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再雇用は全員受け入れる必要あり?

自動車整備士のお仕事・労務について労務相談室

せいび界2014年3月号Web記事

Q、再雇用は全員受け入れる必要あり?

この3 月で工場長が定年を迎える。長らく貢献してくれた実績は捨てがたいが、ウチもまだ好景気とはいえず、少しでも切り詰められるのであればということで再雇用はしない方針だ。本人にもその旨を伝えたところ、「自分の食いぶち分ぐらいはまだまだ稼げますから、ぜひ再雇用してください。それに再雇用を希望する者を拒めない決まりのはずですよ」と言われた。果たして本当なのだろうか?

A、

平成25 年4 月1 日から法改正があり、定年を迎えた社員について、「原則、希望する者【全員】を65 歳まで雇用を継続すること」となりました。
ちなみに、改正前は各社で再雇用の基準を定めることができました。
しかし、改正後は「就業規則の解雇の基準に該当する者」以外は原則として、希望者全員を再雇用しなければならなくなったのです。

この「雇用を継続する」という意味がなかなか伝わらないので、多くの会社は混乱しています。
たとえば、

〇定年が法的に65歳まで延長となった
〇定年後も同じ給与でなくてはならない
〇何が何でも65歳まで社員を雇用しなければならない

等と勘違いされています。

しかし、そうではなく、「社員に65 歳まで働く場を提供してください」という意味です。ですから、正社員でなくてもOK ですし、給料も自由に設定できます。

また、「この社員は継続して雇用したくない」という場合は排除できるケースもあります。

これに関する裁判があります。

<房南産業事件 横浜地裁 平成23 年10 月20 日>

〇石油製品を運搬する作業員が60歳定年を迎えた
〇会社は再雇用を拒否
→作業員は作業ミスばかり起こしている作業手順違反の常習者
〇作業員は定年後も雇用は継続すべきと主張し、裁判を起こした

そして、裁判所の判断は以下のようになったのです。

〇作業員は定年まで15年も会社に勤務しながら、数量ミス等の初歩的なミスを引き起こしている
〇作業員は作業手順を守る意識が高くない
〇作業員が「経験豊富で豊かな業務経験を有している」とは言い難く、継続雇用の採用基準を満たさない
〇請求を棄却(会社側の勝訴)
この裁判は改正前のものではありますが、再雇用の要件として、「経験豊富で豊かな業務経験を有している」と明記されています。
この要件を満たしていないので「再雇用しなくてもOK」となったのです。

そして、裁判所も作業員の仕事ぶりと仕事の内容を比較して、継続雇用を拒否してもやむを得ないと判断しています。
しかし、平成25 年4 月1 日からは再雇用の基準は撤廃されて、「就業規則に定める解雇、退職事由に該当する場合には、継続雇用しないことができる」となったのです。
ですから、上記裁判を現時点の法律で考えると、作業員がミスを繰り返した状況が解雇事由に合致すれば、再雇用を拒否できます。
では、これを踏まえて、就業規則の解雇の参考条文を見てみましょう。

第〇条 従業員が次の各号のいずれかに該当する場合は解雇とする。
(1)精神又は身体に故障があるか、又は虚弱、傷病、その他の理由により業務に耐えられない、又は労務提供が不完全であると認められるとき
(2)協調性がなく、注意及び指導しても改善の見込みがないと認められるとき
(3)職務の遂行に必要な能力を欠き、かつ、他の職務に転換させることができないとき
(4)勤務意欲が低く、これに伴い、勤務成績、勤務態度その他の業務能率全般が不良で業務に適さないと認められるとき
(5)正当な理由なき遅刻及び早退、並びに欠勤及び直前休暇要求が多く、 労務提供が不完全であると認められるとき
(6)特定の地位、職種又は一定の能力を条件として雇い入れられた者で、その能力及び適格性が欠けると認められるとき
(7)事業の縮小その他会社のやむを得ない事由がある場合で、かつ、他の職務に転換させることもできないとき
(8)重大な懲戒事由に該当するとき
(9)前号に該当しない懲戒事由に該当する場合であっても、改悛の情が認められなかったり、繰り返したりして、改善の見込みがないと認められるとき
(10)非違行為が繰り返し行われたとき
(11)会社の従業員としての適格性がないと判断されるとき
(12)天災地変その他やむを得ない事由により、事業の継続が不可能となり、雇用を維持することができなくなったとき
(13)その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき

もし、上記裁判の作業員がこの条文に当てはめるならば、(3)(4)(11)に該当すると考えられます。
結果として、ミスを繰り返したり、問題を起こす社員までも、「65 歳まで再雇用しなければいけない」ということではないのです。
定年という1つの区切りで、再雇用するかしないかを考えるきっかけとなるのです。
ただし、こういう場合を想定するなら、就業規則で明確な条項を記載しておく必要があります。
仮に、この部分があやふやだと「再雇用しなくてはいけない」となってしまうのです。
平成25 年の法改正で、再雇用を拒否するポイントはあくまでも「就業規則に定める解雇、退職事由に該当する」ことなのです。
会社の就業規則はどうなっていますか?解雇、退職事由につき、「能力不足等で解雇できる」という旨が定められているでしょうか?
もし、記載がなければ、早急に付け加えるべきです。
なお、就業規則等にこの項目を追加することは解雇、退職事由の拡大になるので、労働者に対する不利益変更となります。
そのため、手続きに関しては労働者代表との合意、調印が必要になりますので、ご注意ください。

 

ライター紹介

内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)

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