図 5 EU27か国からアフリカ向けの中古車輸出台数の推移(推計値、単位:台)

第128回:アフリカ向け中古車輸出台数の国際比較

山口大学国際総合科学部 教授 阿部新

 

1.はじめに

日本の中古車輸出台数の集計結果は頻繫に目にするが、世界の中古車輸出台数の算出および比較は日本ではあまり見かけない。中古車貿易は各国の貿易統計を用いることにより、ある程度は算出できる。輸出国は往々にして先進国であり、貿易統計の入手は可能である。しかし、その集計が煩雑であることもあり、正確に算出されているものはあまり見かけない。

2020年に国連環境計画(UNEP)において中古車貿易量に関するレポートが出された。しかし、その内容を見ると、EU(欧州連合)においてデータベースに示された数値を2倍にするなどの単純ミスが見られる。その結果、EUの中古車輸出市場が日本の2倍近くになっており、誤った情報が世界に流れている。

そのような背景の下、阿部(2021b)では日本、韓国、アメリカ、EU(イギリスを除く27か国)について2010年から2019年の10年間の中古乗用車の輸出台数を算出した。そこでは、日本、アメリカ、EUの数量を948万台、863万台、861万台とし、同程度の規模であるとした。

中古車の品目は各国の貿易統計において設定されるため、新車・中古車の区分のない品目もある。阿部(2021b)では、乗用車のみではあるが、そのような区分のない品目における中古車の数量も推計した。

ただし、阿部(2021b)は、規模の比較はしたものの、それらがアフリカなどでどのように競合しているかまでは示していない。アフリカというと欧州からの輸出が多い印象はあるが、近年は日本においてもアフリカが最大の輸出先となっている。

一方、阿部(2020b)においては日本、アメリカ、EU(イギリスを除く27か国)からアフリカ向けの中古乗用車の輸出台数を算出し、比較した。しかし、貿易統計上の数値を集計したものに過ぎず、新車・中古車の区分のない品目から中古車の数量を推計することはしていない。また、乗用車のみならず、バスや貨物車の数量も検討することは重要である。

本稿では、このような背景の下、日本、韓国、アメリカ、EU(イギリスを除く27か国)、イギリスからアフリカ向けの中古車輸出台数を算出し、比較を行う。阿部(2020b)と同様に、日本の財務省貿易統計の「外国貿易等に関する統計基本通達 別紙第1 統計国名符号表」にあるアフリカの国・地域を対象とし、各国の貿易統計から中古車(バス、乗用車、貨物車)の輸出台数を算出する。

新車・中古車の区分のない品目については、バス、乗用車、貨物車においてそれぞれ「仕向地・年」ごとに中古車の割合(=中古車/(新車+中古車))を算出し、この品目の数量に掛け合わせて、中古車輸出台数の追加分を推計する。

なお、新車、中古車の数量の実績がない場合、上記の式の分母はゼロとなるが、この場合は中古車の割合はゼロとし、新車・中古車の区分のない品目は全て新車として扱う。

 

2.日本

阿部(2021b)で見たように、2010年~2019年までの10年間で日本から全世界向けの中古乗用車輸出台数は貿易統計上の数値で945万台である。これにバス、貨物車を加えると2010年~2019年までに日本から輸出された中古車は1,151万台になる。このうち、アフリカ向けは23%の260万台程度である。乗用車のみではアフリカに210万台程度が輸出されている。

仕向地で見ると、2010年から2019年の10年間の合計でケニア、南アフリカ向けが63万台、62万台と同程度であり、この2か国で48%のシェアとなっている。それにタンザニア(38万台)、ウガンダ(25万台)、モザンビーク(13万台)が続き、この5か国で77%となっている。

図1は日本からアフリカ向け中古車(バス、乗用車、貨物車)の輸出台数の推移を示したものである。これを見ると、十分に予想されるようにアフリカ向けは増加傾向にあるが、2019年より減少傾向にあることが分かる。2020年は新型コロナウィルス感染症の影響であると思われるが、それ以前より減少している。

図 1 日本からアフリカ向けの中古車輸出台数の推移(単位:台)

リサイクルの潮流2022年1月_1

出典:日本財務省貿易統計より筆者集計

注:バス、乗用車、貨物車の合計。2001年は4月~12月の実績

 

国別で見ると、南アフリカ、ケニアが多いのは先述の通りだが、全体におけるこの2か国の割合は減少している。2000年代はこの2か国で60%を超えている年が多かったが、2010年代は50%を下回っている。直近の2019年、2020年、2021年(1月~9月)におけるこの2か国の割合は41%、37%、38%である。

なお、南アフリカ向けは、2013年までアフリカの中で最も輸出台数が多かったものの(2007年を除く)、2014年以降はケニア向けを下回るようになり(2018年を除く)、2019年以降はタンザニア向けをも下回り、輸出台数では3番目に位置している。2019年にアフリカ全体が減少したが、南アフリカ向けの影響が大きいと考えられる。この点はさらなる議論が必要である。

貿易統計では、新車・中古車の区分のない品目があることが多いが、日本では乗用車の雪上車・ゴルフカーほかの品目(HSコード:8703.10、以下「雪上車等」とする)のみがこれに該当する。バスや貨物車は全ての品目で新車・中古車の区分がある。雪上車等の輸出台数は、阿部(2021b)で示したように2010年~2019年までの10年間の合計で16万台程度である。

阿部(2021b)では、乗用車の中古車の割合(=中古車台数/(新車台数+中古車台数))を仕向地別に算出し、雪上車等の数量に掛け合わせて、その中古車の数量を3万台程度と推計している。これを加えると、日本からの中古車輸出台数は1,154万台である。

この品目についてアフリカ向けに限定すると、2010年~2019年までの雪上車等の輸出台数はわずか166台である。そのため、そもそもこの品目は無視してよいが、念のため、阿部(2021b)と同じようにこのうちの中古車の数量を推計すると27台になる。

 

3.韓国

阿部(2021b)で見たように、2010年から2019年までの韓国からの中古乗用車輸出台数は219万台程度である。これにバス、貨物車を含めると、この期間の中古車輸出台数は301万台程度になる。

このうち、アフリカ向けは乗用車のみでは101万台、バス、貨物車を含めた自動車全体では117万台である。数量的には日本の半分以下であるが、輸出全体におけるアフリカの割合は39%であり、23%の日本と比べると大きいことが分かる。

韓国では、乗用車と貨物車の一部で新車・中古車の品目の区分がない。まず、乗用車については、日本と同様の雪上車等(HSコード;8703.10)のほか、その他の乗用車(HSコード:8703.90)で新車・中古車の区分がない。

阿部(2021b)で示したように、これらの輸出台数は、2010年~2019年の実績で7万台程度である。このうち、乗用車における新車・中古車の割合を仕向地別に算出し、新車・中古車の区分のない品目の数量に掛け合わせて合計すると、中古車の推計台数は3,010台となる。このうち、アフリカ向けは、わずか63台である。

貨物車については、ダンプカー(HSコード:8704.10)に新車・中古車の区分はない。ダンプカー以外のもの(HSコード:8704.21、8704.22、8704.23、8704.31、8704.32、8704.90)については、それぞれ「一般車両」と「それ以外」に分けられており、「一般車両」に新車・中古車の区分があるものの、「それ以外」には新車・中古車の区分がない。

これら貨物車の新車・中古車の区分のない品目の数量は、2010年~2019年の合計で全世界向けで20万台、アフリカ向けで2万台程度である。これを用いて、仕向地別、年別に中古車の割合を算出し、新車・中古車の区分のない品目の数量に掛け合わせて中古車の台数を推計すると、全世界向けで6万台、アフリカ向けで6,100台となる。

これらの結果、2010年から2019年の10年間の韓国から中古車輸出台数は、全世界向けで308万台、アフリカ向けで117万台となる。貿易統計上の数値のみで示してもあまり変わらないと言える。

仕向地別に見ると、リビア向けが最も多く、2010年~2019年の合計で84万台で、アフリカ全体の72%を占める。リビアに続くのがガーナ(14万台、12%)であり、さらにエジプト(9万台、7%)、スーダン(4万台、3%)、マダガスカル(2万台、2%)と続いている。

図2は、アフリカ向けの中古車の推計台数の推移を見たものである。これによると、全体で10万台前後で推移していたものが、直近の2019年には25万台を超えており、日本と同様に増加傾向と言える。

図 2 韓国からアフリカ向けの中古車輸出台数の推移(推計値、単位:台)

リサイクルの潮流2022年1月_2

出典:Korea Customs and Trade Development Institutionより筆者推計

注:バス、乗用車、貨物車の合計。新車・中古車の区分のない品目(推計値)を含む。

 

仕向地を見ると、やはりリビア向けが多いことが分かる。同国向けは2016年に5万台になるまでに減少していたが、その後に増加傾向に転じ、2019年は20万台を超えている。それが全体を押し上げているが、他にガーナ向けなども増加傾向にある。

 

4.アメリカ

阿部(2021b)で示されたように、アメリカは日本や韓国と比べると、新車・中古車の区分のない品目が多い。上記と同じように、阿部(2021b)においては、中古車の割合を仕向地別に算出し、それを新車・中古車の区分のない品目の数量に掛け合わせることで推計した。これにより、2010年から2019年の合計で乗用車のみで863万台とした。

バスや貨物車は、全ての品目で新車・中古車の区分がない。そのため、本稿では、バス、貨物車の中古車の割合は乗用車のものを適用して中古車の台数を推計することとする。つまり、各年について乗用車の仕向地別の中古車の割合を算出し、それをバス、貨物車の数量に掛け合わせて中古車の数量を推計する。

上記に基づいて算出した結果、2010年から2019年の合計で、アメリカからの中古車(バス、乗用車、貨物車)の合計は911万台になった。このうち、貿易統計上の実績値(統計で集計できる中古車の数量)は756万台であり、推計値は155万台である。

また、乗用車は863万台(95%)であり、バス、貨物車は48万台(5%)と少ない。日本の中古車はバス、乗用車、貨物車の合計で1,151万台であったため、日本とアメリカで200万台超の差があることが分かる。

このうち、アフリカ向けの中古車は、バス、乗用車、貨物車の合計で195万台である。量的には韓国(117万台)より多く、日本(260万台)よりは少ない。アメリカの仕向地全体におけるアフリカ向けの割合は21%程度と小さい。

アフリカ向けの中古車輸出台数の195万台(推計値を含む)のうち、貿易統計上の実績値(統計で集計できる中古車の数量)は166万台であり、新車・中古車の区分のない品目の数量からの中古車輸出台数の推計値は28万台である(千の位で四捨五入しているため合計は195万台になる)。

統計上の新車・中古車の区分のない品目の数量は33万台であり、このうちの推計値の範囲は0~33万台である。いずれにしても韓国よりは多く、日本よりは少ない。

アフリカ向けの中古車輸出台数を仕向地別に見ると、2010年から2019年の10年間(推計値を含む)では、ナイジェリア向けが最も多く、全体の42%を占める。これにベナン、ガーナ、リビアが続いている。

それらのシェアはそれぞれ24%、11%、10%であり、ナイジェリアを含めた4か国で全体の88%を占める。リビア、ガーナは韓国と競合しているが、ナイジェリアやベナンが上位にあることは韓国とは異なる。また、日本の仕向地とも全く異なる。

図3はアメリカからアフリカ向けの中古車輸出台数の推移を示したものである。これによると、2013年の27万台程度をピークに大きく減少しており、2016年には9万台にもなっている。その後は増加傾向に転じ、2019年は2013年の水準に戻っている。

図 3 アメリカからアフリカ向けの中古車輸出台数の推移(推計値、単位:台)

図 3 アメリカからアフリカ向けの中古車輸出台数の推移(推計値、単位:台)

出典:United States Census Bureauより筆者推計

注:バス、乗用車、貨物車の合計。新車・中古車の区分のない品目(推計値)を含む。

 

仕向地別に見ると、ナイジェリア向けは全体の動きと同様に、2013年から減少傾向となり、2016年を底としてその後増加傾向となっている。ベナン向けは2016年に大きく減少している。リビア向けも同様に2016年は最も少なく、千台程度である。

その後はそれぞれ増加傾向にあり、リビア向けの2019年は7万台にもなっており、ナイジェリアの次の主要仕向地になっている。上記3か国とは異なり、ガーナ向けの変動は少ない。

 

5.EU

阿部(2021b)でも示されたようにEUの貿易統計から中古車輸出台数を示すことは非常に煩雑である。それは、一部で外れ値と考えられる数量が統計に示されているからである。

具体的に、EUROSTAT(欧州統計局)のデータベースを用いて、「輸出国・仕向地・年・品目」の各組み合わせにおいて1台あたりの重量(重量/台数)を算出してみると、それが100kg以下のものも多くある。阿部(2021b)では、1台あたりの重量が100kg以下のものを外れ値とし、この値を全体における中央値に置き換えている。

阿部(2021b)ではイギリスを除くEU27か国について2010年から2019年までのEU域外向けの中古乗用車の輸出台数を算出した。それによると、貿易統計上の数値で863万台、推計値で854万台であることが示された。今回も同じEU27か国について改めて乗用車の数量を算出したところ同様の結果となった。

バス、貨物車の中古車輸出台数については、貿易統計上の数値でそれぞれ10万台、206万台である。また、上記と同様に1台あたり100kg以下のものを外れ値として推計すると、バスは7万台、貨物車は187万台と下方修正される。この結果、バス、乗用車、貨物車の中古車輸出台数では、貿易統計上の数値で1,079万台、推計値で1,047万台になる。

これらは貿易統計上で中古車の区分のある品目の数量である。なお、1台あたり500kg以下のものを外れ値としても1,042万台(バス:6万台、乗用車:850万台、貨物車:185万台)となり、大きく変わらない。

次に、新車・中古車の区分のない品目から中古車の数量を推計する。この品目の輸出台数は、貿易統計上では、2010年~2019年の10年間の合計で90万台程度である。このうち、外れ値を考慮すると57万台程度と大きく減少する。

外れ値と思われるものは、2019年のスペインからポルトガル、ポーランドの乗用車輸出、2011年のフランスから中国への乗用車輸出など様々であり、輸出国や仕向地は特定されない。

この新車・中古車の区分のない品目について、日本、韓国と同様に、バス、乗用車、貨物車のそれぞれにおいて、「輸出国・仕向地・年」の組み合わせごとに中古車の割合を算出し、それを新車・中古車の区分のない数量に掛け合わせる。EUの場合、新車においても外れ値を考慮して修正する必要がある。

つまり、新車、中古車、新車・中古車の区分のない品目すべてで外れ値を考慮した数量を算出した上で、中古車の数量を推計する。

この結果、EUの新車・中古車の区分のない品目のうち、中古車の推計台数は全世界向けで13万台となる。中古車の区分のある品目のみで推計値は1,047万台であったため、上記の13万台を加えると1,060万台となる。日本が1,151万台、アメリカが911万台であり、EUはその中間に位置づけられる。

アフリカ向けについては、中古車として区分のある数量は、貿易統計上の数値で499万台(バス、乗用車、貨物車の合計)であり、外れ値(1台あたり100kg以下)を考慮した推計値は491万台である。

また、アフリカ向けの新車・中古車の区分のない品目の数量は、貿易統計上で9.4万台であり、外れ値を考慮すると5.4万台となる。これにより、新車・中古車の区分のない品目から中古車の数量を推計すると、3.9万台となる。

これらの結果、アフリカ向けは495万台(中古車の区分のある品目:491万台、中古車の区分のない品目:3.9万台)となる。韓国(117万台)、アメリカ(195万台)のみならず、日本(260万台)と比べても圧倒的に多い。

EUの仕向地全体におけるアフリカ向けの割合も、日本、韓国、アメリカがそれぞれ23%、39%、21%だったのに対して、EUは47%にもなっている。EUの中古車輸出市場におけるアフリカの依存が高いことが分かる。

図4は、以上の作業に基づいて、EUの主要輸出国別の推計台数を見たものである。そこではアフリカ向けとアフリカ以外向けの輸出台数に分けている。当然ながら、EU域内の流通は除かれている。

図 4 EU主要国の中古車輸出台数(2010年~2019年の合計、推計値、単位:台)

図 4 EU主要国の中古車輸出台数(2010年~2019年の合計、推計値、単位:台)

出典:EUROSTATより筆者推計

注:バス、乗用車、貨物車の合計。新車・中古車の区分のない品目(推計値)を含む。

 

これを見ると、ドイツが302万台、ベルギーが292万台であり、ともに全体の28%のシェアである。それらにスロベニア(94万台、9%)、リトアニア(87万台、8%)、オランダ(76万台、7%)、ポーランド(41万台、4%)などが続いている。

また、アフリカ向けの割合は輸出国によって異なることが分かる。ベルギーは93%がアフリカ向けであるが、ドイツやオランダは半数近くとなっている。スロベニア、リトアニア、ポーランドからアフリカ向けの輸出はほとんどない。

アフリカ向けで数量の多い順に並べると、ベルギー(271万台)、ドイツ(132万台)、オランダ(32万台)、フランス(20万台)、スペイン(14万台)、イタリア(12万台)の順になる。ベルギー、ドイツでアフリカ向けの輸出(495万台)の81%を占める。ベルギーは日本(260万台)を上回っている。ドイツはアメリカ(195万台)よりは少ないが、韓国(117万台)よりは多い。

図5は、アフリカの年別の推移を見たものである。全体的には、EUのアフリカ向けの輸出は2012年が最も多く、それ以降は減少している。2016年を底としてその後は増加傾向である。このような動きは日本や韓国とは異なった動きであるが、アメリカと似ている。

図 5 EU27か国からアフリカ向けの中古車輸出台数の推移(推計値、単位:台)

図 5 EU27か国からアフリカ向けの中古車輸出台数の推移(推計値、単位:台)

出典:EUROSTATより筆者推計

注:バス、乗用車、貨物車の合計。新車・中古車の区分のない品目(推計値)を含む。

 

図5では、主要仕向地の数量も示している。10年間の合計ではベナン向けが121万台と最も多く、アフリカ向けの25%を占めている。それにナイジェリア(14%)、リビア(10%)、ギニア(6%)、カメルーン(5%)、ガーナ(5%)が続いている。これらはアメリカの仕向地と似ている。

ベナン向けは2013年をピークに減少傾向に転じ、2016年には前年の14%と大きく減少している。同国向けが2016年に大きく減少したことはアメリカと同じである。また、ナイジェリアやリビア向けが2013年頃から減少していることもアメリカと似たような動きとなっている。ベナン向けは2016年以降、増加傾向となっているが、それ以前ほどに回復していない。

中でも目に付くのはリビア向けであり、2018年にナイジェリアを抜いてEUのアフリカ向けの最大の仕向地となっている。ギニアは安定的に増加しており、2019年はリビア、ナイジェリア、ギニア、ベナンの順で多い。

 

6.イギリス

イギリスについてはEU27か国と同様であるが、さらに慎重に対応する必要がある。なぜならば阿部(2020a)や阿部(2021a)で見たようにEUの中でも外れ値と思われる数量を多く含むからである。

まず、イギリスの貿易統計上の全世界向け(EU27か国向けを含む)の中古車輸出台数は、バス、乗用車、貨物車の合計で309万台である。このうちアフリカ向けは170万台である。これは阿部(2021a)で算出した際に用いた数量と一致する。

前節と同様、これらを用いて外れ値を考慮して数量を修正すると、全世界向け、アフリカ向けの中古車輸出台数の推計値はそれぞれ137万台、66万台になる。外れ値が如何に多いかが分かる。

しかし、ここで注意を要する事項が生まれる。阿部(2021a)で推計した全世界向けおよびアフリカ向けの中古車輸出台数の推計値は93万台、41万台である。いずれも1台あたり100kg以下を外れ値とし、貿易統計上の数値から大きく下方修正しているが、算出された数量に差がある。

この違いは用いたデータの違いである。阿部(2021a)では、EUROSTAT(欧州統計局)のホームページからイギリスの月別データをダウンロードし、「仕向地・月・品目」ごとに1台あたりの重量を算出した。

これに対して、本稿はEUROSTATからイギリスの年別のデータを用いている。そして、それぞれ1台あたり100kg以下の数量を外れ値として修正している。この結果、阿部(2021a)において外れ値として検出され、下方修正したものが、今回検出されないということが起きている。

つまり、ある月で1台あたりの100kg以下の数量が別の月の数量と合算されることで、1台あたりの重量が100kgを超え、外れ値として検出されないということが起きている。

そこで、本稿でダウンロードしたデータを用いて、1台あたり500kg以下の数量を外れ値として修正すると、全世界向け、アフリカ向けの中古車輸出台数の推計値はそれぞれ94万台、43万台となる。

つまり、阿部(2021a)で示された93万台、41万台に近い結果になっている。1台あたり500kg以下を外れ値の対象とすることで、阿部(2021a)で拾われた外れ値が拾われ、下方修正されたことが要因として考えられる。

前節のEUでは、1台あたり100kg以下のものを外れ値として修正したが、それを500kg以下としても大きく数量の違いはなかった。これに対してイギリスでは、100kg以下と500kg以下では数量が異なる。それらを考慮してイギリスに関しては500g以下を外れ値と想定することとする。

この前提の下で、外れ値を考慮した上で、新車・中古車の区分のない品目から中古車の数量を推計する。まず、全世界向けでは新車・中古車の区分のない品目の数量37万台のうち、8万台が中古車として推計される。

この結果、イギリスの全世界向けの中古車輸出台数は102万台になる。このうちアフリカ向けは、全体の44%の45万台となる。新車・中古車の区分のない品目のうち、中古車は2万台と推計される。

この45万台という数値は、韓国(117万台)よりも少ない。EUでは、ベルギー(271万台)、ドイツ(132万台)が多いが、3番目のオランダ(32万台)よりはイギリスの方が多い。

図6はイギリスからのアフリカ向けの中古車輸出台数(推計値)の推移を見たものである。これを見ると、アメリカやEUと同じように2013年頃から減少傾向にあり、その後、回復しつつある。

図ではナイジェリア向けが2016年に増加しており、アメリカやEUとは傾向が異なる。また、ジンバブエ向けの2018年、2019年はそれ以前よりも多い。これらは外れ値の修正の精度が粗いことで生じた事象の可能性がある。いずれにしろ、イギリスの規模は大きくはない。

図 6 イギリスからアフリカ向けの中古車輸出台数の推移(推計値、単位:台)

図 6 イギリスからアフリカ向けの中古車輸出台数の推移(推計値、単位:台)

出典:EUROSTATより筆者推計

注:バス、乗用車、貨物車の合計。新車・中古車の区分のない品目(推計値)を含む。

 

7.まとめ

本稿では、阿部(2021b)の成果をもとに、乗用車のみならず、バス、貨物車も含めて、日本、韓国、アメリカ、EU(27か国)、イギリスの2010年から2019年までの中古車輸出台数を算出した。そこでは新車・中古車の区分のない品目から中古車の数量も推計している。また、その行方としてアフリカに注目し、その数量を比較した。

まず、これらの国の数量を合計すると、全世界向けでは、2010年から2019年までに3,534万台の輸出がされていることが分かる。このうち、日本が1,154万台(33%)、EUが1,060万台(30%)、アメリカが911万台(26%)である。

依然としてこれらは同規模と言うことはできるが、阿部(2021b)で示された乗用車のみの数量と比べると、若干差は広がっている。アメリカにおいてバス、貨物車の数量が少ないことが要因としてある。

次に、アフリカ向けにおいては、2010年から2019年までの合計で1,111万台の輸出がされていることが分かる。このうち、EUからの輸出が495万台(45%)であり、日本(260万台、23%)、アメリカ(195万台、18%)、韓国(117万台、11%)と比べても圧倒的に多いことが示される。

EUのうち、ベルギー(271万台)は単体でも日本を上回っており、この期間の世界最大の輸出国となっている。ドイツ(132万台)はアメリカと韓国の間に位置する。

イギリスは45万台であり、韓国より下回る。EUの構成国の中でベルギー、ドイツに続くのは、オランダ(32万台)、フランス(20万台)、スペイン(14万台)、イタリア(12万台)などである。これらは韓国、イギリスよりも規模は小さい。

仕向地の視点で見ると、アフリカ向けの1,111万台のうち、ナイジェリア(169万台、15%)、ベナン(168万台、15%)、リビア(156万台、14%)が多い。図7は2010年から2019年までの中古車輸出台数の合計を主要仕向地別に見たものだが、これを見ると、これら3か国は同規模であることが分かる。

これらにケニア(68万台、6%)、ガーナ(65万台、6%)、南アフリカ(63万台、6%)、タンザニア(41万台、4%)、ギニア(32万台、3%)が続いているが、先の3か国よりは規模は小さい。

図7では各仕向地について輸出国の内訳が示されている。ナイジェリア、ベナン向けはEU、アメリカが競合しているが、リビア、ガーナ向けはこれらに加え、韓国が主要の輸出国となっている。これに対して、ケニア、南アフリカ、タンザニア、ウガンダなどは日本からの輸出が圧倒的に多い。

図 7 アフリカ主要国向けの中古車輸出台数(2010年~2019年の合計、単位:台)

図 7 アフリカ主要国向けの中古車輸出台数(2010年~2019年の合計、単位:台)

出典:日本財務省貿易統計、Korea Customs and Trade Development Institution、United States Census Bureau、EUROSTATより筆者作成

注:バス、乗用車、貨物車の合計。新車・中古車の区分のない品目(推計値)を含む。

 

図8は、日本、韓国、アメリカ、EU、イギリスのアフリカ向けの中古車輸出台数の推移を合計したものである。これを見ると、全体では2012年が最も多く、それから2016年まで減少傾向であったこと、その後は増加傾向にあることが分かる。

10年間の合計ではナイジェリア、ベナン、リビアの順で多かったが、直近の2019年はリビアが圧倒しており、全体の29%を占める。それにナイジェリア(15%)、ケニア(6%)、ベナン(5%)、ガーナ(5%)、タンザニア(4%)が続いており、状況は変わりつつある。今後、これがどのように変わっていくかであるが、それは継続的な課題としたい。

図 8 アフリカの中古車輸出台数の推移(単位:台)

図 8 アフリカの中古車輸出台数の推移(単位:台)

出典:日本財務省貿易統計、Korea Customs and Trade Development Institution、United States Census Bureau、EUROSTATより筆者作成

注:バス、乗用車、貨物車の合計。新車・中古車の区分のない品目(推計値)を含む。

 

参考文献

  • UNEP, United Nations Environment Programme (2020), Used Vehicles and the Environment – A Global Overview of Used Light Duty Vehicles: Flow, Scale and Regulation, https://wedocs.unep.org/20.500.11822/34175
  • 阿部新(2020a)「EUROSTAT統計の問題:アフリカ向け中古車輸出台数の集計を事例に」『速報自動車リサイクル』(98),52-62
  • 阿部新(2020b)「アフリカ向け中古乗用車輸出市場の比較考察」『速報自動車リサイクル』(98),64-74
  • 阿部新(2021a)「イギリスの中古車輸出市場を捉える」『速報自動車リサイクル』,https://www.seibikai.co.jp/archives/recycle/9905
  • 阿部新(2021b)「中古乗用車輸出台数の国際比較」『速報自動車リサイクル』,https://www.seibikai.co.jp/archives/recycle/10079

 

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有償運送許可研修を毎月開催

せいび広報社では毎月、事故車故障車等の排除業務に係る有償運送許可の研修会を実施しています。会員限定ではなく、全国どの地域からも、法人・個人事業主でもどなたでもご参加いただけます。研修の受講者は、会社の代表者・経営者に限らず、従業員の方でしたらどなたでも、会社を代表して受講していただくことが可能です。

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