就業規則はいつから有効となるのか?

就業規則有効

社会保険労務士 内海正人の労務相談室

Q.当社も家業からの脱却を目指すため、手始めに就業規則を制定した。労働基準監督署に提出して戻った矢先に、社員の就業規則違反行為を発見した。そのことを指摘すると、社員から「自分たちは就業規則の内容をまだ確認していないし、内容を知っていたら違反行為はしなかった」と主張し、処分は受けないと反発。就業規則はいつから効力を発揮するのだろうか?

  1. 今回のようなご質問を頂くことがよくあります。 今回のように効力を発揮するのは、「労働基準監督署に提出した時」と考えられている方も多いのですが、これは間違いです。労働基準監督署は単に「就業規則が提出されたから受付印を押印しただけ」であって、これが「法的に合っているかどうか」は別問題です。労働基準監督署は「提出されたものを受け取る義務」があるだけなのです。結果として、いつの時点で効力が発生するのかというと、「就業規則を社員に周知した時」ということになります。また、周知の方法は以下となっています。

〇印刷された書面を各作業場の見やすい場所に備え付ける

〇社員全員に就業規則を配布する

〇社員が自由に使えるパソコンにデータで保存しておき、いつでも確認できるようにしておく

この方法で周知しておけば、仮に、労働基準監督署の調査の際にも指摘を受けることはなく、また、労使トラブルの裁判になった時でも確かな証拠として力を発揮してくれます。ただし、労働条件が社員にとって不利になる就業規則の変更は、単なる周知をするだけでは有効とならないのです。これに関する裁判を紹介します。

<中部カラー事件>

東京高裁 平成19年10月30日

会社は退職金の積立不足額が深刻な状態となったので、就業規則(退職金規定)を変更することにしました。経営会議で退職金制度の変更を決議し、翌日の全体朝礼で退職金制度の変更を説明しました。また、全体朝礼の半月後に従業員「代表」から就業規則(退職金規定)の変更について、異議がない旨の意見書が提出され、就業規則(退職金規定)を変更して運用しました。しかし、この半年後に退職した社員から就業規則(退職金規定)の変更は無効とし、会社は裁判所に訴えられました。

第一審の判断は「就業規則(退職金規定)の変更は有効であり、元社員の請求は認められない」と判断しましたが、これに納得しない元社員は控訴しました。

東京高裁の判断

就業規則(退職金規定)の変更は実質的な周知義務を欠いているとし、変更前の就業規則(退職金規定)が有効であり、減額となった差額約701万円の支払いを命じる判決が下され、会社側の逆転敗訴となりました。

この裁判でポイントとなったのが就業規則(退職金規定)の変更に関する説明の方法でした。全体朝礼での説明について、

○第一審では「説明に問題なし」と認められました

○第二審では「説明は不十分」ということで認められなかった

ということです。具体的には、

〇全体朝礼で全社員に対して説明がなされたが、議事録等は未作成

〇口頭での説明のみで「説明文書の配布」が無かった

ということから、「社員に説明し、理解してもらうという意図が無かった」と裁判では判断されてしまったのです。

さらに、第二審では退職金制度の変更に当たり、年齢、勤続年数等の基準を具体的に説明したかどうかまで問われました。

しかし、これを説明したとする証拠はなく、概略を説明しただけと判断されてしまったのです。しかも、従業員代表から異議がない旨の意見書まで取得している状況にも関わらずです。

就業規則等の変更により、新たな賃金制度や退職金制度をスタートさせたい場合はよくあります。しかし、これらを有効にするためには、就業規則等のルールを周知させることが必須で、以下の対応も必要となります。

〇説明会を実施する場合、具体的なケースを提示し、金額の変更について詳細に説明する

→概略は全体の説明会でもOKですが、個別の条件は「社員毎」に面談形式で実施した方がいいです。

〇説明会、個別の面談について質問等の時間も含め、余裕ある時間設定とする

→朝礼等だけでの概略説明は無効となる可能性があります。

○説明会の様子をビデオ撮影し、出欠を記録として残す

〇条件が下がる場合は、承諾書を準備し、「全員から」合意を得る

→合意を得られない場合、その理由を記載してもらう

上記の対応まで行えば、就業規則等の変更が無効となるリスクはかなり減ることになります(0にはなりません)。

このように、就業規則の変更は非常にデリケートな要素を含むため、会社側も真摯な態度で臨むことが大事です。

〇なぜ、変更せざるを得ないのか?

〇変更後はどうなるのか?

を説明して、社員に理解してもらうことが大切です。

「社員は細かくは分からないから、適当に説明しておけば大丈夫」と考えているケースもありますが、それは後々のトラブルにつながります。あくまでも、

○個別的に理解させること

○個別的に同意が取れていること

が重要なのですが、これがおろそかになっていることは多々あります。

就業規則の変更等が無効となれば、それは訴訟を起こした1個人の問題ではなく、会社全体の問題となります。結果、会社全体の退職金の金額という問題にも発展し得るので、手間であっても、適正な手続きを踏むことが大切なのです。

内海正人
主な著書 : “結果を出している”上司が密かにやっていること(KK ベストセラーズ2012) /管理職になる人がしっておくべきこと( 講談社+α文庫2012)
上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)/今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方! ( クロスメディア・パブリッシング2010)

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