残業はタイムカードの時刻を基準にすべきか?

自動車整備士のお仕事・労務について労務相談室

せいび界2015年3月号Web記事

Q、残業はタイムカードの時刻を基準にすべきか?

基本的に弊社は就業時間内でこなせるだけの入庫台数なのだが、繁忙期で台数が多い時は事前に断った上で残業をしてもらっている。当然、残業代はこういったケースに限って付けているのだが、ある社員から「タイムカードの記録から考えると残業代が少ない」と言われてしまった。残業時間=タイムカードの時間とすべきなのだろうか?

A、

残業に関するご質問は相変わらず多いですが、その中でも「タイムカードの時間が残業時間でしょうか?」というものがよくあります。

確かに、過去の裁判例等を見ると「タイムカードの時間から残業時間を推測している」ケースが見受けられます。実際に、裁判所や労働基準監督署の考え方は「特段の事情がない限り、事務所にいる時間は労働時間である「労働時間の管理にタイムカード等を使用している場合は、その記録が労働時間と推測される」となっています。

以下の裁判ではタイムカードの時間で労働時間が推定されています。

<イーライフ事件東京地裁 平成25 年2 月28 日>

タイムカードの時刻が退勤時刻と推定され、社員の主張は妥当とされた。

<京電工事件仙台地裁 平成21 年4 月23 日>

管理をタイムカードで行っていたのであるから、そのタイムカードに打刻された時間は、仕事に当てられたものと推定される。

しかし、実際には「タイムカードの時間 = 残業時間」ではありません。残業時間は「決められた労働時間に処理しきれない仕事を行うため、残って働いた時間」なのです。ですから、「タイムカードの時間が本当に残業時間といえるか?」という論点があるのも事実です。タイムカードが客観的なデータとはいえ、残業の「質と量」を上司が把握して、それに対する結果での判断を行っているので、残業命令とその結果が優先となるのです。

最近、裁判や労働基準監督署の調査でも「残業代の請求」の事案が増え、その処理にかなりの時間がかかっています。しかし、相変わらずタイムカードやIC カードでの時間把握は、客観性が高く、他に管理手法を導入していなければ、その時間が勤務時間となっていることは間違いありません。

ですから、タイムカードの時間ではなく、実際の残業時間を主張するならば、残業の事前承認制などにより、この時間を把握する必要があるのです。最近の裁判でこの考え方の参考になるものがあります。

<ヒロセ電機事件東京地裁 平成25 年5 月22 日>

○同社に勤務していた元社員が残業代の支払いを求めて裁判を起こした
→タイムカードがあるにも関わらず、支払われた残業代は「残業命令書」に基づくものであった
→ 「残業命令書の残業時間 < タイムカードの残業時間」だった
→タイムカードの残業時間が「本当の労働時間」と主張
○未払いの残業代と付加金※を請求

※割増賃金を支払わなかったことへの会社に対する一種の制裁金

そして、裁判所は以下の判断を行ったのです。

○就業規則上、「残業は上司の命令による場合のみ」となっている
○上司の命令が無い残業は認められない
○実際の運用として、残業は本人の希望を踏まえ、毎週、具体的に残業命令書によって命じられている
○実際に行われていた残業についても、本人が「実時間」

として記載し、翌日にそれを上司が確認

○残業時間は、残業命令書で管理されていたので、会社の主張を認める

この裁判でのポイントは、

○残業は本人の希望を踏まえ、毎週の残業命令書により命じられている

○実際の残業について、本人が実時間として記載し、それを上司が確認している

ということです。

ただし、残業の事前承認制のような制度を導入していないとしても、タイムカードの時間が必ず採用される訳でもありません。例えば、

○終業時刻が全員同じ
→例:午後5時に全員にタイムカードを打刻するように指示
→実際に、大手住宅メーカーで発生し、報道もされた

○1か月の残業時間の上限を設定
→これを超えたら、タイムカードを定時に打刻させる
→全員の残業時間が同じという非現実的な結果となる

というような場合は、意図的な操作がなされていると推測されます。

そして、さらに厳しい調査が入ってくるでしょう。 私が経験した実例ですが、タイムカードと残業報告書の時間が大きくかい離しており、その日についての追及が【厳しく】行われました。

ちなみに、その時は社内で数人が宴会をしていたので、「タイムカードの打刻は遅くなったが、残業でない」と証明でき、問題はありませんでした。

特に、タイムカードの打刻時間と報告書の終了時間が30分以上かい離しているときは注意です。そんな時は、
○PC のログイン、ログアウトのサーバーの記録
○警備会社に保存されている入退出記録

等が調査される場合もあるのです。

これらのデータにより、残業代が計算されると大変なことになるので、こうならないためにも、残業の内容を会社側が把握し、時間を管理する姿勢が大切なのです。

そのためには、就業規則に残業の事前承認制などを明記し、かつ、残業報告書などを作成することが大切なのです。

これら2つの運用を適正に回していけば、タイムカードの時間が残業時間と認定される可能性は低いでしょう。

 

ライター紹介

内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)

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