社員への所持品検査はできるか?

持ち物検査

自動車整備士のお仕事・労務について労務相談室

せいび界2015年1月号Web記事

Q、社員への所持品検査はできるか?

弊社では次回の来店を促すべく、割引券をポケットティッシュに入れて来店客にお渡ししているが、時々、急に減っていることがあるのだが、もしかしたら、社員が家に持ち帰っているのかもしれない。
社員の帰宅時に所持品検査を実施したいのだが、問題ないだろうか?

A、

お店で使うものを盗んで、自分で使うことはもちろん犯罪ですが、確証もなく、個人の私物まで調べることはプライベートの侵害ともなり、非常にナーバスな部分でもあります。そして、多くの場合は証拠が無いので、手をこまねいているのが現状です。

ちなみに、私が経験した事例で 経理部長が現金を横領して解雇になったものがありますが、これは金庫から現金を抜き去るところが警備カメラに録画されており、本人も認めたのです。

しかし、こういうケースは少ないでしょう。結果として、疑わしい場合に所持品検査をすることもありますが、これを実施するには「4つの要件」が満たされている必要があります。

まず、この「4つの要件」が明らかになった裁判をみてみましょう。

<西日本鉄道事件最高裁 昭和43年8月2日>

「所持品検査を求められたときは、これを拒んではならない」という就業規則に基づき、乗務員の鞄や着衣、帽子の検査を実施しました。ある時、それまで行われていなかった脱いだ靴の検査も労働組合同意の下で実施したところ、電車運転士は、帽子とポケット内の携帯品検査は受けたものの、脱いだ靴の検査には応じませんでした。これを受けて会社は「就業規則の懲戒事由に当たる」として、運転士を懲解雇としました。しかし、運転士は懲戒解雇の無効確認を求めて訴えを起こしました。

最高裁の判断

○所持品検査は就業規則の条項に基づいて行われた
○所持品検査を行う合理的理由がある
○一般的に妥当な方法と程度で検査が実施されている
○制度として、社員に対して画一的に実施されている
○運転士は検査を受ける義務がある

以上のような判断から、運転士がこれを拒否したことは就業規則に違反し、懲戒解雇は妥当として、会社の主張が通ったのです(会社勝訴)。

この最高裁の判断から「所持品検査」の要件が確立されたのです。ただ、所持品検査は社員の名誉やプライバシーなどの人権侵害を伴うおそれがあります。

ですから、所持品検査が適法とされ、従業員に受ける義務が生じる要件として以下の4点が示されました。

○検査を必要とする合理的理由の存在
○妥当な方法と程度
○制度としての画一的実施
○就業規則などの明示の根拠

ですから、所持品検査がこの4要件を満たしていれば適法となるのです。逆に、この要件が満たされていないとして違法となり、実際に会社が敗訴した裁判があります。

<日立物流事件 浦和地裁 平成3年11月22日>

○社員が引っ越し作業を行っており、作業中にお客様の財布が無くなった
○営業所長は作業した社員の所持品を机の上に提出するよう指示し、また、身体に触れる検査を実施した
→財布は発見されず、その後、財布はお客様が発見した
○社員は名誉、信用、プライバシーを侵害されたとして、不法行為(使用者責任)による損害賠償を請求した

そして、裁判所は以下の判断としたのです。

○社員に行う所持品検査は、基本的人権と密接に係わる事柄なので、実施に当たっては社員の名誉、信用等の人権侵害のおそれを伴うもの
○所持品検査は会社にとって必要、かつ、効果的な措置であっても、当然に適法とはならない
○所持品検査が適法といえるためには、少なくともこれを許容する就業規則等の明確にされた根拠が必要
○合理的理由に基づき、妥当な方法と程度で、画一的に実施されることが必要
○就業規則等の根拠が存在しない
○会社の行った身体検査、所持品検査は違法(会社敗訴)

このように、所持品検査は人権侵害の問題とともに存在します。特に、「私が疑われた」と感情の問題として、その後に尾を引くケースも多々あるのです。

「社員が会社の物を盗むことはないだろう」と性善説で考えることも大切ですが、実際に多くの事件が起きていることも事実です。
実際、税務調査で社員の不正が発覚することはよくあります。そのためにまずやることは就業規則への記載で、たとえば、下記のように記載すべきです。

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第○条

社員は、以下の所持品検査を受ける義務がある
(1)職場から商品、備品、情報、金銭などが不当に持ち出しされないように定期的、抜き打ち的に行われる所持品検査
(2)職場から商品、備品、情報、金銭などが不当に持ち出された疑いが ある場合に行われる所持品検査
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さらに、「会社の金品等を不正に持ち出しした場合は懲戒解雇とする」という旨も明確に記載しておきましょう。

「当社にはそんなことは起こらない」と考えている社長も多くいますが、「うちの子に限って・・・・・・」という事例も沢山みてきました。
結果、性善説に立ちながらも、「常に何でも起こり得る」というリスクマネジメントの意識は非常に大切なのです。

先日もある会社で経理担当者が多額の預金を引き出して逃げ、会社が倒産の危機に陥っている話を聞きました。その社長は社員を信じて、通帳も印鑑も預けていたとのことでした。

正直、これはリスク管理ができていない結果が招いた事件ですので、大きな原因は社長にあります。ただし、「全ての会社」に関して言えることですが、大なり小なり、こういう事件は起こり得ます。

その場合の対応をするためには、就業規則での記載は最低限の条件なので、まずはこの部分は必ず盛り込むことをお奨めします。
この条文にも記載されていることにより、「何かあったら会社が調べる」という認識を日頃から社員にも持ってもらうことが大切なのです。また、

〇100%の性善説は危険であるという意識を持つこと
〇不正が起きにくい仕組みを構築すること

も経営者にとっては必要なことなのです。

 

ライター紹介

内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)