セクハラの判断

セクハラの判断基準は?

セクハラ判断の新しい考え方について

社会保険労務士 内海正人の労務相談室

Q.昨年末のこと、事務所内に(取引先からいただいた)ヌードカレンダーを張ったところ、女性社員からセクハラだと言われてしまった。セクハラといえば、「給料を上げてやるから、その代わりに・・・」といった行為のことを指すのではないのだろうか?

A.セクハラに関する相談は時々ありますが、頭を悩ますポイントが、「本当にセクハラなのか?」という判断についてです。その前にセクハラの主なパターン2つです。

対価型セクハラ・・・職場などにおける立場、上下関係と自身の権限を利用し、下位の者に性的な言動や行為を行う(強要する)こと

環境型セクハラ・・・職場などにおいて行われる性的な言動、環境により労働者の就業環境が不快なものとなること(ヌードポスターなどの掲示等)

ただし、この判断が難しいのです。そもそも、現状ではセクハラは被害者(主に女性)の「主観のみ」によって決められる場合がほとんどであるため、セクハラの考え方に拡大解釈が生じて、些細なことにまで「セクハラだ!」と騒がれることもあるのです。それによって職場で「セクハラだ!」と騒がれないよう過度に気を遣い、業務上で必要とされるコミュニケーションが円滑に進まないこともあるのです。

また、「主観のみ」によってセクハラか否かを一方的に区別されることを逆手に取って、単に気に入らない人間を陥れたり、嫌がらせをしたりする「便利な言葉」として扱われる場合も発生しているのです。以上のことからセクハラに該当するか否かという判断はとても難しくなっているのです。これに関する裁判があります。

<P大学事件>

大阪地裁 平成23年9月16日

准教授(女性)は、教授(男性)が執拗に食事に誘われていた。准教授は、上司からの誘いを断り続けるのも失礼かと思い、食事の誘いに応じた。カウンター席で飲食した時に、教授の右手が准教授の左太股の付け根部分に置かれて数秒続き、准教授は振り払うも、その行為は7~10回程度繰り返された。

また、帰りの地下鉄内で、教授は准教授に体をピタリと寄せてきくる、腕を組んでくるなどし、別れ際に腰から抱き寄せたりした。准教授がこの行為等を大学に訴えたため、教授は減給等の処分となった。しかし、教授はこれを不服として裁判に訴えた。

裁判ではセクハラについて、教授は次のように反証しました。執拗に食事に誘っていないし、実際に飲食の誘いに応じており、仮に身体に触ったとしても、准教授は途中で離席をしていない。また、帰宅後、お礼のメールが届いていて、別れ際に握手を求められている。以上のことより「セクハラは無かった」と主張した。

そして、大阪地裁の判断は以下となりました。

〇執拗な飲食の誘いは確認できない

〇飲食店でのセクハラ行動も確認できない

〇地下鉄での行動も確認できない

〇セクハラは認められない

裁判はこれで終わらず、控訴となりました。そして、大阪高裁(平成24年2月28日)は地裁と逆の判断をしたのです。それは以下となっています。

〇准教授が飲食の誘いに応じたのは教授の地位、発言力のためであり、これを拒否すると自分の立場が悪くなると考えたため

〇飲食時にセクハラ行為があっても、席を立って帰宅するのは容易ではない

〇お礼のメールがあったり、握手があったとしても、この行為自体は自己に不利益を生じさせないようにしたものと考えられる

〇セクハラ行為がなかったとの主張を採用することはできない

この高裁の結果として、次の新しい考え方が表れています。

〇被害者が発信したメール等の内容がセクハラとは認められない内容であったとしても(今回で言えば、お礼のメール)、パワーバランス等により、被害者の「やむを得ない対応」ということが認められた

〇セクハラ行為が行われ、その場で拒否等をしなくても、被害者の意識の中で「セクハラ」と感じれば、セクハラとなる

セクハラ行為は、加害者と被害者との間で発生し、客観的な証拠が極めて少なく、その判断はとても難しいです。さらに、今回の大阪高裁の判断が加わると、被害者からのメールや行為をダイレクトに受け止めても「真実ではない」と判断されてしまうこともあるのです。

では、セクハラ被害が会社に報告された場合の対応をみてみましょう。まずは、被害者、加害者からの聞き取り調査となります。この場合、多くは意見等が対立して判断に困るということになるのですが、以下のことを注意して調査をする必要があります。

〇被害者が虚偽の供述を行う動機があるか?

〇事実を正確に認識しているか?

〇記憶がきちんとしているか?

〇セクハラ行為の内容が具体的か?

〇話の内容に整合性、一貫性があるか?

これらに留意して調査を進めていきましょう。そして、会社としての方針を出すのです。もし、会社がセクハラ被害を放置してしまうと、さらなる懲罰が裁判で科せられるケースも出てきています。

そのような状況に陥らないためにも、セクハラ被害の報告があったら、迅速、かつ、慎重に調査を実施しましょう。

さらに、就業規則にセクハラ行為は懲戒の対象と明記しないと、罰則を科せられなくなるのですが、就業規則の記載の仕方に注意です。

下記は厚生労働省労働基準局監督課のモデル就業規則です(平成25年3月)。

 

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(懲戒の事由)第61条

 

<中略>

 

2.労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第48条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

 

<中略>

 

(9)職責を利用して交際を強要し、又は性的な関係を強要したとき。

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この就業規則の記載だと、冒頭に解説したセクハラの2つの種類のうちの1つである環境型セクハラに対応できないことになります。

(9)の文言だと対価型セクハラと言われる「直接的な行為や言動」のみに対応するものとなっているのです。厚生労働省から「モデル就業規則」として発表されているものでも、こんな「不備」があるのです。

セクハラ全般に該当する条文とするのであれば、セクハラの定義を明確にして、懲戒処分の対象とすることがベストです。例えば、下記の定義を参考として下さい。

 

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セクシュアルハラスメントとは、相手方の意に反する性的言動で、それによって仕事を遂行する上で、一定の不利益を与えるもの又は就業環境を悪化させるものをいう。

 

(1)人格を傷つけかねない、又は品位を汚すような言葉遣いをすること

(2)性的な関心の表現を業務遂行に混交させること

(3)ヌードポスターや卑猥な写真及び絵画類等を見ることの強要や配布又は掲示等をすること

(4)相手が返答に窮するような性的な冗談やからかい等をすること

(5)私的な執拗な誘いを行い、又は性的な噂若しくは経験談を相手の意に反して会話をすること

(6)性的関係の強要、不必要な身体への接触又は強制猥褻行為等を行うことの他相手方の望まない性的言動により、円滑な職務の遂行を妨げると判断される行為をすること

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このように、きちんと定義されていればいいのですが、モデル就業規則や市販の就業規則をベースに作成していると、様々な点で漏れがあり、何かの問題が発生した時点で「時、既に遅し」ということに気付くことも非常によくあります。

そうならないためにも、市販の就業規則等ではなく、きちんとしたひな型を使う必要があるのですが、市販されているものでは対応できないため、下記のひな型(91条)、解説DVDを販売しているのです。

○適正なひな型とはどういう形式なのか?

○どういう点に注意すべきなのか?

ということをお知りになりたいならば、下記をご覧になってください。

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「就業規則の徹底対策DVD」

※91条のひな型はワードファイルでお渡ししています。

http://www.success-idea.com/037001/

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内海正人 日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役

社会保険労務士 内海正人の主な著書 : “結果を出している”上司が密かにやっていること(KK ベストセラーズ2012) /管理職になる人がしっておくべきこと( 講談社+α文庫2012)
上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)/今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方! ( クロスメディア・パブリッシング2010)

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