第97回:地方・若者向けのカーシェア市場の課題と方向性-山口県の事例から-

カーシェアリング

朝倉登志弘1・下川茅里1・比嘉歩美1・柳生哲平1・阿部新2

1 山口大学国際総合科学部4年生 2 山口大学国際総合科学部准教授

 

1、はじめに   

 東京都など都市部でカーシェアステーションの数が増加し、より便利になっている。これに対して、地方ではそれほどカーシェアステーションの数は増加していない。地方では公共交通が発達しておらず、カーシェアステーションが必要なのはむしろ地方のように思えるが、実態は異なる。

それはなぜなのだろうか。また、大学生など若者は、自動車を購入する資金力はなく、必要なのに自動車を保有できない。そのような事情からカーシェアのニーズがありそうだが、普及しているようには思えない。

 前回の連載では、筆者らが在籍する山口大学の大学生に対して行った自動車利用のアンケート調査、カーシェアに関するインタビュー調査の結果を示した(朝倉・下川・比嘉・柳生・阿部,2019)。山口大学には構内にカーシェアサービスが存在している。調査の結果、山口大学生に関して、以下のことが分かっている。

  • カーシェアの認知度が低い。学内のカーシェアサービスどころか、カーシェアの仕組みや名前自体、多くの大学生が知らない。
  • 山口大学生の自転車の行動範囲は、自宅の場所や現在位置などにもよるが、遠くて片道約4キロメートルである。
  • 平常時は自転車の範囲内では大学生はお金を払ってまで車を利用しようと思わない。
  • 雨天時や重い荷物の運搬時など非常時に車を利用したいと思う人がいる。
  • 実際にカーシェアを使っている人は、レジャーや車の趣味などで中・長距離利用で主に利用している。
  • カーシェアステーションの場所が遠く、問題である。
  • 距離料金と時間料金の組み合わせという仕組みに大学生はあまりなじみがない。
  • 深夜早朝の時間帯にも車を利用したいという声が一定数あった。

 本稿では、これらを踏まえて、地方でカーシェアステーションが増加しない理由、大学生など若者がカーシェアを利用しない理由を探っていく。そして、それらを考慮し、地方・若者向けのカーシェア市場の方向性を提示していきたい※1。

※1本稿は山口大学国際総合科学部プロジェクト型課題解決研究(連携先:トヨタカローラ山口株式会社)の成果の一部である。なお、所属は2019年3月現在である。

2、地方のカーシェアの実態

 山口大学の大学生においては、自動車利用のニーズはあるものの、多額のコストを負担してまで自動車を保有しない。しかし、地方においては、大都市ほどに公共交通が発達しておらず、自動車がないと不便であることは確かである。その点でカーシェアは有効であるように思えるが、山口大学の大学生の実態はそうではない。

 他の地域ではどうなのだろうか。まず、以下の表1は、中四国9県のカーシェア用車両台数の推移を示している。これを見ると広島県、岡山県以外では、車両台数が少なく、地方におけるカーシェア事業はそこまで進んでいないということが分かる。

1 中四国9県のカーシェア用車両台数(各年12月時点)の推移

 

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017

2018

鳥取県

0

0

0

0

0

5

12

12

島根県

0

0

0

0

0

0

9

20

岡山県

0

9

20

48

74

120

179

223

広島県

66

135

170

229

281

347

431

504

山口県

0

0

4

9

20

24

30

41

徳島県

1

1

1

4

5

8

8

8

香川県

0

0

0

0

7

14

27

49

愛媛県

0

0

0

0

16

26

34

41

高知県

0

0

0

0

0

8

13

16

東京都

2,499

3,381

4,585

5,409

6,502

8,273

9,738

11,602

大阪府

943

1,310

1,860

2,404

2,770

3,180

3,904

4,447

出典:カーシェアリング比較360°「カーシェアリング市場動向」2012年総括版~2018年総括版

注:2011年は主要9社、2012年~2014年は主要8社、2015年~2017年は主要5社、2018年は主要6社の数値

 地方にカーシェア拠点が少ない点は、新聞記事でもわずかだが記述はある。日刊自動車新聞2018年11月29日付記事では、カーシェアリング車両があるステーションの大半は大都市圏に集中すると述べている。

 具体的には、三井不動産リアルティは8割が東京23区内、タイムズ24も半数以上が東名阪などの大都市圏に集中し、オリックス自動車も東名阪と沖縄県が主であるとしている。そして、1人1台が根付く地方で「個人利用を想定したサービスは難しい」という関係者の意見を紹介している。一方で、少子化や過疎化で公共交通機関が衰退しつつある地方にこそ、新しい需要が眠っている可能性もあるとしている。

 地方のカーシェアに関する研究としては石村・倉内・萩尾(2011)がある。これによると、経済的な視点から見た愛媛県松山都市圏におけるカーシェアの潜在的需要は高いと主張している。

 具体的には、自動車保有、利用にかかるコストと、カーシェアにかかるコストを比較し、カーシェアによってコストが削減されれば、その車を削減可能であると定義し、削減可能な車が多いエリアを調査している。その結果、松山市の約7割の自動車が削減可能であることが分かったという。これに対して、表1の愛媛県のカーシェアステーション数は増加傾向であるものの、山口県と同数の41か所である。果たして自家用車を手放すほどになっているかどうかである。

 

 カーシェアマップ(https://carsharemap.jp/yamaguchi/)では、2019年3月28日現在、山口県内のカーシェアステーションの27か所が示されているが、そのうち16か所が新幹線駅付近である。他は山陽本線を中心としたJR在来線の主要駅に7か所設置され、残りは大学や中心地・観光地である※2。

※2 新幹線駅は、新下関駅2か所、厚狭駅1か所、新山口駅4か所、徳山駅8か所、新岩国駅1か所である。在来線駅は、下関駅2か所、新南陽駅1か所、琴芝駅1か所、岩国駅1か所、防府駅1か所、柳井駅1か所である。残りは、山口大学(宇部市1か所、山口市1か所)や下関市街地(2か所)である。

 

 これらを見ると、地方のカーシェアはその地域の人よりもビジネスや観光で県外から来る人向けに設置されている可能性がある。また、ビジネスや観光向けであっても萩市や長門市のような日本海側に拠点がない様子を見ると、目的地付近よりは、山口県の玄関口に設置されている可能性がある。もちろん地元の人の利用も想定されているだろうが、主要駅以外の地元の居住者はカーシェアに触れる機会は少ないものと思われる。

3、地方でカーシェアが普及しない理由

 上記のような事情により、カーシェアに触れる機会が少ないことが居住者の認知度を向上させず、地方でカーシェアが普及しない理由の一つになっているようにも思える。一方で、普及しないまたはステーションを増やすことができないのは、十分に需要を見込めないからという見方もできる。

 往々にして地方に居住する者は自家用車など自らの移動手段を持っている。そのため、ステーションの範囲を広げたとしても需要が十分にない可能性があり、供給側にメリットが生まれないのかもしれない。

 それが結果として地元の人に普及しない理由になっているとも言える。人口が十分にあれば、主要駅以外でも設置することはあるだろうが、人口減少や少子高齢化が進んでおり、需要が見込めない状況で、普及目的でカーシェア拠点を設置することは、供給側にはリスクとなる。

 給側の問題は、先にも触れた日刊自動車新聞2018年11月29日付記事でも言及されている。これによると、ステーションが東名阪などの大都市圏に集中する傾向にあるのは、地方に拠点を増やしても、都市圏ほどの稼働率が期待できないためであるという。地方にステーションを増やすのは費用対効果を考えると難しいということである。

 当然ながらビジネスにはコストがかかるが、カーシェア事業にかかる経費や人材が限られていることも、地方に拠点が少ない理由になると言える。

 ここで、ステーションを増やすこと自体にメリットがあるのかについて議論する必要もある。筑波大学では山口大学同様に学内にカーシェアサービスが展開されている。会員数は100名を超え、山口大学よりも多く、またステーション数も6か所と多いが、それでも同大学の在学生全体からするとごくわずかである。

 タイムズカーシェアの会員数100万人、ステーション1万か所超と比較すると明らかに規模は小さいのだが、筑波大学のカーシェアの稼働率は相応に高いとされる。そのことから、そもそもカーシェアは大人数に使ってもらうより少数のコアユーザーに頻繁に使ってもらうことに向いているのではないかと考えるようになった。関係者の話によると、少人数にすることで、ライトユーザーを減らし、予約のバッティングや収益の変動を防ぐことも可能となっているようである。

 これを考慮すると、事業者側からすると、会員数を増やすことでメリットが生まれるわけではないと考えることもできる。また、先ほどの費用対効果の話より、ステーションを増やすことにより管理コストがかかる。地方は、人口が比較的分散している中で、コストの観点から見ると現状のサービスを広めることによるデメリットも存在する。

 倉内・石村・吉井(2013)は、カーシェアの普及率が低い原因の一つとして、宣伝方法に問題があるのではないかと指摘する。同研究では、「カーシェアを知っているか」という質問に対して78%が知っており、カーシェア自体の認知度は広まってきているものの、「松山でカーシェアが行われていることを知っているか」の問いに対しては78%が知らないという結果を示している。

 そして、カーシェアについて知っているが実際に身近で行われていることを知らないという状態が起こっていることを指摘する。筆者らが山口大学で行ったインタビューの結果でも、カーシェアを知っていても、大学内にカーシェアサービスが存在することを知らない人が多かったことが分かっており、上記の内容に共通している。

 これが意味するのは、必ずしもカーシェアステーションを設置したとしても、普及に繋がるわけではなく、宣伝方法の工夫が必要であるということである。確かに、地方はそのステーション数が少ないことから、普及のスピードも遅くなると言えるが、ステーション数だけが普及に関係しているわけではない。

 上記以外にカーシェアが普及しない理由として、カーシェアステーションまでの距離の問題がある。当然ながら、利用者は車を利用するためにわざわざステーションへ出向く必要がある。

 筆者らの山口大学生のインタビューにおいて、カーシェアのデメリットとして「ステーションに行かなければならない」というものが挙げられていた。田口・木村・日野・木内(2009)は、カーシェアを利用したくない理由として「ステーションまでの移動」を挙げている。

 また、安藤・山本・森川(2012)は、フランスのカーシェア事業の一つである「autolib」を利用しない理由の一つとして、「ステーションに借りに行くのが面倒」というものを挙げている。これらを見ると、ステーションに行くことがカーシェアを利用する時の障害になっていることを裏付けている。

 以上の内容を踏まえると、地方においてカーシェアが普及しないのは、(1)個人で車や自転車などを保有・利用していること、(2)認知度が低いこと、(3)カーシェアステーションへ足を運ぶ手間があること、(4)費用対効果を考慮するとステーションを増やすことができないことが挙げられる。

 (1)については、当然ながら利用者側のコストが関わっており、自家用車や自転車の方がカーシェアよりも費用対効果があるということである。

 (2)については、カーシェアステーションが少ないことや旅行者がアクセスしやすい主要駅に偏っていることから地元の人がカーシェアに触れる機会が少ない点が指摘されるが、それ以外には宣伝方法の工夫が不足していることもある。

 (3)についてもステーションが少ないため、どうしても自宅や職場から離れてしまうというものである。それは(1)にも関係しており、距離があればあるほど自家用車や自転車よりも利便性が低くなる。これらを見ると、ステーションが少ないことが根本にあり、それが利用者の利便性を低め、普及しないという結果になっていると説明ができるが、ステーションが少ないのは供給者側にも事情がある。

 それが(4)であり、需要に対してカーシェアステーションを設置するメリットが低いという問題である。人口減少や少子高齢化といった地方の構造的な問題が背景にあり、車両代や土地代などのほか、管理のための人件費を考慮すると、地方においてステーションを増やすことに運営上のリスクがあると言える。人口が少ないという構造的な問題はなかなか変えられないが、かといってそれによりカーシェア市場が今後も拡大しないわけではない。

 (1)については自家用車や自転車よりも費用対効果を高くするためにカーシェアの便益を向上させること、または料金設定を工夫し費用を下げること、(2)についてはステーションを増やす以外の方向で宣伝方法を工夫すること、(3)についてはステーションの戦略的な設置を検討することなどが考えられる。これらは後に詳しく検討する。

 なお、関係者のヒアリングでは、自動運転に伴う潜在的需要にも触れていた。今後10、20年後には自動運転が一般化され、車が自ら利用者のもとに移動してくるというシステムが確立され、特に地方では人々が公共交通機関以上にカーシェアを便利に感じるようになるとのことだ。

 その結果、カーシェアは公共交通機関の代替となり、そこにビジネスとして参入する余地があると語っている。自動運転が普及すれば、カーシェアステーションに向かう手間も省け、利便性も向上する。それが認知度を高め、さらなる拠点の設置にも影響することだろう。

4、若者にカーシェアは普及するか

 上記のように地方は公共交通機関の整備が十分ではなく、自動車の利用のニーズは高いが、カーシェアについては人口が少ないという構造的な問題により、あまり普及していない。一方、大学生など若者は、自家用車を持つほどの所得がないことから、カーシェアのニーズはありそうだが、同じく現状は普及しているようには思えない。人口が少ないという問題とは別のように思えるが、それを変えることはできるのだろうか。

 小澤・鈴木・榊原(2012)では、2011年に行われた山口大学工学部の学生の自動車利用の調査結果について記述している。これによると、自動車を保有していない2年生以上の大学生のうち、70%以上が移動を断念した経験があり、80%以上が不便に感じた経験があると答えているとある。

 また、谷口(2011)は筑波大学の学生の自動車利用について言及しているが、自動車を持たない生活が不便であることもまた事実であると記述されている。著者自身の自動車がなくて不便に思った経験談もあった。これらから、少なくとも山口大学と筑波大学では自動車非保有者は移動に不便を感じていることが分かる。

 ただし、若者は自動車を保有しないことで移動を断念する前に、「友達に乗せてもらう」などの行動を取ることが多い。小澤・鈴木・榊原(2012)によると、自動車の非保有者が自動車を利用する際の手段として、「友達に乗せてもらう」が70%を超えている。

 これに対して、レンタカーという手段は2年生で2%、上級生で5%と非常に低い。つまり、お金を出して車を借りることは少ない。筆者らが山口大学生にインタビューを行った際も、「自転車で行けない、行きたくない場所にお金を出して車を借りてまで行くかどうか」という質問に対して、「お金を出して車は借りない。車を保有している友人に頼んで連れて行ってもらう」という意見が多く見受けられた。

 このことから、現在でも大学生はお金を出して車を借りることよりも、車を保有している友人に連れて行ってもらう方法をとるということが分かる。この若者の考え方を変えない限り、若者にカーシェアは普及しないと感じる。しかし、車を保有している学生が少ない大学では普及する可能性は残される。

 山口大学のカーシェアの広告は十分とは言えず、大学のホームページにはカーシェアについての紹介はほとんどない。あったとしても、あくまでも大学の広報という位置づけであり、在学生向けにカーシェア事業を発信しているとは言い難い。

 一方で、筑波大学では、キャンパスライフというページにおいて、大学生の生活支援の欄に「カーシェア・つくば」というものを見つけることができる。

 また、パンフレットについても問題点が指摘された。山口大学で行われているカーシェアのパンフレットにはデザイナーが関わっていないが、筑波大学のパンフレットにはデザイナーが関わっている。

 筑波大学の関係者によると、パンフレットはデザイナーに関わって作成してもらったものだが、それを大学生が見直し、どうやったらもっと大学生が使いたくなるのかということを考え、イラストマークや例を入れたりし、筑波大学の学生にもっと使ってもらえるように作り直したようである。さらに、そのパンフレットを新入生オリエンテーションの機会に6,000部配布するという利用促進も行っていたという。

 これらの話を聞いて筆者らは山口大学のカーシェアを知ってもらうための広報がまだ足りないのではないか、もっとこのカーシェアを知っている人が増えれば、利用する人も増えるのではないかと考えた。

 一方、そのような広報活動を強化したとしても、普及するかどうかである。山口大学よりも広報に力を入れたと言える筑波大学においても、カーシェアを利用する学生は少数であるように思える。

 もっとも、カーシェアの稼働率は、マイカーの3~5%と比べると十分に高く、非常に良い評価ができ、確かにそれ以上普及することにこだわる必要はないようにも思えるのだが、カーシェアが大学生の不便さを解消する手段になっているかというとそうは思えない。カーシェアを「不便さの解消手段として見るべきではない」と結論付けるのか、あるいはさらなる普及の方向性を追求するかである。

 筆者らが行ったアンケート調査では、レンタカーの利用経験(運転手以外も含む)は回答者の半数で、そのうちの88%が「年に1~3回」程度の利用回数だった。また、レンタカーの利用目的は、「友人・知人との遠出」が最も多く、「スーパーなどの買い物」のような日常利用でレンタカーを使うことは少なかった。

 これに対して、カーシェアの場合、その利用者は少ないが、その中での意見では、利用目的はレンタカーと同じようなものだった。つまり、旅行などの特別な場合に利用するのであって、日常利用ではない。レンタカーの代替としてカーシェアが位置づけられている。

 アンケートにおいて、自動車保有者は「1時間未満」の利用が3分の2を占め、その利用目的の上位に「アルバイト」や「スーパー、コンビニ」「通学」のような短距離の日常利用を挙げている。

 カーシェアは、本来であればそのような日常利用を想定しているはずだが、大学生の現実は必ずしもそうなっていない。カーシェアも費用がかかるのであって、それが壁になっている。自転車よりも車の方が便益は大きいと言えるが、その費用を考えれば、自転車の方が選ばれる。

 一方、筆者らの山口大学生へのインタビューでは、雨天や重い荷物の運搬など非常時でカーシェアを利用したいという声もあった。そのような際には車の便益が大きくなるのだろう。

 また、山口大学に限ったことだが、現在は夜間や早朝に入構が禁止され、カーシェアが利用できない状態になっているため、それを解消することでカーシェアが普及する可能性はある。レンタカーの窓口も夜間は閉まるため、レンタカーの代替としても有効である。

 以上を踏まえると、大学生など若者は所得が低いことから、自家用車のみならず、カーシェアにおいても費用が重要視されている。そして自転車ほか、友人の車の利用で交通の不便を補っている。ただし、広報活動のやり方しだいではカーシェアの利用は増える可能性はある。また、非常時やレンタカーの代替としての利用の可能性はあると言える。

5、地方の若者に焦点を当てたカーシェア事業の可能性

 最後に、山口県を中心として、地方の若者に焦点を当てたカーシェア事業の可能性を検討する。まず、「地方」ではカーシェアステーションについての話題が意見交換やインタビューでも登場しており、地方でカーシェアを普及するにあたり一番大きい問題であると言える。地方は人口が少なく、1つのカーシェアステーションに対する潜在的な利用者の割合は、大都市よりも低い。これを考慮する必要がある。

 次に、「若者」という視点で見ると、「お金を出してまで車を借りようと思わない」という意識は特徴的であると考える。また、他人に乗せてもらったり、自転車に乗ったりする場合にはお金を払う必要がなく、それがカーシェアを使わない要因にもなりうることも留意すべきである。

 なお、カーシェアは少人数のコアユーザーに頻繁に利用してもらう小規模運営の方が効果的であり、会員数を増やすことに大きなメリットがあるわけではない。その視点に立てば、現状の規模でよいのかもしれないが、ここでは地方の交通の不便さを解消する手段としてカーシェアを捉え、その市場の拡大の余地を想定し、方向性についてまとめておく。

(1)ステーションの工夫

 まず、現実的な方向性としてステーションの工夫がある。先に見たようにカーシェアはステーションまでの移動の手間が課題である。筑波大学では運営者自身が実際に立地を視察して大学生向けのアパートに囲まれた駐車場を見つけ、そこにカーシェア用の車両を設け、結果的にそこの利用者と稼働率が増えたという。

 地方では広く満遍なくカーシェアステーションを設けることは難しいものの、戦略的な設置により、稼働率を高めることができると思われる。利用者にとってステーションは徒歩圏内の場所にあった方が便利で使いやすい。

 山口大学のカーシェアステーションは大学構内に設けられているが、大学と家が近い大学生は便利という声が多い一方、離れている大学生は不便という声が多い。大学生の居住エリアを分析し、工夫すべきである。

 また、カーシェア事業の管理者はカーシェアステーションを定期的に訪れ、車両やシステムの部品に不備がないか点検するため、コストがかかっている。そのコスト削減のためにも、ステーションの設置を戦略的に行うことが重要だろう。具体的には、ステーションを密集させて展開させてはどうか。定期点検をより効率的に行うことができ、コスト削減に繋がると言える。

 なお、山口大学に限って言えば、構内の設置において不便なのは夜間や早朝の利用である。それらの時間は大学に入構できないため、借りることも返すこともできない。インタビュー調査から深夜や早朝の時間帯にカーシェアを利用したいという声も一定数見られた。

 24時間いつでも車を利用できるようにすることで時間に縛られずに出かけることができる。カーシェアがレンタカーと比べて優位なのは、時間的な利便性にある。その意味では、時間に縛られる学内よりは、学外にカーシェアステーションを設置するのが良い。例えば、大学生寮の駐車場にステーションを設置する方向が考えられる。寮に住む大学生はカーシェア利用のためにステーションまで移動する手間が省け、利便性は高まる。

(2)認知度、信頼性の向上

 筑波大学での調査より、カーシェア会社が大学事務と連携して新入生オリエンテーションでパンフレットを新入生全員に配布していることが分かった。また、ステーションの駐車場にはカーシェアであることが分かるように看板も立て掛けられている。さらに、筑波大学のホームページにはカーシェアのことが紹介されている。

 一方、山口大学ではホームページのニュースリリース欄に掲載されているが、これは周知活動とは言えない。認知度を上げる方法案としては筑波大学での取り組みを参考に、①新入生全員にパンフレットを配布する、②ステーションに看板を立て掛ける、③大学のホームページに掲載すること、を提案したいが、①と②は大学の事務と協力できるかどうかが課題となる。

 また、大学のホームページに掲載しなくても、別にウェブサイトを作りURLを貼り付けることもできるだろう。これら以外に、そもそもカーシェアが何かを知らない大学生が多いことも調査から分かった。ホームページやパンフレットにカーシェアの利便性を繰り返し提示し、カーシェアそのものの認知度を向上させることが重要だろう。

 また、認知度の向上とともに、信頼性の向上も必要である。山口大学の多くは大学周辺で暮らしており、レンタカーの事務所が大学から徒歩圏内の場所にある。大学生へのインタビューからはレンタカー利用について特に不満の声は聞かれなかった。その理由として、大学生にとって便利な立地であることやブランドの安心感、サービスの質によるものだと考えられる。

 信頼性やブランド維持に関わるものとしてホームページの質が挙げられる。山口大学生のインタビューからは、大手カーシェア会社のタイムズカープラスのホームページを見て、安心できそうだったことから会員になったという声があった。

 また、ロゴマークやキャッチコピーも信頼性に影響する。筑波大学での調査からはロゴマークやキャッチコピーを作っていることが分かった。この結果から、使いやすいホームページの作成、ロゴマークやキャッチコピーの作成を提案したい。

 さらに、山口大学生へのインタビューからは、口コミによってカーシェアを知ったという人が多いことが分かった。信頼性やブランド維持による口コミ評価の向上は認知度の向上にも繋がるだろう。

(3)料金設定の工夫

 山口大学生のインタビュー調査から、大学生は雨が降っている時に車を使いたくなるということが分かった。しかし、雨だとカーシェアステーションまで移動するのが面倒になるという声もあった。

 こういった人に対しては、雨の日のカーシェアの利用料金を下げることで利用のインセンティブが働くようにも思える。一方で、カーシェアステーションと自宅が近く、雨でもステーションへの移動が面倒にならない人もいる。

 そのような顧客の状態によって利用料金を変動させるというのはどうだろうか。もちろん、料金の改定は簡単なことではなく、特に雨の日の値上げなどは非現実的なように見えるが、雨の日に使いたいという大学生の声が多かったことから、多少普段より利用料が高くても使いたいと思うのではないだろうか。

 逆に潜在的な需要を顕在化させ、会員数を増やすために雨天時などにキャンペーンで価格を下げるという考え方もある。いずれにしろ、非常時における需要や最適な値段設定に関しては検証や議論が必要である。

 一方、自転車との競合をどうするかという問題がある。調査からは、若者にとっての自転車の利点は、利用の上で駐輪のことを考える必要がなく、小回りが利くなど使いやすい点であるということが分かった。また、友人と食事など遊びに行く時や買い物、アルバイト先への移動が自転車を使えばゼロ円だから良いという声もあった。

 カーシェアでは当然ながら利用料の負担がかかる。自転車で十分対応できる用途において、若者にカーシェアが選ばれるためには、カーシェアの利用料を限りなくゼロにする必要がある。自転車の代替としてのカーシェアを考える上で、DeNAのゼロ円タクシーが参考になる。

 2018年12月5日付の日本経済新聞によると、ゼロ円タクシーは車内の画面でスポンサー企業の広告映像を流すほか車体にも商品の広告を掲載し、利用料金は広告主やDeNAが負担するとある。

 また、2018年12月には期間限定で日清食品がどん兵衛を使ったどん兵衛タクシー50台を都内23区限定で走らせたとある。DeNAはタクシーの配車アプリMOVを展開しており、利用者はMOVアプリを使ってゼロ円タクシーを配車できる。このような動向も参考にすべきである。

 また、自転車の利点である駐車スペースが小さいことや小回りが利くことに対しては、小型の1人乗り自動車や電動スクーターを使ったカーシェアを提案したい。これとゼロ円を組み合わせることにより、自転車の利便性が得られ、かつ動力やスピードという優位性を持つことになるだろう。

 なお、大学生へのインタビュー調査からは、クレジットカードを持っていないため加入したくてもできないという声があった。また、2018年6月のアンケート調査の時点では、大学生のスマートフォンや電子マネー決済は意外と少ないことが分かった。

 決済プロセスがレンタカーより簡潔である点がカーシェアの強みともいえるが、現金払いではない点が大学生など若者にとって障壁になっているともいえる。コンビニ支払いを可能にするなど、窓口がなくても現金で支払える仕組みを作ってみてはどうだろうか。

(4)店舗・企業等と連携したサービス

 山口大学生への調査から、大学生は重い荷物を運ぶ時に車を使いたいということも分かった。こういった声に対しては、店舗と提携したカーシェアを提案したい。具体的には、提携先の店舗にカーシェア用のステーションと車両を設ける。

 山口大学周辺にはスーパーの他にニトリなど、自転車では大きくて持ち運びが難しい家具などを取り扱っている店がある。若者は自転車で来店して購入し、カーシェア用の車両をレンタルして家に運べる。運び終えたら店に戻り車を返却し、自転車で帰宅する。レシートを提示したら特典や割引が適用されるといった仕組みを作れば、利用する人はさらに増えるだろう。

 また、販売店網でスタンプラリーイベントを同時に開催するなども考えられる。販売店にスタンプラリー用のステーションを設置し、来てもらった人にスタンプを押してもらい、全て集めた人に飲食店の割引券や、日用雑貨や家具などの景品をプレゼントするというものである。

 あるいは、利用ごとにポイントがたまり、将来的に貯まったポイントと前述したような景品を交換できるというものでもよいだろう。店舗にも足を運んでもらうことで相乗効果も見込めると言える。

 また、ステーションの工夫と関わることだが、不動産会社と提携する方向性もある。インタビュー結果からは山口大学生は家の近くにカーシェステーションがあれば使いたいということが分かった。ステーションや車両を提携したアパートにカーシェアステーションを設置することで車を使いたい大学生は遠く離れたステーションまで移動しなくて済むようになる。

 不動産ビジネスの競争が激しくなっている中、カーシェアを取り扱っていることは良い宣伝材料となり、不動産会社側にもメリットはある。一方、利用者側のデメリットとしては利用を譲り合う必要があるなどが挙げられる。

 さらに、調査からはレジャーや観光目的でレンタカーを利用する人が多いことも分かった。このことから、観光地と連携したカーシェアサービスの方向も考えられる。カーシェアの利用者は、連携した観光地での店舗や入場料、駐車場の割引特典などを受けることができれば大学生にとってカーシェアを使うメリットがある。

 また、複数の観光地を拠点にしたスタンプラリーイベントやポイント制度も同時に開始し、集めたスタンプやポイントで飲食店の割引券や日用雑貨や家具などの景品を交換できるようにすれば、若者だけでなく地域にとっても観光促進のメリットがある。もちろん、地元だけではなく、観光客にとってもメリットはある。観光客向けには空港や新幹線駅におけるステーション設置が別途必要になってくるだろう。

(5)グループ単位でのカーシェア

 筆者らの調査から、車を使いたい時、友人から車を借りるか、乗せてもらうことで費用をかけることなく車を利用している大学生も多いことが分かった。また、レンタカーの利用目的や理想の自動車の利用目的においては、いずれも「友人・知人との遠出」が最も多かった。つまり、大学生など若者は複数人での利用が多いと考えられる。

 そのような実態がある中で、料金設定の工夫にも関係するが、2人乗り以上でカーシェアの利用料金が安くなる期間限定のキャンペーンなどはどうだろうか。料金は1回1,000円など、車を持っている人にも魅力なものとする。キャンペーン期間中の利用者による口コミが広まれば、カーシェアの認知度向上といった成果も期待される。

 また、部活・サークル活動においても、車の需要が高い。特に学外での活動がある部活・サークルにとって自動車は必須である。自動車を部内で捻出された活動費によって購入している部活もあった。

 レンタカーの利用目的にも部活・サークルの遠征は上位にあり、その代替としてカーシェアは有効である。その際に、団体利用向けの料金メニューを準備することで、利用の敷居が下がることもありえる。グループでの利用により、個人の利用にも波及する。

 アメリカでカーシェアが広まった経緯について述べられた山内(2016)によると、アメリカのカーシェアの創業者は会員同士が顔見知りなら自動車を丁寧に扱ってもらえると考え、コミュニティ形成を重視したとある。

 具体的には、創業者がEメールで会員を「家族」と書いたり、持ち寄りの夕食会を開催したりしたとある。さらに、会員はジップスター(カーシェアの名称がジップカーだった)と呼ばれ、それがステイタスになっていたようだ。

 アメリカと比べて一般的にマナーの基準が高いとされる日本ではそれほどモラルは大きな問題ではないように感じられるが、グループ単位でのカーシェアの利用はマナーの向上という側面もあるといえる。現代のカーシェアはレンタカーの代替という印象もあるが、共有というカーシェアの原点に振り替えることも重要なのかもしれない。

参考文献

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  • 石村龍則・倉内慎也・萩尾 龍彦(2011)「自動車保有・利用コストに着目した松山都市圏におけるカーシェアリングの潜在需要分析」『土木学会論文集. D3, 土木計画学』67(5),I_665-671
  • 小澤卓矢・鈴木春菜・榊原弘之(2012)「山口大学工学部におけるカーシェアリング導入可能性についての態度・行動分析」『土木計画学研究・講演集(CD-ROM)』46(P65),1-7
  • 倉内慎也・石村龍則・吉井稔雄(2013)「地方都市における自動車保有者のカーシェアリングサービスに対する利用意向の分析」『土木学会論文集D3』69(5),423-431
  • 田口秀男・木村一裕・日野智・木内瞳(2009)「地方都市におけるカーシェアリング利用の影響要因と導入可能性に関する研究:秋田市を事例として」『都市計画論文集』44(3),517-522
  • 谷口綾子(2011)「大学におけるカーシェアリング・システム導入時の潜在需要予測と利用促進~筑波大学の事例~」『土木学会論文集D3』67(5),1103-1112
  • 山内昌斗(2015)「カーシェアリングビジネスにおける共通価値の創造:ジップカーの事例を中心として」『広島経済大学経済研究論集』38(3),51-64