株式会社自研センター(JKC)は2026年6月24日、同日に国土交通省(以下、国交省)が公表した「事故車修理の標準作業時間 調査結果」について、現時点での見解を発表した。同調査は、事故車の修理工賃算出に用いられる自研指数(以下、指数)に対し、車体整備事業者から「指数の時間では終えられない作業がある」との声が寄せられたことを踏まえ、調査・検証が行われたもの。比較対象となったのは、世界各国の自動車メーカーから標準作業時間の策定業務を請け負うドイツの会社「CAB」が策定した標準作業時間(CAB工数)で、CAB社との調整はテュフ ラインランド ジャパン株式会社が担った。自研センターは調査結果を尊重するとした上で、CAB工数との間に生じた差異の多くは作業範囲や前提条件の切り出し方の違いによるものとの見方を示し、指数の透明性・信頼性向上への取り組みを継続する姿勢を改めて表明した。
見解のポイント
- 調査は指数の妥当性や優劣を判断する目的ではなく、限られた車種・特定作業における比較結果であると確認
- 板金(脱着・取替)でCAB工数が大きくなったのは、付帯作業の計上方法の違いによる可能性
- 内訳が開示された「ヤリス エキゾーストテールパイプAssy取替」は、条件を揃えると両者とも0.4時間で差が解消
- 2024年4月始動の「指数作成のあり方見直しプロジェクト」を継続し、透明性をさらに高める方針
調査の位置付け ― 「優劣の決定」「妥当性の否定」は目的ではない
自研センターはまず、今回の調査の性格について整理した。調査結果の公表資料(P2)には、本調査が同条件での比較が困難であることから、過去に決定された作業時間やその妥当性を評価する目的ではなく、CAB工数と自研指数の優劣を決めたり、国内で標準作業時間として普及している自研指数の妥当性を否定したりするものではない、と明記されている。
自研センターは、日本市場で広く利用される指数を策定・提供する立場から、指数の位置付けや前提条件を正しく伝えるとともに、公表資料から確認できた内容と現時点で確認できていない事項を整理し、今後取り組むべき課題を明確にしていきたいとした。
板金作業の差異 ― 付帯作業の「どこに含めるか」が違う
公表資料のP3では、板金(本調査では「脱着・取替」)作業についてCAB工数の方が大きくなる傾向が示された。自研センターは、公表情報だけでは比較対象の工数にどの作業が含まれているかを十分に確認できないとし、差異が生じた理由は今後、国交省や関係者と連携して内訳を確認しながら詳細に分析していくとした。その上で、作業範囲や前提条件の一部が一致していない可能性があると指摘している。
「エキゾーストテールパイプAssy取替」では差が消えた
その具体例が、双方の内訳を確認できた「①ヤリス エキゾーストテールパイプAssy取替」だ。調査結果では「CAB工数0.4時間/自研指数0.2時間」とされていたが、準備作業や付帯作業を含めて条件を揃えたところ、両者とも0.4時間となり差異がなくなった(この点は調査結果P4にも記載されている)。
| 項目 | CAB工数 | 自研指数 |
|---|---|---|
| 調査結果での比較 | 0.4時間 | 0.2時間 |
| 付帯作業を揃えて比較 | 0.4時間 | 0.4時間 |
差が生じていた要因は、CAB工数で内訳として開示された「車両のリフトアップ」や「工具準備、指示書確認等」の時間が、比較対象となったエキゾーストテールパイプAssy取替の指数には含まれていなかった点にある。指数では前者を同時に行う溶接パネル取替の付帯作業に、後者をリヤバンパの準備時間に振り分けている。
これは指数作成上の整理によるもので、後部損傷の場合、エキゾーストテールパイプAssy取替は通常リヤバンパ等とあわせて行うため、複数部品の指数を積み上げる際、共通する作業は重複を避けて主要部品の指数にまとめて計上している。作業範囲や付帯作業の扱いを揃えれば、実作業時間としては両者に差がないことが確認されたとする。同様の理由で、内訳が未開示の他の作業(②〜⑤)でも差異が発生している可能性があるとした。
さらに自研センターは、同型車両の作業を作業場で3回実測した結果も示した。エキゾーストテールパイプAssy取替は指数0.2/実測0.2、エキゾーストテールパイプAssy&エキゾーストパイプAssy取替は指数0.5/実測0.5と、いずれも指数値と一致したとしている。
工数体系の違い ― 「ヘッドランプ取替」が示す前提のズレ
自研センターは、同じ作業名でも工数に含まれる範囲が体系によって異なる例として「ヘッドランプ取替」を挙げた。指数では、ヘッドランプ交換に必要なフロントバンパの脱着を別の作業として整理し、ヘッドランプ取替の指数には含めていない。工具準備や作業指示書の確認といった準備作業も、関連する他の作業時間にまとめて計上している。
一方、CAB工数ではヘッドランプ取替の工数の中にフロントバンパ脱着や準備作業が含まれている場合があると理解しているという。このように名称が同じでも作業時間に含まれる内容が異なる場合があるため、数値を比較する際には作業範囲や前提条件の確認が重要だと強調した。
塗装比較とサンプルの限定性
塗装作業については、調査結果(P5)で板金より差異は小さい傾向とされた。資料には「塗装品質について、欧州と日本では考え方に差異があるが、日本と同等の条件に近づけた」と記載されているが、具体的な調整方法や前提条件は公表資料からは明らかでなく、現時点では詳細を確認できないとした。日本で求められる「磨き品質」等の違いから調整が行われたと理解しつつ、塗装に限らず脱着取替でも品質・前提に差がある可能性が高く、比較条件の整合について確認が必要との見方を示している。
調査対象についても、限定的であることに留意が必要とした。対象は「TOYOTA ヤリス MXPA1#」「LEXUS IS AVE30」「LEXUS NX450h+ AAZH26」の3車種で、脱着取替はマフラー取替など5作業のみ。公表資料(P2)にも、限られた車種と特定の作業項目についての比較であり、すべての車種や作業に一律に適用されるものではなく、個別事案の作業時間の妥当性を裏付ける資料として用いることは適当ではない、と記されている。
あわせて自研センターは、指数があくまで日本で一定の前提条件のもと復元修理を行った場合の標準作業時間の参考値であり、日本とドイツでは修理方法・設備環境・法制度・求められる品質や文化に違いがあるため、同じ作業でも一定の差が生じ得ると説明。20年以上にわたる海外工数調査でも、前提条件や余裕時間・準備時間の違いを確認してきたとした。
CAB工数の策定方法をめぐる論点
公表資料P7の「<参考>CAB工数の策定方法」に対しても、自研センターは指数との異同を整理した。ボルトの脱着や溶接等の最小作業単位を実測で設定している点は指数も同様としつつ、「一定の条件を置くことなく」とされる点については、指数は作業者や対象車両等に標準作業の前提条件を設定しており、策定のコンセプトが異なるとした。
また、修理マニュアルとの対応を明確にしながら作業項目を抽出する考え方も指数と共通とした上で、CAB工数が「ヤリスであれば2,204種類の作業項目から構成」とされている点に触れ、どこまでを作業項目と呼ぶかにもよるが、指数で指数項目を構成する個別作業工程はヤリスで3,677を保有していると説明した。
今後の対応 ― 「あり方見直しプロジェクト」を継続
自研センターは、今回の調査で得られた気付きを今後の指数改善や透明性向上の取り組みに活かす方針を示した。とりわけ、作業範囲や前提条件をこれまで以上に分かりやすく伝える必要があること、単独の数値だけでは指数の考え方が十分に伝わらない場合があること、工数体系の違いを整理・比較してわかりやすく示すことがより良い指数の提供につながることを、改めて認識したとしている。
同社はお客様相談室に寄せられる声を起点とした検証や一般工場調査、指数懇談会による外部有識者からの意見聴取などを通じて指数の見直し・改善を進めてきた。加えて、将来にわたり指数の信頼性を維持・向上するため、2024年4月に「指数作成のあり方見直しプロジェクト」を立ち上げ、社内横断で指数作成プロセスの見直しと透明性向上に取り組んでいる。その成果の第一弾として脱着・取替指数の作業内容を見直し、2026年5月以降の新型車の指数から順次反映しているという。これら取り組みは2026年6月11日に同社ホームページでも案内されている。
自研センターは、国交省調査結果の詳細確認・検証を進めるとともに、指数ユーザーや関係者の意見にも真摯に耳を傾けながら、指数の透明性・信頼性のさらなる向上に取り組むとしている。