酒気帯運転

酒気帯び運転で懲戒解雇は有効か?

自動車整備士のお仕事・労務について労務相談室

せいび界2014年8月号Web記事

Q、酒気帯び運転で懲戒解雇は有効か?

社員が酒気帯び運転で捕まったため、その社員を懲戒解雇したいのですが、問題ありませんか?

A、

暑気払いの時期ですね。酒気帯び運転は社会的にも厳しい目が注がれています。しかし、酒気帯び運転で、即懲戒解雇とできるのでしょうか?

まず、第一に考えなければならないのは、酒気帯び運転について、仕事に関連しているのかどうか?ということがポイントとなります。

仕事がらみということになると、社員の責任がとても重くなり、懲戒解雇も視野に入れなくてはなりません。しかし、勤務と関係ないプライベートの時間であれば、会社への影響も軽微なので、懲戒解雇は厳しいでしょう。また、会社として、「就業規則が整備されて
いるか?」、「就業規則に懲戒処分の詳細が明記されているか?」、「懲戒処分に酒気帯び運転に対する罰則が記載されているか?」が最重要ポイントとなっています。

もし、就業規則が無かったり、あったとしても酒気帯びに関する懲罰が記載されていなければ、処分をすることができないのです。

さらに、酒気帯びの程度によっても、懲罰の程度が変わってきます。これに関する裁判があります。

<JR 東海事件 東京地裁 平成25 年1 月23 日>

 新幹線の運転手が基準を「下回る」酒気帯びの状態であったが、会社は酒気帯び状態と判断し、乗務不可としました。
また、この件により、懲戒処分として給料の減額を実施しました。この懲戒処分に納得しない運転手は減給処分の無効を訴え、慰謝料150 万円も合わせて請求する裁判を起こしました。

裁判の判断
そして、裁判所の判断は以下となり、会社の主張が一部は認められました。
○酒気帯びの数値は下回っていたが、管理者3 名が酒臭を知覚しており、乗務不可の判断は合理的なものである
→安全を最優先する職場としては当然である

○給料の減額処分については、会社の他の取扱いと比較して、今回の処分は重過ぎる
→JR 他社と比べても重過ぎる
→社会通念上、相当性を欠く
→減額処分は無効

○慰謝料を払うほどではない
この裁判のポイント
この裁判でのポイントは「社会相当性」の考え方が全てとなっています。「懲戒処分の理由となった行為」と「それに対する処分」が、社会的に見て釣り合うのか?
ということです。

実際に裁判でも過去の類似事例や他のJR 各社の例と比較しています。

たとえば、熊本県教育委員会事件(福岡高裁 平成18 年11 月9 日)では酒気帯び運転で懲戒免職は過重であり、無効となっています。

最近の傾向としては、酒気帯び運転、酒酔い運転は「即解雇」と考えられがちです。しかし、これはその時の状況にもよるので、早急な判断は危険です。

まず、就業規則の整備が基本で、きちんとした記載が必要です。そして、酒気帯びの状況を把握し、業務上か否か、会社への影響等を考えて処分を検討しましょう。

そして、必ず実行して頂きたいことは下記の2 点です。

○本人に弁明の機会を与える
→一方的に言い渡すのではなく、公平なジャッジを行う

○処分の検討については取締役会や懲罰委員会等で決定し、その内容を書面に残しておく
→個人的な感情を排除する

このプロセスを踏まず、社長の独断で解雇にしたような場合は、社員の行為が懲戒解雇に該当するレベルのものであっても、無効になる可能性が【高い】のです。

このプロセスは酒気帯び運転への処分だけではなく、全ての懲戒処分を行う場合に必須の手続きです。酒気帯び運転に限らず、社員が何かしらの問題を起こした時に、【思わず怒鳴る】社長は多いです……。

しかし、怒鳴り、思わず「辞めろ」と言ってしまった場合には、後々、尾を引く結果にもなるのです。少しでも問題が起きた場合には、まずは社会保険労務士、弁護士などの専門家に相談しましょう。

ライター紹介

内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)

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