懲戒処分をしたら、その後に色々なことが発覚

社員の退職

Q.2ヶ月前にスカウトしたのだが、営業部長の成績があまりに悪いので、辞めてもらった。しかし就業時間中にさぼったり、遊んでいた事実が退職後に発覚した。まだ支払っていない給料があるのだが、減額は可能だろうか?

 

A.ご相談のように「勢い」で処分したら、後から色々なことが発覚することはよくあります。しかし、原則として、一度処分を実施したら追加で処分を実施することは難しいのです。これに関する裁判があります。

<山口観光事件>

最高裁 平成8年9月26日

マッサージ師はホテルでマッサージ業を行っており、激務のため、体調不良を訴えていて、連続した2日間の休暇を請求したところ、社長には「勝手に休まれては仕事にならない」と、マッサージ師に辞めるように告げました。しかし、マッサージ師は現場に復帰したい旨と未払いの賃金を求めて、裁判所に訴えました。

裁判は両者の相反する幾つかの主張が争点となりました。マッサージ師とホテルとの契約は契約書等の内容があやふやで契約は曖昧であった。ぶつかる主張の中、第1審の裁判の経緯で57歳(当時)を45歳と見せかける大幅な年齢詐称が発覚し、これが懲戒解雇に当たるかどうかが争点の1つとなりました。

裁判所の判断(第1審)

まず、この契約は雇用契約であり、またマッサージ師からは契約解除を申し入れていない。休暇請求は出勤拒否には当たらない。解雇はホテル側から通達されたものであり、普通解雇としての判断も早急で疑問があるとして、未払賃金の支払い命令が出しました。

ただし、「年齢詐称による懲戒解雇」は有効と認められ、懲戒解雇が有効となる時期は年齢詐称が発覚した時からと判断されたのです。

これに対して、マッサージ師は「年齢詐称はホテルを解雇された後に分かったことであり、これを理由とする懲戒解雇はおかしい」と主張。裁判は最終的に最高裁まで上がりました。

 

裁判所の判断(最高裁)

最高裁では「一度処分が確定した後に、追加理由(年齢詐称)で懲戒解雇はできない」と判断されましたが、年齢詐称に対しては「企業秩序に違反する」と認めています。なぜなら、60歳の定年まで約3年のところ、約15年もあると偽っている点に、マッサージという体力を要する仕事で年齢を詐称することは会社の雇用計画等に影響が出るため、社員の労働力を適性に配置できないとしています。しかし、一度決めた処分に追加の処分を加えることはできないのです。この裁判は、

〇元々、年齢詐称で懲戒解雇の理由があった

〇これを知らずに「仕事がきつい」と言ってシフトに穴をあけた社員を辞めさせた

という状況です。ですから、入社の段階、シフトに穴を空けた段階に慎重に調査をすれば、未払賃金(約225万円)の支払い義務は発生しなかったのです。

シフトに穴を空けた段階ではともかく、体力が必要な仕事だけに、入社の段階で年齢確認を怠ったことはホテル側の大きなミスです。

結果、この裁判では「解雇事由を慎重に調査せずに性急に解雇したこと」により、会社が負けてしまったのです。

冒頭のご相談についても同じことが言えるので、減額の追加処分は難しいと考えます。既に解雇した社員に対し、その後に発覚した問題で処分を下すことは できないのです。

多くの社長は、社員側の問題でトラブルが発生したときに、すぐに解雇等の判断を下したいのでしょうが、上記の裁判事例の結果もあるので注意しましょう。

まず、何かしらの非違行為等が発生し、調査が必要な場合は、

〇社員に対して休職命令を発令

〇社員の行為や身辺等の調査を行う

〇結果が出たら、会社としての判断を行う

ということです。なお、就業規則には「休職命令時には社員の行為が確定していなくても、非違行為が認められた時には休職手当は支払わない」という旨を記載しましょう。

なぜなら、会社からの休職命令による休職ならば、法的に休職手当を支払わなければならないからです(通常の賃金の約6割)。また、調査を実施する際には

〇どの言動、行為が問題か?

〇具体的に、どんな言動、行為であったか?

〇その言動、行為が発生した日時はいつか?

等を具体的に記録しておく(場合によっては録音しておく)ことが重要です。このように、十分に調査を実施すれば、裁判等になっても会社の判断が「客観的」と判断され、会社の主張も認められやすくなるのです。

内海正人 社会保険労務士
主な著書 : “結果を出している”上司が密かにやっていること(KK ベストセラーズ2012) /管理職になる人がしっておくべきこと( 講談社+α文庫2012)上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)/今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方! ( クロスメディア・パブリッシング2010)