整備用機器のトレンドはこの4年間で大きく変化した。
電気自動車需要への備え、そして人手不足をはじめとする生産効率の向上と安全性を両立させる機能性である。
その需要は整備士が日常的に使用する整備用リフトもまた同様だ。毎日使うリフトだからこそ、より機能性を重視しなければならない。近年発売されているリフトのトレンドを検証しながら、リフト選びのポイントに迫った。
モビリティショーはEV一色
EV需要とアフターマーケット
今秋開催された「ジャパンモビリティショー2023」の主役はやはり電気自動車(EV)だった。トヨタをはじめとする国内メーカーはこぞって新開発のEVを出品し、輸入車メーカーでは世界でトップのEV販売を誇る中国の自動車メーカー「BYD」が日本のモーターショーに初登場した。国産メーカーの出品は中国、欧州市場向けのEVが多いといえど、開発車両はいずれ日本への投入も検討される。国内におけるEVの普及速度は読めないが、10年後は確実に今よりも増加が見込まれ、将来的に保有台数は増加するはずだ。その時、中古車市場でもEVの存在感は高まることは容易に想像がつく。
2023年6月に開催された「オートサービスショー2023」において各社が出品した整備用リフトのトレンドはEVの整備にも対応するリフトが目立った。その上、ディーラーの新設店ではEV整備を視野に入れたリフトの設備が着々と進んでいる。
では、専業整備事業者はEV整備に対してどのような設備を検討していけばいいのか。果たしてリフトの代替えは必要なのか。
出典:トヨタ自動車
既存のリフトで
整備できない車種も
EVに対応するリフトの特徴は、リフト間距離の長さであり、クルマの下回りの整備範囲がワイドになっている点が挙げられる。EVの床部分に敷かれた駆動用バッテリーの交換作業で十分なスペースが必要になるため、EV対応リフトはそれぞれのリフト間に距離を持たせている。また、近年装備が当たり前になっているアンダーカバー付きのクルマにも有効だ。
ただし、小型ディーラーの新設店に話しをきくと、EVにも対応するリフトの設備は将来的なEV対応という目的はあるものの、それよりもクルマのボディサイズの大型化で、従来のリフトでは作業が困難となっている対策の方が強いという。より、効率的にクルマを整備するためにパンタ式、或いはドライブオンの最新モデルを導入するケースが多いようである。
一方、近年発売されているリフトはテーブルの広さやアームの利便性が高まり、ホイールベースの長さや駆動方式にとらわれず、エンジンやミッションなどが下ろしやすいのも特徴で、こうした整備への対応でも人気を呼んでいる。現場でも新型リフトの導入は整備士への受けがよく、整備士のモチベーション向上にも貢献している。
EVの普及スピードと中古車市場を
にらんだ設備投資
EV対応リフトの必要性はEVの普及スピード次第といえるが、中古車を取り扱う整備事業者、中古車の商品化を委託されている整備事業者にとっては必須の整備機器となるだろう。将来的にEVの中古車商品化を巡っては駆動用バッテリーの容量残量が中古車販売のカギを握ってくることが予想される。容量残量が基準値よりも低ければEVバッテリーの交換などが求められるため、そうした整備に対応できる整備機器の設備を整えていかなければならない。また、EVバッテリーの容量が重要視されることで電池のクーリング対策も俄然重視されはじめた。このクーリングシステムは現在過渡期のため様々なユニットが用いられているが、こうしたシステムの整備も視野に入れておかなければならない。
車両重量の増加
代替えとメンテナンス
近年発売されているリフトのもうひとつのトレンドは仕様能力の向上である。リフトの能力は3.2トンから3.5トンが一般的だが、近年は能力を向上させたリフトが増えている。4トン仕様や6トンの能力を持つ大型用ドライブオンなどのリフトが相次いで発売されている。クルマの電動化による車両重量化やトヨタの全チャネル併売化によるコースターへの対応、さらにはキャンピングカーなど、多様化する車種の入庫などの影響が大きい。
クルマの重量化が顕著となっている点では、リフトの使用にも注意を払いたい。とりわけ電気自動車の場合、駆動用バッテリーを搭載する分、重くなる。これらのクルマについて、既存のリフトがただちに使用できなくなることはないが、クルマが重量化している意識は持っておく必要がある。リフトのメンテナンスはもちろん、受台の状態などの日常点検はこれまでよりも重要性を帯びてくるだろう。
リフトの安全設計と
大型車用のリフト選び
前号で特集した整備作業場の安全環境でも記載した通り、リフト事故を減らすため、リフトの安全設計はより重要視されている。リフト収納時に床面がフラットになるだけでなく、リフト使用時にもリフト収納部を閉じる機能などを設けるなど足元に配慮したリフトが増加してきた。中でも整備機器商社がこぞって力を入れる大型用リフトでその傾向が強く、アタッチメントの軽量化、スライドアームの改良など、安全性と作業性を両立させる機能が様々に追加されている。
大型車整備ではひとたび事故が起きた際、大惨事に繋がる可能性がある。リフトだけでなく、大型車のピットに取り付けるピットカバーなども作業場の安全性を高める点では有効だ。
多様化する自動車の入庫対応と安全性でリフトを選ぶ時代である。