損害賠償

損害賠償金を社員に請求できますか?

自動車整備士のお仕事・労務について労務相談室

せいび界2014年7月号Web記事

Q、損害賠償金を社員に請求できますか?

得意先である法人客の営業車の納車が遅れてしまった結果、先方が商談時間に間に合わなかった。これを受けて先方から損害賠償請求があり、当社にて支払った。管理不行き届きの部分も否定できないが、担当社員の責任とてゼロではないはず。賠償金の一部でも社員に負担させることはできないだろうか?

A、

もちろん、その時の状況、業務上の問題か否かなどによって、会社に降りかかる責任は変わってきます。
業務上の問題の場合は、社員の行動は会社の管理下に置かれているということで、社員個人に損害賠償を請求するのは難しいでしょう。

しかし、「明らかに社員に非がある」となったら、全額請求も可能となる場合があるのです。これに関する裁判があります。

<損害賠償求償(X 社)事件 名古屋地裁平成24 年12 月20 日>

〇従業員間の暴行傷害事件で会社と加害者社員に連帯して損害賠償の支払いが命じられた
〇会社は損害賠償額全額(加害者分も含む)を被害者の社員に支払った
〇会社は損害賠償額を加害者である社員に請求する為、裁判に訴えた

そして、裁判所は以下の判断をしたのです。

〇加害者社員から「被害者社員の勤務態度がまじめではなかったので、それに耐えきれなくなり発生した」との主張があったが、偶然に発生したもので、会社に勤務配置等の落ち度はなかった
〇暴行傷害事件について「会社が放置したので支払い命令が出た」と加害者の社員から主張があったが、  会社は「当人達が直接会わない方が良い」とは言ったが、示談の機会を奪ったわけではないので、放置したわけではない
〇損害賠償額全額を加害者社員に請求することはOK(会社勝訴)

この裁判のポイントは

○暴行傷害が仕事の延長線上にあるかないか?
○会社の対応はどうであったか?

という点です。

今回の裁判例でも加害者社員は「被害者社員の勤務態度」という点から業務との関連性を主張していましたが、裁判所の判断は「仕事とは無関係」とし、そのため、全額請求が可能との判断を下しています。

このことは民法で規定されていて、該当条文は以下となっています。

第715 条

  1. ある事業のために他人を使用する者は、被用者が その事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
  2. 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
  3. 前2 項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

これに関する他の裁判例には下記があり、これらは「会社も責任あり」と判断されています。

〇工事現場でのこぎりの受け渡しをめぐっての口論から暴行事件となった( 最高裁 昭和 42 年 6 月 30 日)
〇作業手順をめぐりトラブルとなり、同僚に負傷させた(大阪地裁 昭和58 年1 月28 日)
〇調理場で水しぶきがかかったとケンカになり、刺殺した(東京高裁 昭和58 年8 月31 日)
〇インクカートリッジの注文を指示した口調等に端を発した暴行事件(大阪高裁 平成14 年8 月29 日)

その際の損害の分担はケースバイケースですが、社員に請求を求めるのは、その一部にとどめるべきであるとの判断もあるのです(茨城石炭商事事件 最高裁 昭和51 年7 月8 日)。

しかし、冒頭の裁判例同様、以下の場合は損害賠償全額を社員に求めることが認められる可能性が高いのです。

〇セクハラ
〇パワハラ
〇業務と関係のない暴力行為

このような行為は最終的には加害者が責任を取ることとなっており、会社が損害賠償を請求した場合、その全額を請求できるのです(ただし、セクハラ等で事後対応に問題があった場合、会社の責任が追及された裁判もあるので、これも注意が必要です)。

この場合、会社としては社員の管理について「監督について相当の注意をしたとき、または、相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない(=会社の責任はない)」となっています。

よって、以下を実施していることが最低条件となってくるのです。

○就業規則等を作り、きちんと運用している
○労務管理を確実に実行している

トラブルが起こらないようにすることがベストですが、仮に、発生しても「会社としてきちんと管理している」ことでリスクが軽減されるのです。
多くの会社はこの「レッスン1」に適正さを欠いているのです。まずは、ここから始めましょう。

 

ライター紹介

内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)

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