無断で残業する社員への対応は?

2015年8月4日

自動車整備士のお仕事・労務について労務相談室

せいび界2014年12月号Web記事

Q、無断で残業する社員への対応は?

最近では以前ほどの入庫が見込めないため、弊社は原則、残業を認めていない。台数が多い場合に限っては残業を認めているが、このところ台数に見合わない、明らかに過剰な残業が目立っている。何とか防ぐ方法はないだろうか?

A、

残業問題に関するご相談はよくお受けします。具体的には、「必要もないのに勝手に居残りをして残業時間を申告している」、「『早く帰れ』と指示しているが、だらだらと残っている」、「『難しい仕事をやっている』と社員は言うが、実際は簡単な業務である」など、色々なケースがありますが、根本の問題は同じです。

共通する悩みとして「無断で残業して、残業代を稼ごうとする社員の対応はどうしたらよいでしょうか?」という内容でした。仮に、この状況を放置してしまうと、「人件費が高騰する」、「残業時間が長くなると、社員の健康管理の問題が発生(→この場合、会社にペナルティが科される可能性がある(労災リスク))」という大きな問題を抱えていることとなるのです。

では、最初に「残業をすることは社員の権利として認められるか?」ということをみてみましょう。労働基準法上の労働時間とは「社員が会社の指揮命令下に置かれる時間」をいいます。

このため、会社の指揮命令下になく、社員が私的な活動のために会社に残っている時間は労働時間には含まれません。基本的には「会社の指揮命令下」にない時間は、残業時間として取り扱う必要がないのです。

つまり、社員の判断で「残業する権利」は無いということです。このことをはっきりさせるために就業規則に明示することで、残業管理があやふやにならないことがポイントです。

しかし、就業規則に記載するだけでは足りません。特に「残業命令なしの残業には賃金を支払わない」とまで、記載するのであれば、会社は残業をきっちり管理しなければならないのです。
————————————————–

(遵守義務)

社員は、勤務に当たり、次の事項を遵守しなければならない。
1.会社の許可なく終業時間後、会社施設に滞留しないこと
2.会社の構内又は施設内において、会社の許可なく業務と関係ない活動を行わないこと
3.勤務に関する手続きその他の届出を怠り、又は偽らないこと
4.会社の残業命令なく残業しないこと
5.職場において、電話、電子メール、パソコン等を私的に使用しないこと
(残業命令なしの残業)
前項4号の規定にかかわらず、社員が残業命令なしに残業した場合、この残業は労働時間に含まれないため、会社は社員に対し、この残業に対する賃金を支給しない
————————————————–

なぜ会社がきっちり管理しなければならないかといいますと、残業命令なしでも残業代の支払いが命じられた裁判が多くあるのも事実だからです。

これは、直接的には残業命令が無くても、「黙示の残業命令」が存在するということで、支払命令が出ているのです。具体的には、「残業で業務を処理することを当然なこととして、上司が黙認した場合」、「業務上やむを得ない理由で残業をした場合」、「残業しなければならない客観的な事情がある場合」などは「黙示の残業命令」があったと認められてしまいます。

では、このような事態に陥らないためにはどうしたらよいでしょうか?これに関する裁判があります。

<リゾートトラスト事件(大阪地判 平成17年3月25日)>

〇経理担当者の残業と休日出勤が多かった
〇この社員は日常的な事務を担当し、残業する量ではない
〇上司が早く帰るように何度も注意したが、帰らなかった
〇会社は残業代、休日手当を払わなかった
〇社員は残業代、休日手当の請求をした

そして、この判決は、

〇会社は残業、休日出勤の命令をしていない
〇業務の量は残業、休日出勤するほどでもない

として、会社が勝訴したのです。この裁判のポイントは、
〇残業命令があったか?
→逆に、残業しないように上司が注意している

〇残業(休日出勤)するほどの仕事量だったか?
→日常的な仕事のみで、それほどの量ではない

という点です。
ですから、会社が「残業の内容と量」を把握して、きちんと労働時間を管理していれば、勝手な残業は認められないし、黙示の残業ともならないのです。。

この裁判と同じように「残業が認められなかった」裁判があります。

<吉田興業事件(名古屋地裁 平成2年5月30日)>

〇住み込みで建物管理を行っている者が戸締りを時間外にしたことは、いつでもできる業務を自発的に勤務時間外に行っただけなので、残業代は不要

<ニッコクトラスト事件(東京地裁 平成18年11月17日)>

〇寮の食堂を運営している者が、勤務時間外に要求以上の水準の料理やサービスをしたことは、社員自らの判断で行ったに過ぎないので、残業代は不要

このように黙示の残業とみなされないためには、

〇業務内容が残業を前提としていない
〇残業を事前許可制とする
→事前命令が前提
→事前申請書と報告書を「必ず」提出させる

ということを会社全体で運用することが重要なのです。
ここまで徹底できれば、「勝手に残業する」ことはとても難しくなるので、会社としても人件費の高騰や社員の健康管理の問題も抑えられるのです。
「仕事がなくても、残業して残業代を稼ごう」という意識の低い社員が存在することは事実です。
だからこそ、ルールを作り(就業規則に明記し)、その運用を適正に行うことで、こういう意味のない人件費の高騰を抑えることができるのです。

ちなみに、上記の「残業命令なしの残業には残業代を支払わない」という旨を追加することは社員にとっては「不利益変更」となるため、社員代表※の同意が必要であることは言うまでもありません。
※社員代表は社員の同意が無いままに会社が勝手に指名しては駄目です。

勝手に就業規則に追加している会社もありますが、社員代表の同意を得ていなければ、【法的に】意味が無い追加となってしまうのです。ご注意下さい。
ライター紹介

内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)

PR