優秀な人材を採用したと思ったが

うその履歴書
  1. 当社も世間並みに人手不足に陥っていたため、求人広告を出したところ、願ってもなく優秀な人材を採用できた。しかしこれが、とんだ食わせ者で、履歴書から読み取れる能力が何一つ備わっていなかった。期待を裏切られたことを理由に解雇することはできるだろうか?

A.

景気の浮揚により、人材不足が深刻となっている業界が増えており、採用の枠を広げている会社も増えています。

しかし、昔からある問題ですが、「優秀な人材だと思って採用したが、そうではなかった……」ということはよくあります。そして、これは増加傾向にあり、また、新しい裁判の結果が出たので、これを解説します。

 

<日本ベリサイン事件>

東京高裁 平成24年3月26日

中途採用された社員は内部統制システム整備の業務に配属され、社員は「内部統制システム完成の成果」を求められており、面接時にこれを約束しました。会社は社員に内部監査室長の役職を与え、基準年俸1,200万円としました。しかし、内部統制システムは3年経っても作業が完了しませんでした。それどころか、不正手続により自分の年俸を引き上げました。その他にも問題行動があり、経営陣との間の信頼関係は失われ、会社は社員を解雇しました。しかし、これに納得がいかない社員は裁判所に訴えました。

 

裁判所の判断

社員は、1,200万円という高額な年俸で雇用され、高度な知識、技術があるという前提で採用されましたが、内部監査システム整備の案件は事実上、とん挫。社員は採用時に「内部統制システム完成の成果」を求められており、それができなかったということは「能力不足」として判断できる。経営陣との信頼関係が失われていることは主観的なことだが、個々の原因については客観的に判断できる。また、不正手続で、自分の年俸を引き上げていることもあり、解雇は有効である。

この結果から言えることは、有能と思われた社員が能力不足だった場合、 「これを理由として解雇することは可能」ということなのです。ただし、これは一定の役職、スキル等を前提にした話なので、一般社員が能力不足だった場合はどうなるのでしょうか?一般社員を能力不足で解雇をする場合は、以下の条件があります。

エース損害保険事件(東京地裁 平成13年8月10日より)

を例に挙げ、みてみましょう。

○能力が平均的な水準に達しておらず、著しく能力が劣り、向上する見込みがないこと

○単なる成績不良ではなく、企業経営に支障を生じる恐れがあり、「企業から排除すべき」と考えられる程度になっている

○是正のために注意を促しても、改善されず、今後も改善の見込みがない

○配置転換や降格ができない企業事情があること

このように、一般社員を能力不足を理由に解雇するには「教育指導」、「配置転換」等の是正措置をしなければ、解雇が無効となる可能性が高くなるのです。

しかし、職務を限定し、一定の成果を期待して中途採用された社員の場合、上記の裁判(日本ベリサイン事件)のように能力不足と判断されれば、すぐに解雇も有効となる場合があるのです。

ただ、いきなり「解雇」とすると「不当解雇」と判断されてしまう場合もあるので、次の手順を踏むことをおすすめします。

○業務指導書を渡し、社員に求める能力、成果の内容を明確に伝える

○達成できていない項目について、業務を改善するように指示、命令をする

○上記の結果を検証するが、それでも改善できていなければ「解雇もあり得る」という内容の警告書を渡す

○それでも改善されていなければ解雇を検討する

ここまで実施すれば「会社が求めていた業務が何なのか」ということが明確になり、それができないということは「能力不足」の証明になるでしょう。

しかし、最も大事なことは採用する際に「期待する成果等」を採用者に明示することです。

裁判所の判断も「採用時の期待する成果等」を基準として、能力不足を判断しています。

もし、採用時の雇用契約書等にこの記載がなければ、求める能力の基準がないこととなってしまい、能力不足による解雇を実施するには、一般社員と同様のステップを踏むこととなってしまうのです。

ですから、中途採用で高度な能力を持つ人材を採用する場合は、このことを「必ず」雇用契約書に記載することが重要なのです。

たとえば、営業の責任者であれば、部門の売上や利益などの「最低限の指針を示す」ことが重要です。その他の部署でも、ミッションとなる最低限の指針を記載しましょう。

このことを見落としている会社、特に中小企業は多いので気をつけて頂ければと思います。