第150回 第5回FORS(ポーランド自動車解体業国際フォーラム)に参加しての雑感

熊本大学大学院人文社会科学研究部(法学系)・環境安全センター長

外川 健一

本誌第92号(2018年)にて、筆者が紹介したポーランドの自動車解体業界が主催する国際フォーラムの第5回目の会合が、ワルシャワ国際空港から徒歩15分程度のAIRPORT HOTEL OKĘCIE,にて2023年9月13日から14日まで開催された。前回筆者が参加してから5年。この間に新型コロナウイルスのパンデミックが起こったり、急速な電気自動車の普及とカーボンニュートラル、サーキュラー・エコノミーの普及が欧州では進んでいると日本では紹介されている。そのような状況の中でEU東部に位置する、ドイツから輸入された中古車を主として解体しているポーランドの現状を確認したい。今回はEU政府の担当官もこの会合で講演したこともあり、ポーランドの現状とEUの使用済自動車政策の動向を、主に拡大生産者責任に的を絞って紹介したい。なお()内は筆者のコメントである。

 

ホスト ポーランド アダム・マウィスコ氏のプレゼンテーション

FORS会長アダム・マヴィスコ氏(中央)。左はFORSの国際会議では常に司会を務めるウーカシ・シオク氏(FORS提供)

 

2023年現在、ポーランドにおける自賠責保険の対象となる車両は約4,100万台である。ポーランド年間平均自動車解体台数は実のところ、不明である。ただ、いわゆる許認可を受けた解体業者(欧州ではATFと呼ばれている)で解体処理される台数は、約40万台から50万台である。自賠責保険と車検が義務付けられているにもかかわらず、現在1,500万台以上の車両がこれらの義務を全うしていない。実際に、登録車両4,100万台のうち、1,500万台の車両しか保険に入っていない。

ポーランドでは毎年平均して違法に解体されたELVの数は、過去3年間の平均で約50~60万台とみられている。ここでの違法解体とは、ATF以外で解体されることを意味する。

なお、2023年9月現在、廃棄物に関する公式データベース(BDO)に登録されている自動車リサイクルに関するインフラは以下の通り。

– ポーランド市場に自動車を輸入している中古車輸入業者等は14,730社。

-ATFは 848カ所。

– 解体する権利はないが、EU 指令に基づく車両の回収拠点は72カ所。

– 自動車を受け入れるシュレッダーは7基。

– バッテリー・蓄電池処理施設は24ヵ所。

 

ポーランドにおける「自動車リサイクルシステムにおける各事業者の責任」

まず、使用済自動車のリサイクルシステムにおける各事業者の責任について。

メーカー/輸入業者の義務 : ポーランド市場に1,000台以上の自動車を上市した場合は以下の通り。

– ELV引き取りネットワークの提供 – 16の県にそれぞれ3カ所の引き取り場所を整備。

– 最低48カ所の引き取り場所を提供し、そのうち最低16カ所はATFとする。また、ポーランド市場に1,000台未満の自動車を上市した当事者の場合は以下の通り。

– ELV引き取りネットワークの提供 – ポーランドの異なる場所に3か所の引き取り拠点を設置し、そのうち1カ所はATFであること。

 

自動車解体業者の責任

– すべての使用済自動車を無償で引き取る。

– 回収率95%、再使用率またはリサイクル率85%の達成。

(日本では以上の項目はASR再資源化率70%以上という形で、自動車メーカーの責任となっていることに注意したい。ポーランドには、国内に主要メーカーが存在しないので、このように静脈セクターの役割・責任が大きくなる)

– 修理中に廃棄物となるすべての車両部品を引き取る法的および実際の能力を確保。

– 油水分離装置の適切な管理の確保。

– 関連許可の取得、具体的には、火災やその他の事故が発生した場合に備えて、非常に高い安全性を確保する、

可燃性廃棄物の保管場所の監視を行うこと。

(これは、ここ数年ポーランドの廃棄物処理場で頻繁に起こる火災を意識したものである。しかし、これら火災の原因物質は様々な電子・電気機器に利用されているリチウムイオン電池に由来するとも考えられる。そこで、電気自動車由来のリチウムイオン電池由来の火災に対しても警戒した項目でもあるとも想定される。)

 

シュレッダー業者(破砕業者)および、他の車両廃棄物処理施設のオペレーターの義務

– シュレッダーに移された車体について、5年に一度、破砕テストを実施すること。

(日本と異なり、ポーランドにはASR問題が顕在化していないため、シュレッダー業者に課せられた責任はほとんどない。しかし、なぜ5年に一度という相当のスパンで、このようなテストを実施するのかよくわからない。)

 

解体業者で取り外し、他の車両には使用できない部品一覧

・発火装置付きエアバッグ

・ ブレーキパッドとシュー

・ブレーキシステムパイプ

・排気系マフラー

・ ステアリングおよびサスペンション・ジョイント

・シートベルトまたはエアバッグ一体型シート

・ステアリングロックシステム

・電子制御トランスポンダー付きイモビライザー

・盗難防止および警報装置

・ABS :Anti-lock Breake Systemなどの安全システムの電気および電子部品

・ 燃料パイプ

・使い捨てフィルターおよびフィルターカートリッジ

・排気ガス再循環バルブ

・ガス供給設備

・自動および非自動シートベルトセット

・ワイパーブレード

・作動液

・触媒

・PCB含有コンデンサー

 

(このリストを見たとき、半分はなるほどと感じつつも、半分はなぜ再使用を解体業者自らが諦めているのかが気になった。どうもこの国の補修部品市場ではリビルト部品はグレーエコノミーの象徴となっていて、ATFでは手を出さないようにしているのかが気になる。)

 

グレーエコノミー(ATF以外へ使用済自動車が異動することを防ぐ方策)で、既存のものおよび計画中のもの

-環境保護監察局による違法解体現場の検査。

-使用済自動車の国境を越えた移動の検査。

-警察および国境警備隊との協力。

-最高50万PLN~12万ユーロの高額罰金。

(PLNはポーランドの貨幣単位。1PLNは、2023年10月20日現在おおよそ36円。すると50万PLNは、1,800万円。これはかなり高額。12万ユーロも1ユーロ150円として同額)

– 自賠責保険に加入しているかのチェック。

-自賠責保険に加入していない場合、5,000PLN~1,000ユーロ以上の高額の罰金が科される。

(15万円から18万円相当)

– ポーランドを経由して輸入または輸送される廃棄物に対するSENTと呼ばれる監視システムの開始。

-環境保護監察局の主席検査官による違法な自動車解体などの報告用ウェブサイトの開設。

https://portal.gios.gov.pl/formularze/share/6087ac37e1744901b6c94f233bd123a8

参照。

しかしながら、ポーランドの現政権は、その任期が終了するまで、グレーゾーンを制限するための体系的な解決策を計画していない。唯一の措置は、2024年に非ATFで解体された車両の大半を車両登録から抹消する法律を2023年に採択したことくらいである。

しかし、政府のこれまで行ってきた措置は、現在ポーランドで60%と推定されるグレーマーケットを減少させてはいない。残念なことに、最後の車両所有者に対する経済的インセンティブ制度の導入(ポーランドでは、かつて適正処理を行うATFには政策的な補助金が支払われる制度があった。しかし,その制度は現在撤廃されている)という私たちFORSの提案も2009年から継続的に行っているが、実現に至っていない。

 

ポーランドの解体部品の市場

– 3つの主要サイトだけで、約2,000万点の中古部品が入手可能。

(日本ではB to Cのサイトはヤフオク独走だが、B to Bのリサイクル部品取引の場合、豊田通商・JARAがリードして、既存の5団体でスタートしたオールリサイクルパーツネットワークがある。ほかにもブロードリーフなど、たくさんの流通ネットワークが存在している。)

– ウェブポータルで提供されている部品のうち、ATFからの提供は5%未満しかない。

(これは驚き。ただ、ヤフオクも中古エアバッグを長きに渡ってサイトでの取引を認めていたことは、ここで改めて明記しておくべき)

– 合法的に解体された部品にはすべて23%の付加価値税がかかる。

(日本では消費税10%のみ。ただ、インボイス制度の導入で多くの解体業者は混乱しているこの10月という感じである)

–  FORSメンバー十数社のみが、取り外された部品が提供された車両の車体番号を割り当てることで、部品の出所を提供している。

(このような話を聞くと筆者は、かつて経産省自動車課が日本自動車リサイクル機構に導入の検討を依頼し、現在のところ日も目をみていない「自動車リサイクル部品の規格化」の話が自分の心をよぎってしまう。日本でも、規格化の第一弾として、made in Japan を証明するため、どの解体業者で解体された、どの使用済自動車由来のリサイクル部品なのかを明示する、コードによる規格化が検討されていた。ポーランドでも、そのような取り組みをおこなうことで、自社ブランドの向上を図っているようだ。)

– 数年来、環境検査観察局はすべてのリユース用の部品を廃棄物として扱っている。

-ポーランドの多くの自治体で、再利用のための部品加工を含む,廃棄物処理の禁止が計画されている。(部品のリユースのため、一定の廃棄物が出るのは当然であるが、そのような廃棄物処理施設の建設を認めていないようだ。現場を知らないからこその規制である。)

-このような自治体の決定を待つ必要はない。こんな規則は成立させてはならない。

(以上のことが真ならば、ポーランドの環境行政は自動車リサイクルビジネスの本質を全く理解していないことになる。)

 

ポーランドのATFで「処理困難物」として挙げられていたのは以下の品目である。

-使用済吸着剤(Used sorbents)

-複合材料

-クーラント

-異種プラスチック(プラスチックの混合物)

-タイヤ

-溶融ガラス(おそらく自動車用のガラスだと思われる)

(日本も同様であるが、コストをかければ何とか処理できるという品目が多い。)

 

ポーランドの使用済自動車の、リサイクルに関する革新的な法的または技術的解決策

FORSがかねてから、シャドーエコノミー,あるいはグレイエコノミーの問題に対する法的解決策は、最後の所有者に経済的なインセンティブを与える制度、すなわち預託金と保証金の制度を導入することが有効であると主張している。(いわゆるデポジット制度)現在FORSが考えている払い戻し可能な保証金の額は約250ユーロ(1ユーロ150円として、37,500円)である。

FORS会員でもあるImpresja社は現在、解体される部品のリストを自動的に作成するシステムのプロジェクトに取り組んでいる。すなわち、従業員が関与することなく、取り外すべき部品のリスト作成とそれらの部品の査定を自動で行うシステムの開発に取り組んでいる。このシステムはアルゴリズムとニュートロン・ネットワーク学習(人工知能支援)に基づくものである。

(余談だが、2023年10月14日福岡市内で開催された自動車リサイクル部品ネットワークグループの部友会の定期総会において、JARAの矢島社長新たに採用されたATRSのシステムについて、オンラインで講演された。その際、部友会のメンバーの1人が「仕入れた自動車のどの部品を外せば、どの程度の値段で売れるのか、そこまでできなくても、どの部品を外して、どの部品はそのまま破砕業に流す方がいいのか、そういったシステムができないものか」と質問していたが、ポーランドのImpresja社の取り組みは、まさにそのような需要に応えたものとも思われる。成功する見込みは別として、解体業者の期待するシステムは、どの部品を外せばどこでどれくらいの値段で売れるかを、AI等を駆使して、教えてくれるようなものでもあるようだ。)

なお、ポーランド政府は自動車リサイクルに関して、「革新的な政策を何も行っていないが、FORSと連携して目下作業中である」と、登壇したFORS会長のアダム・マウィスコ氏は語った。

 

HVおよびEVの解体

-現在、電気自動車の解体に関する法的要件はない。

-解体されたバッテリーは、スペアパーツとして売却されるか、他の用途(たとえばエネルギー貯蔵施設の建設など)に特化した企業に譲渡されることが多い。

-ポーランドで解体される電気自動車の数はごくわずかである。

-鉛バッテリーはポーランドの解体業者のビジネスの脅威ではないが、バッテリーに関してはとくに電気自動車のバッテリーなどに起因する発火が問題視されている。

-ポーランドでは2023年に約5万台の電気自動車が登録されている。そのうち12台がどこかの解体工場に送られたが、これらの車両は登録されたままとなっている。

 

ポーランドは欧州における自動車リサイクルのリーダーか?

Eurostatのウェブサイトに掲載されたデータによると、2019年、ポーランドは欧州連合(EU)で最も高いレベルの使用済自動車の回収とリサイクルを達成したという。この数字は信じていいものだろうか?アダム・マウィスコ氏は会場の参加者に問うた。

統計上は、ポーランドが、欧州連合(EU)域内の使用済自動車の回収とリサイクルの最高レベルを達成したのである!回収率は122.2%、リサイクル・リユース率は118.8%であった。このような高いレベルは、彼等から観たら当然怪しい。ポーランドのELVリサイクルの計算方法は間違っているのだ。

欧州委員会の決定2005/293/ECによると、リユース・リカバリーの水準は、ある年に受け入れた自動車から回収された廃棄物を分母に、リサイクルや再利用された部品の重量を分子において算出される。となると、ポーランド政府の公表したデータは、回収した重量以上のリユース・リカバリーが行われたと報告している。そんなことは不可能である。欧州委員会は、ポーランドが提出したデータに疑問を呈するのか?その答えはわからない。

(ただし、リーマンショック時に、日本同様スクラップインセンティブを行ったEU諸国では、当時ドイツやオーストリアで100%を超えるリサイクル率が公表された経緯がある。

ちなみに筆者が調べた2020年のデータでは,リユース・リサイクル率は106.8%、リカバリー率は109%であった。コロナ禍で新車の販売が減り、その結果として使用済自動車台数も減ったことはポーランドの統計上では確かである。2018年:423,315台,2019年:384,412台,2020年:306,313台。ただし,この台数はATFでの処理台数である。この問題提起に対する正確な答えはわからない。いずれにしろ、欧州に限らず、統計というものは本サイトでも執筆している山口大学の阿部新教授も指摘しているように、どのように計算されているのか、その数字をどう解釈すればよいのかを、ただ数字を鵜呑みすることなく,計算方法等を具体的に検討する姿勢が大切だと実感している。)

 

自動車の設計および使用済自動車の管理に関する循環性要件に関する規則案

欧州委員会・環境総局 ユニット B.3 – 廃棄物から資源へ

一部報道で日本でも知られているが、使用済自動車のEU指令が20年以上も経て見直され、EU規則としてこの夏に公表された。EUでは今後選挙も控えていて、この規則が果たしてこのまま実施されるか流動的であるが、EUの現時点の環境政策を見ていく中では重要だと思われる。

今回のFORS主催の国際会議にはEU委員会からマルティナ・ロバコフスカ 博士が参加し、EUの新しい使用済自動車規則について説明を行った。彼女は、EU委員会環境総局・循環経済総局、廃棄物から資源へユニットに勤務する環境弁護士でもある。使用済自動車(End-of-Life Vehicles)チームのメンバーの一人で、自動車設計のための循環要件および使用済自動車の管理に関する規則案の作成メンバーでもあった。最近、「循環経済実施の観点からみた民法取引の対象としての廃棄物」と題する博士論文を発表した。また、同グループのJaco Huisuman氏もオンラインでブラッセルから参加した。

 

使用済自動車に関する欧州グリーン・ディールおよび循環型経済行動計画に基づくコミットメント

マルティナ・ロバコフスカ博士は、EUの廃棄物政策は、廃棄物発生量の削減をその中核として据えていると強調し、そのため、①製品の設計変更 、②高品質のリサイクル、③新製品へのリサイクル素材の採用が、今回のELV指令改正の中心であると説明した。

(この①製品の設計変更に関しては、日本においてはしばしば耳にしていた「環境配慮設計」を思い起こされるが、それも含まれるのだろうが、今回の規則では③新製品へのリサイクル素材の採用が求められていることを鑑みれば、そのようなことが容易にできるようなCE(サーキュラー・エコノミー)設計をメーカーに課していると考えられる、②は新車にも使用できるような再生材を製造することを求めている。背景には、脱炭素化と再生原料の安定供給への関心が高まっていることがあるという。しかし、これらの手法は拡大生産者責任を果たすためのメーカーに課すべき手法として、今世紀の初めにはOECDガイドラインとして紹介されていたもので,真新しいものは何もない。)

欧州グリーン・ディールでは、自動車が優先商品の一つに挙げられている。そして、CRM法提案や電池規制(バッテリー規則)との整合性を図ることが重要であるという。

(CRM法とは、2023年3月16日に、欧州のグリーン・ディール産業計画の一環として、重要原材料(Circular raw materials :CRM)の安定的かつ持続的可能な供給確保に向けた、規制枠組みの設置する規則案のことである。(https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/03/be46d970feeb9114.htmlおよび、https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A52023PC0160参照)

講演するEU委員会政策担当官の1人マルティナ・ロバコフスカ博士(筆者撮影)

 

欧州グリーン・ディールやデジタル化の実現に必須のCRMの供給のために、特定の域外国への過剰な依存の解消を目指す。規則案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。このプロセスはELV指令が規則に改訂されるプロセスや、電池規則が成立したときの手続きと同様である。

EUでは、CRMの需要の急速な拡大が予想されているが、その供給の多くをほぼ全面的に輸入に頼っており、特に一部のCRMの供給に関しては、中国などの少数の域外国からの輸入に集中しているため、供給上の重大なリスクが指摘されている。そこで、規則案は、経済的重要性が高く、供給上のリスクがあるCRMと、CRMのうち特に戦略的重要性が高く、供給不足の恐れがあり、生産の拡大が比較的難しい戦略的原材料(strategic raw materials:SRM)を選定した上で、CRMのバリューチェーンの強化と、供給元の多角化を図るべく、2030年までに達成すべきSRMに関する以下のベンチマーク(努力目標)を設定した。

  • 域内年間消費量の最低10%を域内で採掘。
  • 域内年間消費量の最低40%を域内で加工。
  • 域内年間消費量の最低15%を域内で生産したリサイクル原料で賄う。

また、加工段階にある各SRMに関して、1つの域外国からの輸入を域内年間消費量の65%の水準まで引き下げる。

(要はRU域内からレアメタルや貴金属等の偏在原料の域外流出を防ぐ、地政学的リスクを削減するための政策でもある。このようなEUの現実的な資源政策は、日本の現時点の資源リサイクル政策に、少なくない影響を与える可能性がある)

 

EPR(拡大生産者責任)の拡大

(この夏に明らかになった、欧州ELV規則改正案の中で筆者が注目しているのは、EPRの拡大である。というのも、これまで欧州では自動車メーカー等のEPRとは、放棄車両の発生などを防ぐため、無償回収ネットワークを運営することであったが、日本同様解体業者による「逆有償」などはこの20年起こらず、むしろ解体業者間では使用済自動車の奪い合いとなっているからである。)

改正規則では、このEPRの内容が拡大しているのに注目したい。同規則の何条にどのようなEPRに係る規定が書かれているのか、以下紹介したい。

 

第16条  拡大生産者責任

生産者は、EU加盟国の領域内で、初めて市販される自動車について、拡大生産者責任を負うものとする。

内容

収集(第23条)

ELVの取り扱い(第27条)

保管

汚染除去

破砕前の除去(シュレッダーにかける前に解体段階で外すべきものは外し、サーキュラー・エコノミーに貢献する。)

リサイクル目標の達成(第34条)

適用

規則の発効後3年から。(すなわち2026年から。もしそうなると日本の自動車リサイクルシステム大改造と同時期になる。)

 

第17条 生産者の登録

EU加盟国は、生産者がこれらの要求事項を遵守していることを監視するための登録簿を作成する必要がある。登録されていない生産者は、EU加盟国の領域内で自動車を市場に流通することができない。

(つまり、以下に記す拡大生産者責任を果たせないメーカーの自動車はEUでは販売できないということがはっきり明記された。かつて1990年代後半に公となったELV指令案で、2015年までに85%のリサイクル、95%のリサイクル+リカバリーが謡われたとき、日本政府はこれにどう対応するかを意識して1997年の使用済自動車リサイクルイニシアティブ、2002年成立、2005年完全施行の自動車リサイクル法で、85%、95%という数字が意識されたが、これはEU市場で日本車が販売できない懸念が当時から経産省もメーカーも持っていたものと考えられる。)

 

第18条  拡大生産者責任を実施するための生産者責任組織:PRO

生産者は、EPRの義務をメーカー単独で、または複数のメーカーが創った組織(PRO)で果たすことを選択できる。

PROは、その運営組織において、生産者と廃棄物管理事業者の公正な代表を確保しなければならない。

(PRO:生産者責任組織とは、日本では自動車再資源化機構:JARPがこれにあたる。JARPはメーカーに代わってフロン類やエアバッグ類の処理・リサイクルを担当し、解体業者と契約してこれを実施している。また、近年ARTのASR再資源化業務の一部も担当している。)

 

第19条  EPRの履行に関する認可

拡大生産者責任義務を1メーター単独で履行する場合の生産者、およびPROの認可に関する条件を定めている。

 

第20条  生産者の財政(金銭)的責任

生産者の財政(金銭)的負担によって賄われるべき、使用済自動車の管理に関する費用を示す。

(日本の自動車リサイクル法はメーカー等に、フロン類、エアバッグ類、ASRの処理・再資源化の物理的責任を明確に課し、金銭的責任はリサイクル料金としてユーザーが支払っている。今後より一層の金銭的な責任が日本の自動車メーカー等にも課せられるのか、興味深い。)

 

第22条  国境を越えたEPR

ここでは、他国においてELVとなった車両の費用配分メカニズムに関する規則を定める。同条は、料金調整基準の適用および国境を越えたEPRの費用配分メカニズムに関する詳細な規則について、欧州委員会にて委任法を採択する権限が与えられている。

 

第23条と第24条  ATFへのELVの収集と引き渡し

PROは、EU加盟国の領域内で、上市された自動車カテゴリーに属するELVの回収拠点を定め,また回収システムを整備する。

収集システムの要件:

-EU加盟国の全領域をカバーする

-ATFにてELVを入手できるような環境整備

-自動車の修理から出てくる廃部品の回収

-出所に関係なく、あらゆるブランドのELVを回収すること。

-すべてのELVの無料引き渡し

(この条項が本当に実行されれば、FORSのアダム・マウゥスコ会長が懸念しているグレーマーケットへの使用済自動車への流出は相当縮小されるだろう。しかし、どのようにして実行されるのかが不明である。なお、ここでは修理業=日本でいう整備業が排出する様々な部品、廃棄物や資源にも言及しているが、日本では自動車整備業の管轄は国土交通省で、同省は自動車リサイクル法の管轄を行っていない。自動車リサイクル法は経産省と環境省の所管である。ただし、国土交通省が自動素リサイクル法成立前の旧運輸省時代に、整備業によるリサイクル部品の利用推進という観点で、自動車リサイクル政策に関与していたことがあったのは史実である。)

まとめ

今回のフォーラムに参加して、欧州の使用済自動車リサイクル国であるポーランドの市場規模と、相変わらず許可を得ていない非認定業者へ使用済自動車が流れてしまう、グレーエコノミーが健在であるというフォーマルセクターからの苦情が再確認できた。また、2000年に発行されたELV指令の規則として改正案が整い、その全容が明らかになったが、今回は拡大生産者責任:EPRの内容について取り上げて紹介した。その中でも特に再生材を新車製造時に必ず使用することや、解体段階での取り外しとリユース、リサイクルの強調が気になった。日本、あるいはかつてオランダのARNが行っていたPST(ポスト・シュレッダー・テクノロジー)を完全否定するものではないが、PST一本で対応していくことが難しくなりそうな規則が成立したようにみえる。日本のサーキュラー・エコノミー政策に、EUの動きがどのように影響を与えるか、特に日本での解体インセンティブの動向と合わせて注目したい。

 

訂正)前々回の筆者によるコラムで、一般社団法人部友会の新しい会長が決まったと記載したが、その後諸般の事情で森孝一現会長が継続して部友会のリーダーとして、このグループを牽引し、理事会のメンバーも新たに2名の新理事が加わることとなった。以上、前回の連載原稿掲載後に新たに得た情報をここに記載しておく。

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