自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書(案)を読み解くシリーズの第2部。今回は3本柱のもう一つ、「国内資源循環の推進(再生材等の流通促進)」を取り上げる。政策の重心が「適正処理」から「国内資源循環」へと移るなかで、報告書(案)はリユース部品・再生プラスチック・ASRの3分野で具体的な方向性を示した。整備工場のリユース・リビルト部品活用や、令和8年4月に始まった資源回収インセンティブ制度にも直結する内容だ。
リユース部品の流通促進──「リサイクルより上位」の価値を可視化
循環型社会形成推進基本法は、廃棄物処理の優先順位を「発生抑制→再使用(リユース)→再生利用(リサイクル)→熱回収→埋立」と定めている。自動車についても、リサイクルに先立ってリユースを進める考え方が基本だ。報告書(案)は、リユース部品の流通促進が「1台あたりの実質的な価値向上を通じて解体業者の収益向上につながり、プラスチックをはじめとした素材の国内循環の促進にも寄与する」と位置づけ、その拡大に向けて、利用者が品質等の情報を入手しやすい環境の整備が必要だとした。あわせて、易解体性・易リサイクル性を高める環境配慮設計により、解体段階で回収できる部品を増やすことの重要性にも触れている。
業界側の取り組みも紹介されている。NGP日本自動車リサイクル事業協同組合は、平成25年から大学との産学連携でリユース部品の活用によるCO₂削減効果を定量化し、「環境貢献書」として発行。環境貢献度を可視化することで、整備工場や保険会社など、実際に部品を選ぶ現場での理解促進を図っている。リビルト部品についてもCO₂削減効果の研究を進めているという。また、日本自動車リサイクル部品協議会では、加盟団体のシステムをつなぐ「オールジャパン構想」を進め、令和7年2月にはゲートウエイを介して12団体・約500社の在庫情報を共有する「ARPN(オールリサイクルパーツネットワーク)」が稼働した。購入者に近い企業から部品を出荷することで、送料やCO₂排出量の低減にも寄与できる仕組みだ。
報告書(案)は提言として、自動車メーカー・部品メーカー・販売・整備・損害保険業者、自動車所有者等の関係者が連携し、リユース部品流通の実態把握や促進策を引き続き検討すべきとした。価格・品質に加え「環境価値」を訴求する流れは、整備の現場でのリユース・リビルト部品提案にとって追い風となりそうだ。
再生プラスチックの流通量拡大──供給不足と「集約拠点」構想
国を挙げた資源循環の機運が高まるなか、令和8年4月には循環経済(サーキュラーエコノミー)に関する関係閣僚会議で「循環経済行動計画」が策定された。その柱として「メタルリサイクル推進戦略」が掲げられ、鉄・アルミ・銅・永久磁石を再生材確保の注力資源と位置づけ、2030年までの再生材供給目標を設定して戦略的に取り組む方針が示されている。
自動車分野では、令和6年11月に環境省と経済産業省が連携して「自動車向け再生プラスチック市場構築のための産官学コンソーシアム」を立ち上げた。ここでの推計が示すのは、需給ギャップの深刻さだ。2041年以降の自動車向け再生プラスチック供給量の目標が20万トン/年であるのに対し、ポリプロピレン(PP)を対象とした2041年時点の供給ポテンシャルは6.9〜9.5万トンにとどまり、目標値に届かないと推計された。これを受け、令和8年3月に公表された「自動車向け再生プラスチック市場構築アクションプラン」では、各リサイクラーが生産する再生プラスチックを全国数か所で集約する「再生プラスチック集約拠点」構想や、需要喚起策・認証スキームを含むロードマップが示された。経済産業省が中心となるサーキュラーパートナーズ(CPs)の自動車領域ワーキンググループでも、2040年時点の供給量を3シナリオでシミュレーションし、課題と施策を整理している。
令和8年4月開始「資源回収インセンティブ制度」──参加意向は4割
解体・破砕段階でプラスチックやガラスを回収し、ASRになる前の段階で再資源化を行えば、再生材の供給量を確保しつつ、ASRの発生量も減らせる。これを後押しするのが、令和8年4月に始まった「資源回収インセンティブ制度」だ。解体業者・破砕業者・原材料メーカー等がコンソーシアムを形成し、自動車製造業者等(ASRチーム)と契約したうえで、使用済自動車からプラスチック・ガラスを回収すると、ASR減量で捻出されるリサイクル料金を原資にインセンティブが支払われる。
もっとも、報告書(案)が引く解体・破砕業者向けアンケートでは、制度の認知度は高いものの、参加意向を持つ企業は4割程度にとどまった。制度参加やコンソーシアム形成にあたっては、特に地域の中小企業を中心に課題・参入障壁があり、円滑な実施に向けた議論が必要とされている。報告書(案)は、令和8年度から制度の定着・更なる活用促進に向けた対応を検討するとした。制度に参加するかどうかは、各社にとって今後の事業判断の論点となる。
欧州ELV規則案──「再生プラ25%」が日本車にも影響
国際動向も無視できない。欧州委員会は令和5年7月に現行のELV指令等を改正する「ELV規則案」を公表し、令和7年12月の三者協議で暫定合意、令和8年2月に条文案が示された。車両製造に使うプラスチックのうち再生プラスチックの割合を、規則発効6年後から15%以上(うち自動車由来3%以上)、10年後から25%以上(同5%以上)求める内容で、鉄・アルミの再生材使用率も今後設定される見込みだ。令和8年度中の共同採択・発効が見込まれ、2030年代前半の適用開始に向け、日本国内でも追加的な対応策の検討が必要だと報告書(案)は指摘する。欧州市場に車両を供給するメーカーはもちろん、再生材を供給する静脈側にとっても、需要拡大の機会であり、品質確保の宿題でもある。
ASRリサイクルの高度化と「2チーム制」見直しの始動
ASRの再資源化率は近年95%以上で推移し、目標の70%を安定的に達成している。ただしその方法は熱回収が約70%を占め、マテリアルリサイクルは約30%、うちプラスチックのマテリアルリサイクルに限れば約1.5%にとどまる。プラスチック資源循環法ではマテリアルリサイクルが熱回収より上位に位置づけられており、有用資源の回収と再生プラスチックの供給量確保の観点から、マテリアル・ケミカルリサイクルの推進が課題となる。報告書(案)は、焼却前工程でのマテリアルプラスチック回収設備の導入や、焼却後の燃え殻・ばいじんからの貴金属回収など、マテリアルリサイクルと熱回収を組み合わせた「ハイブリッド型リサイクル施設」への転換を目指す取り組みを先進事例として挙げ、メーカーの自主的取り組みや国の設備導入支援による推進を求めた。
制度面で注目されるのが、ASRチーム(THチームとART)の「2チーム制」をめぐる議論だ。制度初期には競争原理を活用してリサイクル率の向上とリサイクル料金の低減に寄与してきたが、近年はその競争余地の縮小に加え、施設契約の重複や事務負担の増大が顕在化している。一方で、資源循環推進の高まりや国際的なマテリアルリサイクルの競争激化という環境変化もある。報告書(案)は、統合による競争性の低下や品質維持への懸念も踏まえつつ、自動車製造業者等を中心に、2チームを統合することのメリット・デメリットや、組織的・法的な妥当性(独占禁止法の観点を含む)等を比較衡量し、令和8年度中に検討を開始するとした。長く続いた2チーム制が見直しのテーブルに載った点は、ASR処理に関わる事業者にとって大きな論点となる。
整備業界への示唆と、次回予告
第2部で見た資源循環の3分野のうち、整備の現場に最も近いのはリユース部品だ。環境貢献度の可視化やネットワークの広域化は、リユース・リビルト部品を提案する際の説得力を高める。解体・破砕業者にとっては、資源回収インセンティブ制度への参加可否と、2チーム制見直しの行方が当面の関心事になる。
令和8年度から動き出す主な検討(第2部関連)
- 資源回収インセンティブ制度の定着・活用促進に向けた対応の検討
- 再生プラスチックの流通量拡大に向けた対応の検討継続(集約拠点構想・ELV規則案等を注視)
- ASR「2チーム制」統合のメリット・デメリット等の検討開始
最終回となる第3部では、EV時代の最大の焦点である車載用蓄電池(LiB)の回収・再資源化、令和8年1月に稼働した大規模改造後のJARSの活用、カーボンニュートラルとレアメタルへの対応を取り上げる。あわせて、3本柱を貫く「今後の検討スケジュール」を一覧で整理し、シリーズを締めくくる。
※本記事は、第66回合同会議(令和8年6月9日)に示された「自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書(案)」に基づく。数値・記述は同報告書(案)による。報告書(案)は今後の手続を経て確定される見込みで、確定版で記載が変わる可能性がある。