第148回 IRユニバース 第8回バッテリーサミット、第1回半導体サミットを拝聴して

熊本大学大学院人文社会科学研究部(法学系)・環境安全センター長

外川 健一

はじめに

IRユニバースは、1990年代にスクラップ関係のメディアで、ホットな話題を盛んに提供してきた元日刊市況通信の棚町裕次記者が、独立後に一念発起して創業したウェブマガジン「MIRU.com」 の運営で知られている。

同社のホームページによると、設立年は2011年となっているが、その前から棚町氏が懇意にしていた秋田大学工学部の資源開発の教授と、同和鉱業でリサイクル事業のリーダーとして全国を回っていた論客の方と3名で発足した情報交流会が発端だったとうかがっている。そして現在の事業としては「金属資源関係の情報配信(MIRU.com/MIRUplusの運営) 市場調査、研究会の運営、コンサルティング、M&Aのお手伝い、金属資源などのベストマッチ、 各種セミナー、講演会など」を行っているという。

同社ウェブサイト: https://iruniverse.co.jp/company/info/ 参照。

 

棚町社長は日刊市況通信社の出身ということもあり、相場情報に強く、自費でロンドンのLMEの様子を見学し、取材するなど現場主義を貫いている国際派でもある。また成長しそうな業界をいち早くキャッチするのもお得意である。棚町社長との出会いは20年以上も前であるが、2005年の自動車リサイクル法の本格施行前に、いわゆる「レアメタル問題」にいち早く着目して報道を続けていたことは記憶に新しい。

ところで、米中経済摩擦の中のいわゆる戦略製品の中に、アメリカは半導体と蓄電池を指定した。その流れもあってか、棚町社長はこの8月2日に第8回バッテリーサミットin TOKYOを、9月1日に第1回 SEMICON(半導体)サミット in TOKYOを企画・運営した。

本稿はそれらで得た感想を記したい。

 

8月2日第8回バッテリーサミットin TOKYO

Li-Cycle Corp. Dawei Li氏の講演

「An introduction to Li-Cycle」

この会社は、筆者が参加する国内外のリチウムイオン電池(LIB)のリサイクルが主テーマとなる講演会では、ほぼ毎回プレゼンしている会社である。この会社の設立は2016年で、このような若い企業が勢いを持っているのがひしひしと感じられる。創業者は Ajay Kochhar と Tim Johnstonの2名で、もともとカナダの「ハッチ」という、鉱山、金属製錬、電池、大規模インフラ開発を幅広く行っている企業に勤めていた。

 

ハッチのウェブサイト https://www.hatch.com/en

Tim Johnstonは豪州ブリスベン生まれで、クイーンズランドの大学では機械工学を学んだ。ハッチ入社後は、SQM、ロックウッド・リチウム(アルベマール)、バカノラ・ミネラルズ、AMG-NV、リオ・ティント、ギャラクシー・リソーシズ、その他の資源メジャーを主とした会社に対して、リチウムイオン電池の開発に関する様々な提案を行ってきた。現在はトロントに在住で、Li-Metal社(2019年に設立。次世代電池に必要なリチウム陽極とリチウム金属を、様々な原料から、大規模に、従来のプロセスより格段に低コストで生産することを目指して創設された会社)の共同設立者兼会長で、Lacero Solutions社(自動車エアバッグやシートベルトプリテンションのリサイクルを主として扱う企業)の取締役でもある。

 

Li-Metal社のウェブサイト:https://li-metal.com/

Lacero Solutions社のウェブサイト: https://www.lacerosolutions.com/

 

もう1名のAjay Kochharはトロント大学在籍時に化学工学を専攻しており、Li-Cycleを設立する以前は、ハッチの産業クリーンテックおよびアドバイザリー業務に従事し、幅広い技術とプロジェクト開発の経験を積んだ。その間、リチウム、コバルト、ニッケル、銅、金、鉛、亜鉛、モリブデン、レアアースの各産業におけるクリーンテクノロジー開発を通じて、エンジニアリングとプロジェクトマネジメントの深い経験を積んだという。

同社のプレゼンはバッテリーに関するほかの講演会(例えばスイスのICM AGが主催するICBRなど)でも、しばしば耳にする。この会社の企業姿勢が、多くのESG投資を受けている。もちろん、地元カナダはもとより欧州でも積極的に投資を受け、注目を浴びているリチウムイオン電池のリサイクル企業である。

同社の特徴は「ハブ・アンド・スポーク」と自称しているリサイクルシステムである。ブラックマスを主として生産するスポークと、これらを原料としてニッケルやコバルト、さらには炭酸リチウムを生産するハブと呼ばれる2種類の工場を、同社はシステマテックに建造している。特にスポーク工場は電池工場や自動車メーカー周辺に配置させ、いわゆる工場破砕くずを原材料としてブラックマスを生産しているという。ここでは、手選別なしのソーティングが行われ、北米・EU・アジア太平洋APACにスポークを設置。スポークで生産する製品はブラックマス(正極材)、シュレッダー銅/アルミ(アルミ箔のノリを取り除ける。)、ミックスプラである。そして、ハブ(中心拠点)にブラックマスを投入し、バッテリーの品質に足る4元素含有物を生産するという方法だそうだ。

気になるハブだが、実際に質疑応答でお話を聞くと、まだ本格的な生産はこれからのようである。やはりLIBのリサイクルは中国以外のベンチャーにとって、まだモノが集まらない状態なのだろう。日本でもブラックマスの生産まで行っている企業はあるが、その後の金属製錬は補助金を受けながらのプラントの実証試験は行われているものの、商業化には至っていないと認識している。引き続きこの企業は注視していきたいと思う。

 

Suzhou Botree Cycling Sci & Tech Co., Ltd. 劉剛鋒(リュウ ゴウホウ)氏(英語講演)

Sustainable Battery Materials Based on Advanced Full Recycling Solution

 

この会社も、中国のみならず、欧州で積極的に事業展開しており、筆者がバーチャルで参加する欧州でのバッテリーリサイクルコンフェランスでは、常に欧州在住の女性エンジニアが最新のデータを使って講演をしている。

同社のウェブサイト:https://www.botree.tech/

中国でのLIBのリユース・リサイクル工場は何百、何千もあるというが、ほとんどは小規模で、政府がお墨付きを与えるホワイトリストに掲載されている企業となると数は限られる。それでもリユースも含め、LIBの再資源化工場は3桁はあると聞く。その中で同社の湿式選別技術に関して、講演者は「この会社の技術をもっと活用してほしい。」と常に強調する。同社のリサイクル技術は、NMC(三原系正極剤)をターゲットに、溶媒抽出法で処理を行うのだが、この方法の利点は、直接的リサイクル(ブラックマスから新しい電池を作る)方法であり、換言すれば、ニッケル、コバルト、マンガンが同時に抽出でき、98.5%以上のリサイクル率が達成できると言う。

さて、2021年中国におけるLIB市場は、LFPの占有率はNMCを越えて、首位を取り戻した。BYDの電気自動車に搭載されているLIBは殆どがLFPになっているらしい。このLFP需要増加の理由としては、動力電池のCTP技術(Cell to Pack)の発展に伴い、LFPのエネルギー密度も向上していること、製造プロセスの簡易化(セルからいきなりパックを製造できるようになったこと)が挙げられる。特にこの手法は、カーボンフットプリントを考慮するうえで、最も技術革新と普及が期待されるという。

会場で投影されたスライドのブラックマスの生産プロセスや、ブラックマスから金属を製錬する湿式精錬の動画などは、あまりにもきれいな工場で、いわゆる「見せるプラント」のように感じた。実際「儲けるプラント」は別にあるのではないかと思ったくらいである。またLFPのリサイクルやダイレクトリサイクルの技術革新も進めており、特に後者はカーボンフットプリントを考慮するうえで、最も技術革新と普及が期待されるとコメントしていた。

 

岩谷産業株式会社 福政輝氏 &浙江華友コバルト業股份有限公司 李仲寧氏   

「安心安全なバッテリーサプライチェーン構築に向けた取組み」

正直言って、米中経済摩擦の中、多くの日本企業が中国でのビジネスから撤退・縮小している中で、岩谷産業が華友コバルト社と提携しながらビジネス展開をさらに進めていることは興味深かった。

以下は、昨年のJTRO短信からの引用であるが、上海証券取引所に上場し、コバルト製品を中心とする中国の大手素材メーカーの浙江華友鈷業(浙江華友コバルト業)は2022年6月19日、第三者割当増資による最大177億元(約3,540億円、1元=約20円)の資金調達案を発表した。調達する資金の7割弱の122億元はインドネシアで実施するニッケル・コバルト精錬の新規事業に充て、残りは広西チワン族自治区にあるリチウム生産プロジェクトに15億元、流動資金に40億元を投入する予定だ。世界的に電気自動車(EV)の普及が進む中、同社は車載電池の主要な素材のニッケルやコバルト、リチウムなどの生産を強化する。

インドネシアは世界のニッケル埋蔵量の10%以上を占めるが、2020年1月からニッケル鉱石の輸出を禁止している。このため、現地で精錬所を設置する動きが活発化するなど、ニッケル鉱石をめぐる競争が激しくなっている。浙江華友コバルト業は2022年4月にニッケル鉱石の開発権を持つ資源大手のヴァーレ・インドネシアと協力・協議し、製錬所の建設要件を整えてきたという。

精錬所はインドネシアの北マルク州にあるインドネシア・ウェダ・ベイ工業団地(IWIP)に建設する計画らしい。工期は3年で、完成すれば年間の生産能力は、ニッケルが12万3,000トン、コバルトは1万5,700トンに達する見通し。また、浙江華友コバルト業は今回の案件とは別に、既にインドネシアでニッケルの年産が6万トンと4万5,000トンの2つのプロジェクトを進めているが、新たに建設される精錬所はこれらの生産規模も上回るものとなるそうだ。

 

ジェトロのウェブサイト;https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/06/780d970ff8b7c532.html 参照。

 

以上のように、インドネシアのニッケル資源の開発も中国の資源メジャーが着々と進出している。

また、岩谷産業と言えば「鳥人間コンテスト」に力を入れていることも有名な企業である。この夏休みも感動を与えて下さり感謝しているが、これからも「総合エネルギーと産業ガスを基幹事業とし、機械、マテリアルなど幅広い分野で事業展開」を頑張ってもらいたい。

 

エラメット・インターナショナル Chen Wystan 

「エラメットのバッテリービジネス」

お話をうかがい、同社のビジネスの中心は鉱山開発で、その点はスイスのグレンコアに似ていると感じた。

エラメットジャパンのウェブサイト:https://resource.ashigaru.jp/company/eramet.html

プレゼンを行ったChen Wystan 氏は棚町氏とは懇意の中のようで、丁寧に同社の特徴を説明してくれた。残念ながら多忙のようで、講演直前にいわゆるIT企業家のようなラフな格好で入場し、席に着くとワイシャツとネクタイを準備し、さっそうと登壇し、質疑応答の後さりげなく姿を消していった。

同社は、ニューカレドニアでのニッケル鉱山開発を目的として設立されたLe Nickelに起源をもつ。1990年代に入りフランスとスウェーデンの鉄鋼メーカーを買収して鉄鋼メーカー2社を合併、Erasteelを設立した。この鉄鋼メーカーを完全子会社とし、ニッケル生産事業以外の主要事業としつつ、その後社名を現在のEramet(エラメット)へと変更している。

今回のサミットのトップバッターであるLi-Cycle社は、グレンコアと提携しているが、エラメット社も多くの地域で連携しながらグローバル展開している。興味深かったのは、リチウムイオン電池リサイクル事業(フランス)で、静脈メジャーのSUEZと連携し、湿式法による電池用金属の生産を進めているという。また、インドネシアのSONIC BAYにて、ニッケル・コバルトHPALプロジェクトをBASFと連携しながら、唯一の欧州企業としてHPAL(高温加圧酸浸出)と呼ばれる湿式法を用いて、MHP(中間体)を生産する計画があるという。

しかし、どのプロジェクトも計画中というのが殆どで、漠然と(大丈夫なのか?)と思うのだが、失われた30年の間に日本企業は何よりのスピード感を失っていると感じる。その代表例が隣国韓国との対比である。

私が韓国のリサイクルの事情を学び始めた1990年代前半は、韓国は政治も経済も日本をモデルとしていたように思われた。法制度や企業経営も、だいたい日本式で考えて理解できたのだ。しかし、1997年のアジア通貨危機を経験して韓国は大きく変わった。そして、日米経済摩擦で日本が一時的に放棄した半導体産業に目を付け、サムソンやLG、SK等の主要財閥がこの事業に着手する。さらに日本の国力が弱まるのを察して、政治モデルも経済モデルもアメリカ型に移行した。かつては日本語で調査がかなりできたものの、現在では英語ができないと韓国での調査は難しくなっている。そして様々な経済指標で、日本を追い抜くときがあったりする現在、やはり韓国調査には韓国語のマスターが欠かせないと痛感している。ちなみに私が勤務している熊本大学の大学院生の韓国出身者数は、わずか4名である。中国出身者の185名との差は大きい。

このような韓国の対日感情は、慰安婦問題や徴用工問題とは別に、韓国の日本軽視という姿勢に出ている気がする。国際政治学者の神戸大学・木村幹教授の『韓国愛憎』、中公新書、2022年は、同世代の研究者が書いた自己研究半生史であることもあってお勧めしたい。「たとえば、2017年の大統領選挙では、1回約2時間の候補者討論会が6回行われた。この合計12時間以上の候補者討論会で、『日本」が登場したのはわずか2回に過ぎなかった。この2回も、『日本には多くのノーベル賞受賞者がいる」『日本は対米外交をうまくやっている」という文脈での登場であり、日韓関係に関わる話は一切登場しなかった。」(木村、2022、p. 215)

 

一大旋風を巻き起こした「冬のソナタ」以前、20世紀には文化の面で鎖国をしていた韓国の芸能やドラマが、日本の作品の剽窃と思われるものが数多くあった。しかし、今や韓国ドラマが日本のBS放送で流れていない日はないほどだ。K-POPの完成度は、日本の若者をも魅了し、韓国にファッションを学ぶ学生が増えたそうだ。

EVや半導体でも韓国は日本をさほどライバル視せずに、世界市場に食い込んでいる。

 

名古屋大学客員教授野辺継男

「ガラパゴス化が進む日本の電池産業~ガラケーがスマホになれなかった道を辿る?」

野辺氏の講演はスライドもわかりやすくストーリー性に富むものであった。タイトルからして聴衆を惹き付けている。

野辺氏はインテル株式会社 事業開発・政策推進ダイレクタ兼チーフサービスアーキテクトが本業。早稲田大学理工学部応用物理学科卒業、日本電気入社。
パソコン事業に関連した海外事業、国内製品技術、及びソリューション事業関連で国内外の各種プロジェクト立ち上げ(放送関連や各種インターネット利用技術等に関する商品企画及び新事業開拓)の経験を持つ。1988年 ハーバード大学ビジネススクール留学、同大学PIRPフェローとなり、2000年 同社退職後、オンラインゲーム会社立ち上げを含む複数ベンチャーを立ち上げ、CEO歴任。2004年 日産自動車入社。チーフサービスアークテクト兼プログラム・ダイレクターを経て、2012年 同社を退社し、インテルに入社。そして名古屋大の客員教授も兼任されている。 https://www.koushihaken.com/member/3379/ 参照。

今回の講演のキーワードはSDV:Software Defined Vehicleである。すなわち、半導体とソフトウエアの発展とDeep Learningが、自動車をEVに留まらずSDV化させ、より安全でエネルギー効率の良いクルマを作る時代がすぐそこまで来ている。なので、日本の製造業はそれを認識して新しいモビリティ社会を創るべきであるというお話である。まず、野辺氏は「バッテリーEV (BEV)と内燃機関車 (ICV)は全く別物」であることを強調される(図1)。内燃機関のガソリン車等は、ガソリンの爆発等で運動エネルギーへの変換はできるが、摩擦、熱、音、振動等で多くを無駄に消耗しているという。一方、バッテリー電気自動車:BEVは技術や作り方のみならず、事業構造、産業構造、エネルギー循環も従来モデルから変えてしまった。とくに重要なのはガソリン車のエネルギーは不可逆なのに対し、電気自動車は蓄電機能を持つために、動くときはエネルギーを使うが、充電して別用途にエネルギーを使用することもできるのである。

図1

名古屋大学野辺 継男教授 提供資料

実際に活用された例として挙げると、2018年北海道胆振東部地震によって、札幌市清田区里塚地区において液状化に伴う大規模な土砂の流動により、2mを超える地盤沈下とともに街区内の半数以上の家屋が全半壊するなど甚大な被害に見舞われた。また、札幌市内の多くの地域で停電の災難に見舞われたが、EVを持っている家庭は家庭用の電源をEVから融通し、普通の生活ができたという。このような臨機応変な使い方ができるのはEVの魅力である。
さて、野辺氏の持論は「日本では、差別化の対象にならない機能でも、複数社が別々に競い合い実現し、国際競争に遅れる。それはどの業種にも共通している。」ということだそうだ。ガラケーのソフトは組み込みと認識されていたが、日本のガラケーの拡大により、アジア地域でハードウエアのコモデティ化が進んだ。そして、どの国もあっという間にスマホへ乗り換えていったが、日本の学生以外の層はなかなかスマホに移行できなかったのだ(図2)。

こうしてみると。2000年から2010年までの日本のガラケー隆盛時代は、たくさんのソフトが組み込まれて、相当の機能を持っていたことがわかる。しかし、ガラケーには当時グローバルに受け入れられるサービスプラットフォームクラウドとWebAPIがなかったことが致命的であった。そしてガラケーに満足していた日本人は、スマホの時代に取り残され、いつの間にか自動車のEV化にも取り残されてしまったということだろうか?

図2

名古屋大学野辺 継男教授 提供資料

 

そして、市場が極端に小さくなったゆえに、日本のバッテリー技術もガラパゴス化してしまう可能性がある現在、日系企業のBEV製造・販売台数は極端に少なく、国内市場も小さく、クラウド化も進んでおらず、EVの開発においても日本はガラパゴス化の道を歩んでいる、と野辺氏は警鐘を鳴らす。そこで、「5年後のソフトウエア要件に耐える半導体を最初からEVに載せる」ことが、SDV: Software Defined Vehicle には重要なのだという(図3)。

図3

名古屋大学野辺 継男教授 提供資料

まとめとして、野辺氏は以下のことを強調していた。世界的に見て、BEVは最大のバッテリー需要先となるのは明らかである。そして、基本的にニーズのないところで技術開発は進まないのだ。海外では、2025年のBEVはクラウドと連携したSDV となる。これまでの自動車とは全く異なる製品なのだ。半導体とソフトウエアの発展、さらにDeep Learningが、自動車を SDV化し、より安全でエネルギー効率の良いクルマを創る時代がすぐそこまで来ている。SDV化のために400TOPS(消費電力400W)程度のより高度な半導体の量産が必要となり、消費電力視点から60kWh程度の電力を持つBEVでなければ搭載不可となるだろう。海外各社は来る2025年に向け、走行距離の拡大、自動運転機能、バッテリー本体、センサー、車載半導体、ソフトウエア、クラウド連携、グリッド連携等、これまでの自動車産業と全く異なる技術に、莫大な開発投資を行っている。CASEの時代が本格的に始まりつつあるのだ。バッテリー開発のためにも、2025年末までに大量のデータを生む「大量のBEV・SDV」の生産・販売が、日系OEMから必須である。BEV・SDVはハード・ソフトの両面から量産効果が大きいので後発は不利だからである。

なお、野辺氏はIRユニバースが9月1日に主催した第1回半導体サミットでも登壇され、今度は半導体に焦点を当てた報告を行った。

なお、このほか8月のバッテリーサミットで発表された方々と講演題目を以下に示す。

一般社団法人サステナブル経営推進機構 山岸 健氏

「リチウムイオンバッテリーの製品カーボンフットプリント(CFP)」

 

日本ガイシ株式会社 玉越富夫

「CN社会に貢献するNAS電池」

 

参議院議員 三宅 伸吾氏(動画)

 

IRuniverse株式会社 阿部 治樹氏

「バッテリーから見たインフレ抑制法 Inflation Reduction Act on Batteries」

 

9月1日 第1回 SEMICON(半導体)サミット in TOKYO

8月のバッテリーサミットとメンバーが殆ど入違った感じの会合であった。ちょうど、国策半導体工場RAPUDUSが、北海道千歳市での起工式の日でもあり、参加者は主として実務家が多かった模様であるが、半導体に新たなビジネスチャンスを求めた方々が全国から集まっていた。とくにパネルディカッションは盛り上がったようである。

RAPUDUSの北海道工場立地に関する北海道のウェブサイトは、

https://www.pref.hokkaido.lg.jp/kz/ssg/144827.html 参照。

プログラムの内容は、以下のウェブサイトを参照していただきたい。

https://www.iru-miru.com/article_detail.php?id=61068

私の所属している熊本大学も、台湾の世界有数の半導体メーカーTSMCが新規工場を立地する予定から、来年2024年から半導体関係の学部(正確には「学環」という名称になるそうだが)を創設し、大学院でも半導体教育に力を入れるという。これは、社会や地域経済の要請を捉えた地方国立大学の現在の生き残り策でもある。実務家の育成に私は反対しない。しかし、この構想のため私が所属している法学部の定員は削減された。技術革新のスピードは限りなく速いが、それを社会がどのように受容し、使いこなしていくかに関する「文系」の頭を養う教育の役割を、決して軽視してはならないと感じている。(一応、熊本大学は新しい「学環」は文理融合教育を目指すとしている。)

熊本大学の半導体関係の新しい教育構想については興味がある方は、以下のウェブサイトを、参照していただきたい。

https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/honbu/shingakubusoshikousou

さて、このように自動車がますます別の製品になっていけば、リユース、リサイクル事業はどのように変貌していくのだろうか?これがこれから皆さんと一緒に考えていきたい課題である。

余談ではあるが、ビッグモーター社の一連の不正事件では、除草剤やゴルフボールなどのキーワードがマスコミ紙上を騒がせているが、修理の際にユーザーの許諾なく、リサイクル部品を使用していたという不正がさりげなく報道されている。この事件が業界に今のところマイナスにはなっていないが、これを機に、リサイクル部品の認知度が上がることを期待している。

 

 

 

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