取締役にも残業代が必要な場合があるのか?

タイムカード

Q,

工場長の貢献度への感謝の意味も込めて、役職を「取締役工場長」とした。しかし、就任後も以前と変わらず、いやそれ以上に現場仕事に忙殺されていることを受けてか、本人から「残業代を払って欲しい」との訴えがあった。取締役には残業代は不要ではないのだろうか?

A,

管理職と残業の問題は切っても切り離せません。 日本マクドナルド事件(平成20年1月28日)という有名な裁判がありましたが、この裁判では店舗の店長は管理職ではなく、法的には一般の社員と同じであり、未払いの残業代の支払いが命令されたのです。ですから、例えば、部長という肩書が付いていても、「実際は現場のスタッフと変わらず、シフトに入っている」「部長手当が少額過ぎる(例:1万円)」などの場合は法的に管理職とみなされることは厳しいでしょう。

では、取締役という立場の場合はどのように判断されるのでしょうか?これに関する裁判があります。

 

<スタジオツインク事件>

東京地裁 平成23年10月25日

TVコマーシャル等の企画、制作を行う会社の取締役が退職しました。取締役ではありましたが、部下は数名で、労務管理、人事考課についての権限はありませんでした。この取締役は「自分は普通の社員と変わらない」と主張し、未払いの残業代等の支払いを求めて裁判を起こしました。

 

裁判所の判断

部下の労務管理、人事考課について、特別の権限を持っておらず、実務としてのプロデューサー業の売上で給料が決められており、社員に対するマネジメントの対価がほとんどなく、業務内容、権限、待遇等に照らし、管理監督者に当たらないとし、未払いの残業代等の支払いを命じる判決となり、会社側の敗訴となりました。

この裁判を詳しくみてみると、取締役としての業務に踏み込んでもいますが、権限は限定的だったといえます。

この取締役役員会には出席してはいるものの、それは業務の進捗状況の報告が主であり、取締役としての働きはしていませんでした。また、代表取締役に対して監督をする権限も実質的に与えられていませんでした。役職は取締役となってはいたものの、その範囲は限定的で、実質的には経営に関与していないとの判断となりました。

このように、形式上は取締役でも、実際には「名ばかり」ならば、社員とみなされて、残業代や休日出勤手当の支払い対象となります。

つまり、「名ばかり取締役」もアウトなのです。さらに、労働局でも「名ばかり取締役」に労災認定されたケースもあるのです。

 

 

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(沖縄タイムス 2013年9月1日)

沖縄労働局の労働者災害補償保険審査官が8月15日、約4年前に急性心筋梗塞で死亡した県内の教育サービス関連会社取締役部長の男性を、過重労働が原因として労災認定していたことが31日までに分かった。

企業の取締役は本来、労働者とみなされないが、同審査官が男性の勤務実態を調べ、労災保険法の「労働者」と認定した。

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このように、名ばかり管理職だけではなく、名ばかり取締役にも注目が集まっているのも事実なのです。

だから、管理職、取締役に該当するというためには、単に管理職、取締役では認められず、業務の実態、与えられた権限、労働時間に対する裁量、待遇等を実質的にみて判断されます。

単なる肩書きだけでは法的に取締役とは認められないのです。事例の裁判のように、「重要な経営上の職務権限」が必要であり、これが無ければ「名ばかり取締役」となってしまうのです。

なお、当然ですが、高額な給与の社員を形式的に取締役に就任させ、残業代等の支払いを免れることをやってはいけません。

なぜなら、この意図的な就任が裁判で発覚したら、残業代の支払いだけではなく、ペナルティとして付加金(残業代と同額)の支払いも命じられ、「倍返し」となってしまう可能性が高いからです。この点も併せて覚えておきましょう。

内海正人 社会保険労務士
主な著書 : “結果を出している”上司が密かにやっていること(KK ベストセラーズ2012) /管理職になる人がしっておくべきこと( 講談社+α文庫2012)
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