エンジンオイルなど潤滑油の安定供給へ政府が対策|整備現場は落ち着いた発注を

中東情勢の緊迫化を受け、エンジンオイルをはじめとする潤滑油の入手に不安を感じる声が、整備現場からも聞かれるようになっている。これを受けて政府は、潤滑油等の安定供給に向けた一連の取り組みを進めており、6月10日には全業種を対象とした「潤滑油等の直接販売スキーム」も新設された。整備業界に向けては、地方運輸局を窓口とした個別の目詰まり解消も動き出している。一方で、現時点で最も大切なのは、現場が事実関係を正しく把握し、冷静に発注を続けることだ。本稿では状況を整理するとともに、在庫不足に直面した場合の具体的な相談先をまとめた。

「量は足りている」――不足の正体は供給の偏り

まず押さえておきたいのは、政府が一貫して「日本全体で必要となる潤滑油の量は確保できている」と説明している点だ。潤滑油は石油精製の過程で生まれるベースオイル(基油)を原料としており、原油の代替調達や国家備蓄の放出によって、国内の必要量そのものは手当てされている。

では、なぜ現場で「手に入りにくい」という声が出るのか。資源エネルギー庁によると、本年3月下旬頃から供給の先行きに不安を抱いた一部の流通事業者や需要家が、前年同月を大きく上回る量を発注したことが原因とされる。この駆け込み発注の結果、3月の石油元売各社全体の潤滑油出荷量は前年同月比で約3割増加し、元売の在庫が大幅に減少。通常どおりの発注をしている事業者への供給が滞り、調達に時間を要するなど「供給の偏り」が生じた。つまり、絶対量の不足ではなく、需要が一時的に前倒しされたことによる流通の目詰まりが、現在の入手難の主な正体である。

整備現場の実態も、この見立てを裏づけている。経済産業省の対応状況資料には、整備事業者から寄せられた声として「7月以降分のディーゼル車用エンジンオイルを注文したところ、納期未定と言われ、同時に値上げも予定されていると告げられて不安だ」といった訴えや、整備商工組合からの「供給不安を感じた一部の取引先が通常より多めに発注したことで、ディーゼル車用エンジンオイルに欠品が生じた」という報告が記されている。一方で、ディーゼル車の排ガス浄化に使う高品位尿素水(アドブルー)については、「ポリ容器の小口は入手しづらいが、近くのガソリンスタンドで補給できている」との声もある。完全な品切れではなく、品目や流通経路によって入手のしやすさにムラが出ている――これが偏りの実像だ。

政府の対応――要請と直接販売スキーム

政府はこの偏りと目詰まりを解消するため、複数の対策を重ねてきた。国家備蓄原油の放出や民間備蓄義務量の引き下げで原油側の手当てを進めるとともに、需要側には「前年同月比同量を基本とした発注」への協力を繰り返し呼びかけている。潤滑油に関しては、資源エネルギー庁が4月17日に潤滑油等関係事業者へ前年同月並みの供給を要請。5月12日には、日本自動車部品工業会など潤滑油の需要先業界団体と、潤滑油等製造事業者の双方に対し、改めて前年同月比同量を基本とする取り組みを求めた。国土交通省も、バス・トラック・自動車整備事業者の団体に向け、5月8日にアドブルー等の自動車関連製品、5月12日にエンジンオイル等について、通常どおりの発注・供給を要請している。

こうした直接販売スキームには、先行する成功例がある。燃料(石油製品)では、4月9日に直接販売スキームが開始され、4月16日には早くも供給事例が公表された。これは需要家ごとに1つの石油元売会社が一括して供給する仕組みで、要請への迅速な対応を可能にした点が特徴だ。この枠組みのもとで、燃料分野では4月下旬以降、供給の偏りや流通の目詰まりの解消が着実に進んでいる。し尿処理施設や茶製造に必要なA重油など、当初不安視されていた個別の供給不安が、一件ずつ手当てされていった。

6月10日に新設された潤滑油等の直接販売スキームは、この燃料で実績を上げた仕組みを、潤滑油にも広げるものだ。潤滑油は数千を超える品目があり、商流や配送形態も複雑だが、全業種を対象として、事業継続に必要な量を確保できていない事業者に直接供給する体制が整えられた。政府全体の集計では、この直接販売スキームと前年同月比同量の要請をもとに、5月29日時点で433件の目詰まりが解消されている。燃料で先行した「制度が動き出せば解消が進む」という流れが、潤滑油でも始まったといえる。

整備業界に的を絞った解消の枠組み

注目したいのは、自動車整備をはじめとする自動車関連分野について、独立した解消の枠組みが組まれている点だ。エンジンオイルやアドブルーの供給の偏り・目詰まりについては、地方運輸局が中心となって、調達が困難になっている自動車整備・バス・タクシー・トラック事業者の状況を把握し、その解消に取り組んでいる。さらに地方経済産業局との連携を強化することで、現場の声を待つだけでなく、行政側から働きかける「プッシュ型」での解消を加速させる体制だ。実態把握のため、自動車整備商工組合(全国53団体)への積極的なヒアリングが行われ、5月26日には関係省庁による連絡会議も開催された。

潤滑油のサプライチェーンは、元売・メーカーから特約店・商社・卸、ガソリンスタンドを経て、自動車整備工場やバス・タクシー・トラック事業者へと至る多層構造で、その川下には20万を超える事業者が連なる。この多様で多層的な流通のどこで目詰まりが起きているかを、地方運輸局と地方経済産業局が連携して特定し、解消につなげる。実際に、地方運輸局が整備事業者から詳細な供給状況を聞き取り、経済産業省とも連携して対応した結果、必要な量のエンジンオイルの供給に目処がついた事例も報告されている。

現場が取るべき対応――まずは「いつもどおり」

整備事業者として最初に意識したいのは、過度な買いだめを避けることだ。先行き不安からの一斉発注こそが供給の偏りを生んでいる以上、各社が必要量を超えて確保に走れば、巡り巡って自社や取引先の調達をかえって難しくしてしまう。前年同月と同程度を目安に、通常どおりの取引先へ通常どおり発注する――この「平常運転」が、結果的に業界全体の供給を最も早く正常化させる。

そのうえで、在庫不足によって実際に操業へ支障が生じるおそれがある場合は、一人で抱え込まず、行政の相談窓口へ情報を提供してほしい。前述のとおり、自動車整備業については地方運輸局が窓口となって聞き取りと解消にあたっており、寄せられた情報をもとに経済産業省(地方経済産業局)と連携して供給を手当てする仕組みが整えられている。

■ 在庫不足で操業に支障が出そうなときの相談先

①自動車整備業の窓口(国土交通省)
地方運輸局に「燃料油や石油製品等の供給に関する相談窓口」が設置されている。販売事業者名(調達先)、契約状況(油種・数量・価格・契約期間等)、今後の調達見込み、懸念事項などを伝える。
国土交通省 相談窓口のご案内

②経済産業省「中東情勢関連対策ワンストップポータル」
事業所管の省庁が分からない場合は、受付フォームから登録できる(備考欄に想定される省庁名を記入)。
中東情勢関連対策ワンストップポータル
資源エネルギー庁 関連対応ページ

※情報提供を受け、必要に応じて直接販売スキームによる供給が検討される。

過度な不安よりも、正確な情報を

中東情勢は依然として予断を許さないが、原油・基油の調達面では正常化に向けた動きも出始めている。先行した燃料では直接販売スキームを起点に解消が着実に進んでおり、潤滑油でも同じ仕組みが動き始めた。供給に偏りがある局面だからこそ、根拠の不確かな「品切れ」情報に過剰反応して発注を膨らませるのではなく、必要量を見極めた冷静な調達と、困ったときの相談窓口の活用を心がけたい。整備という社会インフラを支える現場が落ち着いて行動することが、安定供給への最短ルートとなる。

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