配置転換

職種限定の社員を配置転換してもOKか?

自動車整備士のお仕事・労務について労務相談室

せいび界2014年9月号Web記事

Q、職種限定の社員を配置転換してもOKか?

フロントを担当している女性社員が退社することになった。このところ入庫台数も減ってきており、新たに雇うのも厳しく、それならば余り気味の整備士の一人をフロントに配置転換し、整備に詳しいフロントとして売り物にしようとしたところ、「自分は接客は苦手だし、そもそも整備士限定ということで雇われたのだから納得できません」と言われてしまった。彼をフロントに回すことはできないだろうか?

A、

社員を採用する際、業務内容や勤務場所を限定していることもあります。例えば、募集要項に「プログラマー募集」「デザイナー募集」「ドライバー募集」等と記載している場合です。

ただし、入社後に配置転換をしたい状況に至ることもあり得ます。こういう場合に「募集時に職種が限定されている」と主張され、配置転換を拒否されるケースが多くあるのです。

実際、労働基準監督署での相談でも「配置転換を含む労働条件の相談」はいじめ、嫌がらせ、解雇、退職勧奨に次いで多い相談になっているのです (厚生労働省「平成24年度個別労働紛争解決制度施行状況」)。

実際に「ドライバーで募集し、入社3年が経過した社員がいますが、物流の仕事が減少したので他の業務に異動を考えています。法的に問題があるでしょうか?」とのご相談を頂いたこともあります。

これは人事異動なので法的には問題ないようにも思えますが、よく考えてみる必要があります。これに関する裁判が以下となっています。

<エバークリーン事件 千葉地裁松戸支部 平成24年5月24日>

社員はドライバーとして車の運転とドラム缶の積込み等に従事していましたが、作業中に左膝を痛めて自宅療養となりました。ドライバーへの復帰は無理と会社が判断し、工場勤務を命じ、それに伴い給料が約27万円から約16万円となった。社員は「ドライバー職に限定して契約したので、配置転換は契約に反している」と主張して裁判所に配置転換無効を訴え、差額賃金の支払いを求めた。

裁判所の判断

○ドライバーと他の職種では就業規則、賃金規程が別になっており、どちらにも「業務の都合により配置転換を命ずる」という記載があり、実際に、年間に数人のドライバーが工場へ異動している

○社員の同意がなくても、就業規則に配置転換命令の記載があるので、無効ではなく、社員の身体状況(積荷の上げ下げができない)を考えれば、従業規則に従った相当の異動と考えられる

○配置転換命令の必要性あり(会社側勝訴)

この裁判のポイントは

○就業規則に配置転換の記載がある
○職種間の配置転換の実績もある
○異動の必要性もある

ということです。

逆に、就業規則に記載があっても、配置転換の実績がなければ、「なぜ今回だけ」となり、結果は違っていたかもしれません。

しかし、この裁判では就業規則の記載、過去の実績、社員への安全配慮から「配置転換の必要性あり」ということで、会社の主張が全て認められているのです。

専門職等の場合は、当初から「自分はこの仕事だけ」と考えているので、他の業務への異動にアレルギー反応をしてしまうこともあります。

ただし、裁判の判決等では職種等を限定してしまうと適宜に職種変更ができなくなり、雇用の機会が減少してしまうので、職種限定の認定は慎重にされています。

実際に、日産自動車村山工場事件(最高裁 平成元年12月7日)では、「機械工以外の職種には就かせないという趣旨の労働契約ではない」と判断しています。

また、九州朝日放送事件(福岡高裁 平成8年7月30日)でも、アナウンサーの配置転換で「長年、アナウンサー業務に就いていただけで、配置転換の拒否はできない」とされています。

上記3つの裁判の詳細をみていくと、
○専門性
○求人時の記載内容、採用面接による会社側の言動
○採用後の勤務状況
○就業規則などの記載内容
○社内の配置転換の状況
○配置転換の相当性

を考慮して、職種限定の是非を判断しています。
配置転換のトラブルを防ぐには就業規則に具体的な記載が必須ですが、入社時の説明と労働契約書にも「異動、配置転換の可能性がある」旨を明示するべきでしょう。

この「入社時の説明」ですが、裁判での判断材料にもなるので、 「口頭だから、適当でいいや」ではなく、労働契約書にも明記し、それをきちんと口頭にて説明する必要があるのです。

ここは単純な話ですが、トラブル防止には必要なステップなのです。

 

ライター紹介

内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)

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