管理職としての能力が無い社員への対応は?

管理職の能力

自動車整備業の労務相談室

質問、

工場長が定年を迎えたため、稼ぎ頭である40代の整備士を工場長に昇格させた。自分の仕事をこなせばよかった今までと違って、部下の面倒をみたり、工場全体の作業量のコントロールなどの管理業務が求められるのだが、1ヶ月が経った今も単なる1プレーヤーとして動いている。降格して、代わりの者を工場長にしたいのだが、法律上で何か問題はあるだろうか?

回答、

こんな管理職では会社も困ってしまいますが、実際に多いのも事実で、私のところには多くのご相談を頂いております。管理職は本来、現場の部下を指揮して組織運営を担当するものであり、部下を教育したり、組織全体を統括する者です。しかし、このような行動がとれる人が少ないのも事実で、多くの社長は「昇格させたが、なかなか機能してくれない」と漏らしています。そして、「降格したいのですが、法律ではどのようになっていますか?」とご質問を頂くことがよくあるのです。これに関する裁判があります。

 

<エクイタブル生命保険事件>

東京地裁 平成2年4月27日

営業所の業績不振で、営業所長を営業所長代理に降格させました。しかし、元所長は就業規則に降格の記載はされておらず、この降格を不服として裁判を起こしました。

 

裁判所の判断

会社は降格に当たり、営業所長の能力評価と面談を行っており、社長が営業所長と面談した結果と支社長からの業務遂行状況に関する報告を加味して総合的に勘案している。能力評価、面談結果、業務遂行状況から判断した結果、営業所長としての適性がないと結論づけたものであり、降格は有効であると判断しました。

(会社が勝訴)

 

この裁判で明確になった点があります。それは「人事権の行使は就業規則等に記載がなくても会社が自由に行える」ということです。さらに、管理職の場合はその職位に応じた給料や手当等が支給されていますが、降格後の職位に対応した金額に減額しても、降格が合理的であれば問題ありません。また、別の裁判でも以下の結果となっています。

 

<バンクオブアメリカ>

イリノイ事件 東京地裁 平成7年12月4日

総務課長は行内の合理化に伴い、専門職へ降格となり、その後、受付業務へ異動となった。元総務課長は「退職に追い込む不当な異動」として裁判を起こしました。

そして、裁判所は次の判断を下しました。

〇課長から専門職への役職の引き下げについて、業務上、組織上の高度の必要性があった

〇人事管理の業務を遂行しなくなるので、役職手当は減額されても妥当

〇降格発令をされた他の多くの管理職らは、いずれも降格に異議を唱えていないこと等の事実からすれば、会社に与えられた裁量権を逸脱した濫用的なものではない

〇ただし、受付業務への異動は退職に追い込むための不法行為

→慰謝料100万円の支払命令

この裁判でも「採用、配置、人事考課、異動、昇格、降格、解雇等の人事権は労働者を会社の中でどのように活用、統制していくかという会社に与えられた経営上の権利」とされています。

そして、「人事権の行使は、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たる場合でなければ、違法ではない」と明らかになったのです。

このように、人事権の行使としての「降格」であれば、就業規則等に記載が無くても「会社が自由に実行できる」ということになるのです。結果として、

〇降格が合理的な理由に基づいている

〇降格後の職位に応じた給料に減額する

という状況は違法ではないのです。

例えば、部長から課長に降格となった場合、「部長手当(10万円)→課長手当(5万円)」という減額であれば合理的といえます。

ただし、裁判等では減額の合理性が必ず調べられますので、「降格したのでなんとなく減額をする」では認められません。

スリムビューティーハウス事件(東京地裁 平成20年2月29日)でも社員の降格は有効であると判断されましたが、賃金の減額については認められなかったのです。

なぜなら、減額の合理性、客観性が無いとの判断になったからです。

ですから、これを防ぐには人事考課制度の適切な運用(ルールの明確化)が必要となってきます。

管理職の能力、業務内容を客観的に評価することが重要となるのです。その際に下記等を明示して、公正な評価を実施するのです。

〇管理職に求められる評価項目を明らかにする

→部下指導、担当部署全体の成績など

〇評価の基準を客観的に示す

→公平な運用を実施

→項目別の5段階評価、チェックリストなど

会社として、「客観的で適正な」評価に基づいた昇格、降格の実施ならば、人事権としての降格は就業規則等に記載がなくても有効になるのです。

 

内海正人 日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役

社会保険労務士 内海正人の労務相談室
主な著書 : “結果を出している”上司が密かにやっていること(KK ベストセラーズ2012) /管理職になる人がしっておくべきこと( 講談社+α文庫2012)
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