EV電池の回収体制づくりが始動、JARS大改造を活用──自動車リサイクル報告書(案)を読む【第3部・完結】

自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書(案)を読み解くシリーズの最終回。第3部では、EV時代の最大の焦点である使用済車載用蓄電池(LiB)の回収・再資源化、令和8年1月に稼働した大規模改造後のJARSの活用、そしてカーボンニュートラルとレアメタルへの対応を取り上げる。最後に、3本柱を貫く「今後の検討スケジュール」を一覧で整理し、シリーズを締めくくる。

使用済車載用蓄電池(LiB)──排出本格化を前にした体制づくり

電動車の普及が進むなか、報告書(案)が制度の「転換点に関わる論点」と位置づけたのが、使用済車載用蓄電池への対応だ。使用済自動車として引き取られたハイブリッド車・電気自動車は令和6年度で年間約12万台、使用済自動車全体の約5%を占める。今後は使用済電動車の排出増加とともに、LiBの排出も本格化する。環境省の推計では、使用済電動車由来のLiB排出量は2030年度に年間約13万個、2040年度には年間約40万個へと増加する見通しだ。

現在、使用済自動車の車載用LiBは解体業者に回収義務があり、有価で販売できるものは販売され、廃棄処分とする場合は、自工会が構築し自再協が窓口となる「LiB共同回収スキーム」により回収・再資源化されている。令和6年度は13,232個の使用済LiBを回収した。電動車の立ち上がり段階のセーフティネットとして一定の効果を上げてきたが、報告書(案)は制度上の課題を率直に挙げている。回収・再資源化費用を加入メーカー各社が自主的に負担しているため、排出量が増えた際に退会するメーカーが出るリスクや、国内市場から撤退するメーカーが現れた場合に処理費用が確保されないリスクがある。共同回収スキームに加入せず個別回収も行わないメーカーの電動車については、解体業者に高額な費用負担が生じ、不法投棄につながるおそれも指摘された。加えて、損傷したLiBの発火・発煙リスクへの安全管理の強化、資源価値の低いリン酸鉄系LiBの流通増による廃棄処分増の懸念もある。

こうした状況を踏まえ報告書(案)は、使用済車載用LiBの適正かつ持続可能な回収・処理体制の構築と、リユース・リサイクルの計画的な推進に向けて、早期の検討着手が不可欠だとした。具体的には、電動車の普及やLiB排出の見通し、リビルト・リサイクル技術の動向、共同回収スキームの持続可能性や撤退リスク、廃棄LiBの安全性、国内産業への影響などを調査・分析したうえで、関係者が集中的に議論する作業部会を令和8年度中に設置するとした。なお、LiBにはリチウム・ニッケル・コバルト等の重要鉱物が含まれ、経済安全保障や電池エコシステム構築の観点からも資源としての重要性が高く、適正処理だけでなく国内資源循環の高度化と一体で取り組むべきテーマとされている。解体業者にとっては、安全な取り外し・保管・引き渡しの実務がますます重要になる。

大改造JARSの活用──データで「不適正」を可視化する

自動車リサイクル制度の基幹インフラであるJARS(自動車リサイクルシステム)は、利便性向上・業務効率化・高度なセキュリティ対応などを目標とした大規模改造を経て、令和8年1月に運用を開始した。リサイクル券の電子化、キャッシュレス決済の導入、外部システムとの連携、提供情報の拡充などの新機能が加わっている。

整備・解体の実務に関わる点では、解体・破砕業者への車載用LiB等の装備情報の提供や、自治体が事業者の稼働状況・遅延・違反状況から指導・立入検査の対象を抽出・選択しやすくするデータの提供が可能になった。さらに、①車種や燃料区分など様々な切り口での預託・保有・引取・輸出台数の抽出、②LiB搭載車の預託・引取・輸出と取り外したLiBの動向把握、③資源回収インセンティブ制度開始後の稼働状況の可視化、といった新機能も備える。第1部で触れた廃車ガラの不適正輸出対策(装備変更率の高い事業者の表示)も、この大改造機能が前提だ。報告書(案)は、これらのデータを不適正事業者への対応や資源回収インセンティブ制度の推進に有効利用するとともに、JARSに蓄積された有益なデータの利活用について、JARCを中心に効果的な分析・提供の在り方を令和8年度から検討するとした。

カーボンニュートラルとレアメタル──静脈産業の脱炭素と資源確保

令和6年8月に閣議決定された第五次循環型社会形成推進基本計画では、使用済自動車の解体・破砕・ASR処理プロセスの脱炭素化や、製造段階での再生材利用促進を通じたライフサイクル全体での資源循環が示された。これに先立ち、令和4〜6年度に開催された「自動車リサイクルのカーボンニュートラル及び3Rの推進・質の向上に向けた検討会」では、自動車リサイクル各工程のGHG(温室効果ガス)排出量を試算し、「解体・破砕業者向けGHG排出量削減の手引き」を作成。今後は、手引きや削減方策の実効性を確認するとともに、解体・破砕・ASR再資源化の各工程の排出実態を定量的に把握することが求められる。

もう一つの焦点がレアメタルだ。電動車の駆動用モーターに使われる永久磁石には希少なレアアースが含まれるが、現状では使用済自動車等からの回収量が限定的だ。報告書(案)は、回収・選別技術の高度化や、回収した磁石からのレアアース分離精製などの技術開発・検討の重要性を指摘し、永久磁石リサイクルのスキーム確立を含め、国内資源循環の強化に向けた取り組みや支援策の検討を求めた。鉄スクラップや非鉄に続き、レアアースの「都市鉱山」としての使用済自動車の価値が、あらためて問われている。

おわりに──5年後の次回見直しへ、段階的に

報告書(案)は結びで、今後は本報告書を基に国内資源循環の推進に向けて自動車リサイクルが一層推進されるよう、国および自動車メーカー、解体業者等の関係者が連携して各施策を着実に実行していくことが求められるとした。使用済自動車の流通構造の変化や電動化の推進が、これからの自動車リサイクルの在り方に大きく影響することを踏まえ、重要性・緊急性の高い課題は速やかに検討に着手しつつ、制度内外の動向も踏まえて段階的に取り組みを進める方針だ。そのうえで、今後も定期的にフォローアップを行い、遅くとも5年後を目途に、必要と判断される場合は速やかに、改めて評価・検討を行うことが適当だとしている。

つまり、今回の報告書(案)は「結論」ではなく、多くの論点について令和8年度から本格的な検討を始める「号砲」という性格が強い。整備・解体業界に関わる事業者にとっては、決まったことを確認するだけでなく、これから議論される論点に意見を反映させていく局面でもある。

【シリーズ総括】令和8年度から動き出す主な検討事項

1.制度の安定化・効率化(第1部)

  • 解体業許可基準への「知識・技能要件」導入の準備開始(JARC主体の講習・検定の検討を含む)
  • 使用済自動車判別ガイドライン・中古車輸出通知の点検・見直しの開始
  • 廃車ガラの不適正輸出抑止に向けた証憑保存・提示等の追加対策の検討開始

2.国内資源循環の推進(第2部)

  • 資源回収インセンティブ制度の定着・活用促進に向けた対応の検討
  • 再生プラスチックの流通量拡大に向けた対応の検討継続
  • ASR「2チーム制」統合の検討開始

3.発展的・横断的要素(第3部)

  • 使用済車載用LiBの適正処理体制を議論する作業部会の設置
  • 大改造JARSの蓄積データの利活用の在り方の検討
  • GHG排出実態の把握・フォローアップ、ベースメタル・レアメタルの国内資源循環強化の検討

3部にわたり報告書(案)を読み解いてきた。施行20年を迎えた自動車リサイクル制度は、「適正処理」の安定運用を土台としつつ、「国内資源循環」と「電動化への対応」という二つの大きな波に向き合う局面に入った。次回の評価・検討は遅くとも5年後。それまでの間に積み重ねられる検討の一つひとつが、整備・解体の現場の明日を形づくっていく。

※本記事は、第66回合同会議(令和8年6月9日)に示された「自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書(案)」に基づく。数値・記述は同報告書(案)による。報告書(案)は今後の手続を経て確定される見込みで、確定版で記載が変わる可能性がある。

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