ネットへの書き込みは懲戒対象か ?

自動車整備士のお仕事・労務について労務相談室

せいび界2015年2月号Web記事

Q、ネットへの書き込みは懲戒対象か ?

初売り用に、来店されたお客さま限定ということで、大幅値引きの目玉車両を先着1 名様で用意した。しかし、チラシにも載せなかったのに、社員の1 人が事前にネットへ書き込みをしたおかげで、想定以上の大行列が発生し、周辺住民にご迷惑をかけてしまった。この場合、どのような処分を行えばよいだろうか?

A、

個人が気軽に情報を発信できる時代となり、様々な情報はインターネットから入手できます。また、フェイスブックをはじめとするSNSも気軽に利用する人が増えていて、その勢いは留まるところを知りません。このような環境で社員が、会社の秘密である「営業情報」「商品開発情報」「原価情報」などをブログやフェイスブックに書き込んでしまうことがあります。

実際に同じようなご相談をたまにお受けすることもあり、あるケースでは社員に厳重な処罰を実施しようとしたところ、その社員は退職してしまいました。これに関する裁判を紹介します。

<日本経済新聞(記者HP)事件東京高裁 平成14 年9月24 日>

新聞記者が自分のHP に会社に対する批判、社外秘の情報を掲載し、取材先の実名や役職名などを公表しました。会社はこの事実を確認し、HP の閉鎖を依頼するも社員は拒否。会社側は就業規則の懲戒処分に該当するとし、14日間の出勤停止を命じましたが、社員はこの処分に納得がいかず、裁判を起こしました。

東京高裁の判断

○懲戒処分は有効。
○HP は私的なものだが、不特定多数の者が見ることができ、記者として知った情報の掲載は職務と無関係とは言えない。
○本件は職務上の機密漏えいにあたり、命令不服従であるといえる。

以上のような判断から会社の勝訴となりました。この裁判で争点の1つとなったのが「HPの書き込みを自宅で行っていたので、私生活の行為ではないか?」ということでした。

しかし、私生活上の行為でも、会社の業務に密接に関わり、企業秩序に関係する場合は懲戒処分の対象となるのです。ですから、ネットなどで「不適切な書き込み」を見つけたら、まずは事実関係を調査してください。その際に、「公平性を保つために利害関係人を外す」「調査チームを作る」などが必要となります。

そして、企業秩序に与える影響の程度によって懲戒処分を検討します。その際に気を付けることとして、単に処分内容を伝えるのではなく、懲罰委員会を開催して、本人に弁明の機会を与えることが重要です。

なぜ、懲罰委員会を開催するのかというと、

○弁明を聞いて、再発防止に役立てる
○「不当処分」と主張させない

ということが目的にあるからです。

さらに、匿名の書き込みがあった場合で、会社や社員を誹謗中傷する内容を発見したら、掲示板の運営者に対して書き込みを削除するように請求できます。

この場合、削除請求箇所を具体的に特定し、書き込みが「会社や社員の権利を侵害している」ことを具体的に示すのです。

これは「プロバイダ責任法」という法律に基づいたアクションで、発信者情報(IPアドレス、タイムスタンプ)の開示を求めることもできます。

昨年、私が対応した例ですが、単なる匿名での投稿ではなく、実在する社員名での投稿があったケースがありました。

しかし、その社員は実際には投稿していませんでした。これは、書き込んだ時刻には他の業務を行なっていたため、分かったことなのですが、このような「なりすまし」もあるので、慎重に進めましょう。

ちなみに、この件は退職した社員がなりすまして書き込んだとのことで、退職した社員に近しい社員からの情報で分かったのです。

嫌がらせ等での書き込みには断固とした対応が必要となりますが、うっかり新商品のことを記載してしまった場合や社内のことに言及する場合なども見受けられます。

この場合は、「気楽な気持ちからの認識不足」から起こっているので、まずは情報の取り扱いについて、きちんと教育することから始めましょう。

そして、就業規則等のルールで逸脱した場合のケースを明記し、行為の内容と懲戒処分を明確にすることも必要となります。

 

ライター紹介

内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)

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