残業時間のカウントについての新たな考え方

残業について

 

Q.当社では明らかに入庫台数が多い日に限って、残業代を出すようにしている。ところが、ある社員から「タイムカードの記録からすると、残業代が少ないのではないか?」と指摘を受けた。彼は元々、用もないのに長居することが多かったのだが、それがどの日なのかを特定する手段がない。やはりタイムカードにしたがって残業代を払わなければならないのだろうか?

A.景気の回復で給料のベースアップや賞与のアップ等の話も多くなっていますが、未払い残業代の問題も根強く残っています。

大手エステ会社の社員が未払い残業について、労働基準監督署に訴えたら、社長から長時間に亘って詰問を受けた等の報道もありました。

このように、未払い残業のトラブルはまだまだ多くあるのです。実際に、私にご相談頂く内容の半数は残業絡みのものが多く、「社員が勝手に残っているが、残業代を払わなければならないのか?」「タイムカードの時間を基に残業の計算をしなければならないか?」「朝礼の時間などは残業等に該当するのか?」など、頂く相談の中でも「残業なのか?否か?」と、業務と業務外の線引きが議論に上がることがよくあります。今回は これに関する裁判を紹介します。

<オリエンタルモーター事件>

長野地裁 平成25年5月24日

社員Aは新卒で入社し、本社での実習を経て、事業所で生産実習に従事。しかし、年末年始の休暇が明けた平成23年1月5日から出勤せずに退職しました。退職後、Aは会社に対して実習期間中に残業した時間の未払賃金とそれに対する付加金の支払い等を求める裁判を起こしました。同社ではICカードに会社への入退出が記録されますが、そこには「朝のラジオ体操」「掃除」「日報作成」「実習の発表会」などの時間も含まれており、このICカードに記録された時間が全て賃金支払いの対象の業務時間であると言えるかが焦点となりました。

※違反があった賃金の請求とともに同一額を支払することを命ずるお金

裁判所の判断

一審の長野地裁では未払賃金及び付加金請求の一部を認容し、会社側が敗訴となりましたが、これに納得のいかない会社は東京高裁に控訴し、最終的にはは長野地裁の判決が覆る判断がなされました。

東京高裁では、ラジオ体操、掃除の参加は任意であり、会社が義務づけているものではない。また、日報作成のために上司が残業を命じた証拠はなく、実習の発表会は、単なる自己啓発活動の時間であると位置づけました。そのような判断から、ICカード記録の会社への出入りの時間を残業とは言い切れないとし、一審の判断を取り消す判決となったのです。

この判決のポイントとなっている点は「労働時間の判断」です。労働時間とは、

〇会社の指揮命令下に置かれているか

〇就業を命じられているか

ということです。

ということは、ICカードの記録だけでは「残業した」証明とはならず、単に事務所等の「滞在時間」と判断されたのです。

また、日報の作成時間も「期限が無い」、「提出義務も明確ではない」ということで、残業してまで日報を仕上げる必要がないので、指揮命令下に置かれている労働時間ではないとなったのです。

さらに、実習の発表も「業務として行われたものではなく、自己啓発」となったのです。

従来の判断であれば、タイムカード等の客観的な時間管理のツールを重要視して、「タイムカードの時刻 =残業時間の算出の基礎」として、結論を出している裁判が多かったのです。

しかし、この裁判は以前よりもより実態に踏み込んで結論を出しているのです。

また、裁判ではありませんが、労働基準監督署の調査では、タイムカードの時間を労働時間とみなして指導等を行うケースがほとんどです。

もし、会社が「タイムカード等の時間が残業の時間ではない」と主張するならば、反証する材料を提出する必要があります。

ですから、業務として残業してもらう場合は「残業命令」や「残業指示」を書面やデータで残しておくことが必要なのです。

ただし、「タイムカードが時間管理の唯一のツール」であれば、タイムカードと残業時間はリンクして考えなければなりません。

実際にプロッズ事件(東京地裁 平成24年12月17日)では、タイムカードから出勤の有無、労働時間を認定しているのです。

最近、報道等の過熱により、「残業させる会社=ブラック企業」という印象を植えつけようとしていますが、そんな状況にも毅然と立ち向かえるように、労働時間の管理を明確にする必要があります。

特に、残業時間が多い会社については、時間管理と効率化を徹底して、リスクを軽減することが必須です。

そのためには、タイムカードだけで管理するのではなく、残業指示書等を作成することにより、「会社の管理下に置かれている時間」と「そうではない時間」の立証ができるようにしておくことが重要なのです。