山口大学国際総合科学部 教授 阿部新
1.本稿の課題
EU(欧州連合)の使用済自動車に関する規則(正式には「車両設計における循環要件および使用済自動車の管理に関する規則」。以下「ELV規則」)は、2023年7月13日に欧州委員会の提案が発表されて以来長らく議論を重ね、丸3年を経過した2026年7月8日に採択となった。同規則は2025年12月12日にEU理事会と欧州議会において暫定合意となり、その内容は2026年6月18日の欧州議会の本会議、6月29日のEU理事会で採択された(European Parliament, 2026a; 2026b; Council of the EU, 2026)。EUの公式法令データベースのEUR-Lexには、2026年7月24日付で官報が掲載されている。そこでは発効日は2026年8月13日と示されている(本稿執筆時点:2026年7月28日)。
阿部(2026)においては、同規則におけるプラスチックを中心とした再生材の新車への含有率の設定についての議論の変遷を整理した。そこでは、欧州委員会の提案後に欧州議会から下方修正案が示されるなど、紆余曲折があったことがわかった。
ELV規則では、再生材の新車への含有率の義務付け以外にも様々な興味深い規定が示されている。そのうちの1つが中古車輸出規制である。これは使用済自動車のほか、EU域内で道路走行に適合しない中古車の輸出を規制するものである。これによりどれだけ中古車輸出量が制限されるかは興味深い。
本稿では、ELV規則において、この中古車輸出規制が最終的にどのようになったのかを整理する。
2.最終的な内容
2023年7月13日に欧州委員会が発表したELV規則案において、中古車輸出規制は第5章「中古車とその輸出」に示されていた(European Commission, 2023)。第5章は2つの節からなり、第1節は第37条の中古車と使用済自動車の区別について、第2節は第38条から第45条に中古車輸出について規定されていた。この点は阿部(2024)においても示されている。
欧州議会の「Legislative Observatory」を見ると、欧州議会が2026年6月18日の本会議で最終的に採択した規則(文書番号:T10-0227/2026)のリンクが示されている(European Parliament, 2026c)。これを見ると、第5章が2分割され、第1節と第2節の内容が、第5章と第6章に格上げされている。章のタイトルは、第5章が「所有権移転と中古車・廃車の区別」、第6章が「中古車の第三国への輸出」となっている。そして、それぞれ条文が1条ずつ追加され、第5章は第36条、第37条、第6章は第38条から第46条の範囲となっている。このうち、注目されるのが、第39条(欧州委員会の規則案では第38条)の「中古車の輸出に関する規制及び要件」である。
同条を見ると、まず、第1項において、中古車輸出に関する規則の適用開始時期が示されている。欧州委員会の提案では、発効日から36 か月(3年)後の月の初日に適用されることになっていたが、採択された内容では、60ヶ月後(5年後)の月の初日となっており、延期されている。
次に、第3項において、中古車として輸出できる要件が示されている。内容的には、使用済自動車ではないことと道路走行に適合していることが示されており、それ自体は欧州委員会の提案のものと変わっていないが、表現が変わっている。具体的には表1の通りである。
これを見ると、採択された規則において、「使用済自動車ではないこと」「道路走行適合性を有すること」の両方が要件であることが明確になっている。また、提案の段階では、使用済自動車および道路走行適合性の基準について具体的な附属書や関連指令が明示されているが、採択された規則ではそれらが削除されている。一方で、採択された規則において、「特別な文化的価値を有する車両」という例外規定が示されている。
表 1 中古車輸出の要件
| 提案時の規則(第38条第3項) | 採択された規則(第39条第3項) |
| 中古車は、次の要件を満たす場合に限り輸出することができる。 (a)附属書Iに定める基準に基づいた使用済自動車ではないこと (b)当該車両が最後に登録されていた加盟国において、指令2014/45/EU第5条第1項(a)及び(b)並びに第8条に従い、道路走行適合性を有すると認められていること | 中古車は、次の要件を満たす場合に限り輸出することができる。 (a)使用済自動車ではないこと。かつ、 (b)輸出申告書を提出した日において道路走行適合性を有すること。ただし、第2条第2項(f)および附属書IIに従って、特別な文化的価値を有する車両として認定されている場合を除く。 |
出典:European Commission (2023), European Parliament (2026)
3.パートAの使用済自動車の基準はどう変わったか
表1の通り、採択された規則の第39条第2項(a)において、使用済自動車の基準が附属書Iに基づくという表現が削除されたが、その効力がなくなったわけではない。同規則第3条の(2)では、使用済自動車の定義が示されており、その判断は附属書Iの基準に従うという規定が残されている。具体的に第3条の(2)は、「使用済自動車とは、廃棄物枠組み指令(2008/98/EC)第3条(1)に定める廃棄物に該当する自動車、または本規則の附属書Ⅰに基づき廃棄物とされる自動車をいう」となっている。
附属書IはパートA、パートBに分かれている。採択された規則においてもその分け方自体は変わらないが、大幅に整理、加筆修正がされている。各パートのタイトルについて、パートAでは、「車両の修理可能性の評価基準」だったものが、「使用済自動車の評価基準」に変わっている。同様に、パートBのタイトルは「使用済自動車の基準の目安となる一覧」だったものが、「使用済自動車の目安となる基準の一覧」に変わっている。
また、パートAの前に、この附属書Iの位置づけ等の説明文が追加されている。その内容は主として以下の通りである。
- パートAの基準のいずれか1つ以上に該当する場合には使用済自動車とみなす。
- パートAのいずれの基準にも該当しない場合にはパートBに定める基準に従って評価する。パートBの基準のいずれか1つ以上に該当する場合には、道路走行適合証明書を取得するために必要な修理内容を明らかにするため、技術的評価を実施する。技術的評価に基づき、車両所有者は車両を廃棄するか否かを決定する。
- 技術的評価の日から5年以内に、車両所有者が道路走行適合証明書を取得しない場合には、車両は使用済自動車とみなす。
- この附属書に定める評価は、独立した自動車専門家が実施する。
上記の位置づけに続いて、パートA、パートBの基準が示されている。まず、パートAの具体的な基準は、提案の段階では、3つの項に区分し、それぞれ第1項は7つ、第2項は1つ、第3項は6つの基準が示されていた。これに対して、採択されたものでは、3つの区分がなくなり、(a)から(g)までの7つの基準が示されている。その多くは、提案時の第1項に示されたものである。それを比較したものが表2である。
これを見ると、提案時の(a)から(g)までの7つの基準のうち、採択された規則では(b)(g)が消えている。このうち、(b)の車両封鎖についてはパートBに「格下げ」となっているが、(g)の同一性の喪失については筆者が確認した限り、他の箇所にも見当たらない。さらなる確認が必要だが、修理により車両本来の同一性が失われることは、使用済自動車か否かの判断基準とは別問題ということなのだろうか。
パートAに残された5つの基準は、採択された規則では(a)から(e)を構成し、それらに(f)(g)の項目が加えられている。このうち、(f)の回収拠点等への引き渡しについては提案時の規則ではパートBに示されていたものであり、パートAに「格上げ」されている。(g)の技術的全損については、提案時の規則では見当たらない。ここで示される技術的全損は「回復不能な技術的欠陥」という意味で提案時の規則の(f)や採択された規則の(e)と重なるようにも思うが、保険会社が関わるということが重要ということなのだろうか。なお、採択された規則の前文(67)を見ると、「a technical or economic total loss」(技術的全損または経済的全損)という表現がある。つまり、全損を「技術的全損」と「経済的全損」に分けており、このうち、パートAに含まれるのは「技術的全損」のみであることがわかる。
表 2 附属書IパートAにおける使用済自動車の基準
| 提案時の規則(附属書IパートA第1項) | 採択された規則(附属書IパートA) |
| (a)車両が切断されている、又は部品が取り外されていること。 (b)車両が溶接又は断熱フォーム(発泡材)によって封鎖されていること。 (c)エンジンルーム又は乗員室が破壊される程度まで完全に焼損していること。 (d)ダッシュボードより上の高さまで浸水していること。 (e)車両の次に掲げる構成部品の一つ又は複数について、修理又は交換ができないこと。 (i)路面との接触部品(タイヤ及びホイールなど)、サスペンション、ステアリング、ブレーキ及びそれらの制御装置 (ii)シートの固定装置及び取付部 (iii)エアバッグ、プリテンショナー、シートベルト及びそれらの周辺作動部品 (iv)車体及びシャシー (f)車両の構造部品及び安全部品に、金属疲労、下塗り塗膜の複数箇所での破断又は著しい孔食腐食など、回復不能で交換もできない技術的欠陥が生じていること。 (g)修理のためにエンジン、変速機、ボディシェル又はシャシーアセンブリの交換が必要となり、その結果として車両本来の同一性(アイデンティティ)が失われること。 | (a)車両が切断されている、又はその部品を再使用するために解体されていること。 (b)車両が、エンジンルーム又は乗員室が完全に破壊される程度まで焼損していること。 (c)車両が、ダッシュボードより上の高さまで浸水していること。 (d)車両の次に掲げる構成部品の一つ又は複数について、技術的観点から修理又は交換のいずれもできないこと。 (i)路面との接触部品(タイヤ及びホイールなど)、サスペンション、ステアリング、ブレーキ及びそれらの制御装置 (ii)シートの固定装置及び取付部 (iii)エアバッグ、プリテンショナー、シートベルト及びそれらの周辺作動部品 (iv)車体、シャシー又はボディシェル (e)車両の構造部品及び安全部品に、回復不能な技術的欠陥があり、そのため当該部品を交換することもできないこと。 (f)車両が、回収拠点又は認可処理施設に処理のため引き渡されていること。 (g)自動車専門家による技術的評価に基づき、保険会社によって技術的全損と認定されていること。
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出典:European Commission (2023), European Parliament (2026)
4.パートBはどう変わったか
前述の通り、提案時の規則の附属書IパートAは3つの項に区分され、そのうち第1項の多くが残された。これに対して、第2項、第3項はどこに行ったかである。
まず、第2項は経済的な修理不可能性の考え方を示すものである。具体的には、「道路走行適合証明書を取得するのに十分な技術的状態まで修理するために必要な修理費用が、その市場価値を上回る場合には、経済的に修理不能である」と説明されている。このような経済的な修理不可能性の考え方については、採択された規則ではパートBの(c)に「格下げ」されている。しかも、「道路走行適合証明書を取得するのに十分な技術的状態まで修理するために必要な修理費用と、車両の現在価値との合計額が、修理後の推定市場価値を上回る」場合に使用済自動車と評価されるとしている。わかりやすく表現すると、経済的な修理不可能性の考え方は、「修理費用>市場価値」から「修理費用+現在価値>修理後の推定市場価値」に変わっている。
次に、提案時のパートAの第3項は、(a)から(f)の6つの基準が示されていたが、これらがどこに行ったかである。まず、(a)の水没、(c)燃料等の放出、(d)のガスの漏えい、(e)の作動液の排出の4つは、採択された規則ではパートBに「格下げ」されており、それぞれ(d)(e)(f)(g)を構成していることがわかった。一方で、(b)のドアの欠損、(f)のブレーキ、ステアリングの構成部品の過度の摩耗については、採択された規則ではパートBにも含まれていない。
表3は附属書IのパートBについて、提案時の規則と採択された規則を比較したものである。先述の通り、パートBは修理により使用済自動車ではなくなる余地が残されるものであり、使用済自動車の目安となる基準である。その中で、採択された規則のパートBにはパートAから「格下げ」となったものがあり、提案時のものと大幅に異なることがわかる。
具体的に、採択された規則では(a)から(i)までの9つの基準が示されているが、このうち(c)(d)(e)(f)(g)(i)の5つはパートAから「格下げ」となって一部加筆修正されたものである。より細かく示すと、(i)がパートA第1項、(c)がパートA第2項、(d)(e)(f)(g)がパートA第3項から「格下げ」となっている。これに対して、採択された規則の(a)(b)(h)がどこから来ているかである。
まず、表3から、(a)(b)はそれぞれ提案時の規則のパートBの(a)(d)から来ており、一部加筆修正されていることがわかる。つまり、パートBで据え置きとなっているのはこの2つである。(a)で示される車両識別手段の欠如について、採択された規則では、車両の放置の規定が追記されている。車両の放置について別途判断基準が必要だろうが、採択された規則の前文には、「例えば、公有地に放置又は不法駐車された車両、土地所有者の同意なく私有地に駐車された車両、又は所轄当局が車両所有者に通知したにもかかわらず引き取られなかった車両が含まれうる」と言及されている。
採択された規則の(h)については提案時のパートBにはない。提案時にはパートAの(a)に「stripped」(部品が取り外されている)という表現があり、それが採択された規則では「dismantled for reuse of its parts」(その部品を再使用するために解体されている)という表現に変更された。パートBの(h)はこのパートAの(a)と重複するようにも思えるが、再使用目的とそれ以外を区分したいのだろうか。この点の解明は今後の課題である。
表 3 附属書IパートBにおける使用済自動車の基準
| 提案時の規則(附属書IパートB) | 採択された規則(附属書IパートB) |
| 次に掲げる基準は、中古車が使用済自動車であるか否かを判断するための追加的な根拠として用いることができる。 (a)車両を識別するための手段、特に車台番号が欠如していること。 (b)車両の所有者が不明であること。 (c)最後に受検すべきであった日から2年以上にわたり、法令により義務付けられた国内の道路走行適合性検査を受検していないこと。 (d)保管、輸送、積込み又は荷卸しの際に損傷を防止するための適切な保護措置が講じられていないこと。 (e)認可収集拠点又は認可廃棄物処理施設における処理のために引き渡されていること。 | パートAのいずれの基準にも該当しない場合には、車両は次に掲げる基準に従って評価するものとする。 (a)車両が放置されていること、又は車両を識別するための手段(特に車台番号)が欠如していること。 (b)保管、輸送、積込み又は荷卸しの際に損傷を防止するための適切な保護措置が講じられていないこと。 (c)道路走行適合証明書を取得するのに十分な技術的状態まで修理するために必要な修理費用と、車両の現在価値との合計額が、修理後の推定市場価値を上回ること。 (d)ダッシュボードより下の高さまで浸水し、その結果、エンジン又は電気系統が損傷していること。 (e)燃料又は燃料蒸気が漏出し、火災又は爆発のおそれがあること。 (f)液化ガスシステムからガスが漏えいし、火災又は爆発のおそれがあること。 (g)作動液(燃料、ブレーキ液、不凍液、バッテリー電解液又は冷却液)が漏出し、水質汚染のおそれがあること。 (h)車両が解体されていること。 (i)一つ又は複数の開口部が溶接又は断熱フォーム(発泡材)によって塞がれていること。 |
出典:European Commission (2023), European Parliament (2026)
5.道路走行適合性
次に、道路走行適合性により中古車輸出ができない場合の内容を確認する。表1に示した通り、提案時の規則では、第38条第3項の(b)において、「指令2014/45/EU第5条第1項(a)及び(b)並びに第8条に従い、道路走行適合性を有すると認められていること」としていたが、採択された規則では指令や条番号が消され、単に「道路走行適合性を有すること」としている。
「指令2014/45/EU」はいわゆる車両検査指令(正式には「自動車及び被牽引車の定期的道路走行適合性検査指令」)であり、このうち、第5条は車両検査を受けなければならない時期や頻度、第8条は道路走行適合証明書に関する規定である。
採択されたELV規則を見ると、第3条の(36)において、「道路走行適合車両(roadworthy vehicle)」の定義がされている。そこでは「指令2014/45/EUに従って道路走行適合性を有する車両」としている。また、ELV規則の前文の(89)においても、中古車の輸出に関する要件を定めることが適当であるとし、その要件として、「指令2014/45/EUに従って道路走行適合性を有すること」と言及している。これらから、中古車輸出の要件の条文には車両検査指令の直接的な表現は消えたが、無関係になったわけではないことがわかる。
実は、この車両検査指令も改正の動きがある。EUの各種立法・非立法プロセスの進捗状況を示す「Legislative Train Schedule」というウェブサイトを見ると、車両検査指令の改正の議論および審査は、商用車の路上技術検査に関する指令(2014/47/EU)とともに、手続番号 2025/0097(COD) の下で一体的に進められていることがわかる(European Parliament, 2026d)。その2026年6月20日版では、2026年1月12日に欧州議会の運輸・観光委員会の報告者(イェンス・ギーゼケ氏)が報告書を提出し、2026年5月21日に欧州議会が報告書を採択したことなどが示されている。同ウェブサイトを遡れば、2025年4月24日に欧州委員会が改正案を公表したことが示されている。なお、欧州議会の報告者であるイェンス・ギーゼケ氏は、ELV規則においても報告者の1人である。
ELV規則の議論では、欧州委員会、欧州議会、EU理事会の三者協議(trilogue)を経て、暫定合意、最終的な採択という流れになっていた。車両検査指令の改正の手続きが同様の流れをたどるとすると、車両検査指令の改正は現在三者協議の前の段階にあたり、この改正内容はまだ確定していない。
なお、上記の「Legislative Train Schedule」によると、道路走行適合性パッケージ(Roadworthiness Package)というものがあり、先の2つの指令はこのパッケージを構成すものとされる。また、このパッケージには車両登録証明書指令(Directive 2014/46)も含まれており、別の手続番号(2025/0096(COD))の下で改正の議論が進められているようである(European Parliament , 2026e)。
いずれにしろ、中古車輸出の要件である道路走行適合性については、車両検査指令の動向が重要であり、本稿執筆時点では最終的な改正の内容は不透明である。よって、どのような変更点がありそうかという推測レベルになる。
欧州委員会が2025年に示した車両検査指令の改正案の冒頭の説明覚書では、改正の理由が示されている(European Commission, 2025)。そこでは、交通事故や大気汚染、騒音が問題提起されている。そして、それらの対応として2014年に道路走行適合性パッケージが採択されたが、同説明覚書によると、同パッケージは交通安全の向上や大気汚染物質の排出削減に一定の成果を上げたものの、一部の車両が検査対象外であることや、検査頻度・内容が車両の安全・環境リスクに十分対応していないことから、欠陥車両を十分に発見できていないと結論付けている。そして、課題を(1)新技術への対応不足、(2)排出ガス検査の遅れ、(3)加盟国間の情報共有の不十分さ、(4)デジタル化の遅れの4点に整理されている。
ELV規則においては輸出される中古車に道路走行適合性が求められることから、これらの課題に対応した基準が設けられることになるのだろう。道路走行適合証明書は電子化されることで偽造ができにくくなることが見込まれるが、どうなるかである。
表1にあるように提案時のELV規則には、第5条、第8条が明記されていたが、これらはともに改正の提案がされている。第5条は検査時期や頻度を規定するものであり、改正案ではその規定が厳しくなっている。具体的に第1項(a)において現状はM 1(乗用車)および N 1(小型貨物車)は初回登録日から4 年後、その後は 2 年ごとと規定しているが、改正案では製造後10年以上経過したものについては、毎年検査を実施することを義務付けるよう改正されると書かれてある。また、N1については、初回登録日から毎年、排気ガス検査を実施することも義務付けられる規定が追加され、厳しくなっている。
第8条は、道路走行適合証明書を規定するものだが、第1項において、加盟国は道路走行適合証明書を規則(EU)第910/2014号(電子本人確認及びトラストサービスに関する規則)に基づいて電子化しなければならない、という提案がされている。ただし、第2項で要請により印刷物の提出の余地が残されており、あくまでも原則であることが読み取れる。
いずれにしろ、これらにより中古車の不適正な輸出が抑えられるかどうかである。
6.特別な文化的価値を有する車両
最後に、採択された規則の第39条第2項(b)に追記された「特別な文化的価値」について見ていきたい。表1に示されるように、追記されたのは「ただし、第2条第2項(f)および附属書IIに従って、特別な文化的価値を有する車両として認定されている場合を除く」というものである。
ここで示されているELV規則の第2条第2項は、「第1項にかかわらず、この規則は次に掲げるものには適用しない」というもので、ELV規則の適用外の車両を示すものである。具体的には(a)から(i)まで9つの規定があり、少量生産のもの、軍事用、消防用、救急医療サービス用などの自動車を適用外としている。「特別な文化的価値を有する車両」は(f)に示されているが、これを正確に示すと、「特別な文化的価値を有する車両であって、所管当局により正式にそのように認定され、本規則附属書IIに定める手続に従って認定されている期間中のもの」となる。なお、第2条第2項の(e)は「歴史的価値を有する車両」であり、これは提案時の規則の時点でも盛り込まれていた。
採択された規則の附属書IIは新設されたものである。これは「特別な文化的価値を有する車両としての資格を認定するための基準」と記載されており、文化的価値、資格が文書により証明されていること、所有者が明らかであることなどの認定の要件が示されている。よって、これを見ても「特別な文化的価値を有する車両」が何なのかはわからない。一方で、採択された規則の前文(14)を見ると、「特別な文化的価値を有する車両」の例として、「収集家または博物館が所有する車両、特注製作車両またはレーシングカー」と書かれてあり、このような車両が「特別な文化的価値を有する車両」であることがわかる。このような中古車の輸出は量的に多いとは考えにくい。
一方、「歴史的価値を有する車両」については、上述の通り、提案時の段階から第2条第2項の適用外の車両に含まれていた。それは、「指令2014/45/EU第3条(7)に定める」ものとされ、採択された規則でもその表現は残されている。「指令2014/45/EU」とは前節でも言及した車両検査指令であり、この第3条(7)を見ると、以下のように「歴史的価値を有する車両」を定義している。いわゆるヴィンテージカーになるのだが、これらも中古車輸出規制の適用外である。
表 4 歴史的価値を有する車両の定義(車両検査指令第3条)
| (7)「歴史的価値を有する車両」とは、登録加盟国又はその指定する認定機関によって歴史的価値を有するものと認められ、かつ、次のすべての条件を満たす車両をいう。 ― 製造又は初回登録から少なくとも30年が経過していること。 ― 関連するEU法又は国内法において定義される当該車両の型式が、既に生産終了となっていること。 ― 歴史的価値を有するものとして保存及び維持管理されており、その主要構成部品の技術的特性について実質的な変更が加えられていないこと。 |
出典:EUR-Lex, Directive 2014/45/EU(2026年7月14日時点)
7.まとめ
本稿では、ELV規則において導入される中古車輸出規制の内容を確認した。使用済自動車は廃棄物であり、その輸出に規制があることは日本でも同様である。これに対して、道路走行適合性という点からの輸出規制は、現在の日本にはないものである。これらのEUのスタンスは、2023年の欧州委員会の提案時から示されており、採択された規則でも変わっていない。新たに「特別な文化的価値を有する車両」という適用外のものが追加されたが、量的な影響は大きくないように思われる。
一方、道路走行適合性に関わる車両検査指令においても改正の動きがあることがわかった。現在その改正作業が進んでいるところだが、安全性や環境への配慮からより厳格化されることが予想される。それがどの程度、中古車輸出に影響するかである。そもそも道路走行に適合した中古車が多く輸出されていたのであれば影響は小さいはずである。引き続き、その動向を注視する必要がある。
※本研究はJSPS科研費24K15414の成果の一部です。
参考文献
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