山口大学国際総合科学部 教授 阿部新
1.本稿の課題
2023年7月13日、欧州委員会環境総局は使用済自動車に関する規則案(以下「ELV規則案」)を発表した。正式には「自動車設計に関する循環性要件および使用済自動車の管理に関する規則の提案」であり、既存の2つの「指令」をベースとして新たに設計された制度である1)。
EU法の立法手続には、多くの場合、欧州委員会が提出した法案を理事会(EU理事会)と欧州議会が共同で採択する(田中,2013;議会官庁資料室,2023)。欧州委員会の提案が発表されてから本稿執筆時点(2026年4月30日)で2年9か月を過ぎているが、それまでに様々な修正案が示されている。それらの議論を経て、2025年12月12日に理事会と欧州議会の暫定合意までたどり着いている(Council of the EU, 2026a)。
ELV規則案において、日本で話題となったのは再生材の新車への利用目標値の設定である。欧州でもこの目標値について様々な意見があったことは、筆者が知る範囲でも確認できる。本稿では、この再生材の利用目標を中心として、2023年7月13日の欧州委員会の提案からどのような修正案があったかを整理することを目的とする。
2.欧州委員会の提案
欧州委員会が示したELV規則案は、9つの章、57の条文に分けられており、その前後に97項目の序文、11の附属書が示されている(European Commission, 2023a)。阿部(2024)でも言及されたように、それまでのELV指令(序文:31項目、条文:13、附属書:2)と比べるとボリュームは大きい。このうち、序文に示される説明用文書(Explanatory Memorandum)において、EUレベルで取り組むべき4つの問題分野を示している。そこでは、一次原材料への依存度が高いこと、使用済自動車の処理の質が最適とは言えないこと、行方不明車の多くが不適正処理や輸出となっていること、既存のELV指令の対象外の車両があることが示されている。
これらの問題分野に対応して、大きく6つの政策オプションを示している。具体的には、(1)循環型設計(Design Circular)、(2)リサイクル素材の使用(Use Recycled Content)、(3)より良い処理(Treat Better)、(4)より多く回収すること(Collect More)、(5)拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility, EPR)、(6)より多くの車両を対象とすること(Cover more vehicles)である。このうち、プラスチックなどに設定されるリサイクルの目標値は(2)となる。
いわゆる再生プラスチックの新車への利用義務は、他の材料とともに第 6 条に示されている。具体的には、第6条第1項、第2項でプラスチック、第3項で鉄、第4項でアルミニウム(およびその合金)、マグネシウム(およびその合金)、ネオジム、ジスプロシウム、プラセオジム、テルビウム、サマリウム、ホウ素について規定されている。
よく知られているように、欧州委員会の提案では、規則の発効日から72か月経過後の翌月の初日(約6年)で新車に使用されるプラスチックのうち、重量で25%以上の再生プラスチックを含まなければならないとする。これは第6条第1項の第1小段落に示されている。ここでは、再生プラスチックは消費後に廃棄されたプラスチックであることも記されている。
また、これもよく知られているものだが、同じ第6条第1項の第2小段落には、上記の目標値(25%以上)のうちの25%以上を使用済自動車からリサイクルされたものでなければならないとする。いわゆるクローズドループ(水平リサイクル)を求めるものであり、使用するプラスチック全体の6.25%以上となる。第6条第2項はその算定や検証方法を定める期限を規定している。
続く第6条第3項の鉄(鋼材)については、プラスチックとは異なり、再生材の具体的な利用目標値を示していない。ここでは、新車における再生鉄の利用目標値を設定する権限を欧州委員会に与える。また、利用される再生鉄はプラスチックと同じく消費後のものとされ、その利用目標値は実現可能性調査に基づいて決定されるものとしている。決定の権限は、第50条に規定される通り、規則の発効日から5年間付与される。実現可能性調査の完了期限は23か月経過後の翌月の末日(約2年)であり、具体的な調査項目も設定されている。
第4項の各種資源についても、再生材の利用目標値が示されておらず、実現可能性を評価したうえで欧州委員会に利用目標値を設定する権限を与えている。調査の期限は規則発効日から35か月の翌月の末日(約3年)であり、それまでに実現可能性を評価することになる。先に示した資源のうち、アルミニウム(およびその合金)、マグネシウム(およびその合金)は自動車への再生材の利用、ネオジム、ジスプロシウム、プラセオジム、テルビウム、サマリウム、ホウ素については電気駆動モーターの永久磁石への再生材の利用についてであり、その評価項目が示されている。なお、ここでも再生材は消費後のものとされている。
3.政策プロセスの進捗状況
2023年 7月13日の欧州委員会のELV規則案の発表後、どのような議論が展開されたかである。欧州議会は、「Legislative Train Schedule」というウェブサイトにおいて、EUの各種立法・非立法プロセスの進捗状況を示している。このうち、ELV規則案について進捗状況を報告するページ(以下「進捗報告ページ」)を見ると、2021年10月22日版からほぼ毎月(7月を除く)のように報告がされている。そこではステータス(進捗状況)が7つのカテゴリー(「Legislative initiatives」「Announced」「Tabled」「Close to adoption」「Blocked」「Adopted/Completed」「Withdrawn」)で示されている。
本稿執筆時点でELV規則案の進捗報告ページは2026年4月20日版が最新版である。これを見ると、ELV規則案のステータスは、「Close to adoption」(採択間近)となっている。このウェブサイトの用語集の説明では、「Close to adoption」というステータスは、立法手続きが間もなく完了する案件に適用されると書かれてある。また、通常の立法手続きの場合、このステータスは欧州議会と理事会が機関間協議(三者協議)を終え、法案の草案について暫定合意に達したことを意味するとある。ただし、こうした暫定合意は、両機関による正式な採択を経る必要があるともある。
この進捗報告ページの最も古い2021年10月22日版のステータスは「Announced」(発表済み)である。これは、欧州委員会が発表を予定している立法提案の段階とされる。ELV規則案が欧州委員会により発表されたのが2023年7月13日であることから、このステータスであることは当然である。2023年11月23日版からこれが「Tabled」(提出済み)に変わり、さらに2025年12月14日版からそれが「Close to adoption」(採択間近)になっている。
4.前後の動き
次に、ELV規則案の進捗報告ページにおいて、具体的な記述内容がどのように変わったかを見てみる。2021年10月22日版では、欧州委員会が欧州グリーンディールに基づき、2つの指令(2000/53/EC、2005/64/EC)の改正案を単一のものに統合し、2022年第4四半期に提出される予定であることが述べられている。そして、この時点で既に特定の部品材料に対する再生材含有率の義務化に関する規則を検討すると言及されている。その他、ロードマップが2020年10月22日に公表されたことが示されている。
その後の版は、しばらくの間、この2021年10月22日版と同じ内容が報告されている。次にこのページで内容の更新があったのは、1年以上経った2023年1月20日版である。ここでは、2022年第4四半期に改正案が提出される予定だったが、まだ提出されていないと書かれてある。さらにロードマップについての記述も削除されており、当初の予定から遅れていたことが窺える。そして、その次に更新があったのは、2023年4月20日版である。そこでは、「現在は2023年第2四半期に提出される予定となっている」という一文が追加されている。
同年7月13日に欧州委員会はELV規則案を発表したが、それを受けてこの進捗報告ページの2023年8月20日版も加筆・修正がされている。具体的には、欧州委員会が新たなELV規則案を発表したこと、2つの指令を廃止し、この規則案に置き換えること、環境配慮設計を保証する要件を定めていること、再生プラスチックの利用目標の導入を提案していることが言及されている。そして、その利用目標の具体的な内容(規則の発効から6年後に25%以上の消費後プラスチックの新車への利用、そのうち25%以上を使用済自動車由来とすること)が示されている。また、鉄や重要原材料、アルミニウムの再生材の利用目標を設定するための委任法の採択権限を欧州委員会に与えること、拡大生産者責任に関する規定や「行方不明車両」への取り締まりを強化すること、走行不能となった中古車の輸出は禁止すること、オートバイ、トラック、バスなどの車両カテゴリーにも段階的に拡大されることも言及されている。さらに、この提案は今後、欧州議会と理事会において通常の立法手続きで審議されるとし、この時点で議会における手続きは準備段階にあるとしている。
続く2023年9月20日版も上記と同じ内容で報告されているが、10月20日版では多少の修正がされている。具体的には、その時点の議会における手続きは準備段階にあるという一文が削除されている。また、欧州議会では、環境・公衆衛生・食品安全委員会(Environment, Public Health and Food Safety, ENVI)がこの案件を担当すること、イェンス・ギーゼケ氏(Jens Gieseke,ドイツ)が2023年8月23日に報告者に任命されたことが追記されている。加えて、参考資料に欧州議会立法監視機関(Legislative Observatory)のELV規則案に関するページと欧州委員会の意見募集ポータルのページが追加されている。
先に示したように、この進捗報告ページの2023年11月23日版から立法プロセスのステータスが「Tabled」(提出済み)に変わっている。このタイミングで報告者欄にもイェンス・ギーゼケ氏の名前と顔写真が示されている。報告内容では、理事会の環境作業部会内で議論が開始されたことが加筆されたのみである。
その後の更新はあまり行われていない。2024年2月20日版において、ENVIでELV規則案について2024年2月14日に審議されたことが加筆された程度であり、同年9月20日版まで同じ内容、参考資料が示されている。
ELV規則案の進捗報告ページの2024年11月20日版では、ELV規則案は欧州議会選挙(2024年6月)後に作業を再開すべき立法案件の1つであること、イェンス・ギーゼケ氏が報告者に再任されたことが示されている。また、報告者欄の氏名、顔写真は同氏に加えて、パウリウス・サウダルガス氏(Paulius Saudargas,リトアニア)の氏名、顔写真が掲載されている。同ページの2024年12月15日版では、新しい議会でこの案件は合同委員会手続きに基づいて審議されること、ENVIと域内市場・消費者保護委員会(Committee on the Internal Market and Consumer Protection, IMCO)が担当委員会であることが加筆されている。
5.ステークホルダーの反応
欧州議会の「Think Tank」というウェブページにおいて、ELV規則案に関するレポート(ブリーフィング)が示されている(Ragonnaud, 2025)。このレポートでは、2023年7月13日の欧州委員会の提案以降、2023年12月4日までに寄せられたステークホルダーの意見の一部が紹介されている2)。
まず、自動車メーカーの業界組織である欧州自動車工業会(Association des Constructeurs Europeens d’Automobiles, ACEA)の意見を紹介している。同レポートによると、欧州委員会が利用目標を提案するにあたり、再生材市場の現状や技術的ギャップ(一部の技術はまだ利用できない可能性があること)を十分に検討していないのではないかということをACEAが懸念しているという。また、ACEAは、自動車に関連する各種法的枠組み(特に廃棄物、製品、化学物質に関する規制)の重複や複雑化のリスクを回避するために、その一貫性を確保することに注力すべきだと考えているともある。さらに現行の枠組みの下で動いている事業への影響から、現行の2つの指令を統合すべきではないとも述べているという。
これに対して、リサイクル企業の業界組織である欧州リサイクル産業連盟(European Recycling Industries’ Confederation, EuRIC, 現Recycling Europe3))は、再生プラスチックの新車への利用目標値を25%とする規定が規制案に盛り込まれたことを歓迎したとある。この背景に、自動車部門において使用済みとなるプラスチックの80%以上が埋立処分または焼却処分されている一方で、自動車向けプラスチックの需要が毎年増加し続けているという事情が挙げられている。そして、EuRICは、再生材の利用目標の範囲をプラスチック以外にも拡大することを望んでいるとも記されている。
一方、欧州最大の環境市民団体ネットワークである欧州環境局(European Environmental Bureau, EEB)については、同レポートでは、鉄、アルミニウム、レアアースに対する再生材の利用目標が設定されていないことに対して、EEBが遺憾を示していると紹介している。その理由はこうした目標が金属・自動車産業の脱炭素化を促進し、質の高いリサイクルの市場の原動力になるからであり、目標値の設定を先延ばしにすることで遅れが生じることを問題視しているとされる。また、EEBは、提案されている「循環型パスポート」において、車両のカーボンフットプリントの開示が義務付けられていない点についても遺憾に思っていると書かれてある。なお、同レポートでは、EEBについてELV規則案の物足りなさを主に抽出しているが、実際に意見書を見ると基本的には歓迎していることがわかる。
進捗状況ページの2024年10月20日版では、欧州経済社会委員会(European Economic and Social Committee, EESC)の動きが加筆されている。具体的に、EESCが2023年12月に欧州委員会の提案に関する意見を採択したこと、その中で特にこの提案を歓迎し、循環型自動車設計に関する法規制において、より意欲的な取り組みを求めていること、自動車に使用されるプラスチックの少なくとも25%を再生資源から調達するという要件を支持し、自動車に使用されるその他の材料についても同様の措置を推奨していることが言及されている。同日版では、これに併せて参考資料にEESCの意見書のウェブページが示されている。
EESCとは、そのホームページを見ると、利益団体などの代表者に意見を表明する場を提供する諮問機関であり、その意見はEUの意思決定プロセスにおいて重要な役割を担っていると説明されている。また、この役割は欧州連合条約に明記されており、実際に同条約の第13条を見るとその第4項に「欧州議会、理事会及び欧州委員会は、経済社会委員会及び地域委員会から助言的な役割を担う支援を受けるものとする」と書かれてあることが確認できる(European Union, 2016)。EESCのホームページでは、329名(2026年4月30日現在)のメンバーが雇用主、労働者(組合員)、市民社会組織(社会団体、職業団体、経済団体、文化団体の代表者)の3つのグループに分かれており、加盟国の提案に基づき、理事会により5年の任期(更新可能)で任命されるとある。これを見る限り、EUの多様なステークホルダーの代表であり、ELV規則案はこのような組織に支持されていることがわかる。
6.欧州議会による下方修正案の提示
2025年初頭、ELV規則案の議論は大きく動く。同規則案の進捗報告ページの2025年1月24日版では、ENVIとIMCOが担当委員会であることを改めて示したうえで、ENVIは同じ報告者(イェンス・ギーゼケ氏)が再任されたこと、IMCOではパウリウス・サウダルガス氏が報告者となったことが説明されている。そして、2025年1月16日、欧州議会議員は欧州委員会の提案について議論したとある。この議論では、EUの自動車産業が現在直面している課題、中国との競争などの地政経済的な障害、企業の行政負担を最小限に抑える必要性、リサイクル含有率の目標など、いくつかの重要な問題が取り上げられたと書かれてある。そして、合同委員会の報告書草案は、2025年2月に審議される予定と述べられている。
一方、同日版で理事会の議論の様子も示されている。具体的には、2024年12月17日の理事会(環境)会合で議論されたとある。そこでは閣僚らは欧州連合の機能に関する条約(Treaty on the Functioning of the European Union, TFEU)の第114条(域内市場の機能)に加えて、第192条(1)(環境保護)を法的根拠として追加し、特定の義務を大型車両やオートバイにも拡大することに概ね賛成したとある。また、複数の加盟国は欧州委員会が提案した25%のリサイクル含有率目標を支持する意向を示したが、他の加盟国は大幅に低い割合を主張したとも書かれてある。その理由は、高い割合だと再生材不足の際に市場の歪みを招く可能性があることのようである。議長国のポーランドは、理事会で引き続き交渉を行う予定であると述べたとされる。進捗報告ページの同日版には、参考資料として理事会の「議長国覚書」(2024年12月2日)と「議長国からの情報通知」(2024年6月12日)のリンクが追加されている。
同ページの翌2月20日版も加筆・修正がされている。まず、合同委員会の報告書草案が2025年1月29日に公表され、共同の報告者はELV規則案に対し210件の修正案を提出したことが示されている。そこでは欧州委員会の提案を概ね歓迎しつつ、新車への再生プラスチックの含有率の最低基準を20%に設定することを提案しているとする。また、再生プラスチックは、消費後に廃棄されたプラスチックに加えて、消費前の製造過程で廃棄されたプラスチックを含めており、さらにプラスチックにはバイオベースのものも含むと記されている。そして、再生プラスチックのうち、最低15%は使用済自動車または自動車整備工場から回収されたもの、および自動車の製造過程で廃棄されたものを利用することによって達成されるべきであると記されている。
実際の報告書草案には、条文ごとに欧州委員会の提示したものと対比させている(Gieseke and Saudargas, 2025a)。これを見ると、第6条第1項第1小段落にて、確かに数値の下方修正のほか、対象のプラスチックの範囲に消費前の廃棄プラスチックが追記され、さらにバイオベースのものも含むという文言が書かれてあることがわかる。第6条第1項第2小段落においても、クローズドループの目標値の下方修正とともに、利用できる範囲が使用済自動車のみだったものが、自動車整備工場由来のものや自動車の製造過程で廃棄されるものも含まれることがわかる表現に修正されている。さらに使用過程で部品交換のために取り外されたプラスチックは消費後のプラスチックであることも追記されている。
進捗状況ページの2月20日版では、上記以外の合同委員会の修正案もいくつか紹介している。具体的には、報告要件を軽減するため、循環型戦略の提出義務は車種ごとではなく、企業レベルで適用されるべきであること、リユースや再製造の市場可能性がない部品は破砕前に取り外すことを義務付けられないこと、輸出用車両の走行適合性試験を統一することが言及されている。進捗状況ページには、この欧州議会の報告書草案に関する議論は2025年2月17日に行われ、委員会での採決は 2025年6月、本会議での採決は2025年9月に予定されていると示されている。
鉄やアルミニウムなどの他の資源の議論については、上記の進捗状況ページでは言及はないが、合同委員会の報告書草案を見ると、プラスチックと同様に要件が緩和している様子が見受けられる。具体的には、修正箇所の下に簡単な解説があり、「消費前スクラップの寄与も考慮すべきである」と言及している。そして、第6条第3項第1小段落で再生される鉄の由来を「消費後に廃棄される鉄(post-consumer steel waste)」から「鉄スクラップ(ferrous scrap)」に修正している。一方で、要件を強化、追加する提案もある。同第2小段落導入部では実現可能調査の期限が示されているが、それを規則発効日から23か月の翌月の末日だったものを15か月の翌月の末日に短縮している。また、実現可能性調査の範囲を拡大し、循環性やリサイクル含有率のみならず、車両における低炭素鋼材(グリーン・スチール)の可能性を評価すべきであるとする。そして、第6条第3項第2小段落(f)、第3小段落で低炭素鋼材の文言が加筆されている。アルミニウム、マグネシウムに関しても同様の方向で実現可能性調査の期限が短縮され(35か月の翌月の末日から23か月の翌月の末日へ)、消費前の製造過程で廃棄されるものも含める修正案が出されている。
その後の欧州議会の動きについては進捗状況ページではさほど記述はない。3月20日版では提案に対する修正案が合計1929件提出されたことが加筆されているのみで、それ以外の加筆・修正はない。4月20日版も同様のわずかな加筆であり、上記の合計1929件が欧州議会議員から提出されたことを補足で説明しているほか、これらの修正案が2025年3月19日に合同委員会で審議されたことが示されている。5月21日版は前月と同じ内容である。
7.修正案の見直しの動き
欧州議会の合同委員会の報告書草案が2025年1月29日に公表された後、どのような反応があったかである。
まず、反応があったのが、欧州委員会の提案について肯定的な姿勢だったEuRICやEEBである。これらに、欧州廃棄物管理協会(Fédération Européenne des Activités du Déchet, FEAD)、プラスチックリサイクル業協会(Plastics Recyclers Europe, PRE)、欧州運輸環境連盟(Transport & Environment, T&E)、環境標準化連合(Environmental Coalition on Standards, ECOS)を加えた6組織が報告書草案の公表後まもない2025年2月17日に共同声明を出している(FEAD et al., 2025)。FEAD、PREは廃棄物・リサイクル関連業界であり、T&E 、ECOSは環境保護組織である。つまり、EuRICやEEBと似たような立場である。共同声明のタイトルは「欧州のELV循環目標の弱体化は欧州のリサイクル努力を損なうリスクがある」である。
その内容を見ると、やはり1月29日に出された欧州議会の報告書草案の内容を受けてのものであることがわかる。具体的に、報告書草案全体の野心度は欧州委員会の提案と比べて大きく後退していると述べており、その主な理由はやはり再生プラスチックの利用目標値(25%から20%へ)、クローズドループの目標値(25%から15%へ)の下方修正であることが言及されている。また、バイオベースや製造過程のプラスチックを参入することについては、提案された規則の本来の趣旨に対するさらなる脅威であると表現されている。それは、真のリサイクルへの取り組みから関心や資源を逸らすことになり、プラスチックリサイクル産業に深刻な悪影響を及ぼし、結果的に真にサーキュラーエコノミーへの移行を遅らせるリスクがあると述べている。
上記のような動きに対して、自動車メーカーの業界団体であるACEAは、半年近く遅れた2025年7月7日にプレスリリースを出している(ACEA, 2025)。具体的には、その日に行われた欧州議会のENVIとIMCOの合同委員会にて採択された修正案を受けてのものである。ACEAは、この日の採択は「より現実的な規制に向けた一歩」としている。
合同委員会の採択は、当初6月とされていたが、7月に延期されている。欧州議会のELV規則案の進捗状況ページ「Legislative Train Schedule」においても、2025年5月21日版までは6月に採択予定とされていたが、6月20日版ではその文言が消されている。8月15日版では7月7日の欧州議会の合同委員会の内容が示されている。それによると、再生プラスチックの利用目標値はやはり20%と下方修正されている。また、クローズドループ、すなわち使用済自動車の由来のプラスチックの利用目標値についても15%となっている。これらの点は、EuRICやEEBを含む6組織が懸念を示したにもかかわらず、2025年1月29日に提示された合同委員会の報告書草案の内容のままだった。
この修正案は、2025年7月7日に賛成79票、反対27票、棄権11票で採択されたとされる。同日付けで欧州議会はプレスリリースを発表し、採択された提案の内容を紹介している(European Parliament, 2025a)。そのページに修正妥協案(2025年7月3日付)が示されている(Gieseke and Saudargas, 2025b)。また、欧州議会立法監視機関(Legislative Observatory)2023/0284(COD)においても、採択され、本会議に提出された報告書(2025年8月6日付、A10-0158/2025)が示されている。
これらの内容を見ると、2025年1月29日の報告書草案が多少見直されていることがわかる。まず、第6条第1項第1小段落にて確かに規則の発効から72か月経過後の翌月初日(約6年後)の再生プラスチックの利用目標値を20%としているが、第1a項が新設されており、これにおいて入手困難や価格の高騰といった事情がない限り10年後に目標値が5%上乗せされること、すなわち目標値が25%になることが示されている。この結果、時期は先延ばしされているが、1月29日の報告書草案からは原案の方向に戻っている。
また、報告書草案では、同じく第6条第1項第1小段落において、消費前プラスチックやバイオベースプラスチックの言及があったが、修正妥協案ではこれがなくなっている。ただし、第1b項が新設されており、そこに再生プラスチックの利用目標値(約6年後20%、約10年後25%)の50%までを消費前プラスチックとすることができるとする(バイオベースプラスチックの文字はない)。
一方で、クローズドループについては、1月29日の報告書草案では自動車整備工場で部品交換のために廃棄されるプラスチックのほか、自動車の製造段階で廃棄されるプラスチックも対象範囲だったが、修正妥協案では該当箇所(第1c項)にこれらは書かれていない。つまり、使用済自動車のみがクローズドループの対象であると読める。代わりに、自動車整備工場から廃棄されるプラスチックについては、第6条第1項第2小段落に書かれてあり、消費後に廃棄されるプラスチックとして扱われ、再生プラスチックとして計上されるとある。これを明記する意図は明確ではないが、使用過程のものも消費後のものとすることを示しておく必要があるのだろう。
プラスチック以外の資源については、鉄とアルミニウム(およびその合金)に修正があった。欧州委員会の提案では、鉄は第6条第3項、アルミニウムはマグネシウムなどと一緒に第6条第4項で規定していた。欧州議会の1月29日の報告書草案でも同じように位置付けていた。ところが、修正妥協案は、鉄とアルミニウムは一緒の扱いとなり、第6条第3項に盛り込まれている。また、目標値の設定の期限(規則発効日から24 か月の翌月の末日)が示されているほか、実現可能性調査の期限も短縮されている(規則発効日から12か月の翌月の末日)。1月29日の報告書草案に盛り込まれた低炭素鋼材の言及も残されている。
このように欧州議会の7月7日の修正妥協案は、1月29日の報告書草案から原案の方向に戻ってきている。ACEAはこれを受けてプレスリリースを公表しているが、そこでは製造過程に廃棄されたプラスチックの利用が一定程度認められたことについて歓迎すると述べている。そして、これにより目標が達成可能であり、製造現場の実情に即したものとなることが保証されるとする。一方で市場には高品質で安全な再生プラスチックが不足しているため、段階的な導入が不可欠であるとも述べている4)。
8.暫定合意の内容
2025年7月7日に採択された合同委員会の報告書は、同年9月9日に欧州議会の総会で修正なしで採択された(T10-0168/2025,賛成431名、反対145名、棄権76名)。その後、欧州委員会、欧州議会、理事会(EU理事会)の三者協議(trilogue)が行われた。
理事会は、欧州議会に先立ち、2025年6月17日に提案(「一般アプローチ」)に関する立場を採択している(Council of the EU, 2025a; 2025b)。理事会の案では、再生プラスチックの利用目標には3段階のアプローチが導入されている。具体的な目標値は規則の発効日から6年(正確には72か月経過後の翌月初日)で15%、8年で20%(正確には96か月経過後の翌月初日)、10年で25%である。欧州委員会の提案は発効後6年で25%であることから、先延ばしという形にはなるが、目標値そのものは欧州委員会の提案と変わらない。また、欧州議会が提示したような消費前の製造過程で廃棄されるものについての記述はない。クローズドループの目標はそれぞれの目標値の25%であり、欧州委員会が提示した数値と同じだが、使用済自動車のほか、修理・交換により廃棄される部品(第23条第2項(c))も含まれる。第3項の鉄については欧州委員会の内容の修正はない。第4項については、各種資源にニッケル、コバルトが追加された程度であり、アルミニウムの扱いも欧州委員会の示したままである。
欧州議会の進捗状況ページの2025年10月24日版、11月20日版、12月14日版によると、三者協議は第1回が10月16日、第2回が11月24日、第3回が12月12日に開催されたという。そして、第3回の三者会議が開催された12月12日に暫定合意が成立した。この暫定合意以降、正式に採択される前に、理事会と欧州議会の承認を得る必要があると説明されている。進捗状況ページの12月14日版のステータスは「Close to adoption」(採択間近)となっている。
ここでは、暫定合意において再生プラスチックの利用目標は10年間かけて段階的に引き上げられ、6年後には15%、10年後には25%となると言及される。また、この再生プラスチックの最低 20%は、使用済み車両から回収された材料でなければならないとする5)。
暫定合意の資料(ST-6759-2026,2026年2月25日付)を見ると、具体的な条文が示されている(Council of the EU, 2026b)。このうち第6条のプラスチックの規定については、欧州委員会の原案では第1項、第2項に示されていたが、暫定合意の条文では第6項まで書かれてある。ただし、暫定合意の資料では第3項、第4項の番号が削除されており、プラスチックの規定は第1項、第2項、第5項、第6項の4項分である。また、プラスチック以外では、鉄、アルミニウム(およびその合金)、その他に分けられており、第7項が鉄、第8項がアルミニウム、第9項がその他資源の規定が書かれてある。
再生プラスチックの利用目標(6年後15%、10年後25%)は、第6条第1項に書かれてある。これは2025年6月11日に理事会が提示した目標値、適用日のうち、8年後のものを除いたものと同じである。欧州委員会の原案は6年後に25%だったことから、それと比べると適用日を延期した形となっている。また、クローズドループの目標値は原案(25%)を下方修正している。原案ではクローズドループの目標の規定は第1項に示されていたが、第2項に独立して規定されている。
消費前の製造過程のプラスチックの記載については暫定合意の条文にはなく、理事会が示した内容に近い。これを見る限り、再生プラスチックとして算入できるのは消費後に廃棄されるプラスチックに限定されると考えられる。また、クローズドループの対象についても理事会の内容に近く、使用済自動車のみならず、修理時の交換のために廃棄された部品も含むものとなっている。
一方で、第6条第6項において、欧州委員会は、再生プラスチックの入手不能または過度な価格によって、目標値の遵守が極端に困難になる場合に、再生プラスチック利用目標または時期に対する一時的な適用除外を定めることができるとも示している。
第6条第7項の鉄については、実現可能性調査の期限が12ヶ月となっており、欧州議会が提示した期限をさらに短縮している。また、欧州委員会の原案では消費後に廃棄される鉄を対象としていたが、暫定合意では消費後という単語が消えており、消費前のものを含む余地を残している。さらに、24か月後の翌月の末日までに再生鉄の利用目標値を設定すること、義務の適用日を規則の発効から84か月以内に設定することが示されている。第8項のアルミニウムについても鉄と同じような内容となっている。第9項のその他の資源については、実現可能性調査の期限は35か月後の月の末日と長く、また筆者が確認した限り、欧州委員会に目標値の設定の権限は付与されるものの、鉄やアルミニウムのように期限は設定されていない。この点はさらに確認する必要がある。
9.まとめ
本稿は、欧州議会の「Legislative Train Schedule」という政策の進捗状況を報告するページを中心に、ELV規則案の発表後の再生材の利用目標について、議論の変遷を整理した。これらの限りでも、ELV規則案には様々な意見があり、幾度となく修正が提案されてきたことがわかる。欧州委員会から提案された原案の時点では、廃棄物・リサイクル関連業界や環境保護組織がポジティブに捉え、生産者がネガティブに捉えていた。それが大きく転換したのが2025年1月29日の欧州議会の報告書草案である。その後、2025年12月12日の暫定合意の内容は、原案よりも適用日を先延ばしとし、一部の目標値も下方修正する形となったが、波紋を呼んだ欧州議会の報告書草案からすると原案の方向に戻っている。プラスチック以外の再生材についても実現可能性調査の期限を早めるなどの動きがある。
経済学においては、基本的に市場の経済主体の合理的行動に任せ、政府は極力市場に介入しないという立場を取る。政府が介入するのは、ミクロ的には環境問題による外部費用が生じるなど市場が失敗する場合であり、マクロ的には物価などの社会の安定や格差の是正が根拠になる。今回、再生材の利用目標およびクローズドループの目標がどのような政府介入の根拠で設定されたか、これらを政府が十分に説明したかである。説得力のある根拠がなければ、個々の経済主体の経済合理性に従うことを重視し、無理な規制を行わないというが、日本の感覚からすると自然である。その点で筆者は、当初の案を下方修正するという2025年初頭の欧州議会の動きに驚きを感じなかった。むしろ、そこから再び規制を強める方向へ動いたことに筆者は驚きを覚えた。
目標値の設定の根拠には廃棄物の不適正処理のほか、二酸化炭素の排出という外部費用の内部化が想定される。これ以外には経済安全保障というマクロ的な視点が考えられる。再生材を用いることで費用が増大し、価格が上昇する可能性があるが、外部費用の内部化や経済安全保障の観点から社会の全体的な余剰が増大する可能性はある。それらを欧州の社会が理解して受け入れているかどうかである。
ELV規則案は暫定合意を通過し、今後は理事会と欧州議会が正式に承認して採択となる。進捗状況ページの2026年3月20日版によると、2026年2月25日に常駐代表委員会(Coreper)がこの暫定合意を承認したこと、同じ日に欧州議会のENVI、IMCOの合同委員会が賛成96票、反対20票、棄権4票で暫定合意を承認したことが示されている。常駐代表委員会はEU理事会の組織であり、加盟国の常駐代表(実際は各国の駐EU大使)と常駐次席代表で構成されるものとされる(EU MAG, 2017)。後は理事会の最終採択、欧州議会の本会議での採択となるのだろう。
日本社会が欧州の経験をどう踏まえるかである。
脚注
※本研究はJSPS科研費24K15414の成果の一部です。
1) 1つは「使用済自動車指令」(2000/53/EC)、もう1つは「再利用可能性・リサイクル可能性・回収可能性に関する自動車の型式承認に関する指令」(2005/64/EC)であり、これらの指令はELV規則の発効とともに廃止される。
2) 同レポートでは、2023年12月4日までに意見の募集が行われ、846件の意見が寄せられたと書かれてある。全ての意見は欧州委員会のウェブサイトで公表されている(European Commission, 2023b)。
3) EuRICは2025年9月30日に「Recycling Europe」に組織名を変更している(Recycling Europe, 2025)。
4) ACEAのプレスリリースでは、プラスチックの利用目標値について歓迎する一方、トラックやバスの製造業者が他社製の車体の解体、汚染除去、処理について、不当に責任を問われるリスクがあることに懸念を示している。現実的に車体は車両とともに認可処理施設に持ち込まれることが多い中で、明確なルールと公平な責任分担が不足しており、ACEAは車体も拡大生産者責任の対象に含めることを求めている。
5) これについては、欧州議会や理事会でもプレスリリースを発表している(European Parliament, 2025b; Council of the EU, 2026a)。なお、理事会のプレスリリースには暫定合意文書のリンクが示されている。
参考文献
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