第136回 EUの中古車貿易構造の把握:ロシア・東欧方面を中心に

山口大学国際総合科学部 教授 阿部新

1.はじめに

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻から半年が過ぎた。各国の経済制裁やその対抗措置などにより、食料やエネルギーなどの貿易に大きく影響があることは周知のとおりである。日本の中古車貿易については、阿部(2022c)において、日本からロシア向けの輸出の影響を概観した。そこでは多少の影響は観察されたものの、報道されるほどの市場の縮小は感じられなかった。

一方、欧州の中古車貿易はどうなっているだろうか。筆者はこれまでEUの中古車輸出台数も算出してきた。近年ではアフリカ向けを中心に集計し、その際にデータに外れ値を含む可能性があることを指摘するなどして精緻化を試みた(阿部,2020;2022a;2022b)。また、EU域内の中古車流通量については、貿易統計では正確に捉えられないことも確認した。それによりEUの中古車貿易の構造が徐々にわかってきている。

しかし、まだ全体的にわかっているわけではない。ロシア・東欧方面については、以前、リトアニアが重要な拠点であったことは確認した(阿部,2017)。そこでは、カザフスタン向けなどが大幅に減少し、同国からの輸出が急激に縮小していることは把握している。それから5年ほど経つが、この方面の状況がどのようになっているかはわかっていない。

本稿では、このような背景のもと、EUの中古車貿易構造について、主としてロシア・東欧方面向けに注目する。また、ウクライナ向けの中古車貿易が今年に入ってどのように変化しているかを確認する。

 

2.EUの中古車輸出台数の規模

まず、EU全体の中古車輸出台数の規模を改めて確認する。図1は2002年~2021年までの、EU27か国からの中古車輸出台数(バス、乗用車、貨物車)の推移である1)2)。これを見ると、EUの中古車輸出は大まかに、年間100万台前後で推移していることがわかる。傾向としては、2012年をピークに減少し、2016年を底として増加に転じている。2020年は新型コロナウィルス感染症の影響と思われる減少がある。2021年もそれなりに影響があったはずだが、2019年を上回る数量となっている。

図1では、各年の数量について主な輸出国別に区分している。ここで示されている主な輸出国は、直近10年間(2012年~2021年)の合計上位国である。この期間の統計上のEU全体の合計は1,076万台であり3)、このうち、ベルギー(317万台、29%)とドイツ(268万台、25%)で過半数を占めている(カッコ内の割合はEU全体におけるそれぞれの国のシェア。以下同様)。これに続くのがスロベニア(113万台、11%)、オランダ(74万台、7%)、リトアニア(62万台、6%)、ポーランド(56万台、5%)である。

2021年のみで見ると、ドイツのシェアが上記の直近10年間のものよりも低くなっており(20%)、ベルギー、ドイツで49%のシェアとなっている。オランダ(6%)、リトアニア(5%)もシェアを下げている。これに対して、スロベニア(15%)、ポーランド(11%)のシェアは高くなっている。ポーランドは2016年の時点でリトアニアの台数を上回っており、この地域の輸出拠点として存在感を示すようになっている。その後も増加し、2020年、2021年はリトアニアの2倍を超える台数を計上している。

いずれにしろ、スロベニア、リトアニア、ポーランドのように中東欧のEUの玄関口とも言える国が上位に位置していることがわかる。ここからどこに行くかである。

図 1 EUの中古車輸出台数の推移

出所:Eurostatより集計したもの

注:バス、乗用車、貨物車の合計。EUはイギリスを除く27か国。

 

図2は、直近10年間(2012年~2021年)のEUからの中古車輸出台数の合計について、主要仕向地別に示したものである。図にあるようにベナン、セルビア、ウクライナ向けが多く、それぞれ10年間の合計で100万台程度となっている。アフリカ諸国は、ベナンのほか、ナイジェリア、リビア、ギニア、カメルーンなど9か国が上位20か国に含まれている。他には、南東欧(ボスニアヘルツェゴビナ、北マケドニア、アルバニア)、ロシア、東欧(ジョージア、ベラルーシ)、中央アジア(タジキスタン)の国が上位に位置する。

また、図2では10年間の合計を2012年~2016年、2017年~2021年に分けている。直近5年間(2017年~2021年)では、ベナン向けは多くはなく、8番目の仕向地となっている。これに対してウクライナ向けが直近では最大である。図にはないが、ウクライナは、2019年、2020年、2021年と3年連続でEU最大の仕向地になっている。

図2に示されているように、ウクライナは、直近10年間の輸出台数の合計に対して、直近5年間の合計の割合が66%である。他にはギニア(61%)、セネガル(64%)、アルバニア(68%)なども直近5年間の合計の割合が高い。これに対して、ベナン(15%)のほか、ベラルーシ(22%)、ロシア(6%)、タジキスタン(26%)などは直近5年間の合計の割合が低い。つまり、ウクライナとベラルーシ、ロシア、タジキスタンは対照的な動きとなっている。

図 2 EUの直近10年間の中古車輸出台数(仕向地別)

出所:Eurostatより集計したもの

注:2012年~2021年のバス、乗用車、貨物車の合計。EUはイギリスを除く27か国。

 

3.スロベニア、リトアニア、ポーランド

次に中東欧に焦点を当てる。図1で見たように、EU27か国のうち、中東欧では、スロベニア、リトアニア、ポーランドが主要輸出国となっている。まず、図3は、スロベニアの中古車輸出台数の推移である。これを見ると、同国からの輸出は右肩上がりの増加傾向と言える。2000年代後半から2010年代前半の同国からの輸出は、年間10万台を下回っていたが、2010年代後半には10万台を超えるようになり、2021年は18万台程度になっている。

直近10年間(2012年~2021年)のスロベニアの中古車輸出台数の合計は113万台であり、このうち、仕向地ではセルビア向けが55%の62万台となっている。それに続くのがボスニアヘルツェゴビナの28万台(25%)である。この結果、同期間ではこの2か国で80%を占めている。尤も、この2か国はそれ以前も合計でシェアが80%を超えている。これらは阿部(2017)においても確認されており、状況は変わっていない。

地図を見るとわかるが、セルビア、ボスニアヘルツェゴビナはスロベニアと国境を接していない。同じEU加盟国では、セルビアはハンガリー、クロアチア、ルーマニア、ブルガリアと、ボスニアヘルツェゴビナはクロアチアと国境を接している。そのため、単純に考えると、ハンガリーやクロアチアなどからの輸出台数のほうが多いように思うが、そうはなっていない。

直近10年間のセルビア向けの輸出台数の合計について、スロベニアからは62万台である。ハンガリーはEUで2番目のセルビア向けの輸出国ではあるが、スロベニアの4分の1の規模(15万台)である。クロアチアからは10年間で1.7千台でしかない。同じくボスニアヘルツェゴビナ向けについても、スロベニアからの28万台に対して、クロアチアは4万台である。スロベニアにおいてマーケットが機能しやすい何らかの優位性があるのだろうか。なお、ボスニアヘルツェゴビナ向けについて、クロアチアは、ドイツ(8万台)、オランダ(5万台)に続く第4番目の輸出国である。セルビア向けと異なり、ほどほどに輸出されているところは興味深い。

スロベニアの仕向地として、セルビア、ボスニアヘルツェゴビナに続くのがモンテネグロ、アルバニア、北マケドニア、コソボである。図3を見てもわかるように、上記2か国と比べると数量は多くはない。これを見て、上記2か国内の需要が大きいかどうかである。セルビア、ボスニアヘルツェゴビナが中継貿易拠点となり、さらに周辺国に輸出される構造も考えられる。

なお、図3を見ると、アルバニア、北マケドニア、コソボなど向けの輸出はこの数年で大幅に拡大していることがわかる。例えば、アルバニア向けは、2017年は618台であったが、2021年は2.5万台にもなっている。いずれにしろ、スロベニアからの中古車輸出は拡大傾向にあり、セルビア、ボスニアヘルツェゴビナを含む近隣の南東欧諸国に輸出されていることがわかる。

図 3 スロベニアからのEU域外向け中古車輸出台数の推移(主要仕向地別)

出所:Eurostatより集計したもの

注:バス、乗用車、貨物車の合計。主要仕向地は2012年~2021年の合計の上位6か国

 

 

図4はリトアニアからの中古車輸出台数の推移である。これを見ると、スロベニアのような傾向は見られない。「2014年まで」と「2015年以降」で全く別のグラフのようにも見える。同国は、かつてはEU域外向けに年間10万台を超える中古車を輸出していた。2007年は35万台、2008年は25万台である。しかし、2015年に2万台に急激に減少し、2015年から2018年までは年間2万台前後で推移している。直近の2019年~2021年は年間5万台程度と回復傾向にあるが、それでも2014年までの数量と比べると多くない。

直近10年間(2012年~2021年)のリトアニアからEU域外向けの中古車輸出台数の合計は62万台である。このうち、タジキスタン(18万台、29%)とキルギス(13万台、21%)向けで全体の半数を占める。これにベラルーシ(12万台、19%)、ウクライナ(8万台、14%)、ロシア(6万台、10%)、カザフスタン(2万台、4%)が続いており、この6か国で96%を占める。大方予想できるように、同国からは中央アジア、東欧、ロシア向けに輸出されている。

同国からの輸出を2014年までの8年間(2007年~2014年)、2015年以降の7年間(2015年~2021年)の2つに分けて考えてみる。2014年までの8年間は150万台輸出されており、そのうちベラルーシのシェアが最も高く(31%)、それにカザフスタン(23%)、タジキスタン(18%)、キルギス(13%)が続いている。ロシアはこの時点でもさほどシェアは高くなく、12%である。単年で見ると、2010年、2011年はベラルーシ向けの存在感が大きく、ベラルーシ向けのシェアは50%程度にもなっている。

一方で、2015年以降の7年間を見ると、合計でわずか22万台である。全体的に縮小している中で、ウクライナ向けの輸出が拡大している。同国向けは、2014年までの8年間は2万台であったが、2015年以降の7年間は7万台である。2020年、2021年のウクライナは、キルギスやタジキスタンを抜き、リトアニアからの最大の仕向地となっている。その結果、2015年以降の7年間の合計で、ウクライナのシェアは33%と最も高い。

これに対して、ベラルーシやカザフスタン、ロシア向けのシェアは縮小している。先に示したように2014年までの8年間の合計で、それぞれのシェアは31%、23%、12%だったが、2015年以降の7年間の合計でそれぞれのシェアは17%、2%、2%と大きくシェアを落としている。

なお、2007年はカザフスタン向けが16万台にもなっている。これを見ると外れ値を疑うのだが、より細かく見るとそういうわけでもなさそうである4)。カザフスタン向けはかつて活況であったが、大幅に縮小したと考えるのが自然である。

図 4 リトアニアからのEU域外向け中古車輸出台数の推移(主要仕向地別)

出所:Eurostatより集計したもの

注:バス、乗用車、貨物車の合計。主要仕向地は2012年~2021年の合計の上位6か国

 

 

図5は、ポーランドからの中古車輸出台数の推移である。同国からの輸出は、2010年代前半までは年間5万台前後で推移していたが、2015年に1万台の水準に低迷した。その後数年は緩やかな増加傾向だったが、2019年以降、急激に市場を拡大し、2021年は13万台にもなっている。

同国の仕向地を見ると、リトアニアと同様に、2007年にカザフスタン向けが多く、その後縮小している。また、2010年、2011年はベラルーシ向けの存在感が大きく、それぞれ全体の71%、53%のシェアとなっていた。それ以降、ベラルーシ向けは縮小するが、代わりにウクライナ向けの存在感が増している。これもリトアニアからの輸出と同じような動きである。

ポーランドからの直近10年間の中古車輸出台数の合計は56万台である。このうち、ウクライナ向けは44万台で全体の79%も占めている。それにベラルーシ(4万台、7%)、ロシア(2万台、3%)、ジョージア(1万台、2%)、モルドバ(1万台、2%)が続いている。ポーランドの2019年、2020年、2021年はウクライナ向けが90%にもなっている。いずれにしろ、同国からの輸出は現時点では近隣諸国向けが中心である。

図 5 ポーランドからのEU域外向け中古車輸出台数の推移(主要仕向地別)

出所:Eurostatより集計したもの

注:バス、乗用車、貨物車の合計。主要仕向地は2012年~2021年の合計の上位7か国

 

 

4.ロシア・東欧・中央アジア向け輸出

本節では、ロシア・東欧・中央アジアに焦点をおいてその構造を見ていく。図6はEU27か国からロシア・東欧・中央アジア主要国向けの中古車輸出台数の推移である。対象国は、ロシア、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバ、ジョージア、アルメニア、アゼルバイジャン、カザフスタン、タジキスタン、キルギス、トルクメニスタン、ウズベキスタンの計12か国としている。図には、リトアニアやポーランドなどがEUに加盟する2004年よりも前のデータも含まれている。

これを見ると、この地域向けの輸出は2007年に70万台近くまで増加し、この年をピークに減少に転じている。2009年以降はやや持ち直したものの、2014年から2015年にかけて大幅に減少し、2015年は10万台を下回った。それ以降は増加傾向と言える。

輸出国では、かつてはリトアニアがこの地域の市場をけん引してきたことがわかる。そのシェアは2009年まで50%前後である。ただし、2010年頃からリトアニアのシェアは低くなっており、2015年以降は20%前後に落ち込んでいる。また、ドイツはリトアニアに続いてこの地域向けの中古車の主要輸出国である。最近はかつてより減少したものの、リトアニアほどには大きく減少しておらず、コンスタントに輸出している。

そのような中で、先に示したようにポーランドがこの地域向けに存在感を出してきており、2019年以降はこの地域向けの最大の輸出国となっている。なお、2021年はベルギーの輸出の増加が観察されるが、これは外れ値を含む可能性があるため、ここでは評価しない5)

図 6  EUからロシア・東欧・中央アジア向け中古車輸出台数の推移

出所:Eurostatより集計したもの

注:バス、乗用車、貨物車の合計。EUはイギリスを除く27か国。対象の仕向地はロシア、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバ、ジョージア、アルメニア、アゼルバイジャン、カザフスタン、タジキスタン、キルギス、トルクメニスタン、ウズベキスタンの12か国

 

図7は、図6と同じ数量を仕向地で区分したものである。これを見るとわかるように、2000年代半ば過ぎぐらいまでは、ロシア、カザフスタンのシェアが高い。ロシアは2005年まではこの地域の最大の仕向地であった。その後、カザフスタン(2006年、2007年)にその座を奪われている。全体的に2007年をピークに減少に転じたが、その間にロシア、カザフスタンの代わりにベラルーシの存在感が増している。ベラルーシは、2008年~2011年の4年間、この地域の最大の仕向地である。2012年以降はウクライナがシェアを伸ばし、2015年には全体的に減少したものの、直近の増加傾向をけん引しているのが、ウクライナである。

ロシアは、2009年に2万台と大幅に減少した後、2012年に10万台に持ち直したものの、その後は低迷し、2015年以降は5千台にも到達していない。また、直近では、ウクライナとともにジョージアもシェアを高めている。同国向けはリトアニアやポーランドからはあまり輸出されておらず、前節では確認できなかったが、ドイツやベルギーなどから輸出されている6)。同国へは日本からも多く輸出されてきたことから、その数量は注目される。いずれにしろ、過去20年間においてロシア・東欧・中央アジアの中古車輸出の構造は輸出国、仕向地ともに変わりつつある。

図 7  EUからロシア・東欧・中央アジア向け中古車輸出台数の推移

出所:Eurostatより集計したもの

注:バス、乗用車、貨物車の合計。EUはイギリスを除く27か国

 

 

5.ウクライナ

最後にウクライナを見ていきたい。図8は、ウクライナの直近15年間の中古車輸出台数の推移を示したものである。先に示したようにウクライナはベナン、セルビアとともに主要の仕向地であり、直近5年間の合計でEUの中古車輸出の最大の仕向地となっている。図8を見ても、同国向けの輸出が好調である様子はわかる。ただし、変動があり、2015年までは下降傾向であった。

また、2015年以降の増加傾向は、ポーランドからの輸出が全体を引っ張っていることがわかる。直近10年間の合計でポーランドからの輸出は46%を占める。2019年、2020年、2021年は60%前後であり、そのシェアを高めている。

ドイツからの輸出は直近10年間の合計で22%のシェアであり、ポーランドに続いて2番目に位置するが、その数量は年間2万台前後で2007年からあまり変わっていない。リトアニアからの輸出は直近10年間の合計で9%であり、オランダの次の4番目に位置する。単年で見るとリトアニアの2020年、2021年の数量はドイツを上回り、ポーランドに続く第2位になっている7)

図 8 EUからウクライナ向け中古車輸出台数の推移

出所:Eurostatより集計したもの

注:バス、乗用車、貨物車の合計。EUはイギリスを除く27か国

 

ウクライナ向けの輸出を月別に見てみたい。月別データは、本稿の執筆時点(2022年8月30日)では、2022年6月までのデータがダウンロードできた。図9はEUからウクライナ向けの中古車輸出台数を月別(2020年1月~2022年6月)に示したものである。これを見ると、同国向けに毎月1.5万台~2万台で推移してきたが、ロシアの侵攻後、2022年3月の輸出実績は、1,555台(対前年比10%)まで落ち込んでいる。その後、4月は2.4万台と大きく増加し、対前年比でも154%となっている。

問題は、2022年5月と6月である。図でも明らかのように、それまでのトレンドから大きく外れており、不自然な数量となっている。まず、2022年5月は79,603台が計上されているが、このうちポーランドからの輸出が67,893台である。品目別に見ると、ポーランドから多いのは1500cc超3000cc以下の中古ディーゼルエンジン乗用車(HSコード:87033290)であり、この月に46,366台が計上されている。この品目の重量は41520.7トンで計上されていることから、1台あたり895.5kgである。そこで、ウクライナ向けの同じ品目の輸出実績から1台当たりの重量の中央値1590.9kgを算出し、それにより輸出台数を推計すると、26,099台に下方修正される。この結果、2022年5月の推計値は59,336台になるが、それでも前年やその前の年と比べると多い。他にも「輸出国・品目」ごとに輸出実績を見てみたが、1台当たりの重量から不自然な数値は見当たらなかった。

次に、2022年6月は統計上281,116台にもなっている。このうち、スロバキアから上記と同じ1500cc超3000cc以下の中古ディーゼルエンジン乗用車(HSコード:87033290)の輸出台数が220,186台計上されている。この輸出における重量は583.7トンであることから、1台当たりの重量2.65kgとなり、何らかの誤りを指摘できる。そこで、同様にウクライナ向けの同じ品目の1台当たりの重量の中央値1590.9kgから、輸出台数を推計すると、367台に大幅に圧縮される。

これ以外には、6月にポーランドから同じ品目(HSコード:87033290)で25,787台の輸出実績が記録されている。これについては重量と対比しても不自然な要素はなかった。他の「輸出国・品目」でも修正を要する輸出実績は見当たらなかったため、これ以上の下方修正はできなかった。これらの作業により、6月の輸出台数の推計値は61,297台になる。図9には、貿易統計の数値を修正した数量(「2022推計」と表記)も示している。

2022年5月、6月の数値は、下方修正したとしても、数量的には多い。これらをどう評価するかである。まず、そもそも表示された台数データとともに、重量データも間違っている可能性がある。本稿では、重量データが正しいという前提で推計台数を示したが、重量データが正しいという保証はない。

また、データは発表されてから間もない点に留意する必要がある。日本においても貿易統計において、確報データから確々報データ、確定データと3回にわたってデータが修正される。速報値が事後的に修正されるのは、他のデータでもよく見かける。筆者はEUの貿易統計をしばしばダウンロードするが、以前ダウンロード、集計したデータが誤差の範囲で修正されていることはある。そのため、今回集計した数値がそもそも誤りであり、今後、データが修正される可能性はある。

一方で、下記の推計が実態に近いとすると、戦時下にある中で増えているということになる。下方修正した推計値であっても、対前年比で5月:421%、6月:406%の増加である。ポーランドのみならず、ドイツやリトアニアからの輸出も増加している。

このようなウクライナ向けの中古車輸出に関して、日本のニュースにヒントがあった。2022年6月1日付のテレ朝ニュースによると、ウクライナでは、ロシア軍との戦闘で多くの市民の車が破壊され、中古車の需要が高まり、世界各地から車が運び込まれているとする。そして、ポーランドの国境の町・メディカの映像が映し出され、戦闘が落ち着いた地域などに帰る人の車とともに、中古車を積んだ多くのトレーラーが列を作り、連日、ウクライナに向かって数キロに渡る渋滞が発生しているとする。さらに、その背景として、4月にウクライナ政府が乗用車の関税を一時的に撤廃したことが示されている。現地記者は、アメリカやドイツから輸入されたものであり、全ての車に買い手が付いていると言及している。

これを見た後、いくつか調べていくとウクライナの輸入関税の免除の記述が出てくる。Visit Ukraine Todayの2022年4月5日の記事をみると、ウクライナでは2022年4月5日に、車両を含むすべての輸入品に対する輸入関税、消費税、および付加価値税の戒厳令中の免除を規定した文書に大統領が署名したとある。これは新車でも中古車でも同じであるとする。同Visit Ukraine Todayの2022年6月5日の記事によると、この規制緩和は4月9日から始まったようであるが、期間限定であり、7月1日に終了する予定であるとする。その後のVisit Ukraine Todayの2022年6月21日の記事では、ウクライナ最高議会が自動車を含む輸入品の関税の支払いを2022年7月1日から再開する関連法案を支持したと言及している。

この期間限定の規制緩和により、中古車の輸入が増大したことは間違いないようである。信頼性は定かではないが、先のVisit Ukraine Todayの2022年6月5日の記事では、規制緩和の開始以来、欧州ナンバーの自動車が14万台以上ウクライナに輸入されたとある。また、同6月21日の記事では16万台とある。Ukraine Open for Businessの2022年6月27日の記事では、6月27日の時点で、21.1万台の自動車がウクライナに入国したと述べる政府関係者の発言を示している。同記事では、7月1日から給付金が廃止されるというニュースが流れた後、自動車輸入のペースが大幅に上がり、6月の平日、1日平均4.7千台の自動車が輸入されているとする。さらに、Ukraine Open for Businessの2022年8月8日の記事では、2022年4月〜6月では、約23.7万台の自動車が輸入されたとある。仮にこれらが正しければ、図9の推計値は実態に近いのかもしれない。さらなる検証と議論が求められる。

図 9 EUからウクライナ向けの月別中古車輸出台数の推移

出所:Eurostatより集計したもの

注:バス、乗用車、貨物車の合計。EUはイギリスを除く27か国。「2022推計」は外れ値を考慮した推計台数である

 

6.まとめ

本稿では、EUの中古車輸出台数について、ロシア・東欧方面に注目して整理した。そこでは、リトアニアからの輸出が縮小する中、ポーランドがリトアニアの数量を上回り、この方面の輸出拠点として存在感を示すようになったことが確認できた。また、仕向地においてはカザフスタンやロシア、ベラルーシ向けの輸出が次々と縮小し、ウクライナ向けの輸出が拡大していることもわかった。ウクライナは、直近ではこの地域のみならず、EU域外の全ての仕向地の中で、EUの中古車輸出の最大の仕向地となっている。これらから、大まかではあるが、「リトアニア→カザフスタン、ロシア、ベラルーシ」という貿易構造が、「ポーランド→ウクライナ」という貿易構造に変わっている。また、リトアニアからウクライナ向けの輸出も緩やかではあるが、増加傾向であり、それらがどのように変化していくかは今後観察しておきたい。

今回、ロシアのウクライナ侵攻により、ロシア・東欧方面にどのような影響があったかを見てみた。とりわけ最大の仕向地となったウクライナ向けの貿易が遮断され、大きく輸出台数が減ったのではないかなどと予想した。確かに侵攻後の2022年3月は減少したものの、その後は減少どころか、不自然に大きく増加していることがわかった。外れ値と思われる数量が含まれていることも確認したが、下方修正しても不自然な数量であり、その数値に頭を悩ました。

これに対して、調べてみると、4月に時限的に規制が緩和され、大量に中古車を輸入しているということがわかった。今回は簡単な記事サーベイでしかないが、これらを見ると、この不自然な数量は実態に近いのかもしれない。非常事態の中、経済的欲望の逞しさを強く感じた。尤も、正確な議論をするには、さらに丁寧な推計作業と記事サーベイが必要である。

阿部(2022c)においては、ロシアのウクライナ侵攻後の日本からロシアの中古車輸出台数を見た。多くの報道では輸出が大きく減少するなどとされていたが、阿部(2022c)が確認した限りではそこまでの減少ではなかった。そして、円安ルーブル高が進んでいることを示し、輸出に追い風になりうることを示唆している。

その後の日本のロシア向けの数値を見ると、対前年比で4月:75%、5月:83%、6月:124%、7月:131%であり、4月、5月に多少の減少はあったものの、6月、7月は増加している。国内の中古車市場との競合による減少もあるため、4月、5月のロシアの減少は必ずしも経済制裁の影響とは限らない。つまり、ロシア向けの中古車輸出は、阿部(2022c)の後も大きな打撃を受けているようには思えない。

今回は、ロシアについては丁寧に見ていないが、日本のようなことはEU側では起きていない。そもそもウクライナ侵攻が始まる前からEUからロシア向けの輸出は縮小しており、月数百台程度の水準で少なく、打撃を受けるほどの状態とは言い難い8)。同じロシア向け中古車輸出でも西側と東側では全く動きが異なることを改めて認識した。

また、今回見たように、中古車貿易の構造は、10年や20年程度のスパンで見ると、緩やかに変わっている。日本でもアフリカ向けのシェアが高まっており、緩やかに構造が変わりつつある。戦争が終わった後、ウクライナの国内経済はどうなるか、ロシア・東欧方面の中古車輸出の構造がどうなるかである。引き続きこの方面についても観察していきたい。

以上

 

謝辞

本研究はJSPS科研費JP20K12299、JP22H00763の助成を受けたものです。

 

脚注

  • この数量は貿易統計上の数値を集計したままのものであり、外れ値を含む可能性がある。念のため、EUからの輸出台数について「年、品目、仕向地」の組み合わせ別に確認したところ、1台あたり100kg以下の数量は全ての年で検出された。その数量の合計は、多くの年で1万台~2万台程度であり、最大で2019年の6万台である。それらは推計により、1%~6%に圧縮されるが、そのままの数値を用いても図1の議論においてはあまり影響がないと考えられる。そのため、本稿では議論に影響しない限り、貿易統計上の数値を用いることとする。
  • EUは時代とともに加盟国が変わっており、図1には加盟前のデータも含まれている。本稿でも取り上げたスロベニア、リトアニア、ポーランドは、キプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、マルタ、スロバキアとともに2004年にEUに加盟している。その他、2007年にブルガリアとルーマニア、2013年にクロアチアが加盟している。また、2020年にはイギリスが離脱している。
  • 同じダウンロードデータを用いて2010年~2019年の10年間の合計を算出すると、1,079万台となった。これは阿部(2022b)での集計値と一致している。
  • 具体的に品目別に見ると、2007年にリトアニアからカザフスタンには、1500cc超3000cc以下の中古ガソリンエンジン乗用車(統計品目番号:87032390)が152,375台計上されている。その重量(195,807.8トン)を台数で割ると1台あたりの重量は1285kgと算出される。この限りでは問題と思えない数値であり、外れ値を疑うことができない。尤も、月別などより細かく見れば、別の何かが見えてくるかもしれないし、重量も含めて統計そのものの集計ミスの場合も想定される。リトアニアからのカザフスタン向け輸出に注目する際には必要な作業であるが、本稿では特に重視しないため、その検証は省略する。
  • 具体的には、2021年のベルギーからジョージア向けの1500cc以下の中古ディーゼルエンジン乗用車(HSコード:87033190)の輸出実績は重量6トンに対して台数は21,551台(1台あたり161kg)となっており、他の年を見るなどしても台数が過多となっている可能性がある。同じく1500cc超2500cc以下の中古ディーゼルエンジン乗用車(HSコード:87033190)も重量3359.4トンに対して台数は22,747台(1台あたり148kg)となっている。本稿ではこれには特に注目しないため、推計作業は省略する。
  • 脚注5)でも示したが、2021年のベルギーからジョージアの輸出は外れ値が含まれる可能性があり、その数量は下方修正されうる。
  • 図8において2010年に「その他」の数量が前後の年と比べると大きいが、これには外れ値が含まれうる。具体的には、2010年にチェコからウクライナに2,500cc超のバスの中古車(統計品目番号:87021019)の18,005台の輸出実績があるが、前後の年は10台以下であり、2010年のみ極端に多い。また、1台あたりの重量は他の年が10トン以上であるのに対して2010年は8kgである。今回は修正を施さないままの数値を示すが、これが全体の議論に大きく影響することがあれば、丁寧に修正すべきである。
  • 2014年のクリミア併合の影響があるのかもしれないが、それらの整理は今後の課題である。

 

参考文献

  • 阿部新(2017)「欧州の中古車輸出市場の現状」『月刊自動車リサイクル』(79),36-47
  • 阿部新(2020)「EUROSTAT統計の問題:アフリカ向け中古車輸出台数の集計を事例に」『速報自動車リサイクル』(98),52-62
  • 阿部新(2022a)「中古乗用車輸出台数の国際比較」『速報自動車リサイクル』(102),40-49
  • 阿部新(2022b)「アフリカ向け中古車輸出台数の国際比較」『速報自動車リサイクル』(102),60-71
  • 阿部新(2022c)「日本の中古車輸出台数の変動:ロシア向けを中心に」『速報自動車リサイクル』(web版)

https://www.seibikai.co.jp/archives/recycle/%e3%83%aa%e3%82%b5%e3%82%a4%e3%82%af%e3%83%ab%e3%81%ae%e6%bd%ae%e6%b5%81/10744

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