第117回:EUの中古エンジン貿易:どこに行っているか

山口大学国際総合科学部 教授 阿部新

 

1.はじめに

世界でガソリン車、ディーゼル車といった内燃機関車の使用を禁止する動きが加速している。2020年12月3日の日本経済新聞では、経済産業省が2030年代半ばに国内の新車販売を電動車に切り替える目標を設ける方向で調整に入ったと報道された。

同記事では他国の動きも整理されており、イギリスやフランス、アメリカ(カリフォルニア州)、カナダ(ケベック州)で2030年から2040年までにガソリン車の新車販売を禁じる動きが示されている。

中国も2035年をめどに、すべての新車販売を環境対応車にする方向で検討しているという。立て続けに東京都も2030年までに都内で販売される新車すべてをハイブリッド車や電気自動車などの電動車に切り替える方針を示したという報道がされた(日本経済新聞2020年12月9日)。

このような動きが遅かれ早かれ起こることは、十分に予想されていただろう。筆者の関心はそれにより中古車や使用済み自動車といった静脈市場にどのような影響が起こるかである。容易に想像できるのは、ガソリン車、ディーゼル車の中古車の国内価格が下がり、環境対応車の規制の緩い、関心の低い国・地域に移動するということである。また、それに伴い、それら車の中古部品も国外により移動するかである。

筆者はこれまで貿易統計を用いて、日本のみならず、アメリカやEU(欧州連合)などの中古車輸出台数を明らかにしてきた。貿易統計において中古車の数量を集計する際には、自動車のうち、「中古のもの」として設定された統計品目番号に紐づいた数量を拾い、集計する作業が必要である。「中古のもの」の品目区分は、国によって内容が微妙に異なるが、多くの先進国では設定されており、その集計により中古車の貿易量や行先を知ることができる。

一方、エンジンほか部品は、自動車のように「中古のもの」という統計品目番号が設定されていないことが多い(阿部,2014)。そのため、多くの部品の貿易量は、貿易統計上では新品と中古品を合計したものになる。日本も同様であり、日本からどれだけ中古部品が輸出されたかを貿易統計で示すことは難しい。

そのような中、一部の数少ない国・地域においては、エンジンに「中古のもの」という品目を設定し、新品と区分していることがある。EUもその1つであり、「中古のもの」として設定された統計品目番号を用いることで、EU各国からの中古エンジンの輸出量を算出することができる。

筆者は、これまで中古エンジンについてロシアやニュージーランドなどの輸入量を算出することはあった(阿部,2014;2015)。また、ニュージーランドやアメリカからの輸出量を集計したこともある(阿部,2016a;2016b)。しかし、EUについては十分に行ってこなかった。

EUの中古車貿易に関しては、これまで阿部(2010)(2017)(2020a)(2020b)(2020c)などで明らかにしている。そこでは、ドイツやベルギーなどから東欧・ロシア方面や西アフリカ諸国に多く中古車が輸出されていることが分かっている。これに対して、中古エンジンの輸出がどうなっているかである。

EUの貿易統計で中古エンジンを集計できるのはガソリン車のエンジンのみであり、ディーゼル車のエンジンは集計できない。本稿では、ガソリン車に焦点を当て、中古エンジンの貿易量の集計を行っていきたい。

 

2.EU27か国からの輸出台数の推移

世界共通の6桁の統計品目番号であるHSコードにおいては、自動車のガソリンエンジンは、8407.31(50cc以下)、8407.32(50cc超250cc以下)、8407.33(250cc超1000cc以下)、8407.34(1000cc超)の4種類である。このうち、EUにおいて中古の区分があるのは8407.34(1000cc超)のみであり、その統計品目番号は8407.34.30である。

この統計品目番号を用いて、欧州統計局(EUROSTAT)のデータベースにより、1000cc超の中古ガソリンエンジンの数量を出してみる。まず、EU27か国からの輸出台数の合計を見たのが図1である。EU27か国はイギリスを除いたものである。

これを見ると2017年が40万台程度と突出しているが、他の年は合計で15万台から25万台程度であることが分かる。このうち、EU域外向けの輸出が80%から90%程度となっている。

仕向地については、2010年から2019年の10年間の合計ではナイジェリア、チュニジア、カザフスタン、ベラルーシ、オランダの順で多い。なお、この数値は統計上のものであり、統計に載らないケースも考えられることは留意する必要がある。

図 1 EU27か国からの中古エンジンの輸出台数の推移(単位:台、主要仕向地別)

出典:EUROSTATより筆者集計

注:統計品目番号8407.34.30を集計したもの。「EU27か国」は2020年12月時点でのEU加盟国であり、イギリスを除く(以下同様)

 

2017年の数値が突出していることについては、図1を見ると分かるように、チュニジア向けが主な要因と考えられる。阿部(2020a)で示したようにEUROSTATのデータに外れ値が含まれている場合があり、今回もその可能性はある。

仮にチュニジア向けの2017年の台数(182,810台)を前後の年と同程度と考えて8,000台とすると、2017年のEU27か国からの輸出台数は23万台程度となり、前後の年と同水準になる。

チュニジア向けの輸出について国別にみると、フランスからの輸出が問題であることが分かる。その2016年、2017年、2018年の数量は2,179台、180,140台、5,103台となっており、やはり2017年が突出している。月別に見ると、2017年3月から5月に集中して数量が急増している。この期間に何かが起きたのだろうか?

一方、EUROSTATでは台数のみならず、重量ベースでも数量を示すことができる。それは2に示される。これを見ると、EU27か国からの輸出量の合計について、2017年は2016年よりも増加しているが、輸出台数ほどの極端な増加ではなく、また2018年と同水準である。

チュニジア向けに限定してみても、2017年の輸出量は他の年よりも多いが、輸出台数ほどに突出していない。これらを見ると、図1の輸出台数において外れ値が含まれている可能性がある。

もちろん、実際に2017年にフランスからチュニジアの輸出が何らかの理由で急増した可能性も否定できない。中古エンジンの1台あたりの重量が小さくなっているのであれば、図1の台数に外れ値は含まれないという説明もできる。

入力作業やチェックに人的なエラーが生じうるとすれば、外れ値と考えるのが自然なように思われるが、この点はヒアリング等で確認しなければならない。いずれにしろ、以下では2017年のフランスからチュニジア向けの数量に注意をして議論を展開することとする。

図 2 EU27か国からの中古エンジンの輸出重量の推移(単位:100kg、主要仕向地別)

出典:EUROSTATより筆者集計

注:統計品目番号8407.34.30を集計したもの

 

3.どこから輸出されているか

次にEU27か国のうち、どの国から輸出されているかを見てみたい。図3は2010年から2019年の10年間にEU(27か国)各国からの中古エンジン輸出台数を示している。これを見ると、ドイツが77.7万台と最も多く、フランス(49.0万台)、リトアニア(42.0万台)が続いていることが分かる。

先に見た通り、フランスからの輸出台数は外れ値を含む可能性がある。そこで2017年のフランスからチュニジアの輸出台数(18万台)を2018年と同等の台数(5千台)に代えてみると、31.5万台となる。これは図3では「フランス(修正)」と表記されたものである。

この値は、リトアニアよりも下回るが、オランダよりは多い。重量ベースで集計してみると、ドイツ、リトアニア、フランス、オランダの順となっており、図3の「フランス(修正)」の辺りに位置づけられる。

図 3 中古エンジンの輸出台数(単位:台、輸出国別)

出典:EUROSTATより筆者集計

注:統計品目番号8407.34.30を集計したもの

 

図4はドイツからの輸出台数の推移を主要仕向地別に見たものである。これを見ると、全体で2012年から2015年が多く、10万台程度となっているが、直近は7万台程度と減少傾向にある。この傾向は重量ベースで見ても同じような結果となっている。

仕向地別に見ると、2010年から2019年までの10年間の合計が最も多いのはナイジェリア(168,611台)であり、全体の20%程度を占める。それにベラルーシ(78,849台)、イラク(63,997台)、ヨルダン(51,209台)、レバノン(50,514台)、カザフスタン(43,441台)が続いている。ドイツからの仕向け先は、アフリカのみならず、東欧、中央アジア、中東地域と幅広いことが分かる。全体の動きと同様に、主要仕向地への数量も減少傾向と言える。

図 4 ドイツからの中古エンジンの輸出台数の推移(単位:台、主要仕向地別)

出典:EUROSTATより筆者集計

注:統計品目番号8407.34.30を集計したもの

 

図5はリトアニアからの中古エンジンの輸出台数の推移について主要仕向地別に見たものである。これを見ると、全体では2015年、2016年に一度減少し、3万台程度となったが、その後増加傾向となり、6万台程度になっていることが分かる。ここでも重量ベースで見て同様の傾向である。

仕向地別に見みると、近年ではカザフスタン向けが最も多く、そのシェアは40%程度となっている。他はロシア、ベラルーシ、キルギスタン、タジキスタンと東欧、ロシア、中央アジア諸国で占めている。

かつてはロシア向けが最も多く、2010年、2011年は2万台前後でシェアも70%前後であったが、直近は1万台を下回り、2019年は3,605台(シェア6%)となっている。キルギスタンやタジキスタン向けはここ3年間で大きく増加している。

図 5 リトアニアからの中古エンジンの輸出台数の推移(単位:台、主要仕向地別)

出典:EUROSTATより筆者集計

注:統計品目番号8407.34.30を集計したもの

 

4.どこに輸出されているか

このような輸出国からどこに輸出されることが多いかである。図6は、2010年から2019年のEU27か国からの中古エンジンの輸出台数の合計を仕向地別にみている。これを見ると、ナイジェリアが最も多く、30.7万台となっている。

それに続くのがチュニジアの23.5万台だが、先の通りチュニジアは外れ値の可能性があり、仮にそれを修正すると6万台になる(「チュニジア(修正)」と表記)。他のアフリカ諸国では、モロッコ、エジプト、ガーナ、セネガルの名前が見られる。

アフリカ以外では、ロシア、東欧、中央アジアおよび中東諸国の名前が見られる。カザフスタンは22.2万台、ベラルーシは20.6万台、ロシアは13.6万台である。また、タジキスタンやキルギスタンの名前も見られる。中東はイラク、レバノン、ヨルダン、アラブ首長国連邦、シリアである。

図 6 中古エンジンの輸出台数(単位:台、仕向地別)

出典:EUROSTATより筆者集計

注:統計品目番号8407.34.30を集計したもの

 

図7は、上記のナイジェリア、カザフスタン、ベラルーシについて、どの国から輸出されているかを示している。これを見ると、やはりドイツとリトアニアからの輸出の割合が高いことが分かる。

まず、ナイジェリア向けは2010年から増加傾向であり、2015年の3.7万台程度が最も多く、その後はやや減少している。ドイツからの輸出が半数程度あり、リトアニアからの輸出はほとんどない。代わりにスウェーデンからの輸出が目に付く。また、2019年はスウェーデンからの輸出が減少し、ポーランドからの輸出が急増している。

カザフスタン向けは、2010年から2014年まで大きく増加した後、2015年、2016年に一時的に減少している。そして直近では再び増加している。リトアニアからの輸出が大半を占めており、そのシェアは直近では80%前後にもなっている。

ドイツからの輸出は減少しており、2010年時点で48%だったシェアは2019年はわずか8%である。また、2013年から2016年はラトビアからの輸出も相応にあったが、直近では減少し、代わりにポーランドからの輸出が増えている。

ベラルーシ向けは、カザフスタン向けと同様の動きを示している。2010年から2013年まで大きく増加した後、2015年、2016年に一時的に減少している。その後は再び増加し、2013年の水準と同等となっている。

輸出国別に見ると、2010年頃はドイツからの輸出が多く、それにリトアニアが続いていたが、2013年からリトアニアがドイツを上回り、そのシェアは50%前後となっている。近年ではポーランドからの輸出も増えており、2019年はドイツと同等の輸出台数である。

図 7 ナイジェリア、カザフスタン、ベラルーシ向けの中古エンジンの輸出台数の推移(単位:台、主要輸出国別)

出典:EUROSTATより筆者集計

注:統計品目番号8407.34.30を集計したもの

 

図8は、ロシア、イラクについて、図7と同様の主要輸出国別の輸出台数の推移を見てみる。これを見ると、ロシア向けはこの10年間で3分の1程度に市場が縮小しているが、イラク向けはほとんど変わりはない。

輸出国はロシア向けはやはりリトアニアからが圧倒的に多く、70%から80%程度のシェアを占める。イラク向けはドイツからが多いが、近年はハンガリーのシェアが大きくなっており、ここ2年ではポーランドからの輸出も増えている。

図 8 ロシア、イラク向けの中古エンジンの輸出台数の推移(単位:台、主要輸出国別)

出典:EUROSTATより筆者集計

注:統計品目番号8407.34.30を集計したもの

 

5.中古車の仕向地と一致するか

上記のような中古エンジンの仕向地は、中古車の仕向地と一致するかどうかである。本稿では、ディーゼルエンジンについては対象外であるため、中古車の仕向地についても、ガソリンエンジンの乗用車(HSコード:8703.21、8703.22、8703.23、8703.24)と貨物車(HSコード:8704.31、8704.32)を対象とする。

まず、図9は、上記のコードに基づいて集計したEU27か国からの中古車輸出台数(2010年~2019年の合計)を輸出国別に見たものである。これによると、ドイツ、ベルギーからの輸出が多く、ともに237.1万台である。

そのシェアはともに26%であり、この2か国でEU27か国の過半数を占める。それにスペイン(72.1万台、シェア8%)、オランダ(64.2万台、シェア7%)、リトアニア(55.1万台、シェア6%)が続いている。

中古エンジンは、図3よりドイツ、リトアニア、フランスあたりが主要輸出国であり、全体におけるベルギーのシェアは低い。一方で図9では、リトアニアやフランスはさほどシェアは高くはない。これを見ると、少なくとも統計上では、中古車と中古エンジンの主要輸出国は一致しているとは言えない。

日本においても中古車輸出の主要港から中古エンジンが多く輸出されているかというとそうとは限らない。EUを1つの国と考えれば、中古車と使用済み自動車の発生地域が異なることは想定される。

図 9 EU27か国からの中古車輸出台数(2010年~2019年の合計)

出典:EUROSTATより筆者集計

注:統計品目番号87032190、87032290、87032390、87032490、87043139、87043199、87043299を集計したもの

図10は、2010年から2019年のEU27か国からの中古車輸出台数の合計を主要仕向地(上位20か国)別に見たものである。これを見ると、ベナン、ドイツがそれぞれ全体の13%、12%を占めており、あとは5%以下のシェアとなっている。全体のうち、EU域内が38.7%、EU域外が61.3%を占めており、中古エンジンよりはEU域内に流通している。

アフリカ向けはベナンのほか、リビア、ナイジェリア、ギニア、カメルーン、ガーナ、トーゴ、コートジボワールが上位にある。アフリカについて、図3の中古エンジンでは、ナイジェリア、チュニジア、モロッコ、エジプト、ガーナ、セネガルが上位にあったが、比較をするとあまり仕向地が重なっていない。ベナンは中古車の輸出はこれだけインパクトが大きいにも関わらず、中古エンジンの輸出については主要仕向地ではなく、インパクトが小さい。

ロシア、東欧、中央アジア方面では、ジョージア、タジキスタン、ベラルーシ、キルギスタンの名前がある。中古エンジンの仕向地と重なるところはあるが、ジョージアは重なっていない。中東諸国に至っては図10の上位20か国に含まれず、中古エンジンの輸出と事情は異なる。

これらを見ると、中古車と中古エンジンの輸出は、少なくとも統計で見る限り、輸出国のみならず、仕向地においても一致しているとは言い難い。中古車の仕向地には、補修用として中古エンジンの需要もあると思われるが、そうではないのだろうか。

タイムラグもあると思うが、ベナン向けの中古車輸出台数は2010年代前半が多く、その後も十分に補修用の需要がありそうな気もするが、それが中古エンジンのデータには表れてない。

あくまでも想像でしかないが、1つは取引市場の立地が異なることが予想される。中古車や中古エンジンは、仕向地で使用されるとは限らず、周辺国に再輸出されることがある。そのような中継貿易拠点が物品によってすみ分けられていれば、同じ最終目的地に輸出されていてもEUからの仕向地が異なるということもある。

また、新車販売への影響など何らかの理由で中古車の輸入が制限されることがある。その場合はその国には中古車は輸入されず、部品のみが輸入されることがある。東南アジアなどは日本の中古車の輸入は多くはないが、中古部品に関しては相応に輸入されている。そのような物品による規制の差である。いずれにしろ、想像でしかないため、個々の地域に起きていることを資料やヒアリングで確認する必要があるだろう。

図 10 EU27か国からの主要仕向地別の中古車輸出台数(2010年~2019年の合計)

出典:EUROSTATより筆者集計

注:統計品目番号87032190、87032290、87032390、87032490、87043139、87043199、87043299を集計したもの

6.まとめ

冒頭で示した通り、先進国を中心に脱ガソリン車の動きが急速に進んでいる。現在検討されているのは、内燃機関車の新車販売の禁止というものであり、使用を制限するものでもない。そのため、当面は静脈市場にさほど影響はないのかもしれない。

一方で、新車販売の禁止という方針により、ガソリン車=良くないものというシグナルが生まれる可能性はある。その結果、使用の禁止はされていないものの、その地域の中古車の取引が縮小し、価格が下がることで、使用済み自動車市場や他国への輸出が促進されることも考えられる。中古エンジンについても価格が下がることは想定される。

中古エンジンの貿易量は統計でつかむことが難しく、その行方についてこれまで十分に示していなかった。今回はEUからの輸出に焦点を当て、その数量と行方を見てみた。あくまでも統計上のものであり、外れ値のようなものも想定されるが、その限りにおいていくつかのことが分かった。

まず、EUからの中古エンジンは、東欧、ロシア、中央アジアのほか、中東、アフリカに主に輸出されている。これは統計で示すまでもなく、十分に想定されたことである。このうち、ナイジェリア、カザフスタン、ベラルーシあたりにEUから中古エンジンが多く輸出されている。それらが必ずしも最終目的地とは限らないが、少なくともそこに市場があると言える。

次に、EUの中古エンジンの輸出国はドイツ、リトアニアあたりが主であることが分かった。ドイツは多方面に輸出しており、ナイジェリア、ベラルーシのほかにイラクやヨルダンなど中東諸国にも多く輸出している。リトアニアはその立地からカザフスタンやベラルーシ、ロシアなど東方に輸出していることが分かった。

さらに、それら中古エンジンの貿易構造は、中古車とは異なることもわかった。中古車はEU域内向けの輸出(移出)は4割近くもあるが、中古エンジンはEU域内向けの輸出(移出)は2割から3割程度である。統計でカウントされるかどうかにもよるが、中古車のほうが地理的に近いところに多く移動することが分かる。

地域別に見ると、アフリカ向けは中古車においてはベナンのほか、多くの国の名前が目に付いたが、中古エンジンにおいてはナイジェリアを除いてさほど目立たず、ベナン向けも多くはない。

中央アジア向けは、中古エンジンにおいてはいくつかの国が上位にあったが、中古車はそれほどでもない。中東諸国は、中古エンジンは多く輸出されているものの、中古車においては仕向地の上位にはない。そのような貿易構造の違いがあり、その理由を解明する必要がある。

このような貿易構造は今後変わる可能性があるだろうか。EUにおいて環境対応車の使用が促進されれば、上記のような国に中古車や中古エンジンはより多く輸出されることは十分に想定できる。

つまり、貿易構造自体はあまり変わらないように思える。この構造が変わるとすれば、輸入側の規制の変化である。つまり、輸入国において環境対応車の使用を促進するようなことがあれば、今回見たようなものとは異なった構造になるだろう。

もちろん、今回見た構造は統計上のものであり、実際は異なる場合もある。日本でも少額貨物が統計にカウントされないなどの問題があるが、EUでも同様のことがあれば輸出されているのに統計に反映されていない数量があるかもしれない。この点は慎重に議論しなければならない。

また、今回、中古車と中古エンジンの仕向地が異なることは示されたが、同じ年式のもので輸出のタイミングに差があるかどうかは十分に検討しなかった。これについても輸出国や仕向地のターゲットを絞り、検討していきたい。

 

※本研究は高橋産業経済研究財団令和2年度研究助成の成果の一部である。

 

参考文献

  • 阿部新(2010)「中古乗用車の貿易量に関する日欧比較:国際資源循環の観点から」『一橋大学経済研究所Discussion Paper Series』,A-No.531
  • 阿部新(2014)「中古エンジンの貿易量について考える」『月刊自動車リサイクル』(36),38-47
  • 阿部新(2015)「中古エンジンの貿易量:東南アジアを中心に」『月刊自動車リサイクル』(57),42-51
  • 阿部新(2016a)「ニュージーランドの貿易から見る自動車リサイクルの産業構造」『月刊自動車リサイクル』(59),42-51
  • 阿部新(2016b)「北米の中古車貿易に関する統計整理」『月刊自動車リサイクル』(67),40-49
  • 阿部新(2017)「欧州の中古車輸出市場の現状」『月刊自動車リサイクル』(79),36-47
  • 阿部新(2020a)「EUROSTAT統計の問題:アフリカ向け中古車輸出台数の集計を事例に」『速報自動車リサイクル』(98),52-62
  • 阿部新(2020b)「アフリカ向け中古乗用車輸出市場の比較考察」『速報自動車リサイクル』(98),64-74
  • 阿部新(2020c)「中古ハイブリッド車等の貿易量の国際比較」『速報自動車リサイクル』(98),76-85
広告