社員が突然ヒゲを生やしてきた時の対応

社員のひげ

社員が突然、ヒゲを生やして来たのですが……

 

Q.年末年始の休み明け、1人の社員がヒゲを生やして出社してきた。彼は営業職で、身なりによっては数字に影響が出ると思い、注意したら、「仕事とヒゲが関係ありますか?」と言って聞き入れなかった。このまま放置するしか方法が無いのだろうか?

 

A.誰がどのような身なりをしようが、その人の自由です。服装やファッションは人それぞれの好みであり、法的にも基本的人権で、本人が自由にできることとされています。とはいえ、職場では事情は異なります。いくら基本的人権といえども、会社組織の秩序を乱すことが自由とは言えません。現実的には、多くの会社で就業規則等に記載することにより、社員の服装を制限していることも多いのです。しかし、どの程度まで制限することができるかは、難しい問題です。これに関する裁判があります。

 

<郵便事業事件:通称ヒゲ裁判>

大阪高裁 平成22年10月27日

郵便局内で内勤業務を行っていた職員は20年に亘ってヒゲを生やしていました。その間、ヒゲについて問題となることはありませんでしたが、郵政民営化(2007年)にあたり「身だしなみ基準」が策定され、この職員のヒゲは基準に不適合と判断され、厳しく注意されました。しかし、この職員はそれでもヒゲを剃らなかったため、業務が限定され、月5,400円の職能調整額もカットされました。職員はこれらの処分は不当だと主張し、裁判を起こしました。

裁判の判断

裁判は高裁まで進み、最終的に無精ヒゲではなく、手入れされたものであれば、相手(お客さま)に不快感を与えるものではなく、社員のヒゲは、身だしなみ基準が禁止するものには該当しないとの判断となり、会社側の敗訴となりました。

この判決では、職員のヒゲ等について過度の制限を課すもので、合理的な制限であるとは認められず、執拗に「ヒゲを剃れ」と迫ったことは、義務のないことを行うよう繰り返し要求したことが違法と認定され、停止されている職能調整額全額の支払い、また精神的損害についても賠償も認められ、合わせて約52万円の支払いを会社側に命じました。

冒頭のご相談に戻りますが、回答として「営業職として、顧客視点から見て、どのような印象に映るのか?」ということを話をして、納得してもらうことに注力しましょう。

また、類似の裁判もありますので、そちらも紹介したいと思います。

 

<イースタン・エアポートモータース事件 東京地裁  昭和55年12月15日>

〇社員はハイヤーの運転手として勤務

〇社員は口ヒゲを生やしていた

〇会社は「乗務員勤務要領」中の「ヒゲを剃ること」との規定に基づき、「次の乗務までにヒゲを剃るように。ヒゲを剃らない場合はハイヤー乗車業務に就かせない」と命じた

〇社員はこれに従わず、会社は事業所内に待機することを命じた

〇社員は、労働契約上、ヒゲを剃ってハイヤーに乗務する労働契約上の義務がないことの確認、待機を命じられた間の賃金の支払を求めて裁判所に訴えた

そして、裁判は以下となったのです。

〇口ヒゲは服装、頭髪等と同様、もともと個人の趣味、嗜好であり、本来的には各人の自由であるが、それはあくまでも一個人としての私生活上の自由であるに過ぎない

〇労働契約においては、服装、身なりの規制を受けることもあり得るので、会社が制約することはOK

〇しかし「乗務員勤務要領」の「ヒゲをそる」旨の条項により、従業員のヒゲを「一律に禁止する」ということはやり過ぎである

以上により、会社が敗訴となったのです。この2つの裁判から言えることは

〇ヒゲがあることで事業遂行上の影響がどのぐらいあるか?

〇具体的な制限の内容が社員の利益や自由を大幅に侵害しない内容を前提に、拘束力が認められる

〇一律にヒゲ等を不可とする身だしなみ基準は、顧客に不快感を与えるような場合に「のみ」に「限定して」適用されるべき

ということなのです。

繰り返しになりますが、冒頭のご相談の回答として「営業職として、顧客視点から見て、どのような印象に映るのか?」ということを話をして、納得してもらうことに注力しましょう。

単に「ヒゲはダメだ」では、本人が心の底から「まずい」とは思わないからです。もちろん、「一律に」制限をかけることは認められませんが、仕事への影響がある場合は、制限することは認められているのです。

ここは髪型や服装などの本人側の問題と業務の内容との関連になるので、ケースバイケースとなりますが、会社にとってのハードルはかなり高いものとなります。

ちなみに、会社側が勝訴した事例として、バスの運転手が「夏に暑い」ということで、決められた帽子の着用を拒否した裁判(横浜地裁、平成6年9月27日)がありますが、そういうレベルでないと、会社が勝つことは難しいでしょう。

身だしなみに関する問題はヒゲにとどまらず、髪の毛、ピアスやネイルアートなど、若い社員を中心に顧客の視点が欠落している者も増えています。聞き入れない場合は、配置転換なども検討するケースもあるでしょう。

また、社長や上司が社員の意識を変えてもらうように面談をすることもあるでしょうが、そういう場合、他の社員も「あの人の髪型や服装はちょっと・・・」と感じていることも少なくありません。

そういう場合に、お互いに意識をして注意することができるように、「身だしなみガイドライン」を作成している会社もありますので、同様の対策も検討しましょう。