懲戒

懲戒解雇が有効になるポイント

自動車整備士のお仕事について労務相談室

せいび界2014年1月号Web記事

Q、懲戒解雇が有効なるポイントは?

運送業者からお預かりした車両の車検納車が遅れたために、先方の業務に支障が出てしまった。担当した整備士としては同様なトラブルが二度目であるので、さすがに懲戒解雇を検討せざるを得ない。懲戒解雇が有効になるポイントとは何だろうか?

懲戒解雇に該当するような事態が発生した場合、会社としては放置できません。しかし、懲戒解雇は対象となる社員の人生を大きく変えてしまうので、実際に宣告する際にはいくつかの法的なハードルがあるのも事実です。

懲戒解雇について、守らなければならないポイントは、以下の3つです。

○懲戒処分の根拠規定が存在すること
○懲戒事由に客観的かつ合理的な理由があること
○処分の相当性

これを守らないと、裁判で負ける可能性があるのです。ですから、いざという時に懲戒解雇を実行できるように、次のことも守って下さい。

○就業規則に懲戒処分についての条文を詳細に記載する
○会社にどれだけの実害を与えたか、与えそうかを冷静に検証する
○懲戒解雇を言い渡す前に、本人に弁明の機会を与える

こうしたことを踏まえて、以下の判例を見てみましょう。

<日本通信事件 東京地裁 平成24年11月30日>

○退職勧奨(=肩たたき)を拒否した社員を自宅待機とした
○社員は社内ネットワークシステムの管理権限を保有していた
○会社はネットワークシステムの管理権限を抹消するように求めるも社員はこれに応じな かった
○会社は権限抹消の業務命令を出すも、これも拒絶
○会社は業務命令違反で社員を懲戒解雇とした
○社員は「不当解雇」を主張し、裁判を起こした

そして、裁判所の判断は以下のようになったのです。

○ネットワークシステムの管理権限を保有しているだけで、具体的に実害があった訳では ない
○現実的な危険性があったとは認められない
○社員に対し、弁明の機会を与えていない
○懲戒解雇は無効

として、会社が敗訴したのです。そして、この裁判では「懲戒解雇の有効要件」が掲げら
れました。それは、

(1)懲戒処分の根拠規定が存在すること
→就業規則などで定められているか?

(2)懲戒事由に客観的かつ合理的な理由があること
→重大な事由で、企業秩序が現実的に侵害されているか?
→具体的かつ現実的な危険性があるか?

(3)処分の相当性
→処分について、社会通念上に妥当と認められるか?

以上がポイントとなります。事例の裁判では、(1)は就業規則があるので争いにはなりませ
んでしたが、(2)と(3)が問題になりました。

(2)は上記の通り、具体的な実害や危険性があった訳ではないので、合理的な理由はない
と結論づけられました。

(3)についても、社会通念上相当とは言えないし、社員に対して「弁明の機会を与えない
ままに」懲戒解雇の手続きを進めたことが問題とされました。

懲戒解雇は制裁的な意味があるので、

○会社にどれだけの実害を及ぼしたか(及ぼす恐れがあるか)?
○会社は本人に弁明の機会を与えたか?

が重要なのです。

そして、実害やその可能性についても「企業秩序をどれだけ脅かしたか」の程度が問題となります。また、弁明の機会について、その手続きを実行しなかっただけでも、懲戒解雇が無効となってしまう可能性があるのです。

一般的に社長が社員を懲戒解雇にしたいと考える場合は、それなりの理由があるはずです。しかも、社員を解雇するかしないかの判断をしなければならない状況は、突然に発生することも珍しくありません。

もちろん、水面下では色々なことが進んでいるのでしょうが、問題が顕在化するのは突然です。こういうリスクはどんな会社にもあるので、非常事態に備えて、少なくとも就業規則の整備だけはしておく必要があるのです。

また、懲戒解雇に該当するレベルかどうかは、個々の判断になるので、独自の判断である程度進めてしまった後にトラブルになり、ご相談いただくケースは本当に大変です。最初に「複数の」専門家の意見を聞くことが本当に大切なのです。

 

ライター紹介

内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)

AD
 data-src=有償運送許可研修を毎月開催" width="650" height="178" >

有償運送許可研修を毎月開催

せいび広報社では毎月、事故車故障車等の排除業務に係る有償運送許可の研修会を実施しています。会員限定ではなく、全国どの地域からも、法人・個人事業主でもどなたでもご参加いただけます。研修の受講者は、会社の代表者・経営者に限らず、従業員の方でしたらどなたでも、会社を代表して受講していただくことが可能です。

CTR IMG