うつ病トンネル

定年後の再雇用者の給与の額

Q.長年苦楽を共にした工場長が定年を迎えた。しかし、その技術力をそのまま風化させるには惜しいし、何より人材不足のご時勢なので、再雇用するつもりだが、会社としては初めての試みのため、再雇用の給与をいくらに設定したらよいだろうか?

A.定年後の再雇用者の給与の額」を解説します。60歳の定年を迎えた後、本人が「働きたい」と希望をすれば、最長65歳まで雇用が継続できる制度が定着してきました。

そこで、「定年前の給与額をスライドしないといけませんか?」「何割ぐらいまでなら、金額を下げてもOKでしょうか?」「定年後も同じ仕事をしてもらおうと思っていますが、給料は下げられますか?」など、定年後の給与に関する相談が増えています。

なぜ、このようなご相談が多いのかというと、「同じ仕事をしたら、同じ賃金をもらう」という「同一労働同一賃金の原則」を政府が推奨しているからです。

政府はパートタイム労働者と正社員との賃金格差を無くそうとしていますが、定年前と定年後にはこの考え方には当てはまらないのです。これに関する裁判を紹介します。

 

<X運輸事件>

大阪高裁 平成22年9月14日

X社で4トン車の運転手をしていた社員が定年となり、その後、嘱託社員(1年毎の契約)となりました。 定年前と定年後の業務内容はほとんど変わらず、4トン車の運転手をしていましたが、給料は正社員の時と比べて54.6%となってしまいました。嘱託社員の契約を2回更新した後、退職しました。退職後、元嘱託社員は正社員当時の給与と比較して極めて低額であることが違法(公序良俗違反)であると主張し、正社員の給与との差額、遅延損害金、不法行為による損害賠償の支払いを求めて裁判を起こしました。

 

裁判所の判断

第1審はいずれの請求も棄却となり、元嘱託社員が控訴しました。そして、第2審は以下の判断を下しました。

嘱託社員として新たな契約を締結したので、異なる賃金体系でも問題はない。また、正社員の時との差について、約40%の会社が「定年到達時の年収×約6、7割」、約20%の会社が「定年到達時の年収×約5割」の給与水準であり、公序良俗違反と言えるほどの差とは言えない。

60歳以降の給与が25%以上、下がった場合に雇用保険から支給される高年齢雇用継続給付金があり、法律が定年後の給与が下がることを織り込んでいる

以上により、会社が勝訴しました。要約すれば、「定年後の給料は下がっても問題ない」ということです。

この裁判の結論を詳しくみてみると、

〇定年後の雇用の安定の確保

〇雇用が確保されていることによる収入の安定

ということで、公序良俗に違反していないと判断したのです。

これは、定年後の契約は今までのものとは異なる契約なので、金額が下がっても問題ないという解釈になります。そして、労働条件の不利益変更にも該当しないということになるのです。

この裁判のポイントは、雇用契約が新たになることで定年前の約54%の水準となっても適法であると判断されたことに大きな意味があります。

また、定年前と定年後ではありませんが、日本郵便逓送事件(大阪地裁平成14年5月22日)では、正社員と臨時社員の給与の差が問題となり、以下の判断となったのです。

〇正社員と期間雇用の臨時社員の給料が異なっていた

〇この差は契約の自由の範囲内である

〇何ら違法ではない

この裁判は長期雇用を前提に採用される正社員と短期的な需要に基づいて採用される期間雇用社員とでは将来に対する期待などの点で異なるため、これを反映した賃金制度が異なることは違法ではないとしたのです。

このように、給与の金額の決定については「契約の自由」に関連して自由度が高いのです。だからといって、定年後の給与は「最低賃金さえ上回れば問題ない」 という訳ではありません。

正社員、嘱託社員の果たす役割を考えて給与の水準を設定しないと、違法と判断される可能性もあります。 冒頭のご質問に戻りますが、定年前と定年後の給与額の設定については、上記のX運輸事件の割合が1つの指針と考えられます。

結果として、正社員時代の給料の5~7割程度をベースに、定年後の給与額を検討するべきでしょう。

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