第152回 2023年9月 ポーランドFORS第5回国際自動車リサイクルコンフェランスの雑感(続) ウクライナとアメリカの事情概観

熊本大学大学院人文社会科学研究部(法学系)・環境安全センター長

外川 健一

はじめに

10月の本誌への投稿で、筆者も参加したポーランドのフォーマルな自動車解体業者の業界団体:FORS主催の第5回国際自動車コンフェランスについて、ホスト国ポーランドの状況と、ポーランド人でEU委員会の使用済自動車に関するセクションに所属している担当官による改正ELV指令案に関する説明を紹介した。

今回はこのフォーラムのもう1つの見どころでもあったウクライナからのレポートを紹介する。周知のとおりロシアから仕掛けられた戦争が始まってから、今年の2月で早2年となる。その間に西側諸国は2014年のクリミア半島の併合やドンパス地域への侵入に対して、限られていた経済制裁しか行わなかった反面、一貫してウクライナを経済的にも軍事的にも援助してきた。しかし、最近は米国でもEU構成国でも自国(経済)第一主義が再燃し、「援助疲れ」も見え始めている。

今回、ウクライナ人がポーランドの民間主催のフォーラムに参加したことを、知人の複数の在日ウクライナ人に話すと、皆な異口同音に「よくその人は出国できたね。」と言っていた。確かにウクライナの健康な成人男性は、基本的に徴用もしくは予備役としていつでも戦線に従軍できるよう出国は厳禁されているらしい。ゆえに海外へ脱出することは、隣国のポーランドであっても難しいはずである。そのあたりの「からくり」はわからなかったが、戦時下の特殊事情が、このフォーラムでは大まかではあるが説明された。筆者が初めて本格的にポーランドの調査を今世紀の初めであったが、当時は(現在も変わらないが)ドイツからポーランドへ中古車が輸入される一方、ポーランドからさらに東へのウクライナやベラルーシへの中古車の移動も少なからず耳にしたことがあった。そのころからウクライナは私にとって、関心のあるフィールドの1つであったが、私の体調が崩れたこと及びコロナ禍等から、依然としてウクライナの現地調査ができていない。しかもこの戦争である。しばらくはこの地をフィールドとした調査は難しくなるのは残念に思う。

なお、今回のフォーラムでは自動車解体専業の業者ではなく鉄スクラップ業者が講演をした。また、通訳はワルシャワへ避難している18歳(だったと記憶している)の少年が、流ちょうな英語とポーランド語を両方使って通訳を行なった。2023年のクリスマスや2024年の正月、彼等も元気に日々の生活を過ごせているのかと思うと、やはり気が重くなる。(そして日本でも、元日に能登半島地震が襲ったり、羽田空港での日航機と海上保安庁機の追突火災事故があったり、波乱の年明けである。)

 

ウクライナの事情

登壇したのはウクライナのスクラップ業者であるKKMグループのKlimovich Nikolay氏であった。

まずはウクライナで走行している自動車の車齢から。ざっくり販売されてから10年から30年の車齢の車が全体の47%を占めているというが、日本の常識では、車齢10年と30年が同じカテゴリーで語られるのが考えられない。前者は、一定のメンテナンスを行えば一般的に走行可能だろう。一方後者の価値は、国内ではクラシックカー的なものでない限りスクラップの価値に等しく、取り外すべき部品もまずないだろう。となると、日本では海外輸出向けか、即スクラップ向けの解体が行われるはずだ。

なお、ウクライナでは車齢が比較的若い10年未満の自動車は約26%。そして車齢が30年以上の車がほぼ同数の27%を占めるという。いずれにしろかなり低年式の車種が中心であるのは容易に想像できるが、車齢30年以上のもう少し詳しい割合も知りたいところである。(車齢30年以上といえば、ウクライナが独立したのが1991年8月。2024年1月といえば独立後33年少々。ということは、旧ソ連時代に使用されていた車種が意外にもまだ走行しているのかと思うと、やはり詳細が知りたい。)

最近ウクライナのゼレンスキー政権がEUへの加盟を申請したばかりであるが、このことからも当然、ウクライナには使用済自動車に対するEU指令の影響はなく、自動車リサイクル法もない。そして自動車リサイクルのスタンダードも確立されていない。KVV グループの報告は、鉄スクラップを中心とした素材を上手に自動車から回収することが中心であったが、戦時下ということもあって、軍事用の自動車が何らかのダメージを受けた後の、廃車処理方法が課題であるということらしい。

なお、スクラップ業者によるプレゼンテーションだったので、排気量が1.5リットルの自動車は250ドル、1.5リットルから3リットルの場合は250~300ドル、3リットル以上の自動車は300ドル以上で購入されているという。この点もおおざっぱであり、あくまでもスクラップ資源としての自動車を見ており、自動車中古部品にする報告は残念ながら全くなかった。(フロアからも質問しても回答は得られないだろうと推測されたからか、自動車中古部品に関する質問はまったくなかった。)

いずれにしろ一刻も早く戦争が終結し、人々が安全に日常生活を送れる時代が戻ってほしいとしか私には言えない。その際にはたくさんの地雷撤去やインフラ復旧等が必要となる。そのために日本のリサイクル業者をはじめ各セクターを中心に、自分たちには何ができるかを改めて考えさせられた報告であった。

なお、蛇足であるが筆者のヒアリング調査によると、2023年の自動車解体業者の中古パーツの海外への販路先としては、経済制裁がされているはずのロシア向け抜きがダントツに多い模様である。依然として極東を中心に、日本車の補修パーツの確固たる需要がある。つまり、これらの輸出は経済制裁の枠外で行われているのだろう。改めてこの業界では「経済原理」が貫徹していると感じた。

写真1 ウクライナのスクラップ業者であるKKMグループの関係者と、プレゼンテーションの通訳をしてくれたポーランドへ避難中のウクライナ人の少年。

 

アメリカのELV事情(2022年)

本誌で一緒にこのコラムの連載を担当している山口大学の阿部新先生が、コロナ前の2010年代後半に、アメリカの自動車リサイクルについて、日本で初めて本格的な研究成果を公にしたが、ポストコロナの米国の大まかな事情が、今回のFORSの国際コンフェランスで報告された。報告者はMarty Hollingsheadさんで、アメリカの老舗の自動車解体業者の業界団体ARAに所属している。

(山口大学の阿部先生のアメリカにける自動車リサイクルは、Research mapを通じて一般に公開されている。

https://researchmap.jp/multidatabases/multidatabase_contents/detail/288706/f445815fc088d52bc921518fdaa82aa7?frame_id=636856 参照。)

さて、アメリカの2022年の自動車台数は以下のとおりである。

・241,372,900 台のICE:ガソリン車

・6,291,800 台のHEV:ハイブリッド車

・2,442,300 台のEV:電気自動車

(ICEは、Internal-Combustion Engine Vehicle:内燃機関で動く自動車の略称。ここでは簡易的にガソリン車と記す。)

やはり伝統的なガソリン車が中心であるが、ハイブリッド車はもちろん、EVも意外に普及されていて、ガソリン車の100分の1くらいの数まで伸びている。EVシフトは中国や欧米が中心だという認識は改めた方が良いかもしれない。アメリカも戦略的にこのシフトに乗っていく可能性はゼロではないと感じた。

また平均車齢は12.5年ということで、日本の2021年3月のデータでは、乗用車3,918万1,501台(軽自動車を除く)の平均車齢は8.84年であるというデータから、クルマ社会ではアメリカの方が高齢化社会?であると言えるかもしれない。

(なお、日本車の車齢については https://www.airia.or.jp/publish/file/r5c6pv000000wkov-att/02_sharei.pdf 参照。)

ホストのポーランド側が期待していた不法解体の実態とそれに対する対応については,環境に悪影響を与える無責任な車両処理は確かに問題視されているが,その原因は当該車両が盗難車であり,この盗難車から取り出された部品の不正な流通だからだという。そしてアメリカでも違法な解体活動を特定するのは難しいそうだ。それは違法解体を取り締まる資源(ヒト,モノ,カネ,情報)が不足しているからである。ARAとしては、違法解体の取締りを強化する必要があると感じているが、実のところ違法解体の特定は困難で、さらに州によって許認可(基準)の違いや管轄権の問題があり、全国統一の取り締まりは非常に困難な状況にあるようだ。

このような地方自治体の温度差は日本でもしばしば耳にするが、基本的に州によって法律が異なるアメリカでは、なおさら盗難車が陸続きの他の州に運ばれて解体されるのを阻止するのは日本以上に難しいと容易に推測できる。

しかしARAはこの現状を決して看過しているわけではない。たとえばカリフォルニア州は、違法な自動車解体に関与する行為者を特定し、起訴することにおいて、全米をリードしてきた。具体的には、2017年にカリフォルニア州独自の自動車解体産業ストライクチーム(VDIST)を設立し、違法な解体行為に対する取り締まりに取り組み始めている。2017年以降、VDISTは州内85カ所で活動し、1,900件以上の事件の摘発に協力した。さらに、ARAはカルフォルニア以外の州に対しても、違法な解体活動が確実に捜査・起訴されるよう、カルフォルニア州同様の政策を採用するよう奨励している。

次に次世代自動車の米国における普及に話題を移そう。

図1 米国におけるガソリン車の普及状況

出典)ARA .

図1に米国のガソリン車の多い州を示したが、環境規制の強いカルフォルニア州でも自動車が主たる移動手段であることから、ガソリン車の数は多い。また南部のテキサス、フロリダもガソリン車の台数が多いのが特徴的である。

 

図2 アメリカの自動車リサイクラーの分布状況

資料)ARA.

 

次に、図2にアメリカの自動車リサイクラーの分布状況を示した。

全米では約10,000の自動車解体業者がいるといわれているが、州ごとにライセンス制度(要件)が異なっていて、ARAとしても正確な情報はつかめていない。また、ARAが把握し、業界指導している自動車リサイクラーは、全米でおおよそ1,000拠点である。産構審・中環審の自動車リサイクル合同WGで公になった、2021年末の日本の解体業者数は4,231。下一桁までしっかり把握できる日本のシステムはアメリカやウクライナと好対照である。ただ、ARAに相当する組織が日本自動車リサイクル機構:JAERAだと想定すれば、組織率10%の400社強の会員がほしいところであるとも感じた。

 

アメリカの使用済自動車台数と再資源化率

さて,アメリカのリサイクル用の自動車(使用済自動車)台数は毎年1,000万台から1,500万台であると推定されているらしい。そして、10年前はおおよそ86%くらいのリサイクル率だったといわれていたが、現在は90~95%のリサイクル率にまで伸びているとのことである。

自動車中古パーツの国内市場規模は320億ドルであり、1ドルを150円と換算すれば4.8兆円規模の市場である。筆者が20年以上前の2001年に調べたときは、アメリカの補修部品市場が10兆円で、そのうち中古部品によるものが1兆円以上と推定していた(外川,2001,p. 174)。今回の報告から、20年前に私が調査した数字をはるかにしのぐ巨大な市場となっている。

今回の講演によれば、米国の自動車リサイクル産業では14万人が雇用されており、自動車リサイクル業者は一般的に、長期雇用・安定した賃金が支払われており、福利厚生も充実している。このような職種は現在の米国ではますます珍しくなっているそうだ。ARA加盟のリサイクラーで最も大きな会社では、2022年に13,000,000点の中古部品を販売したという。またオンラインでは Car-Part.com が有名で、このプラットフォームには約1億7,500万個の中古パーツが掲載されているという。

自動車リサイクル業者による再生オリジナル部品(Challenges for Auto Recyclers in Selling Recycled Original Equipment:ROE)販売の課題について.Marty Hollingsheadさんは以下の点を指摘した。

第1は,自動車修理におけるリサイクル部品の使用を制限する法律を改正しようとする試みが数多くなされていることである。いくつかの例を挙げる。アメリカではこのような動きを認める州が出ており、業界ではこれらに反対の態度をとっている。

・保険修理におけるリサイクル部品の使用制限

・提供車両の走行距離に基づいてリサイクル部品の使用を制限する。

第2の問題は、新型車には、車体番号固有の部品が多く使用されており、修理を行う際に、リサイクル部品を使用する能力(可能性)が制限されているという。これは日本の解体現場でもしばしば耳にするが、電動化が進んだせいか、純正の新品部品以外を装着すると、当該自動車のホストコンピュータがその部品を異物だと認識するためか、動かなくなるケースが特に外車の場合に見られるという。(まるで人間の免疫反応を思い出させる。)

しかしリサイクル部品への追い風も当然ある。まずは価格が安いということはもちろんであるが,環境と持続可能性に対する一般市民、政治家、企業による関心の高まりがある。その結果、環境に配慮した製品のサプライチェーンを構築する必要性に、新たな価値を認める動きは確実にあり、自動車リサイクル部品への注目がますます盛んになってきた。加えて、サーキュラー・エコノミーの考え方が支持されつつあり、既存の資源を最大限に活用し、二酸化炭素排出量を削減する必要性があらためて強調されている現在、リサイクル部品の存在価値は確かに高まっている。そのため、カーボン・マイナス産業として、自動車リサイクル業者には、リサイクル部品の活用面で新たなチャンスが生まれている。換言すれば、カーボンニュートラルの考え方が浸透すれば、修理の際にリサイクル部品を使用する機会は増えていくに違いない。

このような背景から、ARAは自動車所有者の権利のために戦うことを宣言する。すなわち希望する修理工場でリサイクル部品を使用して自動車を修理する権利を求めて、闘うことを強調していた。実際にARAは米国自動車所有者権利同盟(American Alliance for Vehicle Owners Rights)の運営委員会メンバーであり、自動車所有者が修理のためにリサイクル部品を選択することを妨げる法案と闘い、それを葬ることに成功したことをMarty Hollingsheadさんは誇らしげに語っていた。(具体的にどの法案のことを彼が言及しているのかよくわからなかったので、これまでずっと調べているのだが、お恥ずかしながらそれは判明できていない。この点は本誌の読者の皆様にお詫びしたい。)

さて、近年「サーキュラー・エコノミー(循環経済)」(「循環型社会」ではない!)を議論する際に、欧米の自動車リサイクル部品業界ではこの「修理する権利」という言葉がよく登場する。自動車の所有者が選択した修理工場で、消費者自らが選択した部品で自動車を修理できることを保証する、という意味でこの語は用いられている。修理をディーラー系の整備業者に任せる傾向がある日本の一般ユーザーにはなじみがない言葉であるが,低年式車を中心にいわゆるメーカー系整備業者から「お断り」される部品が、少なからずあるのが実情だと耳にする。その際に優良部品やリサイクル部品が威力を発揮するわけだが、より安価で品質が保証されているリサイクル部品(とくにリビルト部品)の需要拡大が、日本の自動車リサイクル部品業界で声高に叫ばれるようになってから、そろそろ30年となる。現在の日本自動車リサイクル部品協議会:JAPRAは、まさに自動車リサイクル部品の普及を目指したベンダーの集合体で、そこでは品質の安定性が声高に求められてきた。そして二酸化炭素削減に関しては、グリーンポイント・クラブなどの仕掛けが行われ始めて、少なくとも15年にはなる。やはりもっとユーザーに身近な存在になることが、日本のリサイクル部品の普及のためにますます求められている点だと感じた。

 

EVへの移行において業界をリードしてきたと自負するARA

講演者のMarty Hollingsheadさんは、続いてアメリカの自動車解体業者の業界団体としてEVシフトにどう取り組んでいるのかに話題を移した。ただよく聞くと、ARAが実施しているHV車も含めた自動車修理全般の技術研修制度のPRが主たる内容であった。

ARAは、自動車リサイクル業界が高電圧と電気自動車への移行に対応できるような情報を発信し、リサイクラーのサポートを行っている。そして多くのARA会員がARAの提供する研修を受け、安全に高電圧ハイブリッド車やバッテリー式電気自動車を解体している。具体的には以下のリソースを業界に提供している。

・EVおよびHEVの取り扱い時のトレーニングと認証

・HEVおよびEVの解体手順

・EV解体のためのチェックリストの作成

・EVバッテリーデータベースの提供

以上から,ARAはEV移行を促進するリーダー的存在であり、外部のステークホルダー(具体的には、米国エネルギー省、北米先進電池技術提唱組織:NAATBatt International,全米電機工業会)とも協力関係にあるという。

 

図3 リチウムイオン電池製造に必要な金属類需要の増加

 

また,図3に2020年から2030年までのリチウムイオン電池製造に必要な金属類需要の増加傾向を記した。確かにニッケルやコバルトのようなレアメタルの需要が伸びることも推定されるが、銅やアルミなどの電線等に用いる素材の需要や、負極材の用いるカーボンの需要も大きいことがうかがえる。

また電気自動車を所有する場合の真のコストとして、以下の項目に注視しなければならないという。以下を見ると彼らは、ICE:内燃機関車の方がまだ優位性を持っていると主張したいような気がした。

まずは,手頃な価格でのEVの供給不足が挙げられる。これは電池交換時も同様である。

第2は,中古EVは値付けが難しいという問題を抱えている。大まかではあるが,現在は平均的な電気自動車の場合、3年間の使用で52%の価値が下がる。一方、平均的な内燃エンジン車の3年間の減価償却率は39%である。

第3の問題は保険料が概して高額だということである。EVの保険料はICE(エンジン車)よりだいたい27%高く設定されているそうだ。

最後の問題は修理コストも高いということである。概してICE車に比べ26~53%多くの修理コストがかかる。また安全性を確保するためには、バッテリーの軽微な損傷であっても全車両に交換の必要性が出るケースもあるらしい。

ところで、EVは自動車としての役割は終えても、他産業での需要があることを、事業者も消費者は知っておくべきである。車載用としての価値のないバッテリーも充電式バッテリーとしては再使用できるからである。よって、他産業との連携が重要である。つまり、車載用に使用できる限りは何度かリペアをして乗る方が良いが,その後は従来のICE車のような廃棄を行うのではなく、別用途へのリユースを模索する方が環境的にも経済的にもよい。そしてそのような充電式バッテリーとしての価値がなくなったときに,初めて電池の素材リサイクルを行うべきだという。この点は欧州や日本の議論と大差はない。よってトヨタ等はMobility産業にシフトし、さらには「まちづくり」にまで事業を拡張している。効率的な充電ステーションの配置と、そのステーションで使用するバッテリーを中古EVから供給するシステムを考案しているのである。

結論として,電気自動車の普及が成功するかは、経済的インセンティブと環境的便益を自動車ユーザーのみならず、生活者全員にしっかり理解されるかどうかにかかっている。これは、米国の自動車リサイクル業界が100年以上にわたって、ガソリン車のパーツ再利用等を通じて実証してきたことでもある。講演はこのようにEVの時代になってもリサイクラーの存在価値は変わらないことを強調していたが、果たしてそうだろうか?特に部品の点数が圧倒的に減少することは、リサイクル部品業界にとって大きな痛手となる可能性が高いはずである

なお、廃触媒の盗難は米国でも問題視されている。ARA は業界を代表して触媒コンバーターの盗難対策に取り組んできた。統計データでは、2022年の全米の触媒コンバーターの盗難件数は約60万~70万件であった。この盗難のため修理代がだいたい2,621ドルかさみ,とくに製錬に回らなかったプラチナ,ロジウム,パラジウムのコストから,いわゆる社会的ロスは150億ドルに達すると見込まれるという。

そこでARAは触媒コンバーターの盗難撲滅の最前線で活動している。ARAは過去数年にわたり、触媒コンバーターの盗難に関する200以上の法案を準備してきた。さらにARAは触媒コンバーターを効果的にリサイクルするための環境創りに取り組んできた。

図4は全米の自動車由来の廃触媒盗難防止法に関する法律の制定状況である。オレンジ色の州で法案は可決され,緑色の州では審議中である。なお青色の州は依然として法案が提出されていない州である。

図4 アメリカの自動車由来の廃触媒盗難防止法に関する法律の制定状況

資料)ARA.

なおFORSの今回の会合では、やはりARAから「デリケートな部品の販売に関する認証」についての講演があった。HEVやEVを取り扱う際には、安全と環境を配慮した自動車リサイクラーであるという認証制度をARAとしても行っている模様である。

このような取り組みは日本自動車リサイクル協会が行っている「自動車リサイクル士」の制度とも関連付けて行うことを働きかけるべきであろう。フロン類はもうリサイクル料金の受け取りが期待できない、大気放散可能な代替フロンが一般的になる。エアバッグ類の適正処理・リサイクルも大事だが、法令順守の一歩先を読んだリサイクラーの技術所得が求められていると感じた次第である。

 

終わりに ビートルズのコピーバンド

2023年12月30日の夜、筆者はNHKBSで、ビートルズの特番を鑑賞した(映像の世紀 バタフライエフェクト 「ビートルズとロックの革命」(新映像含む再編集73分版)。この映像特集でビートルズのロックンロールが、当時のソ連及び東欧諸国の若者の心をつかみ、たくさんのコピーバンドが当時の共産主義諸国でゲリラ的に活動していた。その波が1989年のベルリンの壁崩壊にもつながっている。番組は、そのようなストーリーだったと思う。

この2023年秋のFORSの晩餐会では、ビートルズのコピーバンドが登場し、老いも若きも熱狂的にこれを歓迎した。私は会場にいるウクライナからの参加者を探した。彼らを見つけることは結局できなかったが、彼らはこの演奏をどのような思いで聞いていたのだろう。そして彼らを招待したポーランド人はどのような思いでこのコピーバンドをゲストとして招いたのであろうか。

 

(文献)

外川健一(2001)『自動車とリサイクル-自動車産業の静脈部に関する経済地理学的研究-』

日刊自動車新聞社。

写真2 2023年10月FORS主催国際自動車リサイクルコンフェランス主催晩餐会の余興に搭乗したビートルズのコピーバンド。

写真3 2023年10月FORS主催国際自動車リサイクルコンフェランス主催晩餐会の余興に搭乗したビートルズのコピーバンドの演奏に合わせて踊りだす関係者。

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