社員のプライベートを制限できるか?

社員のプライベート

 

Q.先日、同じ県内ながら会社からは遠方の友人と、彼の地元の店に飲みに行った際、ウチの社員に似た店員を見かけた。後日、問いただしたところ、ダブルワークを認めたものの、「就業規則があれば副業はしなかった」と主張した。就業規則がないと、副業は禁止できないのだろうか?

  1. 社員のプライベートの時間は、何をしようが基本的には本人の自由です。しかし、「会社の正当な利益を不当に侵害してはならない」という誠実義務が就業規則に定められている場合は別です。

一定の範囲で社員のプライベートも制限されることがあるのです。もちろん、会社が社員に望むことは「プライベートの時間は休息や遊び等に費やし、リフレッシュし、また元気に働いてほしい」ということです。

ですから、リフレッシュできずに仕事に影響が出るような時間の使い方は会社にとっても困る問題となってしまうのです。

特に、問題となるのが副業についてです。アルバイトやパートを本業以外に行って、本業が疎かになってしまっては、本末転倒です。

ですから、会社は「副業禁止」と就業規則に記載することが多いのですが、社員からみれば「プライベートは自由な時間」なので、休もうが、アルバイトをしようが関係ないという側面もあります。

では、プライベートと副業に関連する裁判をみていきましょう。

 

<小川建設事件>

東京地裁 昭和57年11月19日

社員は会社に黙って、キャバレーの会計係のアルバイトをしていました。アルバイトの時間は午後6時から深夜0時までで、就業規則には「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇われたとき」は懲戒処分の対象となる記載がありました。会社は就業規則に基づき、二重就労を理由にこの社員を解雇しましたが、社員はこれを不当解雇と主張して、裁判所に訴えました。

 

東京地裁の判断

公務員とは異なり、企業の従業員は兼業を法律で禁止されておらず、これを制限する場合は、就業規則等の定めによるところとなります。就業時間外は従業員の自由な時間なので、就業規則で兼業を「全面的に」禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く。しかし、本件は副業の時間が長時間に亘るので、本業に影響が出るため、兼業禁止は合理的であり、解雇は有効としたのです。ここが一つの判断基準となります。また、類似の裁判もあります。

 

<日通名古屋製鉄作業事件 名古屋地裁 平成3年7月22日>

〇会社に無断でタクシー運転手の副業を行った

〇副業の勤務は午後5時から翌朝まで

〇会社は解雇とし、これに不服のある社員は裁判所に訴えた

そして、裁判所の判断は以下となったのです。

〇深夜にも及ぶもので、たとえアルバイトであったとしても、 余暇利用とは異なり、会社への誠実な労務の提供に支障を来す

〇解雇は有効

この2つの裁判から言えることは、長時間や深夜の副業の場合は、解雇が有効となる確率が高いということです。一方、別の裁判では解雇が無効となっています。

 

<国際タクシー事件 福岡地裁 昭和59年1月20日>

〇会社に無断で父親が経営する新聞販売店を手伝っていた

〇時間は会社が始まる前の2時間程度

〇会社はこの事実から懲戒解雇とし、社員は裁判所に訴えた

そして、裁判所は以下の判断をしたのです。

〇兼業禁止は労務の提供に支障が出る程度に達していると認められる場合は有効

〇本件はその程度ではない

〇解雇は無効

また、上智学院事件(東京地裁 平成20年12月5日)でも、学校に無断で語学学校の講師を1週間から2週間に1度、土曜日に副業として行っただけなので、職務に影響がないとして、解雇処分を無効としました。

これらの裁判例から言えることは、本業に影響が出ない短時間の副業であれば有効(1日の副業の時間は2~3時間程度)と考えられます。

ただし、これはあくまでも一般的な話で工事現場などの重労働であれば、短時間でも翌日に影響が出るかもしれませんし、パソコンの作業だけであれば、3時間を超えても疲労が出ないかもしれません。

あくまでもケースバイケースということになります。また、「短時間なら大丈夫」という訳でもありません。会社の情報が漏れる恐れのある、同業他社での副業などは制限をかけるべきでしょう。

そのためにも、副業や兼業に対して、原則は禁止ということを就業規則に記載し、理由がある場合などは届出制にすべきです。

さらに、兼業や副業で問題となるのが「過重労働」で、社員が倒れた等の事態になった場合、会社としての「安全配慮義務」が問われることもあります。

こうならないためにも、社員のプライベートの時間は「何をしてもよい」「会社は関係ない」ではなく、就業規則を整備した上で、業務に影響することについては把握しておくべきなのです。

内海正人 社会保険労務士
日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書 : “結果を出している”上司が密かにやっていること(KK ベストセラーズ2012) /管理職になる人がしっておくべきこと( 講談社+α文庫2012)
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