第109回:マレーシアの使用済み2輪車の行方

山口大学国際総合科学部 准教授 阿部 新

1.はじめに

 東南アジア諸国は、台湾と同様に日本よりも2輪車を保有している割合が高い。阿部(2020a)で示したように、マレーシアの2輪車の保有台数は既に日本を上回っている。また、人口1,000人あたりの保有台数では日本の85台に対してマレーシアは382台であり、日本を大きく上回っている。そのため、静脈市場の発展構造も日本とは異なるのではないかという問題意識がある。

 日本では、使用済み2輪車を国内で処理することは少なく、多くが中古として輸出される傾向にある(阿部・木村,2017)。これに対して、台湾では2輪車の解体ビジネスが成り立っている(阿部,2020b)。このような違いの中で、阿部(2020c)では、日本との比較から台湾でなぜ2輪車の解体業者が存在するかを議論した。そして、再生資源の利用業者の立地などの要素を示した。

 筆者は、2020年初頭にマレーシアのクアラルンプール、シャーアラム、ペナンに訪問した。そこでは同様の視点で使用済み2輪車の行方を追った。マレーシアの2輪車静脈市場は、日本と同様なのか、台湾と同様なのか。本稿ではその現地調査の記録を示す。

 

2.中古部品販売業者の存在

 筆者は、マレーシアのクアラルンプール、シャーアラム、ペナンにおいて、2輪車販売業者、自動車(4輪車)解体業者、スクラップ回収業者全てに「2輪車専門の解体業者は存在するのか」という質問をした。

 筆者が想定する解体業者とは、(1)補修用の中古部品の回収に重点を置く少量処理型の部品回収業者、(2)資源の回収に重点を置く大量処理型の資源回収業者の2つである。これは4輪車で観察されるものだが、本研究を進めていくうちに2輪車でも同様の構造なのではないかと考えるようになった。日本では、(2)の大量処理型の2輪車解体業者は存在せず、代わりに中古2輪車の輸出業者、スクラップ回収業者がその受け皿になっている。

 上記の質問に対する現地での回答は、「2輪車専門の解体業者はない(または聞いたことがない)」「2輪車は長く使用され、使用後はスクラップ回収業者に運ばれるか、住居の駐車場に放置される」というものがほとんどであった。

 また、この質問の回答において、「ライセンス」という用語がほとんどの訪問先で登場し、「ライセンスを持っていないからやっていない」という発言を多く耳にした。始めはその意味がよく分からなかったが、次第に理解することができ、それが解体業者の形成に影響していることがわかった。

 調査をしているうちに、マレーシアでも2輪車の解体業者が存在することが分かった。それは先の(1)の少量処理型の部品回収業者である。筆者は、その情報を2輪車の修理業者から聞き、すぐにそこに訪問した。いわゆる補修部品の販売店の店構えで、カウンターの奥には多くの部品が在庫されており、その多くは中古の印象を持った。使用済み2輪車を大量にストックする光景は見えなかった。

 この販売業者は部品のみならず、修理、再生により2輪車そのものも販売している。つまり、中古部品の販売に重点を置いている補修部品の販売店であり、修理、中古車販売業を兼ねている。カテゴリーとしては中古車・中古部品販売業者となるだろうか。

 同社の仕入れ元は、一般のユーザーか、放置車両である。まず、車両として再生・販売可能かどうかを判断する。それはコストによる。再生が難しいと判断したものについては部品取りをする。放置車両は警察または自治体が没収し、一定期間を経たものについて買い取る。全てではなく、同社の仕入れの程度により買い取り台数を決める。

 同社には、中古部品を販売するラインセンスが与えられている。そのライセンスとは盗難対策としてのライセンスである。日本でも中古品を扱うには古物商のライセンスが必要である。その背景には盗難品の流通の予防がある。マレーシアでも同様であり、盗難した2輪車を安易に引き受けさせないことが重要である。店舗には「中古部品の販売のライセンスを持っている店」との表示がされていた(図1)。

 

図 1 「中古部品販売のライセンスを持っている」ことを表示(中古部品販売業者)

 この中古部品販売業者で聞いたところ、ライセンスはA、B、Cの3つのランクがあるようで、同社は最もランクの高いAランクである。Aランクの認定条件は厳しく、その会社数は数少ないが、マレーシアの各州(全土で13州3連邦直轄領)に1社程度は存在するのではないかとのことだった。

 同社にはアポイントなしで訪問したこともあり、詳しくは聞けなかったが、Aランクはマレーシア全国の放置車両を引き取ることができるという。また、同じ州にはランクに関係なく、ライセンスを持っている会社は40社ほどいるという。しばしば警察に呼ばれ、盗難対策のための会議が行われ、注意すべきパーツなどの情報交換がされると述べていた。

 筆者が行った現地調査で「ライセンスを持っている」と回答したのは、上記の中古部品販売業者以外には、新車販売業者であった。この事業者の店舗にも「中古部品の販売のライセンスを持っている店」との表示がされていた(図2)。

 

図 2 「中古部品販売のライセンスを持っている」ことを表示(新車販売業者)

 この新車販売業者は、当然ながら新車を販売するが、下取りの際に古い車を回収する。人件費がかかるため、それを修理、再生して販売することはなく、そのまま中古車として販売するようである。それで販売できないものについて、部品を取ることもあるようで、そこでライセンスが必要になっている。

 先の中古部品販売業者が中古部品の回収、販売に重点を置いているのに対して、新車販売業者は中古部品には重点を置いておらず、新車販売を補完する事業として位置付けられている印象を持った。なお、部品取りした残骸はスクラップ回収業者に運ばれるとのことだった。

 一方、ライセンスという障壁が低い場合もある。小規模零細業者はライセンスを取得せず、部品取りをすることがある。当然ながら、違法であるが、取り締まりの程度による。中古部品販売業者の存在を教えてくれた2輪車修理業者は、ラインセンスがないと言いながらも、古い2輪車から部品を取って修理に使うと言っていた。

 また、中古部品が店内に保管されていたが、少量であり、量的に市場に影響を与えるほどとは思えなかった。小規模零細のところまでは取り締まらないのではないかとドライバーが言っていたが、確かにそういうことはあるだろう。

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