知らないと損をする、管理職の要件とは?

社会保険労務士内海正人の労務相談室

Q.今月の給与計算の報告を経理から受けた時のこと、新しく工場長に据えた社員に休日出勤手当が適用されていないことを指摘したところ、管理職は支払いを免除されているからそうしたと言われた。法律的にはどうなのだろうか?

A.会社は「監督若しくは管理の地位にある者(管理職)」については、残業代、休日出勤手当の支払いを免除されています。そして、この残業等を免除される「管理職」について、法的に「残業等が免除される地位にある者に該当するか?」というご質問を頂くことがよくあります。これはどのような基準となっているのでしょうか?

まずは定義をみてみましょう。労働基準法では、次の条件の者を言います。

(1)経営者と一体的な立場で仕事をしている

(2)出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない

(3)その地位にふさわしい待遇がなされている

そして、記憶に新しいのは「マクドナルドの店長が管理職か?」で争われた裁判(日本マクドナルド事件 東京地裁 平成20年1月28日)がありますが、この裁判でも、上記の(1)(3)の条件がクリアされていないとして、会社側が負けています(裁判は控訴後、和解で決着)。

さらに、類似する裁判が非常に多いのですが、会社側が負けているものが多数という結果となっています。しかし、会社側の主張が認められた裁判もありますので、ご紹介します。

<セントラルスポーツ事件>

京都地裁 平成24年4月17日

エリアディレクターであった元社員が在職中、人事権などの決定権がないことを主な理由に「自分は管理職ではない」と主張し、残業手当等を請求するため、裁判を起こしました。

裁判所の判断

職務内容が少なくとも、ある部門全体の統括的な立場にあり、部下に対する労務管理等の決定権等につき、一定の裁量権を有し、人事考課、機密事項に接していた。また、非管理職の最上位職の基本給が月額約28万円であるのに対し、エリアディレクターは約53万円で業務給の上乗せがあるなど、特別手当が支給されていたため、時間外手当が支給されないことを十分に補っていた。自己の出退勤について自ら決定し得る権限があり、この元社員は管理監督者であるとして会社側が勝訴しました。

この裁判は、多くの裁判では認められにくい「管理職」が認められた珍しいケースです。なぜ、管理職と認められたのかというと、

○本人に与えられていた人事権が明確であった(裁判で元社員は否定)

→ 担当エリアにおける予算案の作成権限を有し、人事上の機密事項にも接しており、一定の裁量を有していた

〇非管理職の中で一番上の役職の社員の月給よりエリアマネージャーの月給は2倍ぐらいで管理職として十分な待遇であった

〇人事部に勤務状況表を提出する際に誰からも管理されておらず、遅刻、早退、欠勤によって賃金が控除されたことがない

→出勤の時間を拘束されておらず、自己の裁量で自由に勤務していた

等が明確であったからです。

つまり、労働基準法での条件をクリアしていたことが大きいのです。ですから、

〇組織の中でポジションと人事権をどこまで掌握しているか?

〇遅刻、早退等でも欠勤控除がないし、出社、退社が自分で決められる

〇それなりの給料を支払っている

ことが明らかであれば、裁判所の判断も「管理職」として取り扱うことを認めているのです。管理職として認められなかったマクドナルド事件の場合は、

○人事権の行使が不十分(パート社員のシフトの穴を店長が埋めていた)

○実質上、店舗の営業時間に拘束されていた

等が、管理職として認められない原因に挙げられていました。

つまり、労働基準法の3つの条件が「あやふや」に運用されていたことが原因なのです。さらに、多くの裁判で「管理職が認められなかった」ものは、

〇人事権はあるが、賃金が非管理職と同じような水準であった

〇課長等のポジションを与えていたが、人事権等を与えていなかった

〇部長とは名ばかりで、経営会議に出席させていなかった

などと運用があいまいで、そのために法律の条件をクリアできていないケースがほとんどだったのです。

日本マクドナルド事件の影響で「名ばかり管理職」という言葉が流行しましたが、管理職の業務をしっかりと位置付けて、人事権を与え、時間的拘束を行わず、それなりの賃金の支払いがなされれば、裁判でも認められるのです。

この部分をはっきりせずに「名ばかり管理職だから、残業代を請求する」というトラブルも増えていますが、3つの条件をクリアにすれば、トラブルが発生する余地をなくすることができるのです。

しかし、多くの会社では「管理職的な」肩書きだけを与え、実際には「労働基準法上の」管理職として、機能していないこともよくあります。

結果、トラブルに発展することも多いですので、上記の点をしっかり意識して、管理職の運用を行いましょう。

内海正人 日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役

主な著書 : “結果を出している”上司が密かにやっていること(KK ベストセラーズ2012) /管理職になる人がしっておくべきこと( 講談社+α文庫2012)
上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)/今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方! ( クロスメディア・パブリッシング2010)