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第120回 EUのELV指令の議論はどうなっているか

山口大学国際総合科学部 教授 阿部新

 

1.はじめに

周知のとおり、EU(欧州連合)では、使用済み自動車に関する指令(Directive 2000/53/EC, 以下「ELV指令」)により自動車のリサイクルが制度化されている。同指令は、2000年に発効してから20年を経過し、その見直しの議論が出てきている。

その間、欧州ではサーキュラーエコノミーという考え方が広まり、それに関わる行動計画も提示されている。その流れの中でELV指令の見直しについてどのような論点が提示されているかは興味深い。

阿部(2021)で言及したように、2020年8月にELV指令の見直しの論点を整理した報告書が提示されている(Williams et al., 2020)。同報告書は、文献・データ調査のほか、パブリックコメント、ステークホルダーへのオンライン調査、インタビュー調査、ワークショップを踏まえて、EUの使用済み自動車市場およびELV指令の論点をまとめている。

全部で7章に分かれているが、このうちページの大半を割いている第6章に15の論点が示されている。本稿では、この中で行方不明車問題、拡大生産者責任、サーキュラーエコノミーの3つの論点に絞ってその内容を見ていきたい。

 

2.使用済み自動車の無償引渡し制度

EUの自動車リサイクル制度についてよく知られているのは、ELV指令の第5条第4項に規定されている使用済み自動車の無償引き渡しの仕組みである。そこでは、自動車の最終所有者が使用済み自動車を認定された処理施設に負担なく引き渡すことができるようにし、代わりにそのために生じた費用を生産者が負担するというものである。

つまり、生産者が負担をして、所有者が無償で使用済み自動車を解体業者等に引き渡すことができる仕組みを構築するというのだ。EU加盟国は、このELV指令に基づいて国内法を策定している。

このような使用済み自動車の無償引き渡し制度は、使用済み自動車に価値がない場合、その放置や不法投棄を予防しうる。引き渡し先は、解体業者等の認定された処理施設であり、適正処理を確保しやすい。

しかし、使用済み自動車に価値がある場合は、認定された処理施設に引き渡されるとは限らない。不適正に分別、処理する者が使用済み自動車を高く買い取る可能性があり、そのような者が不適正処理により市場競争において優位となることがある。

それは廃棄物・資源循環市場において悪貨が良貨を駆逐する現象とも呼ばれてきた事象であり、家電や電子機器類、バッテリーなど有償で取引されるあらゆる使用済み製品で起きたものである。それがEUの使用済み自動車の制度の下で起こりうるということである。

日本の自動車リサイクル法は、EUとは異なり、フロン、エアバッグ、シュレッダーダストという物品に焦点が当てられ、生産者はその引取義務がある(第21条)。これは一見、法の対象範囲が狭いように見えるが、非有償のみならず、有償で取引される使用済み自動車の取引価格に影響し、それらをコントロールする。

EUのELV指令と比べると制度の複雑性などの課題はあるが、有償で取引される使用済み自動車の流通をコントロールできる点では日本の方が効果的である(阿部,2011)。

 

3.行方不明車問題

上記のようなELV指令の構造的な問題が指摘される中で、阿部(2021)でも示されたように、近年になって行方不明の車両台数を分析する報告書が出されている。抹消登録された車両は(1)中古車輸出、(2)使用済み自動車として処理、(3)抹消状態のまま滞留、のいずれかであるが(阿部,2007)、その行方が分からないことがある。

Williams et.al (2020, p.39)でも、ブルガリアを除いたEU27か国の2017年の実績として1,121万台の抹消登録台数(廃車台数)のうち、3分の1に該当する377万台の車両が行方不明であるとしている(657万台:使用済み自動車台数、87万台:EU域外向け中古車輸出台数)。そして、ELV指令は全ての使用済み自動車の処理について期待される結果を出せていないと言及している。

また、Williams et.al (2020, p.40)は、上記の400万台弱の行方不明車のうち、どの程度EU域内で不適正に流通し、どの程度がEU域外に流出しているか分からないとした上で、以下の7つの可能性を挙げている。

 

(1)未報告の非EU諸国向け中古車輸出

(2)未報告のEU諸国向け中古車輸出

(3)非OECD諸国向け使用済み自動車輸出

(4)未報告のEU諸国向け使用済み自動車輸出(認定処理施設または非認定処理施設)

(5)未報告の認定処理施設での処理

(6)非認定処理施設での処理

(7)使用済み自動車または抹消登録車の在庫の増加

 

このうち、(1)~(6)は輸出または処理という形で何らかの移動があるものであり、(7)は滞留するものである。また、(1)と(3)はEU域外向けの輸出に関わる問題であり、それ以外はEU域内で生じる問題である。

EU域外向けの輸出のうち、(1)はEUの法制度に基づいて税関に申告することになっており、(3)は廃棄物輸送規則により輸出が認められていない。そのため、いずれも違法行為によるものである。つまり、現行の制度下において取り締まりのリスクがありながらも違反する方の利得が大きく、それが行方不明車を生んでいるのだ。

また、(3)は非OECD諸国向けであるため、OECD諸国向けの使用済み自動車輸出も別途あるはずであるが、上記の(1)~(7)には含まれない。この詳細は調べなければならないが、中古車の輸出に申告義務があるのに対して、使用済み自動車の輸出に手続きがないということは考えにくい。いずれにしろOECD諸国向けの使用済み自動車の輸出が不適正に行われれば、同様に行方不明車として含まれるものと思われる。

残りの(2)、(4)~(7)はEU域内で生じる問題であるが、このうち、(2)(4)はEU域内の他国への輸出に関わる問題、(5)(6)は使用済み自動車の処理の問題である。(6)にある非認定処理施設での処理はELV指令により違法とされ、上記の(1)(3)と同様に法に違反するインセンティブの構造である。

(4)の使用済み自動車のEU域内流通は非認定処理施設への流通もあるが、Williams et.al (2020)によると、加盟国によって法的な扱いは異なるようで、多くの加盟国ではその越境自体は違法ではないと書かれている。(5)は解体証明書(Certificate of Destruction, CoD)が発行されない可能性はあるが、未報告自体は違法ではないようである。

(2)の中古車の域内流通について、Williams et.al (2020)を見ると、中古車の仕向地(輸入国)が再登録した情報を出発地(輸出国)に報告する義務はないと書かれている。よって、これも合法の範囲にある中で行方不明が生じていると言える。また、車両が盗難されたり、警察関連の情報が登録されたりする際に輸出国に情報を求めることがあるが、コミュニケーションがうまくいかないこともあるようである。

 

4.行方不明車対策の方向性

ELV指令では、第5条第3項において、抹消登録の条件の1つとして解体証明書の提示を求めている。同指令において、それは使用済み自動車が最終所有者から認定処理施設に引き渡される際に発行されるとしている。

しかし、Williams et.al (2020, p.41)で指摘されているように、抹消登録の方法は様々であり、現行の制度では、解体証明書が発行されてなくても輸出や盗難の事実が確認されれば抹消登録はできるとされる。行方不明車問題には、そのような登録・抹消登録の制度の抜け穴問題があることが指摘できる。

Williams et.al (2020)は、例えば自動車が私有地内で使われるということも抹消登録の条件になりうると述べている。ドイツの事例としては、自動車が一時抹消登録となり、ある一定期間で再登録されない場合、自動的に(最終)抹消登録となるようである。

ELV指令や他のEUの規則は、抹消登録方法について包括的に網羅的に示していないため、加盟国によってその方法は異なっているようである。そして、様々な選択肢が制約なく設けられ、解体証明書の発行要件の抜け道になりうると述べられている。

また、Williams et.al (2020)はポルトガルでは解体証明書が出されるまで自動車税が課されるとし、そのようなアプローチを評価している。ただし、自動車が公道を走っていない状態をもって自動車税を免除するという加盟国では、ポルトガルのようなアプローチも難しいとしている。結局は、抹消登録の条件がEUで統一されておらず、加盟国によって異なることが問題のようである。

同報告書はステークホルダーのインタビューやワークショップを行っているが、この問題に関しては多くのステークホルダーが自動車登録・抹消登録制度の改正、抹消登録情報の加盟国間の共有システムの改善を求めているようである(Williams et.al, 2020, p.40)。同報告書もこれに重点が置かれており、第7章の結論においてもこのことに言及している。

自動車登録・抹消登録制度の改正には、加盟国間の制度の調整、統一が方向性として指摘される。また、解体証明書と抹消登録を接続させる必要があるが、その接続について自動車登録関係の関係省庁が重きを置かないことから、関係省庁間(交通関係と環境関係)の協力の強化の必要性も述べている。さらに、輸入国での再登録や解体の情報を輸出国にも伝達するための加盟国間の協力関係の構築、強化も行方不明車を解明する方法の1つと位置付けている。

登録制度以外では、中古車輸出と使用済自動車の識別が難しく、EU域外の中古車輸出台数の中に使用済み自動車が含まれている可能性が指摘されている。ただし、その識別のためには、税関職員の検査を強化する必要があり、そのための人的コストの問題があるとしている。一方で、使用済み自動車の無償引き渡し制度そのものは改正することはなさそうである。

近年、いくつかの国で行方不明車を解明するための制度設計がされているようで、その検証には時期尚早と述べられている。確かに解体証明書と抹消登録がリンクし、排出者(自動車の最終所有者)において非認定処理施設への引き渡しの費用が上がるのであれば、認定処理施設へ引き渡すインセンティブが生まれるのかもしれない。

経済的インセンティブについては、デンマークのペイアウトスキームの事例が示されている(Williams et.al, 2020, p.42)。これは、認定処理施設に使用済み自動車を引き渡した場合に支払い(pay-out)がされるというものである。

これについてMehlhart et al. (2017)を見ると、このスキームは2000年に始まったものであり、そのスキーム下にあっても使用済み自動車の20%~25%程度が行方不明(うち5割が違法解体、4割が違法輸出、1割が放置)であるとしている。

また、11.7万件の解体証明書のうち、およそ2千件は合法的に発行されたものではないとも示されている。経済的インセンティブの程度にもよるが、それがあっても、解体証明書や抹消登録の制度に抜け穴があればうまくいかないということなのだろうか。

いずれにしろ、Williams et.al (2020)を見る限りでは、使用済み自動車の引き渡しの仕組みを改正するというよりは、登録・抹消登録制度の(統一を含めた)改正、解体証明書と抹消登録の接続、加盟国間の登録・抹消登録情報の共有の強化の方向になりそうである。

前節で見たように、行方不明車の行方に7つの可能性がある中で、それぞれがどの程度の規模なのかが分かれば、関連する制度に焦点を当てて議論することができるが、現状はその前段階にある。まずは、行方不明車の内訳を特定するための登録・抹消登録等の制度改正が現実的であると言える。

 

5.生産者による情報提供

次に、Williams et.al (2020)における拡大生産者責任に関する言及を見ていきたい。ELV指令では、先に示したように使用済み自動車の無償引き渡し制度が構築され、それを確保するための費用を生産者が負担することになっている。それ以外にも生産者の役割はいくつかある。

まず、使用済み自動車の解体のための情報の提供である。これはELV指令の第2条第13項に規定されているものであり、生産者(自動車メーカーまたは部品メーカー)がCD-ROMやオンラインサービスなどの電子メディアにより使用済み自動車の適正処理に必要な情報を提供するというものである。

また、同指令第8条第3項では、新車の市場投入から6か月以内にこの情報提供をしなければならないと記述している。そして、この解体情報により処理施設は自動車部品や材料、有害物質の場所などを特定することができるとされる。他にも機密性の範囲内で部品メーカーはリユースされうる部品の解体、保管、テストに関する情報を提供できるようにする必要があるとされる(第8条第4項)。

このようなELV指令での要求に従い、自動車産業は国際解体情報システム(IDIS, International Dismantling Information System)を作っている。Williams et.al (2020, p.43)によると、それは77ブランド、3,161モデルを持つ26のメーカーがこのシステムを利用しており、6,476の登録ユーザーに解体情報が提供されているようである。ELV指令では、この解体情報を無料で提供するように義務付けていないが、実際は無料で提供されているようである。

このほかにELV指令の第9条第2項においては、関係事業者に様々な情報公開を求めている。具体的には、リサイクル可能性等を視野に入れた設計、環境に配慮した使用済み自動車の処理、自動車や部品のリユース等方法の開発・最適化、リサイクル等の利用率を高める取り組みの進捗状況である。そして、生産者は新車販売の広告を含めて、これらの情報を買い手が入手できるようにしなければならないとしている。

これらの生産者の情報提供の現状について、Williams et.al (2020)では紹介する程度であり、特に問題視していない。第7章において全体の結論が示されているが、そこでも拡大生産者責任の項目に生産者の情報提供のことは触れられていない。それよりも重点が置かれているのはやはり使用済み自動車の無償引き渡しの仕組みである。

 

6.生産者の費用負担問題

Williams et.al (2020, p.44)では、無償引渡しの仕組みにおける生産者と認定処理施設間の費用負担の公平性の問題を指摘している。無償引き渡しの仕組みは全ての加盟国が国内法化しているが、スウェーデンは2014年までに必要な措置を取らなかったようである。同国は、「ELV指令は生産者寄りの法制度であり、関係主体の方を向いていない。これは同制度の論点の1つになる」と主張したようである。

生産者の負担に関連した事例として、Williams et.al (2020, p.44)ではガラスの回収をあげている。ガラスの回収はELV指令の付属書Iで規定されているものの、認定処理施設ではほとんど破砕前に回収しない。それはガラス回収の費用に対して、それに見合うほどの収入を得られないからである。

その結果、ほとんどの加盟国でガラスは破砕後に建設や埋め戻し用にリサイクルされたり、埋め立て処分されたりする。一方で、ガラスメーカーは破砕前にガラスが回収されれば高品質のリサイクルとして利用されうるとしている。つまり、用途がないというのではなく、経済的に成り立っていないのだ。

このような状況において自動車メーカーが認定処理施設の負担を肩代わりするようなことがあれば経済的に成り立つが、そのようなことはしない。そこに生産者の負担の議論が登場する。

同様の経済的な理由により分別・回収されないケースは他にもあり、大型サイズの樹脂部品や電子部品のリサイクルおよびワイヤーハーネスも経済的理由により分別、回収されていないようである。そして、ELV指令はそのような分別、リサイクルに対してサポートしていないとしている。

生産者の負担の程度について、ステークホルダーの意見は2つに割れているようである(Williams et.al, 2020, p.44)。公的機関(国、地方)はELV指令において自動車メーカーは相応の負担をしているという立場である。

これに対して、リサイクラー、認定処理施設を中心とした民間のステークホルダーは賛同しておらず、解体業者や破砕業者が負担していると考えているようである。そして、その影響として使用済み自動車市場におけるインフォーマルセクターとの競争においてそれらが不利になることなどが言及されている。

このような中、生産者は、認定処理施設の汚染除去や解体のための費用はリユース部品や再生資源の販売による収入でカバーされると主張しているようである。また、生産者は違法行為に対処することは彼らの責任ではないと考えているようである。

これに対して、認定処理施設は、汚染除去や処分費用を節約するような違法業者と競争にさらされていることを問題視している。他の関係者は、ガラスや大型プラスチック部品、ワイヤーハーネスのリサイクル、電子部品の分別が経済的理由により妨げられていること、そのための費用負担が生産者により補われていないことを懸念している。

また、国は法の運用に伴い、監督費用が生じているが、その費用の補填を求めているようである。さらに、リサイクルの高度化のために解体、分別を精緻化させるようなことは認定処理施設の負担を増やし、ますます違法セクターへのシフトに繋がるという指摘もある。

以上のように、ELV指令に係る費用の負担について、様々な意見が飛び交い、方向性が定まっていない様子が窺える。生産者が負担するのか、解体業者や破砕業者が負担するのか、という二分する考えがある中、Williams et.al (2020, p.46)は、公平な費用の分配について明確な結論は出していない。

確かに解体業者や破砕業者が処理費用をカバーできず、損失を生んでいることを示す事例もあるようである。しかし、これが拡大生産者責任制度に直結する問題とは言い難いようで、効率性などの他の問題も絡んでくるとしている。これらを見ていると、生産者の負担について制度改革まで進展するとは思えない。

そもそもここでいう負担とは何なのかである。ガラスの事例にあるように、生産者が回収のための費用を負担しないことで破砕前に回収されないことが起こるのは理解できる。日本でも解体インセンティブ制度が議論されているが、解体業者に相応の負担の軽減がなければ破砕前に回収されないことはある。そのため、分別、回収における負担(手間)の軽減がないことで経済的に成り立たない構造を問題視しているように見える。

しかし、この構造で解体業者が負担しているかというとそうでもない。ガラスの事例では、解体業者に回収義務がなく、実際に回収されていない。よって、生産者のみならず、解体業者も負担はしていないようにも思える。また、ガラスの回収費用を生産者が負担したとしても、解体業者の負担が軽減されたという感じもしない。

一方、破砕後に有償で売却されないものが生じた場合、破砕業者は処理費用を負担せざるを得ない。つまり、廃棄物の占有者として処理責任があるため、放置や不法投棄はできず、適正に回収し、処理業者等に引き渡さなければならない。

つまり、残余物の処理という意味で費用を負担することはある。その負担は解体段階での廃車ガラの価格、さらには使用済み自動車の価格にも連鎖するため、解体業者や最終所有者も負担しているという見方はできる。

そして、仮にその残余物を放置、不法投棄することで処理費用を節約する者がいれば、使用済み自動車の引取競争で優位に立つことができる。Williams et.al (2020)で言及されたインフォーマルセクターとの競争は、この負担に関わるもののように思える。つまり、Williams et.al (2020)で焦点となっている負担とは、分別後の残余物の処理費用の負担のことなのかもしれない。

このような構造において、日本の自動車リサイクル法ではリサイクル料金という形で購入時に支払われ、分別後の一部の物品の再資源化、処理費用に充てられる。その負担は主に自動車の所有者であるが、分別後の負担を軽減する措置は取られている(なお、価格弾力性により生産者も一部負担していると言える)。

一方で、EUでは、生産者は負担しているか、負担は公平かについて意見が割れている段階にあり、それから生産者の負担増加や解体業者の負担軽減にまで議論が進むようには思えない。この意味での拡大生産者責任は、根本的な進展がないような印象を受ける。

 

7.サーキュラーエコノミー

Williams et.al (2020)では、サーキュラーエコノミーとの関連についての整理もしている。サーキュラーエコノミーは日本でも報じられるようになったが、廃棄物の処分をなくし、利用することを目指すものである。欧州委員会は、2020年に新たなサーキュラーエコノミー行動計画を採用した。

それは欧州グリーン・ディールの主要なブロックの1つとされる。この行動計画においては、製品のライフサイクル全体を捉え、設計に配慮することや資源循環のプロセスを促進すること、持続可能な消費を育成することなどが述べられている。また、可能な限りEU経済圏で資源の利用を維持することも言及されている。

このような中、Williams et.al (2020, p.47)は、サーキュラーエコノミーの動きにおいてELV指令に関連する事項として、(1)新車における再生資源の利用、(2)破砕前の資源利用と資源ごとのリカバリー目標、(3)使用済み自動車からの部品の利用と販売の規制、という3つのトピックを提示している。

まず、(1)新車における再生資源の利用について、ELV指令の第4条第1項(c)において、自動車メーカーは再生資源市場の発展のために材料メーカー、部品メーカーと連携して自動車や他の製品に再生資源を組み込むことが求められている。

しかし、ELV指令はその再生資源の投入について目標値を特に設定していない。一方で、再生資源の新車への投入は自発的に行われており、Williams et.al (2020)では、Table 6-3において欧州の自動車メーカーの取り組み事例についてまとめている。

そこでは、6社の10事例が示されている。例えば、フォルクスワーゲンのゴルフが自動車重量の約40%(再生金属:501kg、再生プラスチック:15kg、ガラス:9kg、液類:2kg)に再生資源を用いていることが示されている。

また、ダイムラーのメルセデスSクラスにおいて、再生プラスチックで製造された部品の重量が49.7kgであり、外装プラスチック部品で黒色のものは全て再生資源であるとしている。それらは新聞・雑誌記事等から集められた情報であり、他も同じような個別の取り組みが紹介されているが、統一したものではない。

また、上記の6社10事例以外でも、ELV指令の対象外となるが、2輪車メーカーにおいてその製造の際にリサイクルに配慮していることなどの言及がある。そして、Williams et.al (2020, p.48)は、これらは義務ではなく、企業の社会的責任により行うものであると述べている。

新車に再生プラスチックを用いることについて、ステークホルダーが参加したワークショップでは、新車に投入するとしても望ましい品質のものを十分に用意できるかという課題が指摘されたようである(Williams et.al, 2020, p.48)。つまり、質と量の双方において問題がある。これを追求するには当然ながら追加費用は避けられず、解体業者の業界団体からもその問題が指摘されたようである。

Williams et.al (2020, p.48)によると、バージン・プラスチックの製造コストは1kgあたり60~90セントであるのに対し、再生プラスチックの製造コストは90~120セントと50%程度高いようである。資源価格の変動があるため、このコスト比較は妥当とは言いきれないところがあるが、いずれにしろ変動を考慮した議論が必要であろう。

また、Williams et.al (2020, p.48)は、プラスチックの種類ごとの分別の必要性とそれに伴うさらなるコスト負担なども言及しているが、一方でまだ結論付けるには十分な証拠がないとし、さらなる調査課題としている。今回の改正で再生資源の新車投入率について何らかの数値目標を出すのか、あるいは現行と同様に企業の社会的責任の範囲で自発的に行わせるか、この点は注目される。

 

8.破砕前選別

次に、サーキュラーエコノミーの項目において言及された、(2)破砕前の資源利用と資源ごとのリカバリー目標についての言及を見ておきたい。これについて、Williams et.al (2020, p.49)は、破砕前に資源を回収することで、他の資源と混ざることなく、リサイクル、リユースしやすくなり、価値も高まると述べている。

ELV指令でも第6条第3項と付属書I第4項において部品回収に関する言及はあるが、これについてWilliams et.al (2020, p.49)はいくつかの部品の回収が求められることを言及するのみであり、具体的ではないとしている。

例えば、ガラスの回収の言及はあるが、どの時点で回収すべきかの言及はなく、また「高品質」のリサイクルとは何か(建設資材ではなく、ガラスに再利用するものなのか)についての定義もないとしている。実際のところ、ガラスの回収は破砕前では行われず、ガラスのリサイクルの可能性を狭めているという。

その点で破砕前の認定処理施設において回収するのが望ましいが、それは市場が成立しているかによる。Williams et.al (2020, p.49)によると、専門家や業界団体関係者を含む8名のステークホルダーの意見では、解体する時間や費用、物流における各処理施設の規模の経済性の程度により、全ての部品や素材でその回収が経済的に成り立つわけではないとのことだった。

一方、行政機関を含む別の3名のステークホルダーからは、ELV指令が義務付けていないから素材が回収されていないのではないかという意見があったようである。

ステークホルダーが参加したワークショップでは、破砕前の回収が確立していない理由に関するディスカッションがされたようである。それによると、まず、ガラスについては、関連産業の立地や受け入れのキャパシティの問題ではなく、単純に再生材の価格がバージン材に比べて高いということにあるとしている。

また、プラスチックについては、再生材のコストの問題と価値が低い問題が指摘されている。銅についても、ワイヤーハーネスで見られるように分別コストが高いことが指摘されており、それに見合うほどの経済的な価値がないことが言及されている。

破砕前の選別にうまくいっているものとして触媒、タイヤ、金属部品が挙げられている。そして、プラスチックやガラスはこれらほどは回収されていないと述べられている。一方で、破砕前の選別は唯一の答えではなく、破砕後の選別を強化する方向もあるという指摘も多くあったようである。

ただし、支部組織、リサイクラー、国・地方の行政機関、販売団体、環境団体をはじめ、ステークホルダーの53%は破砕前選別が重要であると考えているようである。これに対して破砕前選別を重要ではないとしているのは23%である(残りの23%は分からない)。

破砕前選別をすべきとする物品について最も回答が多かったものにバッテリー、オイル、液類、電子機器類が含まれている。2名のステークホルダーは、これに加えて触媒、非鉄金属、タイヤ、ワイヤー、制御装置、電子部品、衝撃吸収材、繊維を挙げていたようである。生産者の負担において議論されたことと同じだが、破砕前選別は経済的合理性に関係することである。

どの物品を対象とするかは現実性や社会的必要性などを考慮する必要があるが、Williams et.al (2020)を見ると、議論はまとまっていない。また、多くの物品の中でもガラス、プラスチックのことに多く言及しており、これらが焦点のように感じるが、制度としてどうするかである。

一方、Williams et.al (2020, p.50)は、使用済み自動車からの個々の物品のリサイクルについて量的なデータはあまりないとする。最近発表されたフランス環境エネルギー管理庁の報告書では(ADEME, 2020)、物品ごとにリユース、リサイクル、エネルギー利用、処分の割合を示しており、Williams et.al (2020, p.50)でもそのグラフが転載されている。

それによると、触媒コンバーターやスターターバッテリーはほぼ100%リユースまたはリサイクルされていることが分かる。

また、ADEME(2020)を見ると、ガラスやタイヤ、プラスチックなどはエネルギー利用、埋め立て処分(保管)の割合が高く、リユース・リサイクリング率が低い。ガラス(Verre)のリユース・リサイクリング率は38.6%であり、プラスチックはいくつかの種類に分かれている。

例えば「ABS, PVC, PC, PMMA, PS等」のリユース・リサイクリング率は32%である。最もリユース・リサイクリング率が低いのは、繊維やポリウレタンフォームであり、それぞれ15.2%、14.5%である(ADENE, 2020, p.38)。

そのような中、Williams et.al (2020, p.50)では、個別物品のリサイクル目標値の設定について言及している。ステークホルダーに行われた調査では、アルミニウムやプラスチック、ガラスなど物品ごとの数値目標の有効性について問題提起がなされた。そこでは、高度なリサイクルのインセンティブを生み、環境に配慮した設計を促すという意見があったようである。

一方で、そのような物品ごとの目標値の設定は理想的な解決方法ではなく、資源価値が原動力であるとするステークホルダーもいたようである。また、資源価値のあるものは既に集められており、市場ができているように、目標値の設定にはその二次利用の市場の存在が必要であるとの意見もあった。

これらを見ると、生産者の費用負担や再生資源の新車投入率、破砕前選別などと同様に、個別物品のリサイクルの目標値の設定は意見が分かれており、方向性は定まっていない。その中でELV指令で目標値を設定するかどうかである。

なお、ガラスについては、ガラス関連の団体から他の指令においてガラスに個別の目標値をつけていることなどの紹介があったようである。

 

9.補修部品の販売

最後に、サーキュラーエコノミーの3番目の項目である使用済み自動車からの部品の利用と販売の規制を見てみたい。Williams et.al (2020, p.51)によると、パブリックコメントにおいて、使用済み自動車からの補修部品の販売についての問題提起がされたようである。いくつかの加盟国では中古部品を販売する際にどの自動車から回収したかという情報を伴うことが求められているとある。

そのような中で、個人が使用済み自動車を認定処理施設に引き渡す前に、中古部品を回収し、インターネットのプラットフォームなどを用いて販売することなどが懸念されている。つまり、中古部品の品質や状態であり、その情報が正確ではない問題である。

Williams et.al (2020, p.51)の調査では、多くのステークホルダーは、現状は中古部品が自動車の情報に紐づいていないと認識しているか、またはその問題自体を認識していないかのいずれかだという。

つまり、中古部品に必要な情報が十分ではないことが窺える。ただし、インターネットで部品が売られていることを知っている者の意見では、解体業者名、車両識別番号(VIN)のほか、部品が認定処理施設により回収されたものである証拠として、解体業者の登録番号を示すこともあるようである。

中古部品の起源に関する情報がないと意見を述べたステークホルダーは、ドイツ、スペイン、フランス、イギリス、ベルギーのステークホルダーであり、他にもデンマークやフィンランドでもそのような意見があった。これらから、Williams et.al (2020, p.51)は欧州の様々な国で広くこの問題が起きていると捉えている。

また、ステークホルダーが参加したワークショップにおいてもこの問題は取り上げられた。現在、様々なプラットフォームを経由して多くの中古部品が販売されているが、それらのプラットフォームではトレーサビリティは確保されておらず、改善が必要であるとされる。アメリカでは、オンライン、オフラインに限らず、事業者として登録されないと補修部品を販売できないことになっており、その考え方は欧州でも応用可能であるとしている。

また、イギリスでは、関係当局、解体業者およびインターネットプラットフォームのeBayの3者において、売り手が認定処理施設であることを含めて全ての部品の流通を監査することに同意がされたようである。一方で、フランス環境庁の代表者からは補修部品を販売した後の情報も必要ではないかという意見もあったようである。

これらはELV指令の改正にどの程度関わってくるかである。リユースを促進するためには、情報の非対称性を改善することにより取引を増やすことが求められる。一方で、情報を対称化するためにはその入力や開示のためのコストがかかる。そのバランスを考える必要があるが、果たしてそこまで議論されているかである。

 

10.方向性

本稿では、Williams et.al (2020)で示された論点のうち、行方不明車問題、拡大生産者責任、サーキュラーエコノミーの3つについて整理をした。

まず、行方不明車問題については、行方不明の行方が多岐に渡り、それぞれがどの程度の数量なのかが見えていないことが課題である。まずは登録・抹消登録制度の改正により、数量をより見えるようにし、原因を特定していくものと思われる。

その際に、解体証明書と抹消登録、自動車税をリンクさせるなどで、自動車の最終所有者に適正な引き渡しのインセンティブを生む工夫がなされるものと思われる。

EUは加盟国の経済規模や産業構造が様々であり、各国の事情に合わせた制度設計を相応に認めている。しかし、それが統一性を失う要因になりうる。自動車は加盟国間の自由な移動が認められており、その利便性は確かにあるが、情報が管理できていないと行方不明の原因を特定できない。その特定がまず先という判断になるのではないだろうか。

また、加盟国間の情報共有の不備についてもEU内の制度運営の困難性を感じる。加盟国によって制度運営に温度差があればなおさらである。これについても情報共有の強化という形で精度を高めていくものと思われる。

これに対して、使用済み自動車の無償引き渡しの構造そのものは変わらない印象を持つ。有償で引き渡される使用済み自動車の流通が課題であり、それが不適正に流通しないような何らかの仕掛けが必要である。

例えば、日本のような分別後の不要物の引取制度が考えられるが、本稿で見た限りでは、そこまでは考えられていない。まずは現行の構造で登録・抹消登録制度の改正により対応するものと思われる。

拡大生産者責任については、生産者による解体情報などの提供はされているが、それには重点が置かれていない。上記の無償引き渡しの仕組みに関わる問題として生産者の費用負担が議論の的であったが、結果的にこれも大きな変化はなさそうである。

ここで議論された生産者の負担とは、分別後の非有償物の処理費用の負担であると捉えられる。解体業者などの認定処理施設では、不適正処理を選択する者との不公正な競争が課題にある。

認定処理施設が優位になるように廃棄物などの非有償物の処理費用を軽減するための措置が必要であるが、生産者が負担する議論に進展するには程遠い。不適正処理に対しては、登録・抹消登録制度の改正により自動車のトレーサビリティを確保し、排出者、占有者を特定する方向になるのだろう。

サーキュラーエコノミーの関連では、新車に再生資源を投入する議論がされていた。日本でもプラスチックについて目標値の設定をするなどの議論はある。EUでは、自動車メーカーが企業の社会的責任により自主的に再生資源を使用しているとあったが、制度的に目標値を設定するかどうかである。

また、破砕前の選別については、上記と関わるが、Williams et.al (2020)を読む限りでは、EUでも相応に議論があることが分かる。破砕前に回収することで品質の高いリサイクルが可能という言及もあった。

しかし一方で、解体段階での回収におけるコストに対して収入が見合わないという問題も指摘されていた。これは日本も同様である。ただし、日本の場合はそれにインセンティブを設けることが検討されており、EUよりは対応が進んでいる印象を持つ。

しかし、だからといって今後EUが日本のように破砕前に回収するインセンティブを検討するかというと、今回の限りではそのような印象はない。結局、生産者の費用負担問題に関わるからである。

生産者が費用を負担しているかどうかについて意見が二分しており、議論が進展しない中で、インセンティブの検討までに話が進むとは思えない。リサイクル料金がプールされている日本とは大きく事情が異なると言える。

破砕前の回収を促すのであれば、インセンティブ(または生産者の費用負担)よりも個別物品の回収義務の明記や個別リサイクリング率の設定の方が現実的である。しかし、これについてもネガティブな意見もあり、まとまっていない。

サーキュラーエコノミーの議論が進展する中で、制度的に回収義務や数値目標を設定するのか、または企業の自主的な取り組みでリサイクリング率を上げていくのかどうかである。

Williams et.al (2020)が出された後、パブリックコメントを経て、欧州委員会は、2021年3月15日付けでELV指令の評価のための文書を提示している。本稿で確認された論点が果たしてどうなったか。次回以降に確認することとしたい。

 

※本研究は高橋産業経済研究財団令和2年度研究助成の成果の一部である。

 

参考文献

  • ADEME (2020): Rapport Annuel de l’Observatoire des Véhicules Hors d’Usage – Données 2018, https://www.ademe.fr/rapport-annuel-lobservatoire-vehicules-hors-dusage-donnees-2018
  • European Commission, EU Circular Economy Action Plan, https://ec.europa.eu/environment/circular-economy/ (2021年3月18日閲覧)
  • Georg Mehlhart, Izabela Kosińska, Yifaat Baron and Andreas Hermann (2017), Assessment of the implementation of Directive 2000/53/EU on end-of-life vehicles (the ELV Directive) with emphasis on the end of life vehicles of unknown whereabouts, European Commission Directorate-General for Environment, https://op.europa.eu/en/publication-detail/-/publication/1ca32beb-316a-11e8-b5fe-01aa75ed71a1
  • Robert Williams, William Keeling, Foivos Petsinaris, Yifaat Baron and Georg Mehlhart (2020), Supporting the Evaluation of the Directive 2000/53/EC on end-of-life vehicles Final Report, European Commission – DG Environment A.2., https://ec.europa.eu/environment/pdf/waste/elv/ELVD%20Evaluation-Final%20report%20Aug2020-rev1.pdf
  • 阿部新(2007)「使用済自動車の流通フロー-100万台は「消えた」のか」『環境と公害』,36(4),24-30
  • 阿部新(2011)「拡大生産者責任と廃棄物処理行動:自動車リサイクルを事例とした制度比較」『研究論叢. 人文科学・社会科学』,61, 1-14
  • 阿部新(2021)「EUおよびドイツにおける抹消登録制度の内訳の現状」『速報自動車リサイクル』(100),46-58
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