仮眠

会社が勝手に有給休暇を消化すると……

Q.先日、有給休暇の申請をしようとしたところ、「もう日数が残っていない」と言われ、よくよく確認したら、過去に病欠した分が私の知らないところでいつの間にか有給休暇扱いになっていた。会社が従業員に断りなく有給休暇の適用を決めてもいいのだろうか?

A.有給休暇は社員が休みたい日を「事前に」会社に申請し、承認をもらい、休暇を取得する制度です。しかし、「今日は体調が悪いので休みます」という場合も 有給休暇を充てている場合がほとんどです。この運用方法は就業規則にも記載されていることが「大前提」となり、以下が参考条文です。

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第〇条(有給休暇取得)

 従業員が年次有給休暇を取得するときは、原則として1週間前までに、少なくとも前々日までに所定の手続により会社に届け出なければならない。

 ただし、突発的な傷病その他やむを得ない事由により欠勤した場合で、あらかじめ届け出ることが困難であったと会社が承認した場合には、事後の速やかな届出により当該欠勤を年次有給休暇に振り替えることができる。

 ただし、承認は会社又は所属長の裁量に属するものとし、必ず行われるものではない。

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 このように、突然の病欠等を有給休暇にするのは会社の裁量であり、 「必ず有給休暇を充てなければならない」というわけではありません。しかし、多くの会社で「風邪で1日休む」「頭痛で休む」等の場合に有給休暇としているのは恩恵的な運用と言えます。一般的にも、1日程度の風邪等を欠勤扱いするのは厳し過ぎるので有給休暇で処理しているのです。欠勤扱いになれば、有給休暇は減りませんが、給与は減ります。 そもそも、有給休暇とは「働く義務のある日」に対し、会社から給与が支払われる日のことなのです。これは「短期的な病欠等」を前提にした運用ですので、 「長期の病欠等」で働けない場合は有給休暇を充てることができません。これに関する判例を紹介します。

 

<サントリーホールディングス他事件>

東京地裁 平成26年7月31日

上司からパワハラを受けていた社員は、それが原因でうつ病となり、休職を余儀なくされた。しかし会社側はパワハラ行為による休職制度の適用を認めず、有給休暇の消化を社員に依頼し、一部につき承諾させた。しかしこの社員は上司のパワハラ行為、また休職制度の不適用は不適切であるとし、損害賠償金と遅延損害金を求め裁判を起こした。

 

裁判所の判断

 裁判では社員の訴えが認められ、会社の敗訴となりました。争点となったのは、

〇上司の発言は社員の名誉を害し、指導の限度を超えている

〇うつ病の診断結果(3カ月の休職)があったにも関わらず、有給休暇を消化させ、休職の申し出を阻止しようとした

 →社員が心身を病んでいることへの配慮を欠く言動

 →うつ病からの回復のために、すぐに休職する機会を奪った

 →不法行為が認められる 

〇損害賠償額は約270万円で、会社が敗訴

 →社員の既往病からの影響もあったと判断し、減額

 この裁判は「パワハラが不法行為」という裁判ですが、会社が休職をすぐに認めず、「有給休暇の消化を迫った事実」が「更なる不法行為」が行われたと、裁判所が判断しているのです。この裁判から学ぶことは下記のことです。

〇休職の申請につき、診断書等を尊重し、休職の判断を行う

〇会社の責任を回避しようとし、有給休暇の取得を強要しない

〇パワハラ行為等が内部通告された場合は、事情聴取を実施する

〇隠す場合もあるので、存在が確認できなくても人事異動等を検討する

 そもそも、社員が病気等で働けない場合は「労務の提供ができない」状態です。 ですから、働ける状態にあるが、「リフレッシュ」目的としての有給休暇の消化とは大きく意味が異なるのです。

 まして、病気等で長期の休みが必要となればなおさらです。結果として、長期の病欠等の場合は本人が希望する場合を除き、有給休暇を充てることができないのです。

 さらに言えば、業務が原因で休職をしなければならない労災事故が起きた場合、労災保険から休業補償給付(額面の8割程度)が支給されます。

 また、持病で休職する場合は健康保険から傷病手当金(額面の6割程度)が支給されるのです。社員は社会保険の制度で守られているので、無理に有給休暇を消化させる必要はないのです。

 最後に、休職と有給休暇の関係について解説します。 ここは多くの会社が誤解している部分です。よくある間違いは、長期休職となる社員に、

〇最初に、(本人の同意を得ずに)有給休暇を消化させる

〇その後に、休職を与える

という考え方です。これは「かなり」多くの会社で行なわれている「事実」です。しかも、これを「社内制度」として運用しているのです。

 しかし、これは「大問題」であり、休職した社員が復帰して、「有給休暇が無い」と知ったら、トラブルに発展する可能性が高いのです。

 あくまでも有給休暇は「本人の申請、自発的な承諾」により、消化していくものです。これができていない会社はそもそも論として、「休職の制度、運用」の体系が「法的に」おかしい場合が多いです。色々なご相談をお受けしていると、

〇就業規則、各種規定などの「制度」にそもそも論的な不備がある

〇これに沿った運用がされ、知らない間に不法状態が継続している

ということが「よく」あります。

 こういうことにならないためにも、まずは適正な「制度」の構築が必要です。

内海正人 社会保険労務士 内海正人の
主な著書 : “結果を出している”上司が密かにやっていること(KK ベストセラーズ2012) /管理職になる人がしっておくべきこと( 講談社+α文庫2012)
上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)/今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方! ( クロスメディア・パブリッシング2010)

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