社員同士の喧嘩で怪我したら労災は?&給料0で採用は?

社員同士の喧嘩

自動車整備士・整備工場の労務相談室

せいび界2012年5月号Web記事

Q1、社員同士の喧嘩で怪我したら労災は?

工場内で社員同士が喧嘩をして、そのうちの一人が怪我をしてしまった。この場合は、業務上の災害として、労災保険は下りるのだろうか? また、会社に責任は問われるのだろうか?

A1、

まずは、労災から見て行きましよう。労災とは、

○会社の管理下において

○業務を行う社員の怪我や病気をいいます。そして、「怪我や病気と業務に一定の因果関係があるもの=労災の対象」

となります。だから、今回のケースで「労災になるか、ならないか」は、

○時間
○場所
○業務の内容
○理由
○經緯

などがポイントとなります。結果として、「もめた理由=業務上の問題」となれば、労災事故として労災保険が下りることになります。しかし、「一見は」業務に関係してい

ても、個人的な感情が引き金の場合は労災になりません。例えば

○挑発的な行為があった
○プライベートな言い争いがきっかけ

などです。さらに、殴られた人が必要以上に反撃した場合も「業務が原因」とは認めら

れません。今回のケースも

○業務上の問題で喧嘩になったのか

○個人的な感情がどの程度影響しているか

などが労災認定の基準となります。

次に、「会社の責任」について見てみましよう。社員同士の喧嘩の場合、会社に責任が発生することがあります。民法には、「会社は、従業員がその業務の執行につき、同僚などに損害を与えた場合、その損害を賠償する責任がある」という旨が書かれています。

具体的な判例を見てみましよう。

<アジア航測事件 平成14年8月 大阪高裁>

○女性社員が同僚の男性社員にトナーのカートリッジの注文を依頼
○その依頼が命令口調
○前からこの男性社員は女性社員に反感を持っていた
○この命令がきっかけとなり、口論
○男性社員が女性社員に平手打ちをし、怪我をさせたそして、女性社員は
○怪我が原因で、長期的に頭痛などの症状に苦しむ
○会社が休職命令を出し、その後に解雇
しかし、これに納得のいかない女性社員は男性社員と会社を訴えたのです。

そして、 裁判所の判断は

○解雇は無効
○両者に損害賠償の支払い
○会社にも使用者責任あり

と判断したのです。ちなみに、民法には、「会社が従業員の監督につき、きちんと注意を払っていた場合には免責」とも書かれています。いずれにせよ、「社員同士が喧嘩をする」ことは異常です。特に、仕事が原因であればなおさらです。こうなってしまう会社は他のことでもトラブルが発生したりします。だから、こういう現象は大きなことの予兆と考えて、早めに芽を摘むことを考えるべきです。

これを証明するハインリッヒの法則というものがあります。ハインリッヒは労働災害 5,000件余りを統計学的に調べ、この法則を導きました。この法則は「重傷1 : 軽傷 29:危うく大惨事になった災害300」という数値を示しています。これは

○ 「重傷」以上の災害が 1 件あったら、

○その背後には29件の 「軽傷」を伴う災害が起こり、

○さらにその背後には300件もの危うく大惨事になった災害があった ということです。

ここから言えることは29件、300件をいかに早めに対策するかとい うことです。日頃から、中くらいのこと、小さいことを対策していくことが重要なのです。そのためには

○問題の原因解明

○社員がもめることになった会社の業務の流れの改善

○業務マニュアルの改善

などを行うことが重要です。また、感情的なトラブルに関しては、何かがきっかけにな るだけです。絶対に日頃からの感情のもつれがあるはずです。よく言われることですが、「相手は自分の鏡」です。自分が相手のことを嫌いという場合、相手も必ず嫌っています。

こういう場合、会社としては、

○日頃から社員同士の人間関係の把握

○きちんとした話し合いの場を設けること

○場合によっては配置転換

などの措置を講じる必要があります。逆に言えば、これをしないと監督責任を問われる可能性が高くなるのです。繰り返しになりますが、民法では「会社が従業員の監督につき、きちんと注意を払っていた場合には免責」となるのです。結果として、何が起こるのかの保証は出来ません。だから、「最低でも」監督責任を問われないようにすることが大切なのです。

Q2、給料0円で採用しても?

自動車整備業を営む友人から「息子を働かせたい。お金はいらないので、おたくの工場で働かせて欲しい」と言われた。給料\0で採用していいのだろうか?

A2、

「お金はいらないので、働かせて欲しい」と面接で言われても、いざ、採用する段階で給料辛0という訳にはいきません。

○働く時間
○働く場所
○担当する仕事
○始業の時刻、就業の時刻
○休憩時間、休日、休暇
○給料の額、給料の締め日、支払日
○昇給について
○退職、解雇について

など、働く条件を雇用契約書に記載しなければなりません。これは労働基準法で決められている項目です。

さらに、次のものが会社が就業規則で定めている場合、記載しなければならない項目です。

○退職金
ー→退職金の計算方法など

○賞与、手当など
→賞与の支払い時期、支給対象期間など

○食事、作業用品、作業服代などの自己負担の有無、金額
→昼食代の補助、自己負担の按分割合など

○安全、衛生
→作業中に注意すべきことなど

○教育研修、職業訓練
→入社後の研修制度、取得する資格など

○業務上の災害、業務外の怪我や病気
→業務上の災害の範囲など

○表彰、罰則
一勤続10年表彰の表彰制度など

○休職
→病気や怪我で長期間休む場合など

これらの条件を確認して、雇用契約を結びましよう。 しかし、入社時に雇用契約を結んでいない会社も「多く」見られます。「そんなバカな!」

と思うのかもしれませんが、これが「現場での事実」なのです。そして、起業したての社長や中小企業の社長は「全く知りませんでした」とおっしやることも多いのです。1人で会社を始めるならば、「労働に関する法律」を知らなくても問題ありません。

しかし、1人でも社員を雇うことになったら、「知らない」では済まされないのです。雇用契約書の話をもっと掘り下げてみましよう。ここに書かれている条件と実際の状況が違う場合はどうなるのでしようか。当然ですが、社員から「条件どおりにしてくれ」と言われたら、雇用契約書に従わないといけないのです。

さらに、「約束と違うけれど、働いてくれ」と会社に言われたら、社員はすぐにこの契約を解除することができます。これも労働基準法で定められているのです。あくまでも契約は契約として成立しているのです。

例えば、2005年7月20日の毎日新聞でこんな報道もありました。

<老舗ホテルを書類送検=賃金など明示せず>

甲府労働基準監督署は20日、甲府市湯村の「常盤ホテル」、同ホテル副支配人の男性を労働基準法違反の疑いで甲府地検に書類送検した。調べでは、同ホテルは4月に採用した5人の新規卒業者に対し、賃金の取り決めなどの労働条件を書面で明示する義務が有るにもかかわらず明示しなかった疑い。

この事件は雇用契約書を結ばずに、新卒者を入社させたために起こりました。きちんと、書面にて提示し、誤解のないように説明しておけば、こうはならなかったでしよう。 当然、報道から派生した風評被害もあったと考えられます。つまり、実害まで発生した可能性もあるのです。

私も顧問先様の面接などに立ち会うことがあるのですが、いつも思うことがあります。それは、面接に来た人が労働条件などについて確認しないまま前の会社に入社していることも多いという。「事実」です。

そして、前の会社側も「聞かれなかったから説明しなかった」という状態で入社させているという「事実」です。この結果、「思っていたことと違う」となり、短絡的に退職することになり、これを繰り返している会社があることも「事実」です。

もちろん、 社員側が「思っていたこと」と違うレベルですが、会社側としては説明しておくべきだったのです。これは説明すべき項目を雇用契約書に記載さえしておけば、モレなかったはずです。

雇用契約書は「紙」でありますが、社員と会社を結ぶ重要なツールなのです。会社の規模は関係ありません。社員1人の会社も、社員1万人の会社も同じ法律で適用されるのです。きちんと書いておきさえすれば、未然に防げるトラブルもあります。だから、 雇用契約書は市販のひな型を変形させたていどのものではなく、会社に合わせたものを 使う必要があるのです。

ライター紹介

内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)