退職勧奨の効力が有効となるためには?

退職勧告

社会保険労務士内海正人の労務相談室

せいび界2015年7月号 Web記事

退職勧奨の効力が有効となるためには?

Q, このところ、入庫台数も台当たり単価も伸びず、苦しい状況が続いている。コスト削減ももはや限界であり、リストラも考えざるを得ず、そうなるとベテランから・・・・・・となる。しこりを残さないリストラの仕方があれば教えていただきたい。

A, 私のところにも「パフォーマンスの上がらない社員の処遇」についてのご相談は景気等とは関係なく、多く寄せられています。

 

特に多いのが、「膨らんでしまった中間管理職に対する処遇」の問題です。長年在籍していて、特に問題があるわけではありません。ただし、給料に見合う働きをしていない課長等をこの先、「どう処遇すればよいか」は大きな問題となっているのです。

 

ここで多くの社長は「どうやって解雇すればよいですか?」と、ご質問されますが、さすがにこの条件では解雇は無理と考えられます。解雇をするには、次のような条件が必要となるからです。

○就業規則で決められた解雇事由に該当する行為等をした場合

○誰もが見て「これは解雇でもやむを得ない」という行為をした場合

この場合、「退職勧奨の実施」をおすすめします。 退職勧奨とは文字通り「退職を勧めること」で、法的な強制力や拘束力は伴いません。あくまでも会社から社員に向けた「退職の勧め」ということになります。

しかし、この退職勧奨に関しても様々な裁判があります。

<ソニー事件 東京地裁 平成14年4月9日>

社員を長時間、一つの部屋に留め、「懲戒解雇をほのめかして、退職を勧めた」として裁判となったものです。結果として、退職を強要したとして「強迫による取引無効」で、会社が敗訴しました。

<富士ゼロックス事件 東京地裁 平成23年3月30日>

会社が社員に対して、懲戒解雇の事由がないのに、それがあるかのように受け止めさせ、退職の意思表示をさせたとして裁判となりました。結果として、この意思表示は「錯誤」であり、「詐欺による取消により無効」として会社が敗訴したのです。

 

このように、退職勧奨もやり方を間違えると裁判等で「無効」となってしまうケースが多くあるのです。 しかも、法務部があり、顧問弁護士も複数いるような大手企業でも間違いを起こしているのです。しかし、これとは逆に有効となった裁判もあります。

<プレナス事件 東京地裁 平成25年6月5日>

○人事部の社員が会社が決めた新退職金制度への移行作業をしていた

○この社員は自らが移行を推進する立場なのに、新退職金制度を不服として、同僚らに「今辞めたら○○○万円」等とのメール送信した

○会社はこの事実を知り、この社員に「新制度への移行は任せられない」と考え、その旨を通知し、同時に上席の部長が退職勧奨を実施した

○退職勧奨実施後、10日を経過して社員は退職願を提出した

○社員は「退職勧奨に応じないと懲戒解雇となり、退職金もなくなると考えて退職願を出したに過ぎない」と主張した

→退職の無効と損害賠償を請求

そして、裁判所は以下の判断をしました。

○退職勧奨の実施理由には妥当性がある

→人事部員として不適切な行為

→会社の信用、信頼を失墜する行為

→他の部署の受け入れ先はない

〇退職勧奨そのものに違法性はない

○上席の部長が退職を強要する発言の事実は無い

→懲戒解雇、退職金不支給に換言する発言はない

○退職勧奨後、10日を過ぎた退職願の提出は、「十分に考える時間があった」といえる

○退職勧奨に関して強要の事実はないとして、会社が勝訴

 

この裁判のポイントは

○退職勧奨についての理由が明確である

○上席部長の発言は退職に関する強要と受け取れるものではない

○本人に考える時間が十分に与えられている

等としていることです。

退職勧奨は「会社を辞めてもらう」という感情的な問題もありますし、また、会社と社員という立場は、法的には平等と言えどもパワーバランス的には社員が弱いと考えられます。

 

そのような中で、退職勧奨を実施する場合は、「強要とは受け取られない」という取扱がとても重要なポイントです。

 

ですから、「今、この場で退職願を提出してもらうよ」等の発言をしてはいけません。あくまでも、退職勧奨は「退職のお願いをしている」というスタンスで実施してください。これを逸脱してしまったら、違法性が高くなってしまうのです。

 

ライター紹介

内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)