持病と労災の境界線は?&これってパワハラ?

2015年8月4日

自動車整備士のお仕事・労務について労務相談室

せいび界2013年12月号Web記事

Q、持病と労災の境界線は?

ある社員から「仕事のせいで精神的ダメージを受け、飲んでストレスを発散していたらアルコール中毒になりました。これって労災に該当しますよね?」と言われた。しかし、この社員は元々精神的に弱い人間なのだが、これは労災に該当するのだろうか?

A、

このような精神疾患に関するご相談はとても多いのですが、ご質問のように持病との境界が微妙な場合もよくあります。確かに、仕事のプレッシャーもあったかもしれませんが、だからといってお酒の飲み過ぎが労災かといえば疑問が残ります。

「仕事のせいでアルコール中毒になった」と言われても、過大な残業時間がなければ、労災は認められないでしょう。他にもし、過大な残業で疲れ果て、精神的に疲弊している社員がいるならば、業務命令で残業を禁止してください。これに関する裁判があります。

<フォーカスシステムズ事件 東京高裁 平成24年3月22日>

○平成15年4月にSEで入社した社員が、入社2年後から4年目にかけて、月100時間の残業をしていた
○平成18年8月には残業が130時間を超えていた
○平成18年9月に無断欠勤をし、その後、自宅と職場から離れた京都にて急性アルコール中毒で死亡
○平成19年10月、中央労働基準監督は労災を認定
○平成20年1月、遺族は会社に1億円の損害賠償を求め、裁判を起こした
○死亡した社員は帰宅後にゲーム等に時間を費やしており、自ら不調の申し出は行わなかった
→死亡した社員が睡眠不足を解消する努力を怠った
○社員側にも落ち度があるので、過失相殺として2割を減額
○平成23年3月、地裁で損害賠償5,960万円の支払いを命令

そして、会社はこれを不服として控訴し、高裁の判断は以下のようになったのです。

○社員の残業は、死亡1カ月前は約112時間、2カ月前も約105時間と過重な心理的、肉体的負荷があった
○死亡直前の平成18年9月上旬に気分障害、解離性遁走※を発症
※解離性遁走とは、突然、不意に家や職場から遠くへ旅立ってしまい、過去を思い出すことができない病気
○業務以外に発症の要因は見つからない
○会社の業務から発症と認めた(=会社の安全配慮義務違反)
○社員側にも落ち度分の過失相殺を2割から3割に上げた
○原告の勝訴、損害賠償金約4,380万円の支払いを命じた

特筆することは「精神障害を原因とする急性アルコール中毒による死亡」に対して、会社の法的責任を認めたことです。

そして、死亡した社員が「睡眠不足を解消する努力を怠った」ということも考え、過失相殺の割合を高裁で増加しているという点です。この裁判では、

○会社の業務により心身の健康を害した部分
○本人の行動に起因する部分

を明確に分けています。ただし、損害賠償金の発生原因そのものは「過大な残業時間」という判断になっているのです。

冒頭のご相談に戻りますが、「仕事のせいでアルコール中毒になった」と言われても、同じ残業時間、労働内容でも精神的におかしくなる人、ならない人がいます。ただし、それは外形的には分からないので、少しでも「おかしい」と感じたならば、残業禁止命令を出す
べきなのです。

ちなみに、厚生労働省から出ているリーフレットでは、社員が自分で疲労蓄積の自己診断ができるチェックリストがあります。それによると、

○1カ月の残業時間が多いか少ないか
○不規則な勤務か
○出張が多いか
○休憩や仮眠の時間数はどうなっているか
○仕事についての精神的負担はどうか
○仕事についての身体的負担はどうか

などの注意点が掲げられています。

これを点数化して疲労度を測るもので、残業時間の多少は「疲労の最大の原因」となっているのです。過大な残業時間はそれだけで会社の「安全配慮義務違反」となります。

上記の裁判では当初の損害賠償請求額は1億円でしたし、過労死の事例では同様のものが多いです。1億3,000万円の支払い命令が出た裁判例もあります。残業が非常に多いということは1人当たり1億円のリスクが隠れているといっても過言ではないでしょう。

 

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