技術の進歩が著しいことが背景にあげられている。つまり、目標値を設定するには調査、分析が不足しており、将来の不確実性が大きいということである。調査は新しい規則の施行後3年以内に実施され、それを受けて欧州委員会により目標値の設定の実現可能性が評価される。

一方、銅については、鉄やアルミニウムなどと同様にリサイクルの目標値の対象に盛り込まれてもおかしくはないが、今回の規則案には示されていない。影響評価報告書によると、政策オプション2のM38に銅のリサイクル率の目標値を設定することが提案されていたが、早々に破棄されている。その説明から、鉄スクラップやアルミスクラップの質の向上とそのための銅の分離が課題であることが見えてくる。つまり、銅そのものは分離すればよく、分離した銅は価値が十分にあり、市場の失敗は生じないため、リサイクル含有量の目標値の設定は必要ではないという考えである。銅は、鉄やアルミニウムとは異なり、クローズドループが実現できているということなのだろう。

他にもガラスやタイヤもリサイクルの目標値が検討されていたが、これらの措置も早々に破棄されている。ガラスについては、政策オプション2のM39にあるが、自動車用ガラスの仕様が高いため、再生ガラスの利用は技術的に不可能であると書かれてある。それを述べたうえで、政策オプションの3にある窓ガラスの破砕前の取り外し義務が最適な対策として選択されたとする。これにより経済的な支援を必要とすることなく、容器ガラスやセラミック産業で使用するための比較的クリーンなガラスが得られること、加えてリサイクルの定義が改善されれば、ASRの埋め戻しや埋め立て禁止、埋め立て費用の高騰により、これらのガラスはリサイクル工程に回されることになることなどが記されている。また、新車への再生ガラスの利用率を設定するためには、再生ガラスの出所(生産過程からのものか、消費過程からのものか、使用済自動車由来か、他製品由来か)を指定する追加パラメータを遵守し、所定の期間内に達成する必要があるとも書かれてある。これらを受けて、ガラスの利用率目標を設定する対策は破棄されるとしている。

タイヤに関しても同じようにM40でリサイクル含有率の目標の提案がされていたが、これは別の視点で破棄されている。具体的に影響評価報告書を見ると、タイヤについては、持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR, Ecodesign for Sustainable Products Regulation,以下「エコデザイン規則」)案の下で再生ゴムのリサイクル含有率を設定する可能性があるとされる。そして、部門間の法律の一貫性を確保するため、M40は廃止すると言及している。また、タイヤのリサイクルの課題として、人工芝、道路建設製品の充填材、セメント生産などの様々な用途におけるタイヤリサイクルの量と質を高める必要があるとする。同時にPAHs(多環芳香族炭化水素)やマイクロプラスチックの放出を避けるための適切な対策を考慮する必要があるとも書かれてある。なお、エコデザイン規則案は、既存のエコデザイン指令を改正する形で検討されており、2023年12月5日にEU理事会と欧州議会が暫定合意を締結したとされる(European Council, 2023; 吉沼,2023)。また、欧州委員会のエコデザイン規則案に関するホームページを見ると、2024年5月22日に施行前のオンライン説明会が行われており、その資料では同規則の施行は2024年6月か7月と書かれてある(European Commission, 2024)。つまり、ELV規則案と同時に動いているものであることがわかる。

 

5.関連業界の反応

上記のような再生資源の新車への利用義務についてどのように評価されるだろうか。ELV規則案の冒頭に示される説明用文書の「3.事後評価、利害関係者との協議、影響評価の結果」では、新車のリサイクル含有量の目標設定についてはリサイクル・解体部門や市民社会団体から強い支持があったものの、自動車部門ではプラスチックの目標設定については意見が分かれたとある。自動車部門は必要な供給が不足する可能性について懸念を表明し、(プラスチック産業と同様に)ケミカルリサイクルを提唱したようである。また、鉄鋼業界は、新車に含まれる鉄のリサイクル含有量に関する目標を支持しなかったとされる。十分に予想されることだが、利用する側にとってはコストが増大することが予想され、素直に受け入れられないのだろう。

これらについて同規則案の影響評価報告書を見ると、同じようなことが書かれてある。まず、公開一般質問では、回答者全体の70%にあたる146人が、新車の製造に再生プラスチックをより多く使用することに賛成または強く賛成したとのことだった。50名のメーカー、輸入業者、サプライヤー関係の回答者のうちでは、プラスチックの義務目標設定に反対したのは7社・団体であり、そこにはテスラ、フォードのほか、欧州自動車部品工業会(CLEPA)、部品メーカーのヴァレオ、エストニア自動車販売協会なども含まれている。他は、欧州自動車工業会(ACEA)を含め、賛成または中立の立場であったようであり、自動車業界でも意見は分かれているとある。自動車業界の意見では、業界の仕様を満たす再生資源の供給不足の可能性に言及しているという。つまり、適切な品質の再生プラスチックが十分に供給されないことに対する懸念である。また、将来的な目標には消費前の廃棄物(pre-consumer waste)も含めるべきであり、ケミカルリサイクルを認めるべきであると主張したとのことだった。ここでの消費前の廃棄物は、生産過程で発生するものであることが想定される。

鉄に関しては、脱炭素に貢献する鉄鋼生産、いわゆる「グリーン・スチール」をどのようにして実現するかという模索があるようである。その中で、欧州鉄鋼連盟(EUROFER)は、脱炭素への長期投資において使用済自動車由来の鉄スクラップの利用目標の設定は、(水素ベースの)直接還元法(電気炉)と競合するとの見解を示したようである。つまり、使用済自動車由来の鉄スクラップの利用目標は、必ずしもグリーン・スチールの最適解ではないということなのだろう。

同報告書によると、各自動車メーカーは、脱炭素政策の重要な要素として、再生資源の利用を増やす積極的なアプローチを展開しているようだが、いくつかの自動車メーカーは、リサイクル率が25%を超える鋼材の調達が困難であることを認識しているとのことである。リサイクル部門は、高品質の鉄スクラップの供給を確保し、改善するための投資を補うために、鉄鋼の再生利用率目標は不可欠であると考えている。また、欧州自動車工業会(ACEA)は、新たな再生利用率要件にサプライチェーンを調整するための十分なリードタイムの必要性を明言しているという。いずれにしろ、これらの主張から鉄については目標値の設定は見送られたということである。

 

6.再生資源市場の経済学

以上の目標値の設定は、経済学的にはどのように評価されるだろうか。基本的に再生資源は自由な市場の下で、いわゆる需要と供給に基づいて取引される。その価格は、往々にしてバージン資源の価格よりも低く設定される。なぜならば、そうしないと再生資源が選ばれにくいからである。しばしばバージン資源の価格は投機的な行動に影響される。そのため、再生資源はそれに翻弄され、変動することが多々ある。

この再生資源の価格は、その前段階の使用済み製品の仕入れ価格に連鎖する。バージン資源の価格が低い場合、再生資源の価格も低くなり、それに伴ってリサイクル業者は使用済み製品の仕入れ価格を下げる。それが非有償になることもあり、その場合は不法投棄の懸念を生む。日本の感覚では、使用済み製品や再生資源が非有償で取引される時、関係者に相応な法的義務が生まれ、その負担が追加される。この結果、使用済み製品の非有償の取引は再生資源市場の供給者の費用を上昇させ、供給曲線を上方にシフトさせ、市場を縮小する方向に働く。

そのような中で、再生資源を利用することにより、温室効果ガスが削減されるとする。その場合、再生資源市場の需要曲線が上方にシフトすることになる。これは価格を上げるとともに利用量を増加させる。問題はその上昇幅の程度だが、再生資源の需要者(主として企業)が温室効果ガスの削減量に対して、どれだけの価値を持っているかによる。理論上はバージン資源より高くなる可能性もある。

資源の需要者が温室効果ガスの排出量を意識した結果、再生資源の取引量が増大し、バージン資源の取引量が減少する。それが外部費用の削減に貢献する。これらは市場の自由な取引の下で行われ、それにより社会的余剰は改善される。尤も、理論的には外部費用に応じた課税などの政策によりさらに社会的余剰を改善することができる。

そのような中、再生資源の利用を義務付けるということは、どういうことだろうか。市場の自由な取引で温室効果ガスの削減につながることから再生資源の割合は増大していると言えるが、さらにその割合を強制的に増大させるということになる。そのため、供給価格(限界費用)が高くてそれまで市場では取引されなかった再生資源が取引されるようになる一方で、供給価格が多少低いバージン資源が取引されなくなる。この結果、需要曲線が変わらないことを前提とすれば、価格の上昇と資源の取引量の減少を伴い、社会の富を表す社会的余剰は減少すると言える。また、再生資源が使用済自動車由来のものに限定されれば、再生資源の供給価格(限界費用)はさらに上方に伸びることが想定され、社会的余剰はさらに減少する。資源の調達費用の増加分は、新車市場にも影響しうる。需要、供給の価格弾力性や再生資源含有の新車の需要(限界便益)の程度にもよるが、新車の供給価格(限界費用)を押し上げることになり、新車販売台数は減少し、市場における社会的余剰も減少しうる。これらにより再生資源の利用の義務付けは合理性を欠いているようにも見える。

尤も、これは技術発展がない短期的な想定であり、中長期的に市場競争により再生資源の供給価格(限界費用)は下がる可能性はある。この場合、社会的余剰を構成する消費者余剰、生産者余剰は元の状態に戻る。しかも、バージン資源の一部が再生資源に置き換わることで温室効果ガスによる外部費用が減少し、全体の社会的余剰が増大することが想定される。これらの便益、費用の大小関係によるだろうが、いずれにしろそれが説得力のあるものでなければ、社会的に合意されにくい。温室効果ガスを考慮して企業が動いている中、さらに強制的に再生資源を使わせることの説明が必要である。一方で、別のやり方で再生資源の供給価格を下げるための技術発展を促せば、目標値を設定することなく、市場の自由な取引で十分に利用されることもある。そのため、目標値の設定が最適解かどうかはさらなる議論が必要である。

 

7.使用済み後の物品のリサイクル率

第2節で言及したように、ELV規則案においてプラスチックのリサイクルの目標値は2つ示されている。上記で見た新車への利用率のほか、主としてリサイクル業者が直面する使用済み後のプラスチックのリサイクル率である。ELV規則案の説明用文書を見ると、後者は政策オプション3の「より良い処理(Treat Better)」に含まれ、第34条第2項に規定されている。具体的には、使用済自動車に含まれるプラスチックの総重量の少なくとも30%をリサイクルの年間目標値とする。ここでのリサイクルは、ELV規則案の影響評価報告書のM15bの説明から、マテリアルリサイクルの目標値であることがわかる。そして、解体時の分別を高度化させるか、さらなるポストシュレッダー技術の開発を促進する必要があると言及されている。

同報告書を見ると、この目標値の設定について公開協議において関係者と議論があったことがわかる。その中で、プラスチックの分別が進み、その品質が向上する一方で、コストが増加することが問題視されたようである。とはいえ、中小企業を含む全てのステークホルダーの過半数(64%)がイノベーションに好影響を与えると認識しており、ポジティブに捉えられているようである。

このような再生資源のリサイクル率の設定は他の再生資源でも規定されているかどうかだが、今回見た限りは見当たらなかった。プラスチックについて規定している第34条の前項(第1項)は使用済自動車のリサイクルの目標値であり、バッテリーを除く自動車の平均1台あたりのリユースとリカバリー(年間95%以上)、リユースとリサイクル(年間85%以上)の目標値について規定するものである。

ただし、影響評価報告書を見ると、条文には反映されていないが、ガラスや金属、その他においてもリサイクルの目標値の検討はされていた。ガラスについてはM15cで提案されていたもので、そのリサイクル率を70%と設定し、容器ガラスまたは同等の品質のリサイクル品のみがリサイクル目標に計上されるよう、品質基準を伴うものとしていた。この扱いについては、影響評価報告書を見ても明確にはわからないが、再生ガラスの新車への利用(M39)を見送った理由の記述において、自動車用ガラスの高品質リサイクルを促進するための、より効果的な対策が提案されていることが言及されている。具体的には破砕前にフロントガラス、リアガラス、サイドガラスの取り外し義務があること(第30条)から経済的な支援を必要とすることなく、容器ガラスやセラミック産業で使用するための、比較的クリーンなガラスが得られるとしている。また、シュレッダーダストの埋め立ての禁止(第35条)や埋め立て費用の高騰により、これらのガラスはリサイクル工程に回されることになるとも書かれてある。このような措置により、モニタリングコストのかかるリサイクル率の設定をしなくても、ガラスは市場で適切にリサイクルされると判断したように見える。

また、金属については、M41で提案されていたが、経済的、社会的、環境的影響の予備的評価の結果、早々に見送られたと書かれてある。具体的に鉄は使用済自動車由来の鉄スクラップの品質向上に焦点が置かれること、銅やアルミニウムはサンプリングが複雑であり、行政負担が大きく、取り外し義務と品質基準の設定をすることのほうがはるかに効率的であると言及されている。その他の材料についても、他の方法がより効果的であると評価されたとある。これらの結果、リサイクル業者が関わるリサイクルの目標値はプラスチックのみとなっている。

 

8.部品リユースの推進

前節のプラスチックの目標値が含まれている政策オプション3の「より良い処理(Treat Better)」の他の措置を見ると、多様な提案がされていることがわかる。具体的には、リサイクルの定義の整合性を図ること(M12)、破砕前の特定物品の取り外し義務(M13a、M13b)、再製造(remanufacturing)の定義とリユース/再製造のモニタリング要件(M14a)、シュレッダーダストの埋め立て禁止(M16a)、補修用中古部品の使用に対する市場支援(M14b)使用済電気・電子製品、包装廃棄物と使用済自動車の混合破砕の禁止(M16b)である。

破砕前の特定物品の取り外し義務(M13a、M13b)は、前節でも触れたが、ELV規則案の第30条で規定されている。その目的は、リサイクルまたはリユースを促進すること(M13a)のほか、有価金属、希少資源の回収の促進(M13b)である。対象物品はELV規則案の附属書VIIのパートCにあり、先にも示したガラス類のほか、バッテリー類、モーター類、エンジン、触媒コンバーター、ギアボックス、ホイール、タイヤ、ダッシュボード、情報通信機器・ディスプレイ、ヘッドライト、ワイヤーハーネス、バンパー、液体容器、熱交換器、その他金属部品・プラスチック部品、電気・電子部品などが並んでいる。

補修用中古部品の使用に対する市場支援(M14b)については、影響評価報告書によると、そのトレーサビリティを向上させ、需要を支援することを目的としていることがわかる。トレーサビリティは、(オンラインを含む)部品の違法販売がもたらす問題が背景にあり、小売業者は販売の時点で、部品の詳細とともに、部品の出所である使用済自動車の車両識別番号(VIN)および解体業者の情報を提供しなければならないとある。具体的な条文は第31条第2項(e)、第32条(a)および附属書VIIのパートDの第2項にある。それを見ると解体業者の情報とは、氏名、住所、emailアドレスを含むことがわかる。これらを見ると、この措置は阿部(2024)で論じた行方不明車問題に関連していると言える。

また、中古部品の需要支援については、影響評価報告書を見ると、2017年からフランスで施行されている中古・再製造部品の申し出義務のことが書かれてある。具体的には、自動車の整備・修理業者に対して、新品の部品で自動車を修理する申し出とともに、中古・再製造部品で自動車を修理する申し出も求めるというものであり、これをEUレベルで実施する。ELV規則案の条文では、第33条第1項の(a)に書かれてあるものであり、加盟国が講じる必要なインセンティブの一例として示されている。また、同項(b)では中古部品、再製造部品、整備(リファービッシュ)部品に対する付加価値税の軽減税率の設定などの経済的インセンティブも記されている。さらに、条文では確認できなかったが、影響評価報告書では、合理的な期間内に中古部品が見つからない場合などの柔軟な対応の必要性や、流通経路の合理化、部品をタイムリーに流通させるための物流の確保、部品の品質を確保し、消費者の信頼を醸成するためのEUレベルでの認証手続きの必要性なども言及されている。

上記のような措置に、中古部品のリユースの目標値はない。しかし、影響評価報告書を見ると、中古部品のリユースの目標値は議論になっていたことがわかる。これまでのELV指令ではリユースとリサイクル、あるいはリユースとリカバリーをあわせた目標値が示されていた。今回、リユース単独の目標値を設定する議論はあったものの、前節の通り、第34条の第1項にあるように使用済自動車の目標値は、これまでと同様にリユースとリカバリーの合計、あるいはリユースとリサイクルの合計について規定しており、リユース単独の目標値の設定は実現されていない。

影響評価報告書では、このリユースの目標値の議論について丁寧に説明している。具体的には、オンライン公開協議、インタビュー、ワークショップそれぞれで議論がされていたようである。オンライン公開協議では、参加者の46%(主として環境NGO、廃棄物処理業者、公的機関)がリユース目標の分類に賛成したようである。これに対して22%が反対の立場であり、自動車メーカーが最も多くこのような回答をしたとされる。具体的な意見としては、リユースは主に経済的な動機によるものであり、目標を設定することでリユースの量が増えるのか疑問であるというものがあったようである。

インタビューにおいては、多くの利害関係者がリユースとリサイクルを別々の目標にすることに反対しており、どちらか一方を達成すれば、もう一方に悪影響を及ぼす可能性があるとしていたと書かれてある。部品のリユースを促進するために解体を義務付けることは、リユースのレベルが実際に上がることを保証しない一方で、多大なコストを生み出すとのことだった。認定処理施設は、市場の需要を見て、どの部品を再利用し、どの部品を再利用しないかを決めることで対応する柔軟性が必要だと説明したとのことである。これは、リユース部品に対する需要の変動だけでなく、モデルによっては部品の品質も変動するためである。欧州の自動車リサイクル業界の団体であるEGARA(European Group of Automotive Recycling Associations)の例が挙げられており、エンジンはモデルによって故障が頻発する場合があり、その場合は最低保証が確保できないため、認定処理施設はリユースを避けるとのことだった。一方で、故障の発生が少ない部品は、リユースの需要もないため、保管コストがかかるという問題もある。そのような中で、認定処理施設は、目標値を設定するよりは中古部品の需要を高めるような施策を検討すべきであるという立場のようである。つまり、中古部品を販売し、利潤を得る側である自動車リサイクル業者も目標値の設定に賛成しているわけではない。その他ワークショップにおいても、中古部品の需要の不確実性や、部品の特性により事情が異なり、トレーサビリティを要することなどが言及されており、問題点の指摘が多い。以上からリユースの目標値は政策オプション案さえも含まれなかったのだろう。

 

9.まとめ

本稿では、EUのELV規則案のうち、目標値の設定についての議論を見た。日本でも方々で話題となっている新車への再生プラスチックの利用義務については、企業にとっては不合理なように見え、説得力のある根拠が求められる。企業は温室効果ガスの削減を意識して、既に環境に対して負担をしているという姿勢であれば、さらに再生資源の利用を強制させられ、負担を強いられることに抵抗する可能性はある。その意味で定められた目標値は、利害関係者の意見を取り入れたものであり、抵抗されない程度に抑えられたものなのかもしれない。これはプラスチックのみならず、他の資源にもあてはまる。

一方、これらの政策は気候変動への社会的関心が背景の1つにある。しばしば気候変動は政治の影響を受けることがあり、それによっては本稿で示したような政策への抵抗も変わってくる。その動向も観察する必要がある。

 

※本研究はJSPS科研費20K12299, 22H00763の成果の一部です。

 

参考文献

 

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